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第一話  王都帰還! 仁君は雄姿を見せ付ける!

さあ、いよいよ最終部『いつを求めて梟雄はどこまでも』の開始です!


長々とお付き合いいただいて感謝の言葉もございませんが、今しばらくお付き合いください!



 カンバー王国の王都ウージェでは、人々の歓喜によって満たされていた。

 大通りには人々が詰めかけ、万雷の拍手を以て入城してきた軍隊を歓迎していた。

 “フクロウ”をモチーフにした旗印であり、それはシガラ公爵家の紋章であることは多くの人々が知っていた。

 そして、人々の歓声が響き渡る中をゆったりと馬を進ませる一人の貴公子がいた。

 金髪碧眼の好青年で、二十歳にもならぬ若者ながらすでに威風堂々たる気配を身にまとっていた。

 重厚な甲冑に身を包みながらも、その優し気な笑みからは人の良さがにじみ出ており、それが余計に人々の人気に火を着けていた。

 その若き英雄の名はヒーサ。シガラ公爵家の当主にして、国王であるマチャシュの“伯父”にあたる。

 王国内最大勢力を誇る大貴族であり、今や王家をも凌ぐ勢力を誇っていた。

 国政においては“全軍統括大元帥コンスタブル”に就任していた。

 軍事面から若すぎる国王を補佐し、今この場には“二度”の大戦に勝利した凱旋式でもあった。

 王国を犯そうと侵攻してきたカンバー帝国を打ち破り、返す一撃で隙を見て挙兵した反乱軍をも討滅した。

 憎き帝国軍のみならず、“王都を焼き討ちした”反乱軍も倒したのであるから、人々がこうして熱烈に出迎えるのも無理はなかった。

 ヒーサの名声はますます高まり、その英雄を一目見ようと集まっているのが現在の王都の大通りなのだ。


「国王マチャシュ陛下万歳! シガラ公爵ヒーサ様万歳!」


 この声が幾度となくヒーサの耳に突き刺さるが、同時に滑稽だなと顔には出さないが、心の中ではニヤリと笑っていた。

 なにしろ、マチャシュは甥ではなく、妻ティースとの間に生まれた実子であり、偽装出産によって妹のヒサコと“旧王家”の第一王子アイクの子であると、国民のほぼ全員が誤認している状態なのだ。

 旧王家の血筋は直系が絶えている。

 前の国王フェリクには三人の男児がいたが、そのことごとくが既に他界し、この世にはいない。

 しかも長男のアイク以外は男児を残さずに亡くなっていた。

 そのアイクの息子がマチャシュなのだが、“表向き”はアイクの子供であっても、実際は王家の血など一滴も入っていないヒーサの息子なのだ。

 すでに乗っ取りは完了し、見た目はともかく中身はすり替わっている状態だ。


(下剋上、ここに成れり、だな。思ったより早く終わったのは幸いだ)


 見た目とは裏腹に、ヒーサは非常に腹黒い。若さに似合わずその権謀術数は、狡猾で悪辣と言ってもよいほどだ。

 なにしろ、この貴公子は常人ではない。異世界からの転生者なのだ。

 中身は戦国日本の松永久秀。乱世の梟雄にして、下剋上の申し子だ。

 数々の悪行を成し、一介の商人から大和一国の支配者にまで上り詰めるも、最後は部下の裏切りにあい、自身の居城と共に炎に沈んだ。

 だが、女神の力によってこの世界に転生し、第二の人生を歩む事となった。

 神の加護である“スキル”を利用し、今の地位を築いた。

 当初は貴族家出身の若き医者であったが、父兄を暗殺して家督を奪い、公爵家の当主となった。

 さらにはその罪を許嫁の実家に押し付け、そこの財産をも分捕ってしまった。

 そして、自分の分身である妹ヒサコを用い、表向きはヒーサとして徳のある仁君として振る舞いつつ、ヒサコの姿で数々の悪行を成し、騙し、殺し、掠めていった。

 権力も、財力も、そして人望も高まり、今や誰もヒーサ・ヒサコ兄妹に異論を挟む事が出来なくなるほどに勢力は拡大していた。

 軍事はヒーサが、政務はヒサコががっちりと握り、しかも反対勢力も先頃の反乱鎮圧によって奇麗に掃除され、権力基盤は盤石となったと言ってもよかった。


(邪魔者は排除され、あとは秘密を知る者を懐柔すれば完了だ)


 現在、偽装出産、嬰児えいじ交換について知っているのは、自分自身ヒーサとヒサコの外に、伴侶ティース従者マーク愛妾アスプリクその叔母アスティコスくらいだ。

 この四人については問題はない。

 ティースはすでに“我が子を殺す”と言う外道を成した“共犯者”であり、裏切る心配はない。マチャシュの裏事情が表沙汰になると、自分自身への破滅にも繋がるからだ。

 当然、ティースに忠実なマークもまた、その口が開くことはない。

 アスプリクの方も、自分ヒーサに惚れさせるということで、離反する事を防いでいた。紆余曲折はあったが、アスプリクへ不埒な真似を行った者にはすでにそれ相応の制裁を加えており、アスプリクのヒーサに対する信頼も盤石であった。

 アスティコスはアスプリクの安定と幸せだけを考えているため、彼女の周りで波風が立つのを何よりも好まない。

 つまり、アスプリクを丁重に扱っている限りは、この二人もまた裏切る心配はなかった。


(問題があるとすれば、秘密に気付いていた黒衣の司祭が誰かに話していたと仮定した場合だ)


 最大の難敵は何と言っても、異端宗派〈六星派シクスス〉の最高幹部である黒衣の司祭カシンであった。

 だが、これも先頃の反乱鎮圧の最終局面において、かなりの苦戦を強いられたが、これを討ち取る事に成功した。


(カシンの奴めが、反乱を誘発する際に、把握していた裏事情を拡散させたであろう事だ。まあ、すでに主だった反抗勢力は潰えたし、力で抑え付ければどうとでもなるか)


 歓声を上げる民衆には笑顔で応じるヒーサであったが、その頭の中身は真っ黒であった。

 従順な者には飴を!

 逆らう者には鞭を!

 この基本姿勢はなおも揺るがなかった。


(となると、残るは魔王覚醒が妨害できるものなのかどうか、だな。ここがやはり不確定要素だ)


 カシンの言葉を信じるのであれば、すでに儀式は止められないところまで進捗しており、あとは時期さえ来れば魔王が覚醒すると告げられていた。

 だが、嘘しかつかないあの黒衣の司祭の言葉を、そのまま信じていいのかどうか、ここが判断のできない部分であった。


(アスプリクを救出すれば解決する案件なのか。それとも、“あいつら”が何かしらの引き金を引いた瞬間に覚醒するのか。そこが問題だな)


 魔王を打ち倒すために、松永久秀はこの異世界カメリアに飛ばされてきたのだ。

 色々と紆余曲折はあったが、すでにゲームの盤上は煮詰まって来ている状態だ。

 最終局面、そう呼べる状態であり、魔王覚醒は間近である。

 すでに賽は振られ、出た目を進んでいる段階だ。

 後戻りは不可能であり、備えはできる限りしたが、それでも不利であることは否めない。


「勝つ見込みは十の内、一つだ」


 かつてヒーサはこう述べたが、いくつかの不確定要素が勝率を押し下げているのだ。

 魔王の力は圧倒的なのは、すでに実体験していた。

 魔王としての半覚醒状態であった皇帝ヨシテルでさえ、あれほどに苦戦を強いられたのだ。

 完全覚醒状態の魔王がどれほどの実力なのかは不明だが、最低でもヨシテル以上であることは確定していると言ってもよい。


(だからこそ、色々と準備したのだ。問題はこちらの予想に、あちらの動きが上回るかどうか、だ)


 はっきり言って不安しかない。

 それでも状況がすでに動き始め、魔王との決戦が刻一刻と近付いていた。

 ヒサコを中心に据えた部隊を、アスプリクの捜索に向かわせているが、その結果次第と言える。

 ここから先は一手の失敗も許されないと自分に言い聞かせつつ、ヒーサ・ヒサコ兄妹を操作する松永久秀はより警戒の色を濃くするのであった。



             ~ 第二話に続く ~

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