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第二十話  邂逅! 乱世の梟雄と白無垢の鬼子

 火の神の神官アスプリクに付き従い、王宮のとある一室にヒーサは通された。


「ここは以前、僕が書斎兼研究室として使っていた部屋だ。一応、今でも僕の部屋ではあるけど、荷物はほとんど神殿の方に運んでしまったから、少し殺風景かな」


 説明の通り、中は空になった本棚や焦げたり切れたりして傷物になった机がいくつか見られた。手入れはされているみたいだが、今はほぼ使用されていないことを感じ取れた。

 中に誘われるままに、ヒーサ、ヒサコ、テアは部屋に入り、そして、小さな円卓を挟んで腰かけた。椅子は二つ、ヒーサとアスプリクが腰かけ、ヒーサの後ろにヒサコとテアが控える、という形だ。


「さて、何からお話ししましょうかね、大神官殿」


「回りくどいことは抜きにしたいが、その前に確認だ」


 アスプリクは懐から“五芒星”のお守りを取り出した。《五星教ファイブスターズ》の聖印ホーリーシンボルであり、神官なら誰でも身に付けている護符であった。

 それを机の上に置き、スッとヒーサの前に差し出した。


「公爵、君の思うままにしてくれ」


 どうぞお好きなようにと、アスプリクがヒーサに笑いかけてきた。

 ヒーサは迷うことなく、お守りを掴み、そして、それを後ろに放り投げた。

 ヒサコがそれを掴むと、そのまま地面に叩き付け、足でグリグリと踏みにじった。


「え、あ、ちょ、ちょっと!」


 神官の前で聖印を踏みにじる。教団への冒涜行為としては、一級のものだ。テアはそれを危惧して、慌てふためいた。

 だが、ヒーサは動じないし、アスプリクもニヤついたままだ。

 それどころか、教団の“大神官”は拍手を以て、一連の行動を称賛した。


「素晴らしいよ、公爵。一切の迷いもなく、今の行動ができるとは、素直に感心する。《六星派シクスス》でもないというのに、そこまで露骨な教団への敵対行動をとれるとは!」


 アスプリクは興奮し始め、机をバンバン叩いた。笑顔がこれまた愛らしく、冒涜行為をした後でなければ、素直に可愛いと思ってしまうであろう。

 だが、あろうことか、大神官が神への冒涜行為を称賛しているのである。教団関係者が知れば、間違いなく大問題に発展するはずだ。


「ちなみに、公爵が教団への敵対行動をする理由は?」


「気に入らないから」


「うん、分かりやすいもっともな理由だ」


 アスプリクはヒーサの言葉に納得し、何度も頷いた。下手に理屈をこねるよりも、遥かに分かりやすくて納得のいく言葉であったからだ。


「では、見せてくれないか。君の力を」


「いいでしょう。では、申し訳ないが、十数え終わるまで、目を瞑っていていただきたい」


「お安い御用だ」


 アスプリクは素直に目を瞑り、それを確認してからヒーサは後ろを振り向いて、テアに視線を送った。

 言わんとすることを察したテアは、魔力供給を止め、ヒサコを消してしまった。

 ヒサコはヒーサの持つ《投影》のスキルで作られた分身体であり、それをテアの魔力によって維持していたのだ。魔力源がなくなれば、体を維持できなくなって消えてしまうのは道理であった。

 そして、アスプリクは十数え終わって目を開くと、そこには先程まで立っていたヒサコの姿が消え去っているのを視認した。


「幻術・・・、いや、彼女は明らかに実体のある存在だった。変わった術だね」


「すまないが、もう一度、目を瞑ってくれ。今度は五つ数えるだけでいい」


「うむ、いいぞいいぞ」


 アスプリクはヒーサに言われるがままにまた目を閉じた。

 そして、ヒーサは今度は《性転換》のスキルを使い、ヒーサからヒサコに変身した。

 例え至近距離にいたとしても、視界さえ遮ってしまえば変身することができる。これはリリンの体を使って、すでに確認済みの行動であった。

 そして、アスプリクが目を開くと、先程まで座っていたヒーサの姿は消えており、代わりにヒーサの服を着たヒサコが椅子に腰かけていた。


「おお、また変わった! ああ、そうか。公爵の身に付けている術は、変身系の術式か」


「ええ、その通り。男と女、どちらにも簡単に姿を変えられる、それがあたしの術。一応、男の体が本体だけど、妹がいるように芝居を演じているわけ」


「凄い凄い! 初めて見たけど、変身系って、こうもそっくりに変身できるんだ」


 はしゃぐ姿は本当に年相応の少女であったが、まとう神官衣がそれを否定していた。少女ではあっても、やはり高位の神官であり、教団の幹部なのだ。

 もっとも、神を冒涜されてもなんとも思わない、背信者ではあったが。


「で、大神官さん、これでこちらの“誠実”な態度は納得していただけるものでしょうか?」


「うーん、そうだね。さすがに全部見せたって風ではないけど、ここまで晒した相手を無碍にはできませんね。なにより、こちらの心の内も見られたし、“共犯者おなかま”ってことかな」


「結構なことだわ」


 二人は立ち上がって机の上で軽く握手し、再び椅子に腰かけた。


「それで、“商談”なんだけどさ、公爵は何がお望みなんだい?」


「公爵領を開放し、《六星派シクスス》であろうと、大手を振って住める場所にする」


 ヒサコのサラリと言ってのけた言葉に、アスプリクは目を丸くして驚いた。なにしろ、その言葉の内容は、謀反を行って王国からも教団からも独立します、と言っているに等しいからだ。

 ゆえに、アスプリクは目の前の令嬢の言葉を、にわかには信じられなかった。あまりにも不可能で、あまりにも話が大きすぎるのだ。

 ちなみに、この話も独自の発想というわけではない。かつて日ノ本で宗教勢力を中心に据え、独立した勢力として百年の長きにわたり存続した、『加賀一向一揆』というものがある。

 一向宗(本願寺)は加賀国の守護大名であった富樫氏の後継争いに要請を受けて介入し、それによって保護を受けることを期待したが、逆に大きくなり過ぎた一向宗を警戒して富樫氏は弾圧に乗り出した。結局、紆余曲折を経て、富樫氏は国を追われ、一向宗が加賀国を治めることとなった。


(しかし、あやつらは周辺諸国に喧嘩を売り過ぎた。だから、最終的には信長うつけに討滅されている。ああ、まったく、あやつらがもう少し大人しければ、信長うつけを倒せたかもしれんのだ。織田氏、朝倉氏、長尾氏、この三者には、一向宗と言う共通の敵がいた。いたからこそ、信長包囲網に穴が開いた。朝倉氏、長尾氏の一向宗への敵愾心が強すぎた。織田氏討伐に集中できなかった。ああ、口惜しい口惜しい!)


 かつてのことを思い出し、ヒサコの“中身”は憤激した。

 しかし、怒ったところでかつてが戻ってくるでもなく、過去が書き換わることもない。次をどうするか、それを考えることが先決であった。

 ゆえに、ヒサコは心の中にある怒りを宥めすかし、目の前の少女に微笑みかけた。


「へぇ~、そりゃまた随分と大胆なお話だね。そんなに《五星教ファイブスターズ》がお嫌いなのかい?」


「まあ、こちらのやりたいようにやっていたら、あいつらが邪魔なのよ。教義だなんだと言って、口を挟んでくるのが目に見えているから」


「そりゃそうだ。あいつらが僕を見る目も、いつもそうだ。表面的には優しくしといて、いつも僕の力を利用しようとするんだ。なにが輝ける五つの星だよ。鬱陶しい! 欺瞞だよ、欺瞞!」


 アスプリクはヒサコの言葉に納得し、もう一度立ち上がって、握手を求めてきた。ヒサコはそれに応じて立ち上がり、また握手を交わした。


(まるで子犬ね。でも、惰眠を貪る老犬よりはマシかな)


 ヒサコははしゃぐアスプリクを見ながらそう思った。力は強大でも、精神はまだまだ未熟。これで“魔王”などとは片腹痛い、それがヒサコの目の前の少女に抱いた率直な感想であった。

 そして、再び椅子に腰かけた。


「それで具体的にはどうするんだい?」


「隠れ潜んでいる《六星派シクスス》を流入させる。新事業の働き手募集、とか適当に宣伝してね。それに乗っかってくれればいい」


「で、徐々に浸透させていく、と」


「それにはあなたの協力がいるの。新事業の内、どうしても火や熱を操るのに長けた術士が必須だから」


「なるほど、それで僕の出番ってわけか。いいよ、燃やすのは得意中の得意だ」


「燃やしてもらったら困るわよ。植物相手の事業だから、加減してもらわないと本当に燃えるから」


 しかし、すべては茶の木が手に入るか否かにかかっていた。エルフの領域に狙いを定めてみたが、本当にあるのかどうか、そこが最大の難題であった。

 いずれ準備が整ったら、偽者のヒーサを置いて、ヒサコの姿でエルフの領域を探索するつもりでもあるし、それ以前に情報の収集もやっておかねばならなかった。


「しかし、公爵、君は本当に面白いな。ここまで気の合う相手は初めてだよ。誰も彼も僕を煙たがるか、あるいはおべっか使ってご機嫌取って、なんやかんや働かせようとする。そういうの、もううんざりなんだよね」


「あたしも、あなたの力を利用するって言ってるわよ」


「そう、それだ。真正面からそれを言われたのが、実は初めてなんだ。だから、なんだか楽しい。嬉しい。面白い」


「余程、寂しくてつまんない人生送ってきたのね」


「でも、君さえ力になってくれるのなら、僕はそれを取り戻せそうな気がする」


 アスプリクはニヤリと笑ったが、周囲の気配は重くなった。魔力を放出し、ヒサコを威圧し始めたのだ。


(友達になってくれなきゃ殺す、とでも言いたげね。なるほど、本当に子供だわ)


 見た目も中身も子供、それでいて術士としては国内最強クラス。これでは扱いに困るだろうなと、ヒサコは苦笑いするよりなかった。

 とはいえ、目の前の少女の力は絶大であり、これを利用しない手はなかった。


「大神官さん、申し訳ないけど、もう一度目を瞑ってくれないかしら?」


「ほいよ」


 アスクリプは言われるままに目を閉じ、ヒサコは再びヒーサに姿を変じた。

 そして、席から立ち上がると、アスプリクの横に立ち、両脇に手を添えて、そのまま持ち上げた。


「ふほぉ~」


 いきなり持ち上げられたアスプリクは驚きながらも歓声を上げ、自分を持ち上げるヒーサを見下ろした。今まで自分に向けられたことのない、優しい笑顔であった。


「契約だ、火の大神官よ。私は《六星派おまえら》が平穏に暮らせる“国”を作ろう」


「代わりに、それ相応の協力をしろ、と」


「悪くない話ではないか?」


「ああ、その通りだ。僕は誰かに顎で使われる生活は、真っ平御免だ。豪華な法衣なんて、見た目が派手なだけで、僕にとっては紐で繋がれた首輪でしかないんだ。脱ぎ捨てたいんだ、こんなのは」


 アスプリクは今自分が来ている法衣を睨みつけた。


「あ、そうだ、脱ぎ捨てるでいいこと思いついた。どうだい、公爵、僕と結婚しないかい? なんならすぐにでも還俗して、夫婦になってもいいよ」


「ほう・・・」


「おいおいおいおいおい」


 いきなりのアスプリクの提案に、ヒーサは瞬時に色々と頭の中で利害の計算をし、ニヤリと笑った。

 なお、テアは慌てふためき、全力でツッコミを入れるべきか、迷った。


「僕はこの国の国王の血を引いている。その僕と結婚すれば、公爵も王族の一員だ。まあ、認めてはもらえないだろうけど、それなら力づくで“分からせて”やればいい」


「だが、君の魔力が絶大で、腕っこきの《六星派シクスス》を招き入れたとしても厳しいぞ。公爵領と王国では国力が優に三十倍はあるからな」


 無論、“国盗り”のために反旗を翻すつもりではいるが、まだ準備が整っていない。王族の看板は魅力的だが、いきなり掲げては潰されるのがオチだ。


「ああ、確かに手札としては不十分だ。だが、公爵、君には“妹”がいるだろう? それを嫁がせればいい。僕の兄上にね。それも、一番上の」


「第一王子のアイク殿下か。たしか、病弱のため政務には携わらず、保養地でのんびりされているそうだな。彫刻や絵画を嗜みながら」


「そうそう。その空っぽの器にヒサコという猛毒を注ぎ込むんだ。ある日突然、親身なって世話してくれる美女が現れる。徐々に接近していく二人。やがて結ばれる。そして、美女は囁くんだ、『もっと広いお屋敷に住みたい』とね。アイク兄は“妻”を従えて、王城へと返り咲く」


「そして、今は鳴りを潜めている後継者問題を引き起こす、と。ククク・・・、ヒサコの嫁ぎ先としては、面白い案だ」


 ここへ来て、まさかの“国盗り物語”である。ヒーサの中にいる梟雄の魂が、興奮して蠢き始めた。下剋上だ。奪え、何もかも奪ってしまえと、魂がざわめくのだ。


「今はアイク兄は病弱で、政務から引いている状態だから、ジェイク兄が宰相として手腕を振るい、国政を動かしている。しかし、そこへアイク兄が戻ってきたらどうだろうか。長子相続の観点から、人々の目がアイク兄に向く。しかし、実績実力はジェイク兄が上。ああ、国論真っ二つだろうね」


「そこへ私も参戦する、と。なにしろ、“ヒサコ”が長兄に嫁いでいるのだからな。これを手助けするのは当然よ」


「もちろん、僕もね。表では教団に居座って情報を流し、裏では《六星派シクスス》を動かして、好機を見つけて横合いから殴りつける」


「うむ、悪くない。悪くないぞ、大神官! そこまでぐちゃぐちゃになれば、まさに群雄割拠の戦国乱世。食うか食われるか、当然こちらが食う側だ! 盗れる、国を! ああ、滾る、滾るぞ! 久しぶりに血が滾ってきたぞ!」


 嬉しそうに談笑する二人に、テアは呆れて開いた口が塞がらなくなった。


(ちょっとこの二人、話が飛躍しすぎてない? 安住の地云々が、いつの間にか、国盗りになってるわよ~。ヤバい奴をヤバい奴に会わせて、さらにヤバい状況になってない!?)


 不気味に笑う二人であったが、その笑顔は実に楽しそうであった。


「ああ、そうだ。公爵、君、確か医者でもあったよね?」


「その通りだ」


「では、アイク兄の“延命”はよろしく頼むよ。事の趨勢が決する前にアイク兄にいなくなられると、お飾りとはいえ旗頭不在と言うのは困る。あいにく、僕は治癒系の術式を使えないんだ」


「任せておけ。私の薬は良く効く。すでに“実証済み”だ。生かすも殺すも自由自在だ」


 十三歳とは思えぬ機転の速さと着眼点、そして、道徳や倫理に縛られない行動、間違いなく逸材であるとヒーサは持ちあげたままの少女を見つめた。


(ひぇぇぇ、“魔王”が二人いるぅぅぅ)


 想定外すぎる事態に、テアはすっかり怯えてしまった。しかし、そうも言ってられないので、ゴホンゴホンと咳払いをして二人の注意を引いた。

 楽しいひと時を邪魔された二人はテアを忌々しそうに見つめた。そして、ヒーサは持ち上げたままだったアスプリクをそっと床に置いた。


「なんだ、テア。何か言いたそうだが?」


「言いたい事だらけよ! なぁ~に物騒な話をこれ見よがしにしてんのよ」


「戦国ゆえ、致し方なし」


「平時に乱を起こしているようにしか見えんわ!」


 実際その通りなので、ヒーサとしては笑ってごまかすよりなかった。


「それより、そのちっこいのを嫁にするとか、数日前に結婚した男の台詞とは思えないんですけど!?」


「いや、だって、女伯爵と王女殿下、どっちがお得かと考えるとな」


「うっわ、最低! クズ! 女をなんだと思っているのよ!?」


「半分は“抱き枕”で、残りの半分は“踏み台”だな」


「あなたって本当に最低のクズね!」


 ブレないのは相変わらずだが、こうまで真っ向言われると寒気すら覚えるテアであった。


「なにより、ティースをまだ試してないからな。試験の結果が出るまでは、特にどうこうするつもりはない。しかし、結果如何では、どうなるかな。前の“抱き枕”は破けてしまったし、今回はちゃんと切り抜けて欲しいものだな」


 冷ややかな視線をテアにぶつけてきて、背筋がぶるりと震えあがった。前の抱き枕とは当然、リリンのことであろうが、彼女と同じことを場合によってはティースにも仕掛けるとぬけぬけと言ったのだ。

 どこまで外道を突き進めば気が済むのか、先が読めなさ過ぎて恐ろしかった。


「え~、公爵ぅ~、僕もそのどっちかなのかい?」


「いいや。お前は私の試験に合格した。どころか、それ以上の提案をしてきた。そんな人物を私はこう呼ぶ、“共犯者おともだち”と」


「わ~い、やったぁ! 生まれて初めてのトモダチだぁ!」


 アスプリクは嬉しそうに飛び跳ね、その勢いのままヒーサに抱き付いた。


「どうだい、公爵。このまま床入りして、朝まで語り明かさないかい? 貧相な体で申し訳ないが、君にならいつでも誘われてもいいかな」


「大胆なお子様だな、おい」


 さすがのヒーサも目の前のチビでガリガリの子供をそうした対象とは考えず、頭を撫でるだけであった。なにより、食べ応えがないからだ。


「まあ、そのうち大きくなったらな」


「それは厳しいかもね~。僕、母の血が濃いみたいだから、エルフの華奢な体つきになっちゃっててね。成長の余地が残っているかどうか、怪しいところだよ」


「それは可哀そう、とでも言えばいいかな」


「どうなんだろうか。ハッハッ、まな板に梅干しみたいな体じゃ、さすがに興奮しないか。普通の感性の人間の男なら、そうなるか」


 アスプリクは押し当てても感触を伝えられない自らの貧相な体を嘆いたが、目の前の男は違った。ヒーサはいきなり小柄な少女の肩を掴み、顔をグイッと近付けた。

 その目は先程とはまた別の輝きを放つ、欲望に満ちた目になっていた。


「・・・今、何と言った?」


「人間の男は興奮しないと」


「違う、その前!」


「えっと、まな板に梅干し?」


「それだ!」


 ヒーサの鬼気迫る表情に押され、アスプリクは後ろに下がろうとしたが、ヒーサはしっかりと肩を掴んでおり、逃げ出すことができなかった。


「あるんだな! この世界にも“まな板”と“梅干し”が!?」


「ええっと、ある、よ」


「っっっしゃぁあああああ!」


 ヒーサは諸手を上げて喜び、喝采の声を上げた。ようやく見つけた手掛かり。ないと思っていた日ノ本の関わる物品が、目の前の白無垢の鬼子からもたらされたのだ。

 この世界に飛ばされて、初めて見つけた日ノ本の品。以前、自分で拵えた箸などではなく、この世界にある日ノ本と同じ品なのだ。

 いよいよ見つけたかと感じ、興奮の度合いは高まる一方であった。

 あまりの豹変ぶりにアスプリクはドン引きし、数歩後ろに下がった。そして、視線を同じく唖然とするテアの方に向けた。


「ねえねえ、侍女さん、この人っていつもこうなの?」


「たまにね。ていうか、興奮したり感動したりする点がなんかズレてるから、この人と付き合いたいんなら慣れた方がいいわよ」


「そうだね。今後は留意するよ」


 二人の見守る中、ヒーサは喝采の声を上げながら踊った。がらんどうとした殺風景な部屋には、いつまでもその喜びの声がこだまするのであった。



           ~ 第二十一話に続く ~

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ヾ(*´∀`*)ノ

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