表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

466/570

第四十三話  最終確認! 慎重に慎重を重ねていきます!

「……以上が敵陣を見た状況でございます」


 アルベールは観察してきた敵陣の様子をサーディクを始めとする居並ぶ諸将に伝達した。

 おおよそ前回の軍議の席で出た予想に一致しており、さすがだなと上座のサーディクも満足そうに頷いた。


「それで、アルベールよ、お前の作戦通り、夜襲を擬態し、その隙に山の裏手から登攀とうはんして、隠し砲台を制圧する、と言う事で良いか?」


「ハッ! すでにコルネス殿が山岳猟兵アルペニーの編成に着手しており、そちらの準備もじきに完了いたします」


「結構! さすがの手際だ。両将軍にはいずれ厚く報いるとしよう」


「光栄であります」


 アルベールがサーディクに頭を下げ、感謝の意を示した。

 そこにコルネスが挙手して、発言を求めてきた。


「コルネスよ、何か?」


「作戦自体はアルベール殿のそれのままでよろしいかと思いますが、一つ懸念事項がありますので、私の直属部隊を最後尾に配置する事を許可していただきたいのです」


 ここでざわめきが起こった。

 今回の戦場は谷の入口にある防衛陣地とその踏破、その後の谷間での追撃を想定している。

 最後尾に配備されれば、最悪一切の戦功を期待できなくなるのだ。

 勝ち戦でありながら手柄を求めないのは不可思議であり、それゆえのざわめきであった。


「コルネス殿、御自身がわざわざ最後尾を買って出るとは、その懸念事項とは?」


「なに、以前の事を思い出してほしいのだ、アルベール殿。この戦、貴殿の申す通り、あの魔女めは以前の戦いの際限を狙っている可能性が高い。ならばあの時、隠し砲台を用いて帝国軍を蹴散らせた河畔での戦いの際、貴殿は何をしていた?」


「……あ! そうか! あの時、私は山麓の森の中に騎兵部隊と潜み、コルネス殿の砲撃を合図に敵陣への突撃を敢行した!」


 そう言えばそうだったと、アルベールは声を上げた。

 帝国領での一大決戦となった河畔での戦いにおいて、コルネスとアルベールは極めて重要な役割を果たした。

 コルネスは開戦当初は事前に設置していた砲台を隠匿したまま伏せ、アルベールもまた敵の見えない位置にある山林に潜み、その時を持った。

 そして、ヒサコの合図を受けて隠し砲台を表に出し、敵陣を大混乱に陥れた。

 その砲撃音を合図にしてアルベールも飛び出し、見事敵陣中央を穿って壊走させることに成功した。


「なるほど、つまり、コルネス殿の懸念は後方をやくしてくる部隊があるという事ですな?」


「そうだ。もし、私が魔女ヒサコの立場であれば、防衛陣地で敵を受け止め、程々に抵抗した後に押し込まれたフリをして誘引する。そして、伏せていた砲台の攻撃を合図に反転攻勢に出る。そうなると谷に突入した部隊は後退しなくてはならず、入り口付近の隘路あいろで渋滞しかねない」


「まさにその通りだ! そうなった状態のときに敵部隊に強襲されては、最悪、本陣にまで切り込まれて、総大将たるサーディク殿下の身が危うい」


「あるいは、こちらの策が成功して危機に瀕した際、そうした状況にあっての一発逆転を狙い、決死の突撃をしてくる可能性がある」


「なるほど。下手を打つと、大将首をどちらが先に早く取るかの時間との勝負になるというわけか!」


 両将軍の会話を聞いて、十分あり得る話だと諸将も頷いた。

 そのため、多くの者がコルネスの提案に賛意を示した。コルネスは常に冷静沈着で守備に関しては定評があり、任せても問題はないなと考えたためだ。


「それに、あまり前に出過ぎて手柄を挙げ過ぎては、皆さんの顰蹙ひんしゅくを買いかねませんので、後ろで控えているというわけです」


 珍しくコルネスが冗談とも本気とも分からぬ言葉を放つものであるから、アルベールを始め、周囲からも笑い声が漏れ出した。


「だが、もしやすると一番手柄となるかもしれんがな。敵の反撃、本陣強襲の阻止、防いでくれれば大手柄となりますぞ」


「まあ、そうならない事が一番ですがね」


「それはそうでしょうな。ならば、サーディク殿下も前進し、谷に入っていただきましょう。敵陣はこちらの誘引のために、程々の抵抗で撤退するでしょうし、そこを逆に手早く制圧すれば、谷の外からの攻撃を防ぐのに利用できます。コルネス殿の部隊と、あの防衛陣地があれば、いかな精鋭部隊とて突破と本陣強襲は不可能でしょうし」


「心得ました。ですので、アルベール殿、陣地への攻撃は手加減していただきたいですな。あまり派手に壊されると、殿下を守る壁がなくなりますので」


 ここで、また笑いが起こった。

 全力で突破せねばならないというのに、手加減しろとはこれいかに? と矛盾した発言であったからだ。

 そんな笑いが起こる中、その原因であるコルネスが再び場を制し、発言を続けた。


「それともう一点。今回参加されている教団の術士の運用に関してですが、谷に突入し、敵の第二陣に近付いた段階で、前面に出ていただきたい。横一列にズラッと並び、防御術式を展開して、ゆっくりと距離を詰めていくのです」


「おお、あれだな。帝国領での河畔の戦いで、《六星派シクスス》の連中がやっていた戦法だ」


 あの時の戦いでは、《六星派シクスス》の術士が要所要所に配置され、戦線の最前列に術式で壁を作り、火力で圧倒しようとするヒサコの戦術を“途中”まで抑え込む事に成功した。

 銃撃では術士の張った結界を抜くことができず、じわりじわりと距離を詰められ、危うくなる場面もあったほどだ。

 最終的には隠し砲台からの砲撃と、伏兵の横槍で戦列は崩壊したが、それでも使い方次第で十分に効力のあるやり方であるとも感じていた。

 コルネス、アルベールの両将軍はそれらを直接見ており、その有用性をよく認識していた。


「正直なところ、敵の反撃起点となるであろう第二陣はこちらから観察できない以上、火力がどの程度か予想できませんので、その対策も兼ねてということです」


「まあ、どのみち、左右の砲台さえ沈黙させることができれば、数で有利な分、勝ちは揺るがないですがね。被害が少ない方がいいのは確かですが」


「はい。ですので、教団の皆様方には、そのように配備していただくよう、ご協力をお願いいたします」


 コルネスはそう述べつつ頭を下げて腰の低い態度で要請を出した。

 策の有用性は理解したが、コルネスはあくまで参加している一将軍に過ぎないので、教団の関係者は総大将であるサーディクに視線を向けて、採決を促した。


「うむ、よかろう。委細は承知したゆえ、そのように取り計らうがよい。それにしても、敵方の大将を熟知した者が二人もいてくれて、こちらとしても大助かりであったわ。二人とも、感謝するぞ」


「「ハッ!」」


 サーディクよりの労いの言葉を受け、コルネスとアルベールは改めて拝礼した。

 士気も否応なく高まっており、軍議に参列する諸将も、やる気に満ちていた。

 そんな押せ押せの雰囲気の中、一騎の騎馬が駆け込んできた。斥候として放っていた者だ。


「伝令! 王都に向かって進軍していたシガラ公爵軍ですが、、こちらに進路を変更し、迫ってきております!」


「そちらも来たか!」


 サーディクとしては分かっていたとしても、やはり敵主力が迫って来ることには気が気でなかった。

 とは言え、王都に向かう街道からこちらに進路変更したとなると、到着までは今少し時間の猶予があり、到着前にヒサコを捕らえられるかどうかがますます重要となった。

 諸将もそれは理解しているようで、若干の焦りと、それ以上の高揚感でその場は満たされた。


「よし! 時間制限ができたが、問題はない! 手筈通りに砲台への奇襲と、黎明攻撃を行うものとする! 各員には準備に当たっていただきたい。そして、明日にはあの憎き魔女を御縄にして、勝利の杯を交わそうぞ! 恩賞として、領地や爵位も働き如何で思いのままだ!」


 こう檄を飛ばしたのはカインであった。

 実際、この戦に勝利すれば、シガラ公爵家は解体の憂き目に合うのは目に見えていた。“財”の公爵を解体した際にあふれ出る財貨や土地の事を考えると、その分け前に自分がどれだけ割り当てられるのか、想像しただけでも興奮を抑えられないでいた。

 もちろん、ちゃんと手柄を立てれば、という前提条件はあるが、それもこれも明日の働き次第である。

 分け前を貰うためにキッチリ働こう。あわよくば、サーディクの新政権で要職に在り付いたり、あるいは爵位を得たりと、夢は大きく膨らんだ。

 もはやその場に、勝利を疑う者は誰一人として存在しなかった。



           ~ 第四十四話に続く ~

気に入っていただけたなら、↓にありますいいねボタンをポチっとしていただくか、☆の評価を押していってください。


感想等も大歓迎でございます。


ヾ(*´∀`*)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ