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第十九話  発見! 探し求めていたもの!

 王宮の一角にある大広間には、多数の上流階級の者達が詰めかけていた。貴族、教団の上級職、あるいは廷臣に富豪と、その種類は様々であった。

 建前上の目的は、シガラ公爵ヒーサとカウラ伯爵ティースの婚儀の祝辞を述べることだ。

 だが、実際のところ、より重要なのはそれそれの新当主となった二人への顔繫ぎであり、あるいは顔見知り同士の情報交換などであった。

 そんなおしゃべりが絶えない広間に、主役である二人が戻ってきた。

 他にも、ヒーサの妹であるヒサコや、それぞれの専属侍女であるテアとナルも随伴していた。

 少し休憩のため席を外していた体を装っていたが、会場は変わらず賑わっており、主役の帰還によって再び詰め寄る者もいた。

 ここで密かに注目を集めているのが、ヒサコであった。

 ヒサコはヒーサの妹で現在十七歳。腹違いの兄妹で、ヒーサの方が少しだけ早く生まれてきたという“設定”になっていた。そして、ヒーサの当主就任と同時に公爵家の正式な一員と認められ、今回の騒動で社交界デビューという運びであった。

 そのため、ヒサコを狙って、有象無象が群がってきている状態となったのだ。

 ヒーサとティースの件もそうだが、上流階級においては婚儀は親や家門の長が勝手に話を進めてしまうことが多々あり、それも早ければ十歳になる前に婚約が成立していることもあった。

 つまり、貴族の結婚はある意味で席の奪い合いである。下位の貴族は上位の貴族と縁故になるために、上位の貴族は繋がっておきたい者の家と結びつこうとし、その確たる形が婚姻なのだ。それを成立させるために、あの手この手で売り込んだり、逆に焦らしたりするのはよくある話だ。

 そして、ヒサコはまさによく見える位置に出された餌なのだ。

 ヒサコが社交界デビューを果たしてからと言うもの、その手の話が時に正面から、ときに回りくどく、ヒサコと婚儀を結ぼうとする者が現れたのだ。

 なにしろ、ヒサコは公爵家当主の妹で、十七歳と結婚適齢期。兄ヒーサは不幸な事件によって身内を失い、残った妹のことを殊の外、可愛がっている。しかも美人。この際、“性格”などは二の次で、シガラ公爵家と縁故になりたいと考える者など、山ほどいるのだ。

 この動きも、ヒーサの狙い通りであった。ヒサコの餌にしてこの手の輩を釣り上げ、旨い話を頂戴するという『結婚するする詐欺』もまた、ヒサコを連れ歩いている理由でもあるのだ。

 そのため、宴席ではヒサコという“人形”を操作し、常に自分の側に侍らせ、焦らせるためにあまり喋らせずに笑顔だけを振り撒き、狙いを定めている者の気を揉ませた。


「お持ちいただいたお話は、前向きに検討させていただく」


 すでにこの台詞を二十回以上も口にしており、仕掛けとしては上々の仕上がりと言える。あとはどのタイミングで竿を動かし、釣り上げるか、そこは釣り師である自分の腕の見せ所であった。

 しかし、それはあくまでおまけだ。利益は見込めるが、ヒサコの最大の役目は自身を守る壁役であり、そちらの方が重要であるからだ。

 なにより、今はヒサコの案件よりも、視界に捉えた、“白き神童”との顔繫ぎと交流が最優先事項であった。

 ヒーサが見据えたのは、火の大神官アスプリク=カインゲイツという少女だ。現国王の娘で、齢十三でありながら、すでに国内では一、二を争うほどの術の使い手だ。父親の身分の高さに加えて、天稟の才を有していることから、この若さに大神官に名を連ねていた。

 ちなみに、教団の組織として、まず火、水、風、土、光の五つの神殿が存在する。それぞれの統括者として各神殿の人事と財務を掌握する“大司教”、神殿などの施設の管理運営を行う“大司祭”、実際に現場で祭事を執り行う神官をまとめる“大神官”が任にあたっている。

 これに教団の頂点である法王、それに五人の枢機卿を加えた計二十一人が、教団における最高幹部と目され、執行会議もこの二十一人が中心になって運営されており、まさに教団の顔であり、心臓でもあるのだ。

 そんな最高幹部の中に、まだ十三歳の少女が加わるなどといったことは前例がなく、それだけアスプリクの存在が異例中の異例ということであった。


(しかしまあ、完全に浮いた存在だな)


 それがヒーサのアスプリクに抱いた第一印象であった。

 なんと言っても、容姿が悪目立ちし過ぎるのだ。白化個体アルビノのため髪も肌も真っ白で、目だけが赤い。しかもエルフの血が半分混じっているため、耳もかなり尖っている。この姿だけで、気味悪がる人も多い事だろう。

 そして、聞いた話だと、赤ん坊でありながら膨大な魔力を持ち、生まれてすぐに母親を焼き殺したという。おまけに成長して魔力の制御ができるようになるまで、何度も王宮や神殿を燃やし、大事にされつつも疎まれてきたということだ。

 現に今も、その周囲には人がいない。一応、教団幹部ではあるので付き人と思しき女性の神官が控えているが、他に近寄る者はいない。


(さて、では、気難しそうな姫君を口説いてみますか)


 ヒーサは群がっていた人々をかき分けるように進み出て、アスプリクの方へと歩き始めた。

 主役が人をかき分けて歩き始めたのである。何事かと人々の注目を集め、さらにその進路上には白き鬼子の姿があったため、にわかに広間がざわめき始めた。

 そこで先方もヒーサのことを気付いたようで、姿勢を向き直してヒーサに相対した。

 そして、二人は手を伸ばし合えば届く距離まで詰めると、ヒーサは軽く会釈した。


「お初にお目にかかります、アスプリク王女殿下。この度、シガラ公爵の位を継承いたしました、ヒーサ=ディ=シガラ=ニンナと申します。以後、お見知りおきを」


 礼に適った挨拶であった。

 そして、会場は静まり返った。会の主役と、関わりなくない問題児、この二人がどのような会話を交わすのか、皆が注目し、固唾を呑んで見守り始めたのだ。


「ご丁寧な挨拶痛み入りますが、僕の肩書は王女殿下ではなく、大神官ですよ。名前だって、アスプリク=ケインゲイツで、王族の称号は消しておりますので、お間違えなきように」


 素っ気ない、というより壁を作るような返礼であった。

 はっきりと言えば、誰とも話したくない、とでも言いたげな態度であった。


(これは……。思った以上に“与しやすい”相手だ)


 力や才能はあれど、まだまだ未熟。それがヒーサが相手の第一声を聞いたうえでの印象であった。


「私の式に参列して、その技前を拝見したかったのですが、それだけがあの式での不満でした」


「それはそれは、大変失礼しました。文句なら、僕のところに依頼を寄こした無能なジェイク兄に言ってくれ」


 アスプリクは少し離れた場所にいる宰相のジェイクに対して、聞こえるような大きな声をわざと出し、キッと睨みつけた。

 ジェイクは不機嫌になりこそすれ、反論するのもバカバカしい内容であったので無視を決め込んだ。

 そんな姿勢を確認してから、アスプリクはヒーサの方を向いた。


「それで、僕に何の用件だい?」


「あなたの力が欲しい」


 簡潔だが、力強い言葉であった。これが逆にアスプリクの興味を引いたようで、更に一歩近づき、その気になれば抱き付ける位置にまで近づいた。

 近付いてきたアスプリクは、とても小さかった。十三歳ということだが、背丈は低く、それこそ十歳と行っても通用しそうなほど小柄であった。しかし、怪しく光る赤い瞳は、逆に小柄な体であるからこそ不気味さを醸し出し、魅力的であり、同時に言い表せぬ恐ろしさもあった。


「これは面白い。おべっかも聞き飽きていたところだけど、僕ではなく、僕の力が欲しいときたか。ククク……、正直な奴だなぁ」


「はい、私は誠実さが最大のウリでございますから」


 後ろで控えていたテアが、あまりの白々しさに吹き出しそうになったが、どうにか堪えて、あくまで平静を装った。


「そうかそうか、誠実か。では誠実な商人に、品の確かさを証明していただこうかな」


「長くなりそうなので、別室で構いませんか?」


「いいでしょう。こんなところでは、騒がしくて商談もできませんからな」


 そう言うと、アスプリクはヒーサの連れを見回し、そして、ニヤリと笑った。怪しげな笑顔、容姿が特異なだけに、悪目立ちする微笑みであった。


「そうですね、あなたと妹さん、それにお付きの侍女も、御一緒にお話ししましょうか」


「ほほう……。それはそれは!」


 ヒーサは心の中で歓喜した。アスプリクがこちらの立ち位置を読み解き、ティースを外して話がしたいと言ってきたからだ。


(理解力、洞察力がずば抜けている。これはいい。だが・・・)


 ヒーサは目の前の少女の察しの良さに感心しつつも、妙な違和感を覚えた。それも引き剝がさねばならないと思いつつ、勘付かれないために平静にティースの方を振り向いた。


「ティース、申し訳ないが、大神官殿は公爵家との商談がお望みのようだ。すまないが、君は遠慮してくれんないか?」


 声色は優しいが、突き放つような言い方であった。要は、お前は公爵家の一員とまだ認識していないと言われたも同然であったからだ。

 ティースには衝撃的であったが、カウラ伯爵家の称号を差し出して、完全な公爵夫人になったわけではないので、夫婦間であっても秘しておかねばならないこともあるだろうと、自分に言い聞かせた。


「畏まりました。私はこのままここに残り、皆の相手を続けておきますので、商談をしっかりとまとめてきてください」


 食い下がったところで、どうせ聞き入れないであろうし、ならばさっさと下がって、印象を悪化させない方が得策とティースは判断した。


「ですが、後で決まった商談の内容くらいは教えて下さいね」


「それは約束しよう。では、参りましょうか、大神官殿」


 ヒーサの呼びかけにアスプリクは頷いて応じ、小さな体を先んじて動かし、扉の方へと歩き始めた。

 それに続いてヒーサ、ヒサコ、テアが動き始めた。


(う~ん、可愛いな~)


 前を歩くアスプリクを見て、テアはそう思った。

 象牙細工のような白無垢の体、そして、銀色の髪を流して歩く様は、実に幻想的な雰囲気を醸していた。

 儀礼用の法衣ではなく、お姫様が着るようなドレスでも着ていれば、さらにその愛らしさに磨きがかかるだろうとも考えた。

 おとぎ話の妖精のような姿をじっくり観察していると、不意にヒーサがすぐ横に近付いてきた。

 そして、静かに耳打ちした。


「あの娘に《魔王カウンター》を使え。静かに、バレないように、な」


 そう言うと、何事もなかったかのようにヒーサが歩き始め、ヒサコもそれに続いた。

 テアはあまりに不意討ちなヒーサの提案に思考が瞬間的に止まり、すぐに正気を取り戻して、同じくその後に続いた。


(ヒーサ、言葉の意味を分かっていってるのかしら。まあ、分かってるんでしょうけど)


 先程のヒーサの顔は真剣そのもの。つまり、やる価値があると判断したのだ。

 《魔王カウンター》はテアがこの世界に持ち込んだ神造法具であり、隠れ潜んだ魔王を暴き出すために使うことができた。

 しかし、一度の降臨で三回しか使うことが許されず、もし使い切ったうえで魔王を発見できなければ、発見難易度が跳ね上がると言ってもよかった。

 そして現在、すでに一度使用してしまっている。あまりにヒーサの外道な振る舞いに、こいつが魔王だとドヤ顔決めて使ってみれば、完全にハズレであったのだ。可能性すらない、魔王としてはゴミ、それが法具の判断であった。

 その貴重な残り二回の内、今ここでそれを使えとヒーサは指示してきたのだ。


(何か確証があってのことなの? それとも、ただの勘? ・・・ええい、ままよ!)


 ヒーサは言動もふざけたものが多いものの、仕事に関してはなんやかんやで真面目であった。やり方は無茶苦茶だが、結果は伴うやり方をしてきた。

 ならば、それを信じよう。梟雄の言葉を信じるのもあれであったが、曰く“共犯者あいぼう”なのだ。ここで無駄打ちさせる理由が思い浮かばない。ならば、突っ込もう。

 テアは覚悟を決め、モノクル型の法具を身に付け、少し前を歩く白い少女を観察した。

 ピコピコと機械音的なものがテアの頭の中にだけ響き、そして、結果の数字が出た。


(アスプリクの魔王力は……、“八十八”!? え、マジ!? あの子が魔王力“八十八”ですって!?)


 半信半疑であった検査であったが、まさかの信じられないほどの高い数字を叩き出した。

 検査結果は一から百までの数字で表され、数字が高いほど魔王である可能性が高くなる。

 ちなみに、テアの前を歩く三人のうち、二人は検査を受けていた。


(いや~、でも、魔王としか思えない外道のヒーサが“五”で、あんなちっちゃい可愛らしい女の子が“八十八”って、こりゃまた凄いわ)


 しかし、見た目に騙されてはいけないことも、テアはこれまでの経験から学んできていた。五歳児くらいの幼児に擬態した魔王を見つけたこともあり、それに比べればまだ年を食っている方であった。

 もう標的は発見したのだし、あとは所定の手順に従って、魔王を締め上げればいいだけだ。

 ついでに、三人の内で計ってないヒサコを眺めて、無駄打ちをしてやろうかと考えたが、ヒサコはヒーサが生み出した人形のようなものなので、数字は出ないと判断し、止めておくことにした。

 なにしろ、もう魔王を見つけたので、心がウキウキになり、喜びを表に出さないように堪えるのに、必死であったのだ。


(やった、ついに見つけたわよ、魔王!)


 勝利の日は近い。テアは心の中で諸手を上げて喝采の声を上げた。

 勝ったな、と。



          ~ 第二十話に続く ~

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ヾ(*´∀`*)ノ

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[一言] ああ、、そーいや魔王探してたんだっけ、抹茶禁断症状だから茶の生産地でも見つけたのかと
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