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第二十四話  目標設定! 第三王子に正統なる王位を!

 すでに国境での戦いは決着が付いている!

 アルベールがもたらしたその情報は、反乱軍諸将に危機感を与えた。


「なんだと!? もう決着がついたと言うのか!」


「それでは話が違う! 国境に張り付いているからこそ、王都に攻め入りやすくなると言うのに、じきに戻ってきてしまうではないか!」


「急がねばならんな。帝国との戦いで疲弊しているとは言え、戦慣れしている精鋭だ。油断はできん」


 諸将の思うところは一致していた。シガラ公爵軍は手強く、まともにぶつかったら勝ちは薄い、ということを。

 それを考えればこそ、帝国軍と激突しているうちに、王都圏内を手中に収め、以てこれと対峙するつもりでいた。

 予想よりも明らかに早い帝国との決着は、混乱の元でしかなかった。


「落ち着け! 予定が早まったとは言え、やる事は変わらん。このまま進軍して、王都を強襲。これを制圧するのみだ!」


 サーディクは一喝して、浮足立つ諸将を制した。

 こういう胆力はさすがに将軍として前線勤務が長かっただけに、サーディクの豪胆さや力量を見せ付けるものとなった。

 これで諸将は落ち着きを取り戻し、頭を下げては再び席に座っていった。


「殿下、一つよろしいでしょうか?」


 発言を求めたのは、コルネスであった。

 反乱軍に参加したのは今日からであるが、その力量は国中に轟くほどの名将であり、すでに中枢の席を確保している雰囲気があった。

 サーディクもこの将軍には心強く感じており、すんなり発言を許可した。


「はっきりと申し上げさせていただきますが、今、この軍は“烏合の衆”と言わざるを得ません。なぜなら参加している者を取りまとめる明確な“目標”がないからです。シガラ公爵家への復讐のため、あるいは王家への忠義を示すため、信仰の道を取り戻すため、と言う具合に目的がてんでバラバラです」


 コルネスのあまりに直言過ぎる言葉に、さすがにムッと来る者もかなりいた。だが同時にそう言われても仕方がないという思いもあった。

 総指揮官であるサーディクもそれには危機感を覚えていた。

 カインの呼びかけに応じ、決起したのはいいにしても、集まって来るのは欲望にぎらつく面々ばかりであり、とてもシガラ公爵軍の精鋭と渡り合えるか、という不安があった。

 留守居の隙間に王都に入り込み、これを押さえて後に対峙するというのが計画の骨子だ。

 その想定が崩されたからこその、不安が満ちているのだ。


「だからこそ、はっきりさせねばならないのです! 明確な目標を!」


「まあ、その通りだな。それで、コルネスよ、何を以て目標とするのか?」


「決まっています、殿下! あなた様の即位を最大目標とします! そして、それを達成するためには、三つの条件を満たす必要があります!」


 コルネスの語気を強めた発言にたじろぐ者もいたが、サーディクにとっては実に嬉しい発言であった。

 正統なる王位を取り戻す。それを目の前の将軍が全面的に支持し、そのための策をしっかりと練り上げていた事を、何よりも頼もしく感じた。


「して、その三つの条件とは?」


「ハッ! まずは第一に“王都の制圧”です。王都ウージェこそ玉体の置き場所でございます。ここを得ずして、伝統あるカンバー王国の国王とは言えますまい」


 この意見にはすぐに賛同の声が上がった。

 やはり国の中心であるあの都を手にしてこそ、王と名乗るに相応しいと考えている者も多いのだ。

 実際、サーディクもそう考えており、手早く王都を制圧したいと考えているため、コルネスの意見には賛成した。

 なにしろ、コルネスが抜けたことこそ、現在王都の抱える最大の弱点となっているのだ。

 王都に長らく駐留していたからこそ、その内情を誰よりも把握し、同時に兵力も引き抜いてそっくりそのままこちら側に参じたのだ。

 シガラ公爵軍の本隊が戻る前であれば、制圧するのもそう難しい話ではないとも多くの者は考えた。


「次に、“僭王を捕える事”です。これこそが最重要案件です。僭王マチャシュ及び、その母ヒサコの身柄を押さえる事で、今後の展開が大きく変わってきます。一応、現在はあの幼子が王と言う事になっておりますので、これに退位していただかなくては、王が二人並び立つ事になります」


「王が並び立つなどという事は過去に例がない。そんなものは認められん」


「はい、その通りです、殿下。ゆえに、この二人を捕らえ、王位より退いてもらわなくてはなりません。もし取り逃がすようなことがあれば、本当に二王が並び立つことになりかねません。そうなれば、民はもちろん各地の貴族も動揺しましょう。むしろ、王都の制圧などよりも、こちらを優先しなくてはならないくらいです」


「確かにな。二人の身柄確保は最優先でいかねばならんかもしれん」


「なにより、“聖女”の智謀は脅威です。あれを自由気ままに動き回らせるほど、厄介な事はありません。諸将もそのつもりでいてください。王都は動きませんが、“聖女”には二本の足と、それよりも長い“三枚舌”がある。これを忘れずに!」


 コルネスの忠告は言うまでもない事であった。

 ヒーサ・ヒサコ兄妹に辛酸を舐めさせられた者も多く、反乱軍の中核を担うカインからしてそうなのだ。

 優先的に叩き潰したい対象であり、反乱軍の最優先目標とする事にも即座に賛意を示した。


「まあ、見ておれよ、あの“あばずれ”めが! 今までの悪行、たっぷり清算してやるわ!」


 カインの吐き出す怪気炎に周囲も同調し、同じくシガラ公爵家に恨みのある面々も声高にかつての報復を叫んだ。

 アルベールはすっかり復讐に取り憑かれている主君に危うさを覚えたが、忠を尽くして馳せ参じた以上、余計な事はもう言うまいと口を閉ざした。


「そして、最後の一つは“教団の封じ込め”です。現法王はシガラ公爵の卑劣極まる裏工作により票を掻き集め、聖なる山を占有しています。これを排除するのは当然ですが、かと言って、“聖なる山を攻撃する”のはさすがに無理でしょう」


 そう言ってコルネスは列席していた“元”高位聖職者らを見つめると、今日一番の不機嫌な顔になっていた。

 聖職者として、総本山の『星聖山モンス・オウン』を襲撃するのは容認できなかった。

 いくらヨハネス憎しと言えども、「信徒は信徒の血を求めない」という鉄則を聖職者が破るわけにはいかないのだ。


「まあまあ、そう睨まないでいただきたい。そう思えばこそ、“封じ込め”と言ったのです。聖山の麓に幾ばくかの部隊を展開して、街道を封鎖すればそれで身動きがとれなくなります。どのみち、聖山に関する事は今回に限って言えば枝葉の事。サーディク殿下が王位につく際の必須事項ではありますが、他二つの重要項目が達成されれば、後は勝手に折れてくれましょう」


 コルネスは難色を示す聖職者をそう宥めた。

 聖山に直接手を出さないならばと、渋々ながら納得した。


「まあ、どのみち、聖山を攻撃するのは危険が大きすぎますからな。術士や警備の神殿兵団が常駐している上に、なにより自身の名声を大いに落とす事となる。そんなところを攻めるなど、労苦に見合う成果を得られん」


 そう言ったのはカインだ。

 カインは元々、教団との仲は微妙だ。《六星派シクスス》に通じて術士の隠匿に手を貸し、何かと教義や法に反する行動をとってきた。

 だからと言って、さすがに聖山を攻撃するような真似はしなかった。

 そんな者がいるとすれば、それは考えなしのバカか、それすら利用する天稟の策士くらいなものだ。


「では、コルネス将軍の意見を採用するので良かろうか? 一に僭王親子の捕縛、二に王都の制圧、三に聖山の封鎖、この優先順位で取りかかろうと思うが……?」


 カインは確認のために周囲を見回すと、戻って来る返事は賛意ばかりであった。

 また、サーディクも賛成のようで、首を何度も縦に振った。


「では、これを基本方針とし、サーディク殿下を正当なる王位につける事を、皆で誓いましょう」


 カシンの呼びかけから勢いよく席を立ち、鬨の声を上げようとした。

 まさにその時だ。

 一人の兵士が慌てて会議の場に走り込んできたのだ。


「も、申し上げます! 王都に先行して情報取集に当たっていた者からの報告です! それが、それが!」


 余程の報告なのか、相当焦っているように見えたので、その場の面々は口を紡ぎ、その下級の報告とやらに耳を傾けた。


「落ち着け。ゆっくり話せ」


「は、はい! お、王都が“反乱軍”によって襲撃されました。同時に聖山も攻撃され、神殿が焼け落ちた、と」


 まさに寝耳に水の話だ。

 有り得ない話であった。

 “反乱軍じぶんたち”はここにおり、王都には一部の偵察要員しか向かわせていない。

 にも拘らず、攻撃の報が届き、耳を疑うのであった。

 何が一体どうなっているのか、と。



          ~ 第二十五話に続く ~

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