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第二十三話  合流! 恨みを晴らすのは今です!

 反乱軍は日増しにその勢力を伸ばしていた。

 そもそも、決起はサーディクの“野心”、あるいは“復讐心”から発していた。

 先王フェリクの三男であり、本来であればサーディクが王位を継ぐはずではなかった。

 三男・第三王子であるから、本来なら“予備の予備”でしかなかったのだが、上二人の兄が相次いで亡くなり、自分にお鉢が回って来たと言うわけだ。

 思わぬ幸運と言うべきだが、帝国軍の侵攻も差し迫っていることもあって、問題山積であり、素直に喜べない一面もあった。

 しかし、それでも王位は王位である。まさか三男の自分に出番が回ってこようとは、つい数か月前までは考えもしなかった。

 本当に幸運であり、それに比べれば山積みの問題などすぐに解決してやろうと意気込んだ。

 そして、その想いは木っ端微塵となった。

 王位を横から掠め取られたからだ。

 奪ったのはヒサコであり、シガラ公爵家だ。

 ヒサコは第一王子アイクと結婚して、しかも子まで成していたのだと言う。

 さらに、帝国軍との戦いに非協力的だった点を突かれ、王の資格なしとして王位は片言も喋れぬ幼児に持っていかれた。

 しかも、そのどさくさに紛れて自分の後ろ盾となってくれていたセティ公爵ブルザーと、枢機卿のロドリゲスまで殺害され、派閥勢力を一気に失う結果となった。

 すでに中央に居場所がなく、領地に引き籠って悶々と過ごしてきた。

 そんなサーディクの下に、思わぬ助けが入ったのだ。

 “元”アーソ辺境伯のカインだ。


「私は全てを知った! あの騒乱も、息子の死も、全てがヒサコという魔女の手によって引き起こされたことを! この恨みを晴らし、正統なる地位を取り戻さぬ事には、無念の内に死んだ我が子ヤノシュに顔向けができません!」


 カインはそう訴え出てきて、サーディクに決起を迫った。

 そして、サーディクはそれに乗ったのだ。

 どうせこのままでは地方でくすぶり続け、最悪暗殺の危険もあったので、一挙挽回を狙おう。そうサーディクは決断した。

 今、シガラ公爵軍本隊が国境に張り付いている。簡単には取って返せぬ以上、今こそシガラ公爵家の非道を正し、正統なる秩序を取り戻すべきであると方々に檄文を発した。

 それに応じて、各所で不満を抱えていた者が蜂起し、徐々に結集しつつあるのだ。


「壮観、壮観! 殿下、すでに総兵力は一万を超え、その後も更に兵力が増していきますぞ」


「うむ。これもカインの差配のおかげだ。礼を言う」


「ハッハッハッ! 気が早いですぞ、殿下! 勝って正統なる王位に就かれた暁に、そのお礼を貰い受けるとしましょう」


 思っていた以上に順調に進み、カインもサーディクも上機嫌であった。

 そして、それがさらに加速する出来事があった。

 それはコルネスとの合流だ。

 コルネスは同心した貴族を含めれば実に二千名を超す部隊を率いており、反乱軍に合流すると言って参上した。

 兵員の数もさることながら、なにより直近まで王都ウージェにいた事も大きい。情報源としてこれ以上に無い存在であり、サーディクはこれを温かく迎え入れた。


「おお、コルネス将軍、久しぶりだな。お前が来てくれたのは、大変に心強い」


「殿下もお久しぶりでございます。私も亡き宰相閣下の恩徳に報いるため、こうして参上した次第です。軍列の末にでもお加えいただければ幸いにございます」


「うむ。その忠節、兄上も喜ぶことだろう。末席とは言わず、ドカッと真ん中に座ってもよいぞ」


 サーディクも上機嫌であり、コルネスと固い握手を交わし、歓迎の意を示した。

 コルネスとは兄ジェイクのところで何度も顔を合わせた事があったため、知己であった。ジェイクの名代としてコルネスを扱う事により、より反乱の正当性を高める材料にもできるため、厚遇を約した。

 そして、王都の情勢をより詳細に知るため、早速軍議が開かれた。


「……なるほど。ではやはりコルネス殿の抜けた穴は大きいと言うわけか」


 カインは報告を受けてそう判断した。

 軍議の居並ぶ顔触れは、はっきり言って心もとない連中ばかりであった。とにかくシガラ公爵家に恨みのある者達ばかりで、戦慣れした歴戦の猛者など、それこそ自分を除けば、サーディクとコルネス程度のものであった。

 そういう意味においても、コルネスの存在は大きかった。まともな戦術思考を持つ者がいなくては、カインの意見も“数”で潰される可能性もあり、会議の場で援護してくれるだけでも十分すぎる貢献と言えた。


(まさに烏合の衆だな。これではまとめるのも苦労するだろうに)


 これがコルネスの率直な感想であった。

 考えるよりも行動が先走り、ロクな策も準備もなく、ただ前進制圧すればよいと口にするばかりだ。

 特にコルネスを辟易とさせるのは、“元”高位聖職者の面々だ。

 ヨハネスが法王に就任して以降、敵対していたロドリゲスの一派を左遷し、地方に飛ばしていたのだが、そうした連中がこぞって反乱軍に加担しているのだ。

 そして、何かにつけて出しゃばって意見を述べて来るので、カインもそれを宥めるのに苦労している有様であった。


(ここは聖山の豪華な会議室ではないのだぞ、まったく。砂埃と血煙が漂う戦場の軍議の席だ。少しは弁えて欲しいものだ)


 やりづらい事この上ないと、顔に出さずに淡々と情報や策を出すコルネスは、早くも嫌気がさしてきた。


「それで、コルネスよ、お前の意見としてはどうか?」


「ハッ! 殿下、問題はやはり現在アーソの地にいるシガラ公爵軍本隊の動きでしょう。迂闊に動けぬ状態にあるとは言え、決して油断はできません。現在、王都方面は私の部隊が抜けたことにより、その再編に手間取っております。手早く前進してこれを制圧するべきかと。特に最重要なのは、“僭王”の母子の身柄確保です。これさえ成せれば、公爵軍など恐れるに値しません」


 ここでしっかりと良い心象を稼ぐのを忘れないコルネスであった。

 幼王マチャシュは“一応”形式に則って即位した王なのだが、それを快く思っている者は少なくともこの場にはいない。

 これをおとしめておいた方が、周囲の心象も良くなるというものだ。

 実際、そうだそうだと言わんばかりの態度が出席者から見て取れ、その判断が正しい事を示していた。


「母子の確保さえ成せれば、人質とするのみならず、殿下に譲位させて、完全なる正統性による統治を行えるでしょう。そうなれば、現在煮え切っていない他の貴族も馳せ参じ、情勢は一気に傾きます。もちろん、シガラ公爵家を後ろ盾に“専横”著しい現法王も、身を引かざるを得なくなるでしょう。教団がかつての“正しい”姿を戻す日も近いでしょうな」


 ここでキッチリと高位聖職者の心象を買っておくことも忘れないコルネスであった。

 実際、この発言は“受け”が良かったらしく、聖職者の中から拍手まで起こる始末だ。

 おまけに、「法王選挙コンカラーベのやり直しだ!」と叫ぶ者まで出てきた。


(自分で話を振っておいてなんだが、軍議の席で政治的な話は控えて欲しいのだがな)


 そう思わずにはいられないコルネスであった。

 こうして会議の熱がさらに上がり、やはり王都に向けて手早く進軍すべしとの意見が支配的となった。

 そこに一人の兵士が飛び込んできた。


「申し上げます! アーソ辺境伯領より、アルベール様がお越しになられました!」


「なんと!」


 席を立って驚いたのは、アルベールの主君と言うべきカインだ。

 久々に見える自分の元家臣であり、こうも早くやって来るとは思ってもみなかったのだ。


「それで、アルベールは兵を率いているのか!?」


「お一人で参られております」


 この時点でカインもコルネスも察した。独断で抜けてきて、我が身一つで馳せ参じたと言う事に。

 兵がいないのは残念ではあるが、情報源としては極めて貴重である。なにしろ、公爵軍に所属していたので、その内情を最もよく知る存在なのだ。


「よし、すぐにここへ通せ」


「ハッ!」


 兵士が出ていき、そして、すぐにアルベールが姿を現した。

 急いで駆けつけてきたせいか、いささか薄汚れた姿ではあるが、それは間違いなくアルベールであり、カインはこれに歩み寄って拝礼するアルベールを出迎えた。


「アルベール、よくぞ来てくれた!」


「カイン様もお久しぶりにございます。こうしてまたお目にかかれましたのは、望外の事です」


 実際、この二人の再会は一年ぶりであった。

 かつてのアーソでの騒乱の後、アルベールはアーソの地に残り、当地で軍務に当たっていた。

 一方のカインは引責辞任と言う形で辺境伯を辞し、身柄をシガラ公爵領へと移されていた。

 それ以来の再会であり、状況が二転三転して、思っていた以上に早い再会となったのだ。


「アルベール殿! 息災でなによりだ!」


「コルネス殿もお久しぶりです。こうして轡を並べ、また戦えることが嬉しいです」


 コルネスもアルベールに歩み寄り、こちらも握手で歓迎の意を示した。

 ともに『聖女の三将』と謡われた名将であり、数々の激戦を肩を並べて乗り越えてきた間柄だ。

 再会の悦びもまた、ひとしおであった。


「だが、今度の相手は“あの”聖女様だ。一筋縄ではいかんぞ」


「ですな。サーム殿も当然あちら側であるし、気を引き締めていかねば」


 かつての戦友が敵味方に分かれて戦うことには気が引けるが、同時に“譲れない”ものが互いにあるのだ。

 衝突もまた、必然であった。


「それよりカイン様、早急にお伝えしなくてはならないことが!」


「何事か?」


「ハッ! すでに国境での帝国軍との衝突は終わりました。激闘の末に、公爵は皇帝を討ち取り、私が軍を抜け出す時には、すでにこちらに向けて出立する準備を始めていました。そう遠くないうちに、王都圏内に戻って来るかと」


 アルベールの告げた報告、それは反乱軍にとっては凶報であった。

 時間的猶予がなくなった。そう告げてきたからだ。



           ~ 第二十四話に続く ~

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