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第四十六話  決戦! 剣豪皇帝を打ち倒せ! (12)

 ヨシテルは必至でヒーサを追いかけた。

 馬の足と人の足では当然、その速度に差があるものだが、強化されている今の肉体では、その差はないに等しいまでになっていた。

 途中、ヒーサとテアの訳の分からぬ痴話喧嘩に遭遇し、どうしたものかと若干混乱はしたが、気にせずただヒーサのみを狙う事とした。

 そして、これが罠である事も重々承知していた。


(わざとらしく逃げる姿を晒し、しかも軍勢と離れて行動しているのだ。当然、その先には罠があると見ていいだろう。そして、おそらくは“気付いた”はずだ)


 無限に等しい再生能力を得ているヨシテルであるが、だからと言って“無敵”というわけではない。

 その点は、この“呪詛カース”を仕込んだ黒衣の司祭カシンに、念を押して言われていた。

 いくらでも元に戻るという便利な状態ではあるが、からくりがバレれば一気に危機的状況に陥る相反性もあった。

 だが、ヨシテルはあえてそれを受け入れた。

 今や最強の剣豪となった自分に、それができるのかどうかやってみせろ。そういう意味を込めて。


(そう考えると、あやつめ、少数精鋭で仕掛けてくるだろう。軍勢で取り囲んで仕掛けた方が、あるいは成功するやもしれんと言うのに、敢えてそれを捨てた。こちらの『やってみせろ』という問いかけに、『やってやるぞ』と返してきたのだ。受けた上で、きっちり返してやろう。その選択の誤りを後悔させながらな!)


 前世からの因縁のある相手に完全敗北を味あわせるには、相手の用意した舞台で戦い、その上で勝利を確定させる事だとヨシテルは考えていた。

 勝てる算段をすべてご破算とし、たじろぐ様を見てこそのお礼参りだ。

 そう確信すればこそ、ヒーサの挑発に乗るヨシテルであった。

 そして、その罠と言う名の舞台が、ついに目の前に現れた。


(これは……、氷、だと!? それも湖全面を凍らせるとは!)


 追いかけていたヨシテルの前に現れたのは、水面がしっかりと凍り付いた湖であった。

 ちなみに、この湖は先日の大水の水源であり、この水を押し流すことにより、城砦前を水浸しにした。

 今は水が減ってはいるが、それでも池と言うには大きく、凍らせるのにはそれなりの労力を必要とするであろうことは明白であった。

 そして、その凍った湖のほぼ中央に、幾人かの姿を確認できた。

 ちなみにその数は五名。ヒーサ、テア、ティース、アスティコス、ルルだ。


(氷とは、また考えたな。普通の地面と違い、足場が滑るし、下手な動きは穴を開けて、水面下に落ちる)


 その露骨な罠の中央に位置しているのが、ヒーサだ。

 腕を組み、仁王立のまま不敵な笑みを浮かべていた。女を侍らせ、露骨なまでの挑発的な態度は、当然ヨシテルの神経を逆撫でした。

 だが、考えなしにやっているわけではないのが、すぐに分かった。

 丁度湖岸から五名の立っている位置は、〈秘剣・浮舟うきふね〉のギリギリ射程外である。

 先程の戦いで何度も放っていたので、まんまと間合いを測られたのだ。


(つまり、あの痴れ者を切り裂くには、やはり氷の湖に踏み入れねばならんということか)


 しかし、引くという選択肢もあるのも事実だ。

 こうもあからさまな罠を仕掛けているし、飛び込むのは愚者の行動である。

 引いて軍を再編し、再び攻城戦を仕掛けて、王国に潜入している黒衣の司祭カシン=コジと挟み撃つというのが最善と思えた。


(だが、それでは名折れだ! あそこまで愚弄した奴に背を向けるなど、矜持がそれを許さん!)


 目の前に仇敵がいて、悠然と待ち構えている。罠があるのは間違いないが、引く気にもなれなかった。


(こういう手を打ってきた以上、我の体の秘密に気付いたと見るべきだろう。ならば、尚の事引けぬ! 死を恐れて引いたと知れば、あやつめ、これみよがしに嘲ってくるだろう。ならばその上を行き、奴が鼻っ柱をへし折られ、後悔と驚愕のうちに死をくれてやる!)


 ヨシテルは罠の存在を予見しながら、あえて氷の湖に踏み込んだ。

 前世からの因縁を綺麗サッパリ精算するため、危地に飛び込むことを選んだ。

 なお、ヒーサを生け捕りにするというカシンの話は、もはや完全に忘却の彼方へと追いやっており、殺す気満々で刀を握りしめていた。

 だが、たぎる殺気とは裏腹に、踏みしめる湖のごとく心は冷え切り、どんな罠が来るのかと冷静かつ慎重に歩を進めていた。


(さて、こうして氷の上を歩いても平気であるし、厚さと言う点では問題はない。さすがに、水の中にあっては、剣技の威力も落ちるのでな)


 意識を集中させ、一歩一歩着実に進んで行くヨシテルは、同時に待ち構える顔触れも確認していた。

 合計で五名であり、初めて見る顔も混じっていた。


(敵戦力は五人。されど、氷使いのルルは明らかに疲労している。この湖を凍らせるので、力を使い果たしたか。名前は知らんが、森妖精エルフの女も同様か。ならば、戦力として考えなくてもよいか)


 ヨシテルは呼吸の荒いルルとアスティコスを見て、そう判断し、狙いを他三人に絞った。特に警戒しているのは、当然ヒーサに対してだ。


(あやつめは炎の剣を使う。これには警戒が必要だ。なにしろ、今立っているのは氷の上。炎を浴びせられれば、たちまち溶けて、水中に落とされかねん。むしろ、それが狙いか!?)


 わざわざ氷の上を決戦の場と選んだからには、当然その地形効果を利用するのは予測できた。

 湖に落とされては、さすがに動きが制限されてしまうし、刀を巧みに振るう事も難しくなる。

 二本の足で立てないのは、武芸を扱う者にとって不都合以外の何ものでもないのだ。


(だが、それは条件的にあちらも同じ。迂闊に炎をばら撒いては、下手すると自分の足下も崩しかねん。使ってくるとすれば、ここぞという場面のみ。その前に斬り伏せてやるぞ)


 ゆっくりとだが、さらに距離を詰めるヨシテルだが、やはり足場が氷とあってより慎重になっていた。

 滑りやすく、踏ん張りが利かないのは、一足飛びに距離を詰めるのに難儀しそうだと、改めて認識した。


(そして、ヒーサの隣に控えている二人の女。片方は軽めの鎧と、腰に剣と弓。なかなかに鍛え抜かれているし、それなりの手練れか)


 ヨシテルはティースを見てそう判断したが、同時に警戒度も増していた。

 なにしろ、“体の秘密”を相手側が理解していると仮定した場合、ティースの存在は自分を倒し得る相手であり、注意を払っておく必要があった。


(で、もう片方は訳の分からん、緑髪の側女か。主人にしがみ付いては突き落とされて落馬し、気が付いたらまらしがみ付いて、また落とされるの繰り返しであったな。あれはさすがに混乱したぞ)


 完全に取っ組み合いの痴話喧嘩であり、どういう意味があったのか、争っていた二人に問い詰めたい気分であった。

 だが、それもこれで終いとなる。

 ヨシテルとヒーサはおよそ三十歩ほどの距離を空けて、再び対峙した。

 足場が氷であるため、一足飛びに近付くことは難しそうだが、〈秘剣・浮舟うきふね〉の必中の間合いでもある。

 放てば確実に相手に当てられる。その自信があればこその、この微妙な距離であった。


(さて、ここからどう切り出す? どうやって我を倒す?)


 ヨシテルの見つめるヒーサは、まだ腕組みをして余裕の態度を崩してはいなかった。

 そこが相変わらずイライラする点ではあるが、それも今日限りだと、ヨシテルはやる気をますます奮い立たせるのであった。



           ~ 第四十七話に続く ~

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