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第四十二話  決戦! 剣豪将軍を打ち倒せ! (8)

(……っというのが、状況から導き出された仮説なんだけど、どう思う?)


 〈念話テレパシー〉による会話で、ヒーサの頭の中にテアの声が響き、立てた仮説の説明が行われた。

 ヒーサはそれを即座に頭の中に思い浮かべ、その仮説が当たりかどうかの検討に入った。


(……かなり突飛な発想だ。普通なら一笑に付す話ではあるが、もはやあのバカ将軍は笑うしかない状況であるし、まずは試して見ねばならんか)


 追い詰めたはずなのに、逆に追い詰められているのが現状だ。

 ヨシテルを孤立化し、集中攻撃をいくら加えようとも、桁外れの再生能力で受けた傷を次々と修復している。

 最大火力のアスプリクの一撃にすら、涼しい顔で凌いで見せたのだ。

 これをどうにかしない事には、絶対に勝てないという焦りは、ヒーサのみならず、この場の全員が考えている事でもあった。


(どのみち、他に手段がないな。仮説が正しいかどうか、試す以外に道はない。そちらも観測を続けろ)


(了解。気を付けて)


 ここで英雄ヒーサ女神テアの会話が終わり、ヒーサもすぐに動いた。

 少し離れた場所で指揮を取っていたサームに駆け寄った。


「サーム!」


「公爵様、いかがなさいましたか?」


「あれの突破口が見出せそうだ。兵を使う。銃兵と槍兵、二十名ずつだ!」


「…………! 承知しました!」


 サームもヨシテルの再生能力には辟易としていたため、主君からの打開策打診に目を輝かせた。

 直ちに銃兵と槍兵二十名ずつの部隊編成がなされ、ヒーサの前に整然と並んだ。


「よし! 全員聞け! あのバカげた再生能力を突破する打開策が思い付いた。それが有効かどうか、実際に試してみる。諸君らの命を私に預けろ! いいな!?」


「「ハッ!」」


 サームの選り抜いた精兵達であり、その声もなお士気を保ち、威勢の良い返事が返ってきた。

 これもヒーサの日頃から行ってきた“善政に対する徳”が結実したものだ。

 なお、実際のところは自身の欲望を満たすために、自領を富ませる事を頑張った結果であるが、領民は皆その恩恵を与って来た。

 その“聡明で慈悲深い”領主が命を預けろと申し出てきたのだ。今こそ忠義、恩義に報いるべきだと、全員が息巻いていた。


「よし! では、作戦を伝える。なぁに、特に難しい事はやらん。指示を聞き間違うなよ」


 ヒーサはそう言うと、これからの作戦についての説明を行った。

 そして、全員が揃って「えっ?」と驚いた顔を見せた。

 ヒーサの言う通り、難しくも、変わった事も、何もない行動なのだ。隊列を組んで仕掛けるとすれば、ごくごく普通の動きであった。

 そう、“最後の一動作”を除けば、であるが。


「以上が、作戦だ。それであいつの秘密を引っぺがす! 心してかかれ!」


「「ハッ!」」


 すでに指示は出されたので、兵士達もすぐに承知し、言われた通りの隊列を整え始めた。

 銃兵は弾を装填し、いつでも射撃できる隊形を整え、槍兵もまた槍を暴れるヨシテルに向けており、いつでも突っ込める状態となった。

 あとは、実際に仕掛けると言う合図を待つだけだ。


「公爵様、先程の指示で大丈夫なのですか!?」


「ああ。ジッとあいつを観察していた、テアの見立てだ。まあ、信用してやってみるしかあるまい」


「テア殿の、ですか」


 テアはシガラ公爵家の家中では、稀代の才女と認識されていた。当主であるヒーサの専属侍女であり、同時に行政秘書官をも兼ねているような存在で、気品あふれる端麗な容姿と才知は老若男女問わずに人気があった。

 ヒーサの愛人ではとの噂もあるが、ヒーサもテアもそれは否定しているし、たまにからかって遊んでいるだけだときっぱり言い切っていた。

 おまけに、愛人云々の噂が立ちながら正妻のティースとの仲も悪くないので、やっぱりその手の話はないんだなと皆が納得していた。


「では、始めるぞ。銃兵隊、構えておけ」


 ヒーサは指示を出しつつ、その見極めのためにヨシテルに意識を集中させた。

 今はライタンとルルが中心となって、幾人もの術士がヨシテルに仕掛けているが、これもやはり再生能力のために決定打を与えれず、逆に反撃を受けて押されている状況であった。

 そして、再び振るわれた刀から衝撃波が走り、防御のための結界ごと術士を吹き飛ばした。


「今だ! 全員離れろ! 銃兵、放てぇ!」


 ヒーサの指示通り、群がっていた他の将兵や術士は射線を開け放ち、それと同時に二十挺もの銃から爆発音とともに弾丸が飛び出した。

 これもよく訓練された銃兵であり、全弾がヨシテルに命中するという精度であった。

 だが、体中穴だらけになろうとも、ヨシテルはなおも倒れず、またしでも傷口が塞がっていった。


「次! 槍ぃ、突き入れぇい!」


 再生中は若干動きが鈍るので、その隙に今度は銃兵の背後から槍兵が飛び出し、怒声を上げながら一斉に突っ込み、槍を繰り出した。

 これも成功し、二十本の槍がヨシテルに突き刺さった。腕に、足に、胴に、首に、顔に、体中の至る所に差し込まれた。

 普通の人間ならば、これで人生終了であるが、目の前の男は常人ではない。何しろ、こうなることはすでに何度も実証済みであり、何度も何度も殺しても、必ず再生するのが今のヨシテルなのだ。

 だが、ここからが違った。


「槍隊、全力で逃げよ!」


 事前の指示もあったため、ヒーサの声に即座に槍兵達は反応した。

 突き刺した槍を手放し、一目散に逃げだして、ヨシテルから離れた。


「今だ! 投げ込めぇ!」


 それがヒーサが説明した“奇妙な最後の一動作”の正体。それは、銃兵達に腰に帯びていた小剣ショートソードをヨシテルに向かって投げさせることであった。

 銃兵は基本、銃を構えて撃つ事が仕事であるが、万一の近接戦に備えて、射撃の妨げにならない程度の護身武器として、小剣ショートソードを携帯している場合が多い。

 今回の投擲も、その護身武器を投げ込んだ。

 実に二十本もの剣が宙を舞い、陽光に煌めきながらヨシテルの方に向かって飛び交った。


「ぐぅぁぁ! 〈秘剣・捨之太刀しゃのたち〉!」


 ヨシテルの振るう横一閃の斬撃が衝撃波となり、槍も飛んできた剣も全て吹き飛ばしてしまった。

 ここまでならば今までと変わらない一幕だ。何度も攻撃を浴びせては反撃され、再生能力により元通りとなり、また攻撃のやり直し。

 将兵達の視点では、そのようにしか映らなかった。

 だが、ヒーサとテアは別の視点で見ていた。

 そう、テアが仮説を立て、ヒーサがその証明のために動き、今の一連の攻撃となった。

 そして、ついに“掴んだ”。


((見えた! 掴んだ! あいつの弱点を!))


 二人はようやく見つけた突破口に狂喜し、離れた場所にいながらほぼ同時に握り拳を作った。



           ~ 第四十三話に続く ~

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