第十八話 激突! 火の大神官 vs 剣豪皇帝(1)
「では、行くぞ」
無造作に抜き放たれた刀を手にし、ヨシテルは真っ向からアスプリクに突っ込んだ。
(速い……!)
地面が短くなったと錯覚するほどの踏み込みに、アスプリクは元より、アスティコスもライタンも驚いた。
そして、走る勢いそのままの払い抜けが炸裂するも、それは文字通りの“真っ赤な嘘”であった。
斬ったと思ったアスプリクがそのまま溶け落ち、ヨシテルの足場を炎で取り巻いた。
「〈幻火〉だ。幻術がカシンの専売特許だとでも思ったのかい? そら、おかわりだよ、〈火炎球〉!」
アスプリクはすでに後ろに跳んでおり、燃え盛る炎の中にいるヨシテルに追撃の炎をお見舞いした。
命中し、爆発。火の勢いはさらに増し、ヨシテルの身を更に焦がした。
「〈風の砲弾〉!」
「〈電撃〉!」
さらに炎上するヨシテルに向かって、アスティコスが風の力を収束させた砲弾をヨシテルの顔面にお見舞いし、さらにライタンは電撃を放ってこれを打ち据えた。
三種の術式が入り乱れ、まともに命中したい以上、意かな豪傑と言えどもただでは済まない。そう三人は考えた。
だが、“魔王”ヨシテルは並の豪傑ではなかった。
「〈秘剣・捨之太刀〉!」
豪快な横一閃と共に払われた刀が全てを吹き飛ばし、ヨシテルに襲い掛かっていた術式を全部かき消してしまった。
だが、それ以上に三人を驚かせたのは、ヨシテルの容貌であった。
炎で身を焦がし、風で顔面を殴打され、電撃が全身を駆け巡ったというのに、全くと言っていい程に傷が無かったのだ。
その僅かな傷すら、みるみるうちに塞がってしまい、元の状態に戻ってしまった。
「早すぎますな、この再生力は。これでは体の中身もピンピンしてそうです」
ライタンはそのあまりに早い復活に、苦笑いするよりなかった。久しく前線より離れていたとはいえ、自分の術の腕前には自信があったのだが、今の一連の動きでその自信にぐら付きを覚えた。
「魔力感知なし。治癒系の術式なんかじゃなくて、本当に肉体の再生力だけで回復しているわ。どうなってんのよ、まったく」
焦っているのはアスティコスもそうであった。
何しろ自分の放った砲弾が、相手の顔面に直撃したのである。巨大な金槌で殴られたに等しく、現に被っていた兜はへしゃげて吹っ飛んでいた。
その衝撃力ならば、頭蓋骨が骨折していてもおかしくもないし、良くて気絶、悪くすれば脳がグチャグチャに潰されて絶命しているはずなのだ。
だが今、目の前に立っているヨシテルは涼しい顔で立っており、何かしたのかとでも言いたげな表情を向けて来ていた。
「アルベールがわざわざ忠告するはずだよ。こりゃちまちま削るのは無理だ。一発どでかいのをぶち込まないと、いくらでも再生するね」
致命傷になっていてもおかしくない攻撃であったのに、すんなり再生したヨシテル。これにはアスプリクもお手上げであった。
小手調べのつもりであったが、すでに打てる手がかなり減ってしまった。
(さて、参ったぞ。叔母上の一撃は頭蓋を砕いたのに、これと言った反応なし。頭部への攻撃は致命にならないのか? なら、弱点は他に……、そう例えば心臓か、それとも首を切り落としてやろうか)
アスプリクも攻め手に欠く有様で、考えがまとまらなかった。
致命の一打がかすり傷にもならず、無駄に魔力を消費しただけで終わった。
(その点が不利だよな~。こっちには魔力の限りがある。一方で、ヨシテルの体は術式による再生でない以上、いくらでも再生する。それにも限度があるのか、あるいはないのか)
限度があって欲しいが、ない可能性の方が高い。なにしろ、相手は“もどき”とはいえ、魔王を名乗るほどの猛者である。
何の特徴もなく、単なる豪傑で終わるような温い戦いになるとは、アスプリクも思っていなかった。
(それともあれかな~? この体は純粋な人間としての肉体ではなく、錬成人間的なやつで、肉体そのものに高度な再生力を付与した個体かもしれない。そうなると、肉体を維持するための“核”があるはず。それを潰せば、あるいは……!)
結局悩んでいても仕方がない。全部まとめてぶっ飛ばそうという結論に至るのだ。
なにしろ、アスプリク的には、そうした大火力での一撃の方がやりやすいし、性に合っていると考えていた。
ちまちま弱点を探り、そこを撃ち抜くなど、面倒だからだ。
的に当てるのではなく、的を土台ごと吹き飛ばすのがアスプリクの慣れ親しんだ戦い方だ。
「あ~、皇帝、一つ質問。あれだけダメージを受けていながら、痛くないのですか?」
ここで唐突にライタンからの質問が飛んだ。
本来ならば答える必要もないのだが、ヨシテルは自らの優位性を誇示しているのか、ニヤリと笑って快く応じた。
「痛いに決まっているではないか」
「あ、痛いんですか」
「まあ、針で突かれた程度ではあるがな」
「つまり、ほぼ効いていないというわけですか。今後の参考にさせていただきます」
参考にならない情報を得たが、あの程度ではやはりどうにもならないと言う事だけは全員が理解した。
(つまり、より大火力が必須と言うわけか)
三人は結局、そこに行き付いた。
難しく考えるよりも、大火力ですべてを吹き飛ばしてしまえばいい。それこそが真理であると、三人揃って納得した。
「汝らはこう考えているのであろう? 首でも刈り取ればいけるだろうか、あるいは更に衝撃を与えれば気絶でもさせられるのか、いっそ心臓でも潰してみるか、とな」
「そりゃねえ。大人しく心臓ぶち抜かせてくれませんか?」
アスティコスとしてはそれが一番楽であった。
頭がダメなら心臓、もしくは首、人体の急所など限られている。
しかし、そんなアスティコスにヨシテルは不敵な笑みで返してきた。
「では、交換条件でどうかね? 我は汝に心臓を差し出そう。それが終わってからでいいから、次に汝の心臓を差し出してもらおうか」
「嫌に決まってんでしょ、ふざけんな」
つまり、心臓を抉り出しても意味がないと言われたのだ。
そんな分の悪い賭けに乗るほど、アスティコスも馬鹿ではない。相手の余裕な態度を見れば、どう考えても結果は知れていた。
「なら、仕方ない。全部吹っ飛ばす!」
アスプリクは今一度気合を入れ直し、そして、脇を固める二人に視線を送った。
それを意味するところを察した二人は、術式の準備に取り掛かった。
「「風よ……」」
二人揃って吟じるように詠唱に入ったが、アスプリクは構わずに前に進み出た。
「ほう、補助の二人に準備をさせて、汝が自ら囮役か」
「いいや。僕の手で君を始末しに来たんだよ! 光よ!」
アスプリクの手に嵌めた護符石が輝いたかと思うと、その手には光り輝く剣が握られていた。しかも、両の手である。
〈光刃生成〉だ。自身の魔力と引き換えに、凄まじい切れ味を誇る光の剣を生成する術式だ。
その現われた二本の剣が、それがアスプリクの手に納まった。
「さあ、楽しい楽しい魔王討伐の、第二幕と行こうか!」
アスプリクは剣を構えて、敢えて剣豪皇帝に突っ込んでいった。
~ 第十九話に続く ~
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