第七話 攻城戦! 無敵要塞『イルド』!
「銃兵、構えぇ~! 狙えぇ~! 放てぇぇぇ!」
指揮官の号令の下、爆音と共に銃撃が眼下に加えられた。
ここはアーソ辺境伯領の外れ。ジルゴ帝国との国境付近にある防壁『イルド城塞』。
ヒサコの完全監修の下、国境付近に設けられた極めて強固な城塞だ。
「各員、発砲は任意! 弾込めが終わった順に、次々と撃て! 的はいくらでもいるぞ!」
「おおぅ!」
各所に配置された中級指揮官の号令と、爆発する玉薬が入り混じり、怒鳴るような声でなければ隣にすら聞こえない有様だ。
なにしろ、イルド城塞はいよいよ“初陣”の時を迎えているからだ。
ちなみにイルドはアーソの前領主カインの息子の名前であり、三年前にこの地での戦闘で命を落とした勇猛果敢な若き英雄の名から取っている。
その名を冠する砦を設けることにより、兵士らに奮起を促しているのだが、これがズバリ的中。ヒーサの目論見通り、アーソ出身の守備兵達はかつてのことを思い出し、武器を手に取って奮戦した。
「一兵たりとて通さんぞ!」
「撃て! どんどん撃て!」
「上空の警戒も忘れるな! 飛んで来る奴もいるぞ!」
兵の指揮は高く、数の不利すら感じ刺さない奮戦ぶりであった。
迫りくる帝国軍の兵士は、とにかく数が多い。ざっと把握できているだけでも一万は下らない。
しかも、それはあくまで“第一陣”であり、後方にはまだ待機している部隊がいる。
数の暴力で押しまくり、その上で城砦を突破すると言うのが基本戦略のようだと王国側は判断した。
(だが、これはなんというか、防ぎ切れる自信がある)
そう考えたのはアルベールだ。
現在、アルベールは中央の指揮所で各所に指示を出しているのだが、思いの外に切羽詰まった雰囲気ではないというのが率直な感想だ。
少なくとも、第一陣は軽くいなせると判断した。
そのように考える理由の一つとしては、何と言っても“相手方のレベルの低さ”が目についた。
(そう、装備と戦術があまりに稚拙なのだ)
なんと言っても武器が違い過ぎるのだ。
帝国軍の装備は剣や槍を装備しているが、それが使えるのは野戦であり、攻城戦では城壁を超えるまでは出番がないのだ。
そのため、城壁を飛び越えるのに“梯子”を用いるのは当然としても、援護射撃に用いているのが“弓矢”しかないのだ。
銃や大筒などの火器がない。それどころか、“投石器”もない。
極めて旧時代的な城攻めであり、王国と帝国の文化レベルの差を再認識するに至っていた。
(まあ、油断はできんがな。身体能力が人間の遥か上を行く種族が混じっている。これはよくない)
他種族の混成部隊である帝国軍は、人間同士の戦闘とはまた勝手が違うのだ。
梯子を使わず器用に爪を引っかけて城壁をよじ登る猫人、凄まじい跳躍力で地面から壁を飛び越える蛙人、翼で空から襲い掛かる鳥人など、数はそこまでではないが厄介な存在がいる。
しかし、“ヒサコ”が用意したこの城砦と、戦術はアルベールですら舌を巻くほどに完璧で、桁外れの威力を発揮していた。
(まず、何と言っても“タモン”とヒサコ様が呼んでいた城壁の備えだ。これが非常に効果的に機能している)
アルベールの言う“タモン”とは、松永久秀がこの世界に持ち込んだ『多聞櫓』のことであった。
城壁の各所に櫓を設け、それを回廊で連結させ、兵の移動を迅速化させていた。しかも要所要所に“銃眼狭間”と呼ばれる穴を空け、城壁外にそこから銃撃を加えれるようになっていた。
実質、屋内からの射撃であるため、雨等の天候に左右されずに射撃が行えるという利点もあった。
また出窓型の“石落とし”も効果的に敵を倒すのに役立っていた。回廊の出窓の底が抜けるような仕掛けになっており、そこから城壁をよじ登る敵兵に石などを投げ落とし、壁を登らせなかった。
当然、城壁上には弓兵もおり、矢の雨を降らせている。
また、強固な造りの櫓には“砲台”が設けられ、銃とは比べ物にならない威力の砲撃を加えていた。
(敵の動きが思いの外鈍いのも、あの妙な空堀のおかげだ。あれもヒサコ様の考案だ)
城壁の前面の守りとしては、石を積み上げて“石垣”を作り、その上に『多聞櫓』を備え、指揮所は『天守閣』、要所要所に砲台を兼ねた『二重櫓』という感じだ。
これに城壁沿うように大きめの空堀を掘り、城門には吊り橋式を採用していた。
そして、ヒサコはこの掘りに、更なる工夫を加えていた。それは城壁から“垂直方向”にも、空堀を掘っていたことだ。
(ヒサコ様はこれを“畝掘”と呼んでいたが、なるほど、畑の畝に見立てた堀か)
城壁前の空堀ほどの深さはないが、この“畝堀”の効果もまた絶大であった。
まず、横方向への移動ができなくなるのだ。真っ平らな地面と、凹凸のある畝堀とでは、左右への移動がその難易度が格段に違う。つまり、敵方の“進路”が固定されてしまうのだ。
その畝堀の前に“銃眼”や“砲台”を設置すれば、まさに相手が的になりに来てくれる状態となる。
実に効率的に“殺し間”を作り出していた。
また、車輪をハメるのにも有効であり、車輪に乗せて運んできた大きな破城槌もまた、その畝堀に足元をすくわれ、城壁に辿り着くことなく道半ばで立ち往生していた。
(完璧だ。これは何とも攻めの姿勢で造られた城だ! 軍略に明るく、それでいて築城にまで才をお持ちとは、ヒサコ様、あなたはなんと深いのだ!)
実際に戦闘指揮を行っているアルベールも、興奮のしっぱなしであった。
当初は妙な造りの普請に、首を傾げていたものだし、造っている最中も説明された効力を発揮するのか、半信半疑であった。
だが、いざこうして実際の戦闘ともなると、その効果は誰の目にも明らかであった。
(ああ、どれも素晴らしい! “タモン”、“銃眼狭間”、“畝堀”、どれも私の知らないものだ。だが、火力を活かすのには、これほど最適なものはない!)
次々と積み上がる死体の山に、アルベールは満足した。
しかも、これだけ優勢に他界を進めながら、まだ後方からは増援がやって来ると言うのだ。
押し寄せる敵兵を抑え込み、増援の到着と同時に打って出る事すら、アルベールの頭の中には思い浮かべられていた。
勝てる。少なくとも、アルベールはそう考えていた。
そして程なく、敵の第一波が退き、第二陣が突っ込んできた。
(だが、要領は分かった。そのまま死体で身動きできなくなるほどに積み上げてやるぞ!)
なにしろ、“畝堀”のおかげですでに“殺し間”は出来上がっているのだ。
あとは順番に丁寧に殺せばいい。
銃声、砲声が響くたびに、アルベールは更なる興奮へと誘われていった。
~ 第八話に続く ~
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