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第五十二話  自白!? これは最初から仕組まれていたことなのだよ!

「我らの国盗りを始める」


 ヒーサの発したこの言葉に皆が緊張した。

 裏の事情を知っていたティース、マーク、アスプリク、アスティコスはいよいよかと身構え、初耳であったサーム、ライタンは目を見開いて驚いた。


「公爵様、本気ですか!? 国を盗る、などと!」


「つまり、あの『教団大分裂グラン・シスマ』も、このための前段階だったと!?」


 サーム、ライタンの両名は、当然ながらヒーサの発言を否定的に受け取った。

 口では分裂を解消して国家と教団の統合と協力関係の再構築を謳いながら、その実なにもかも奪い尽くすと宣言したのだ。

 拒絶気味の姿勢は、当然と言えた。


「まあまあ、落ち着け二人とも。なにも私利私欲のために、そういう話をしているのではない」


「では、何のためだと!?」


「ジルゴ帝国に対抗するには、どうしても王国側も結束しなくてはならん。しかし、その“核”となる宰相閣下を失ってしまった。ならば誰かが変わって権力を掌握し、戦力を結集させて帝国を迎え撃つ。実に単純な話であろう?」


 ヒーサの言わんとすることも二人は理解していたが、それでもやり方があまりに強引過ぎると言う印象を拭えないでいた。

 なにしろ、ジェイクのように“核”になるための、正当性がないからだ。

 死んだジェイクは王国宰相であり、現国王の次男にして後継に指名されている次期国王でもあったのだ。

 血筋的にも、また実力的にも、あるいは人望的にも、間違いなく次代を担う人材であり、誰しもが認める王国の中心と言えた。

 では、ヒーサにはそれがあるのか?

 答えは“否”である。

 冠絶する智謀の持ち主であることは皆も認めるところではあるが、だからと言って国家の中枢で活躍してよいのかと言う疑問がある。

 実力はあっても、正当性はない。しかも強引な勢力伸長もあってか、敵も多い。

 中心となるには、あまりにも不安要素が顕在化し過ぎていた。


「しかし、仮に権力を掌握したとして、周囲が付いて来ますでしょうか? 却って内戦を誘発する危険すらあるのですぞ!?」


「どのみち、放っておいても内戦一直線か、あるいはこちらが兜を脱いでしまうかの二択だ。ゆえに第三の道を作り出す。そう、“こちらが権力を掌握して平和裏に従わせる”を選択する」


「そこに大義はありますか!? 王国を乗っ取ってしまうなど!」


「あるとも、大義は。ヒサコの腕の中にな」


「な……!」


 ヒーサに指摘されて、サームは冷静さを取り戻した。

 ヒサコは無事に出産し、男児を得たと聞いていた。しかも、ヒサコは第一王子のアイクと結婚していたので、当然その子供は王家の血を引いている。

 つまり、公爵家と王家の両方の血を引く存在であり、統合の核となり得るのだ。

 しかし、今は片言も喋れぬ乳児であり、仮に王位に就いたとしても、王国の統治にあたっては誰かがそれを補佐し、代行しなくてはならない。

 それは誰か? それを成すだけの実力と名声を持ち、しっかりとした地盤を持つ者、それは幼子の母親であるヒサコか、あるいは伯父にあたるヒーサしかいない。

 物言わぬ“幼王”と、その縁者にして“摂政”。それがヒーサの言う“大義”であった。


「形としては一応整ってはおりますが、周囲がそれに従うでしょうか? 特に、セティ公爵ブルザーの反発が予想されます」


「それはそうだろうな。ブルザーには私が散々煮え湯を飲ませてきたのだ。ここぞとばかりに反撃してくるのは目に見えている。なにより、第三王子サーディクの奥方は、セティ公爵家の出身だからな。私がそれを目論んでいるように、あちらもまた“外戚”として、権勢をほしいままに出来る好機でもある」


 ジェイクと言う強すぎる競争相手がいたため、鳴りを潜めている状態であったが、そのジェイクが突然いなくなったのである。

 サーディクは今、次なる王位を狙える位置に躍り出た。

 これを好機として、ブルザーはサーディクを推し、シガラ公爵家に対して劣勢気味であったセティ公爵家を盛り返す材料とするのは目に見えていた。


「公爵様のご指摘通りです。王はすでに病の床にあり、余命いくばくもない状態。後を継ぐべき子は四名。されど、長男のアイク殿下と次男の宰相閣下はお亡くなりになり、末子のアスプリク殿は庶子であって実子と陛下より認められてはおりません。しかし、三男サーディク殿下は健在の身。しかも、サーディク殿下の奥方はセティ公爵家の出でありますから、当然セティ公爵ブルザーはサーディク殿下を次期国王にと推しましょう」


「当然の理論だな。まあ、宰相閣下がいなくなった今、王位をサーディク殿下に就けるべく、ブルザーは動いているだろう。ロドリゲス辺りと結託して、教団にも触手を伸ばすことは必定。現段階では出遅れていると言わざるを得ん」


「左様です。情勢は極めて不利。しかも、宰相閣下への暗殺の嫌疑までかけられている有様。事件発生時に王都にいれば先手を打てたやも知れませんが、すでに王都はおおよそあちらの色に染まったと見ておくべきでしょう。ここから逆転するのは……」


「なぁ~に、そのための逆転の一手は、すでにヒサコに伝えてある。今、走ってもらっているテアには、その辺りも念を押して逆転の策をすでに授けている。だから、そこらはいらぬ心配だ」


 相変わらず行動も思考も早いと皆が感心した。

 

「で、では、すでに手を打たれていたと!?」


「当たり前だ。無為無策に、ただ畑を耕していたわけではないぞ。すでに根回しはしてある。最初からこうなる事は、予想の内にあった。まあ、多少の幸運や事故が重なって、事態が想定以上に進み過ぎている点は否定せんがな」


「さ、最初から……」


 その時、サームはハッとなった。

 ヒーサの先読みやその手管は見事なものだと、毎度毎度感心している。

 だが、そこに強烈な違和感を感じ取った。

 その違和感の“発起点”はどこなのか、と。


「最初から……? いや、“どの”最初から、なのだ?」


 思わず漏れ出たその言葉に、サーム自身が驚いていた。

 目の前の主君が冠絶した頭脳の持ち主なのは、言うまでもないことだ。あの忌まわしい毒殺事件によって前当主のマイスと嫡男セインを失い、公爵家の屋台骨がグラついた。

 ところが、それをヒーサが“有り得ない”程に冷静沈着に処理し、事態は沈静化していった。

 それからと言うもの、数々の困難に見舞われつつも、その都度明晰な頭脳と桁外れの行動力によって切り抜け、今やシガラ公爵家は飛ぶ鳥落とす勢いで成長していった。

 それもこれも、新たな当主となった若き英雄ヒーサと、どこからともなく現れた“公爵の妹”ヒサコの活躍によるところが大きい。

 ヒサコと言う人物が現れたその最初からが、よくよく考えると怪しい事だらけなのだ。


「ま、まさか……!」


「ほう、さすがに気付いたか。まあ、付き合いもそれなりであるし、公爵家の家臣団の中では、最も私、もしくはヒサコと接する機会があったからな。そう、今お前の予想している通りだ」


 ヒーサは狼狽するサームを見つめ、一呼吸置いてから口を開いた。


「そうだ、例の毒殺事件、あそこがすべての始まりなのだ。父と兄を殺し、公爵家の家督をせしめ、その罪を当時のカウラ伯爵ボースンに押し付けた。“ヒサコの口車に乗る”形ではあるがな」


 ついにヒーサの口から、あの事件の真相(嘘も混じっている)が飛び出した。

 無論、この会議の場にはすでに知っている者もいた。知らされた者、あるいは嗅ぎ付けた者、それは様々であるが、それでも真相に近い立場にあった者達だ。

 だが、サームとライタンは違う。

 今この瞬間を以て、強制的に“共犯者”へと挿げ替えられてしまったと言えよう。

 もう引き返せない位置に、二人は押し込まれてしまったのだ。



            ~ 第五十三話に続く~

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