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第三十八話  情報錯綜! 現場はどこも大混乱!

 宰相ジェイク、死す!

 その第一報に触れた関係者は、耳を疑う者ばかりであった。


「閣下が死んだ!? どういうことだ!?」


「その情報は確かなのか!?」


「下手人はアスプリク殿だと!? 何の悪い冗談だ!」


 誰もがこのような反応ばかりであった。

 だが、そうも言ってられないのが、立場や責任のある者の務めだ。

 ジェイクの腹心の部下である将軍のコルネスも、自宅でその報に触れたときは驚愕した。外は祭りの真っ只中であり、人々が笑顔で行き交っているにもかかわらず、天地がひっくり返ったような悲報なのだ。

 普段、冷静沈着なコルネスも狼狽し、もたらされた報告を疑ったほどであった。

 街の雰囲気に似つかわしくない凶報であったから、コルネスの反応もある意味では正当だ。

 その時は公務を終えて自宅に戻り、家族と食事を取っていたが、そんな報告を受けてはのんびりしているわけにもいかず、すぐに武装を整えて、宰相邸に急行した。

 そして、物言わぬ躯と化したジェイクと対面し、あまりの衝撃にその場に崩れ落ちてしまった。


「なんということだ。つい先程まで……」


 実際、ジェイクとは日暮れ近くまで職務に励んでおり、妹と会うと言って、随分とご機嫌であったことがあまりに印象的であった。

 近頃は特に忙しく、折角の祭りもろくに楽しめておらず、公務と上洛している貴族との折衝ばかりだ。

 疲れを見せることはないが、笑う事もまたない。そんな働きづめのジェイクであったが、妹の件で進展があると、いつも以上に精力的に働いて、早く帰宅するのだと意気込んでいた。

 その妹に殺されたなど、コルネスとしては当然信じることができなかった。

 だが、目の前にはジェイクの死体があり、屋敷の人間の聞き取りからも、毒は葡萄酒ワインに仕込まれて、それをアスプリクが持ち込んだと言う点は間違いなさそうであった。


(しかし、そうなると色々と妙だ。酒に仕込んだ毒で暗殺など、奇抜とは言えない方法だ。すぐにバレる。そんな単純な手法を、あの頭の回る妹君が用いるだろうか? 贈り物としてなら分かるが、そうなら贈るだけにして、自身が酒を杯に注ぐ必要などない。まるでバレてください。この少女が犯人だと、押し付けているようではないか?)


 それがコルネスが抱いた疑念であった。

 コルネスはアスプリクと面識はあるが、毒殺などと言う陰湿なやり方をするとは到底思えなかった。

 もし、ジェイクと事を構えて以前の事を復讐するというのであれば、邸宅を丸ごと吹き飛ばすはずだ。正面から強行突破を図る、そういう性格だと考えていた。

 こういうやり方は、あまりにアスプリク“らしくない”のである。


(そうなると、毒は誰かに掴まされ、それと気付かずに贈呈品として差し出した、という線もあり得るか)


 むしろ、それが一番しっくりと来るのではないかとコルネスは考えた。


「おい、妹君の足取りは分かるか? この屋敷に来る前の」


 コルネスは自分の部下や、あるは屋敷の使用人達を見回し、そう尋ねた。故意か誰かに嵌められたか分からないが、事前の足取りを知るのは、捜査の基本である。

 どこで毒を仕入れたか、あるいは仕込まれたか、それを突き止めねばならなかった。


「ええっと、先日、聖山の方へ赴き、法王聖下と会談の場を設けられたと伺っております」


「あと、シガラ公爵の上屋敷に宿泊されていました。上屋敷から面会を求める使い番が来ましたので、間違いないかと」


 どちらも立ち寄りそうな場所だな、とコルネスは考えた。ヨハネス、ヒーサ、どちらもジェイクとは協力関係にあり、表向きは公平を装いつつ、裏では繋がっているのはもはや公然の秘密であった。

 この二人がジェイクを殺害するとは考えにくいが、それでも調査はしなくてはならない。


「上屋敷の方には、私が直接出向く。それより、聖山の方に大急ぎで使い番を出せ! 至急、聖下にここへお越しいただくように要請するのだ」


「聖下に、ですか?」


「馬鹿者! 聖下は国一番の治癒系の術士だぞ。《蘇生リザレクション》も使えるのだ。暗殺事件を処理する最良の方法は、事件そのものがなかったことにすることだ。つまり、閣下に復活していただくのが一番であろうが!」


 そうは言うものの、かなり厳しいのではというのがコルネスの考えだ。

 死者を復活させるという神の奇跡《蘇生リザレクション》は、発動条件がかなり厳しいと聞き及んでいた。具体的にどういう制約があるのかは聞き及んではいなかったが、それでも今後の混乱を思えば、是が非でも復活をしてもらわなくてはならなかった。

 そう聞くと、部下達もたちまち気力を取り戻した。復活さえ叶えば、最悪の面倒な事態だけは避けられると感じたためだ。

 急いで聖山に向けて早馬を飛ばし、コルネスもまた十数名の兵を率いて、シガラ公爵の上屋敷へと急行した。

 ほんの少し前まで、祭りの喧騒に酔うほどに賑やかであった城下が、にわかに別の意味合いで騒々しくなりつつあった。

 だが、コルネスは箝口令を敷きつつ、必要最低限の人間にしか事の次第を伝えないように心がけた。

 復活してくれれば、それでよし。無理であったとしても、状況の整理がつくまでは下手に情報を広めて、収拾がつかなくなる事態だけは避けたかった。

 厄介なことになった、誰もがそう思うが、事件の真相はまだ見えていなかった。

 なにより、逃げたアスプリクの捜索も重要であった。

 結局、当人を尋問するより他ないのだが、はたして最強の術士をそんなに簡単に捕まえれるのだろうか、という不安が捕り手の誰しもに広まっていた。

 事態はなおも混迷を深めて、事態の収拾の目途は立たずに時間は過ぎていくのであった。



           ~ 第三十九話に続く ~

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ヾ(*´∀`*)ノ

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