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第二十五話  新たなる力! そして、兄妹は肩を並べて女神を襲う!(イラスト有)

「さて、今後のことを皆に話しておきたいと思う」


 屋敷の庭先に集まる家臣に対して放たれたヒーサの一言に、少しざわついていた場がまた静まり返った。主君の言葉を聞き逃すまいと、皆真剣な面持ちとなった。


「聞いている者もいると思うが、王都ウージェへと行くこととなった。此度の一件で、国王陛下より直々の聴取があるそうだ。それが終われば、正式に公爵の相続も認められることになっている。次に帰宅するときには“代行”の文字が消えることになるから、呼び間違えたら怒るからな」


 少しばかり笑いが起きる。わずかに冗談を飛ばして場を和ませるのもまた重要だとヒーサは考えていた。暗い話ばかりでは気が滅入るからだ。


「さて、ここから重要な話となるが、この案件はカウラ伯爵家の方にも伝達されてる。おそらくは、あちらも暫定的に伯爵位を継いだティース嬢が顔を出してくるだろう」


 カウラの名が出たとたんに、場の空気が一気に重々しくなった。はっきり言って聞きたくない、そう言いたげな顔がちらほらみられた。ヒーサの話でなければ、罵声や怒声が飛んでいてもおかしくなほど、今の公爵家の人々には嫌われていた。


「あちらもあちらの言い分もあるであろうし、まあ多少のいざこざは考えられる。しかし、はっきりと皆に伝えておきたいことがある。ティース嬢とは婚約していた仲ではあるが、今回の一件で事実上消滅していると言ってもよい。しかし、私はこれを復活させ、ティース嬢と婚儀を結ぼうと考えている」


 予想外の発言に、またしても場がざわめきだした。カウラ伯爵家は毒殺された先代の仇であるし、なんでそこから新当主の花嫁を迎えねばならぬのか、誰しもが疑問に思ったからだ。


「公爵様、本当によろしいのですか。こう言っては何ですが、ティース嬢は親の仇の娘となるのですぞ。そのような方をお迎えするのは・・・」


 心配そうに声をだしたのは、執事見習いのポードであった。彼自身、カウラ伯爵家から嫁取するなど感情的に嫌であったし、仮に迎え入れたとしても、公爵夫人として礼をもって接することができるかというと、これもまた疑問であった。どこかで感情的になってしまいそうであるからだ。

 これについては他の家臣一同も同様であり、あまりいい反応を示そうとはしなかった。

 ヒーサもこれは当然の反応と考えており、少し宥めてから話を続けた。


「まあ、皆の気持ちも分からんではないが、これは絶対に乗り越えねばならないことなのだ。両家の間で不幸な出来事があったのは事実だ。そして、事実は事実として受け止め、将来のことを考えていかねばならない。この出来事の裏に潜む陰謀があったと仮定し、かつその主犯がどこかの貴族だとすると、両家の和解の道を閉ざすような真似は相手の思うツボというものだ。だからこそ、そうならないためにもこの婚姻は進めないといけない。納得しかねるという顔も見受けるが、どうか堪えてほしい」


 なにしろ、ヒーサにとってティースとの婚姻は美味しい話であるからだ。相続の関係上、ティースとの婚姻は伯爵領の統治権を得るに等しく、事実上の吸収合併という運びになるのだ。婚姻一つで領地が大きく増えるのであれば、これをやらない手はないのだ。


「しかし、本当によろしいのでしょうか? 相手が断るということも考えられますが」


 あえて反対意見を述べたのは執事のエグスであった。若い主君が勢い任せに猪突しないよう、あえて煙たがられようとも諫言するのも仕事の内だとの考えから発せられた言葉だ。


「残念ながら、断ることはできんよ。碌な対案もなしに断った場合、平和と安定を阻害する存在として、討滅する口実ができるからな。周辺貴族も“おこぼれ”目当てで喜んで協力してくれるだろう。それを考えると、嫌でも婚儀を復活させねばならないのだ。周辺貴族に食い荒らされるよりかは、公爵家の庇護下に入った方が、まだましな選択と言うものだ」


「つまり、カウラ伯爵家を事実上、吸収してしまうと」


「まあ、私とティース嬢との間に子供が複数人生まれた場合、分家として復活する道筋は残っているがな。今の世代では潰えても、子か孫の世代で復活できるのだ。すべてを食い荒らされて消え去るよりかは、まだマシというものだろう」


 実際、これはヒーサがボースンに自殺を促す際に用いた論法であった。これを勘案したからこそ、ボースンは死を受け入れたのだ。すべてを奪われるよりかは、次の世代に託せる可能性に賭けたと言ってもよい。


「あとは、ティース嬢がそれを理解して、乗って来るかどうかだな。そこは王都であった際に私が説得してみるよ」


「なるほど。お考え理解いたしました。そこまで思案なさっておいでなのでしたら、こちらから申し上げることは何もございません。臣一同、よき結果となるようお待ち申し上げます」


「うむ。皆にも苦労を掛けるが、我らの世代で起こった問題だ。次世代には解決した状態で渡したい。子や孫に負債を残してしまうのは、親となる身の上では心苦しいからな」


 こうして、多少のわだかまりは残しつつも、ヒーサの提案に家臣達は納得し、その場は解散となった。もしやすると、類稀なる名君を頂くことになるかもしれない。そう実感させるだけの力を感じ取り、公爵家に仕える者達はヒーサへの忠義を誓うのであった。



               ***



 その翌日。王都に向けて出立の準備が整い、ヒーサは馬車に乗って屋敷を出発した。四頭立ての大型馬車キャリッジで、公爵家の公務に使用する四輪の馬車であり、金銀の装飾に家紋をあしらった豪奢な見た目をしていた。

 王都へ訪問するのであるから、しっかりとした見栄えをもって周囲に喧伝し、シガラ公爵ここにありと見せつけなくてはならないのだ。

 その前後を儀典用の鎧に身を包んだ騎士が十数騎、護衛についていた。また、側仕えらも数名別の馬車に乗り込み、主君に帯同することになっていた。

 そして、大型馬車キャリッジに乗り込んだのは、ヒーサと専属侍女のテアの二名であり、二人が乗り込んだのを確認すると、一団は屋敷の家臣達に見送られながら王都に向けて出立していった。

 馬車が走り出したのをガタゴト揺れる車体から感じ取った二人は、カーテンを閉めて、隙間から差し込む薄い光の中で今後のことについて話すことにした。


「まずは、計画の第一段階完遂ってところかしら?」


「そうだな。公爵の家督を手にし、財と人手は手に入った。これで計画が進められる」


 やり方はどぎついものであったが、あくまで目的は世界のどこかに潜む魔王の探索である。家督簒奪はそのための下準備であり、ようやくスタートラインに立ったといったところであった。


「それで、これからどうするの?」


「まあ、まだあくまで暫定的な公爵だからな。王都で正式な爵位継承者と認めてもらい、同時に情報収集と人脈作りに精を出すさ。もちろん、ティース嬢を篭絡するか、あるいは貶めるか、会って状況を確認してからにするがな」


「これ以上、何を貶めるのだか」


 カウラ伯爵家の受難を考えると、テアとしては多少同情的にならざるを得なかった。なにしろ、家督簒奪の“ついで”に領地を掠め取られようとしているのだから、完全なとばっちりである。少なくとも、婚姻関係を結ぼうとしている家に対する扱いではない。

 そんなテアをよそに、ヒーサは《性転換》を使用し、姿をヒサコに変えてしまった。服装はそのままなので、男装の麗人といった風情を出していた。


「さて、もうすぐ正式な公爵になれるんだし、この姿を表に出すときもやって来たってとこかしら。長かったわ~、偽装工作」


「ヒサコの目撃者は皆殺しにしてね」


「一人生きてるから、皆殺しじゃないわよ」


「え、いたっけ、生存者?」


燧発銃フリントロックガンを手にする際に、色目使った兵士」


 そういえば、そんなのもいたなとテアは思い出した。少しばかり会話を交わしただけであるが、確かにあの歩哨も接触者と言えば接触者であった。


「まあ、誰だか正体は知らないでしょうし、むしろヒサコは以前から存在していたっていう目撃者として、生かしておいてもいいかなってね」


「それはそれは、慈悲深いことで」


 テアは心にもない台詞を吐きつつ、改めて目の前の少女を見つめた。少女というには少しばかり齢を重ねているが、妖艶と可憐を足して割った雰囲気を醸しており、なかなかに見目麗しい。あるいは、もし実在する公爵の妹であるならば、社交界を代表する華と成り得たであろう。

 そんな時だ。どこからともなく、二人の脳内に直接ファンファーレと声が届いた。




 チャラララッチャッチャッチャ~♪


 スキル《性転換》のレベルが上昇しました。転生者プレイヤーは所定の手順に従い、カードを引いてください。




 そして、テアの横に狭間の世界で見た箱が現れ、さあ引けと言わんばかりに口を開けた。


「なにこれ?」


 ヒサコはいきなりの展開に驚き、現れた箱を凝視した。

 だが、それ以上に驚いているのは、テアの方であった。


「あり得んわぁぁぁ! まだこっちの世界に来てから半月経つか経たないかよ!? レベルアップが早すぎるわ!」


 それでも現れた物は仕方ないと、絶叫しながらも現れた箱を抱えた。


「レベルアップってなに?」


「スキルには経験値システムが採用されてて、使用したスキルの回数、あるいはスキルを利用してどういう行動を取ったかで経験値が貯まっていくの。で、規定量の経験値を超えると、レベルアップとして追加でスキルカードが手に入る」


「なるほどね。熟達して、次の段階に進んだってことか」


「にしたって早すぎるわよ! 私の呼んだ人間の中じゃ、一月くらいが最速だったのに。それも戦闘系スキルを使って、何度も死線抜けてどうにか手にしたってくらいだったのに」


 テアはヒサコに手をかざし、ステータス画面を開いた。


「うっわ、マジで《性転換》の経験値貯まってるわ。おまけに《大徳の威》もかなり貯まってる。こっちも今のペースだと一週間から十日くらいでいけそう。《本草学を極めし者》はそこそこってとこだから、こっちはまだ時間かかるか」


「高ランクほど上がりにくいってとこかしら?」


「ええ。設定されてる必要経験値が多いから、レベルアップまでは時間かかるのが普通。だから、異常だって言ってるのよ。Eランクとかならまだしも、《性転換》はBだし、まして《大徳の威》はSランク。どんだけあの“悪行”で経験値ブーストかかったんだか」


 テアはステータス画面を閉じ、箱を出しだしてきた。


「じゃ、前みたいに、箱に手を突っ込んで」


「ちなみに、今回はどういったのが手に入るの?」


「基本的には、レベルアップしたスキルに対応したものが手に入るわ。スキルの性能向上か、もしくは派生する系統のスキルが手に入るか、そんな感じ」


「なるほどね。では!」


 ヒサコは箱に手を突っ込み、そしてカードを一枚掴んで引っこ抜いた。

 なお、そのカードはあろうことか、虹色に輝いていた。


「おっ!」


「はぁぁぁ!? ここでまたSランクですって!?」


「ありがとう、廬舎那仏と、毘沙門天と、薬師如来!」


「もういい! 黙ってて! てか、マジで変な加護とか入れてないでしょうね、御三方!」


 あまりにぶっ飛び過ぎた状況にテアは頭が痛くなってきたが、女神としての役目をきっちり果たすべく、取り出したカードを覗き込んだ。


「あ~、《性転換》からの派生スキルで、Sランクだと、やっぱこれか、《投影》」


「《投影》とは?」


「言ってみれば、分身体の生成ね。例えば、今ヒサコ、つまり女性体になっているでしょ? 男性体を頭の中でイメージしながら、人体投影って唱えてみて」


「ふむ・・・。人体投影!」


 ヒサコは目を瞑りながらヒーサの姿をイメージし、そして、力ある言葉を口にした。

 すると、自分の体から何かがニョキニョキと生え出し、ものの十秒ほどで人が形作られた。


「おお、これはすごいわね。もう一人の自分を作り出せたわよ」


「私からの魔力供給がなされている限り、もう一人の自分を呼び出せるわ。念話テレパシーによる操作も可能だけど、魔力供給を受けている分、私が至近にいないと体を維持できないから気を付けてね。あ、あと、今はマッパだけど、イメージすれば服も着せれるから、生成する際は服装もイメージした方がいいわよ」


 確かに、現在生成したヒーサ(偽)は全裸であった。


「まあ、ちょうどいいわ。お兄様、やっちゃって!」


 ヒサコはパチンと指を鳴らすと、ヒーサ(偽)はテアに襲い掛かった。


「え、ちょ!」


 突然の全裸男からの不意討ちにテアは反応が遅れてしまい、勢い任せに座席に組み伏せられた。前掛けエプロンは剥ぎ取られ、手際よくボタンを外されていった。


「なんでこうなんのよ!?」


「まずは“動作確認”、当然でしょ?」


「またそれ!?」


「それに、お人形さん遊びってやつかな♪」


「わたしはお人形さんじゃなくて、女神よ! ぬううう、魔力供給カットォォォ!」


 テアは慌てて魔力を遮断し、襲い掛かっているヒーサ(偽)を消してしまった。


「ああ、残念。これからお兄様と専属侍女のまぐわいを拝見できると思いましたのに」


「気持ち悪いわ!」


 テアは乱れた衣服や髪を整え直すと、気が付いた時にはヒサコがヒーサに変わっていた。


「では、もう一度“動作確認”だ。人体投影!」


 ヒーサが念じながら唱えると、再び体からニョキニョキと生えてきて、人を形作っていった。なお、今度は服をイメージしながら投影したため、現れたヒサコ(偽)はちゃんと服を着ている状態で現れた。


「おお、確かに、服を思い浮かべながら使うと、しっかり服も着た状態で出てくるのだな」


「そう言ったじゃない」


「では“動作確認”だ。ヒサコ、やってしまえ」


 ヒーサがパチンと指を鳴らすと、今度はヒサコ(偽)がテアに襲い掛かった。まさかの天丼攻勢にテアは反応が遅れてしまい、またしても組み伏せられてしまった。ただし、今度の押し倒してきた相手は女であったが。


「え、ちょ、ま。なんでこうなんのよ!?」


「まずは“動作確認”だと言っただろう?」


「いい加減にしてよ!」


「断固として断る。まあ、あれだ。お人形さん遊びというやつよ」


「だから、私は女神だって言ってるでしょ! 魔力供給カットォォォ!」


 再び供給魔力が断たれたため、テアの衣服をひん剥こうとしていたヒサコ(偽)は形を維持できなくなり、跡形もなく消えてしまった。


「ハァハァ、ったく、兄も妹も考えることは一緒か!」


「そりゃ、中身一緒だからな」


「そうだった。ったく、また面倒なスキルが手に入ったわね」


「うむ、偽装工作がはかどる」


 近くにテアがいるという条件ではあるが、ヒーサとヒサコが同一の空間に存在できる。そうすれば、同一人物だとバレる可能性がグッと低くなるのだ。


「ああ、でも、注意点があるわよ。生成した分身体が負傷した場合、同じ傷を受けることになるから、無茶な使い方はダメよ」


「なんだと! それでは、肉盾や人間爆弾ができぬではないか!」


「やる気だったんかい! つ~か、真っ先にそう言う発想に至るのが恐ろしいわよ!」


「戦国ゆえ、致し方なし」


「もうヤダ、戦国」


 気付けば、またヒサコを生成しており、並んで腰かけ、同時にテアに向かって身を乗り出し、満面の笑みを浮かべてきた。そして、“声を揃えて”言い放った。


「「さあ、道中は長いし、楽しんでいこう♪」」


「しかも喋れるようになってるぅぅぅ! 誰か助けてぇ!」


 女神の救援の声はゴトガタ揺れる馬車の音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。

 こうして、一連の事件は一応の決着がつき、戦国の梟雄は転生先でまんまと公爵位を簒奪することに成功した。あとは形式的な手続きを王都で済ませればいいだけだ。

 そして、次なる獲物はカウラ伯爵領と、女伯爵ティースである。すでに幾重にも罠を仕掛け、領主も土地も我が物にせんと企んでいた。

 梟雄・松永久秀の家紋は“蔦紋”である。何かに巻き付き、それを伝ってどこまでも大きくなる。

 蔦は絡み、すべてを取り込む。彼の異世界転生の物語はまだ始まったばかりである。


挿絵(By みてみん)


        ~ 第一部・完  第二部に続く ~

これにて、第一部が完結いたしました。


明日明後日からでも第二部に入りたいと思っています。


これまでの拝読、感激の至りです。


今後ともご愛読のほど、よろしくお願いいたします。


巻末のイラストは、四則 様よりいただきました!


引きつった顔のテアがいい味出してます。


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感想等も大歓迎でございます。


ヾ(*´∀`*)ノ

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[良い点] 歴史に詳しくなれるかも [一言] 戦国時代の思考って、恐ろしいですね…! って、こんな武将ばかりでは無いはずだ!!
[良い点]  主人公がとても印象的です!戦国武将の松永久秀が異世界転生し、この狂気と呼べる行動をを地で行っているのが面白いですね。女性とのドロドロした関係や裏工作。ファンタジーですがそれを全面に押し出…
[一言] 雄梟の悪行極まれし! でもこれでまだスタートライン!? なんて恐ろしい……!
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