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第十六話  反転! 帝国軍を迎え撃て!

 一方、王国軍側では、敵軍が迫っているというのに、割と落ち着いていた。

 すでに隊列を整えて迎撃の準備が整えられているので、焦ることなど何もないのだ。

 なにより、指揮官であるヒサコへの信頼が、ここ最近の戦闘によって急上昇しており、作戦通りに動いていれば問題ないとの安心感が、兵士達の間に広がっていた。

 今もそれを身を以て、現在進行形で体験していた。

 追撃されるのは不利であることは、誰しもが承知していることであった。

 ところが、撤退すると見せかけて敵を誘い込んだのか、急に方向転換して迎撃の布陣を指示してきた。

 実際、そこは川と山に挟まれた狭隘な地形であり、少数で多数を迎撃するには最適な場所であった。

 また、とんでもない秘策を見せてくれるのだろうと考え、兵士達は次々と隊列を組み、迎撃の準備を整えた。


「しっかしまあ、あれって反則だと思わない?」


 ヒサコは正面より迫ってくる敵の軍勢になど目もくれず、上空を遠眼鏡で眺めていた。

 手に持ち、目に当てているレンズのはまる筒の先には、編隊を組んで飛ぶ飛竜ワイバーンがいた。好き勝手に暴れる魔獣とは思えぬほどに統率が取れている動きを見せていた。

 そう、それはまるで、エルフの里を襲撃した怪物達のように、操られている動きと言えた。

 そして、それをやっている者も、飛竜ワイバーンの背中に跨っているのも確認できた。

 なにしろ、何度も目にした黒い法衣をまとう男の姿が、レンズ越しに見えたのだ。


「いやはや、その通りです。高所に陣取るのは、兵法の常道ですが、空を飛んでこちらを観察するのは反則としか言えませんな。こちらの動きが筒抜けです」


 サームもまた、ヒサコの横で遠眼鏡でヒサコと同じものを眺めていた。

 優雅に舞う上空の飛竜ワイバーンの存在は脅威であり、その動き次第では戦況に大きく関わってくることは容易に想像できた。


「以前さ、アスプリクに頼んで《飛行フライ》の術式で空中を飛んだこともあるんだけど、あれはなかなか爽快だったわ。こっちもそれが使えたらな~」


「今回は術士を編成に組み込んでいませんし、それはさすがに無理ですな。いっそのこと、一匹捕獲して、飼い慣らすというのはいかがでしょうか?」


「いい提案ね。それ、採用! 時に手懐けるに際して、飛竜ワイバーンの好物って何かしら?」


「さて、見当もつきませんな」


 指揮をする二人からして、この軽いやり取りである。周囲の兵士もニヤニヤ笑っており、戦の前の緊張感を程よく緩めていた。

 上の人間が堂々としていれば、下の人間は結構安心するものなのである。


「しかし、《飛行フライ》で飛んだ時よりも、更に高度が高い。こっちの動きが丸見えってのは気に入らないわね」


「上から戦場全体を見渡し、通信の術式で指示を出す。極めて有効なやり方です。横から見るのと、上から見るのとでは、得られる情報に差異がありますからな」


「空中観測か~。この点だけでも、術士の不在は思っていた以上に大きいわね」


 今回は術士なしでも戦えることを証明するために、あえて術士を編成に組み込まずに戦っているのだが、やはり相手に腕利きの術士がいると、かなり苦戦を強いられることだということは認識できた。

 代わりに、ヒサコはその穴埋めとして、多量の火器を揃えており、十分に対応できることも実感できていた。

 そうでなければ、宿営地での戦いで、あそこまで一方的に屠れるわけがないからだ。

 一般兵であろうとも、充実した火器があれば、帝国の大軍に対応できる。それをヒサコはしっかりと証明したのだ。

 現在の士気の高さが、それを証明していた。


「正面の敵は抑え込める自信はある。そのために狭い地形を選んだんだし。問題は空の動きね」


「急降下からの鷲掴みやカギ爪などで襲い掛かってくると聞いておりますが、まるで猛禽に狙われるウサギになった気分ですな」


「あ~、なるほど。そういう感覚ね。納得」


 ヒサコもかつてを思い出し、“松永久秀”として、鷹狩りに興じていたことを思い出した。

 要は今の状況は、荒くれ者の勢子せこが正面から獲物を追い立て、上から鷹が襲ってくる、と言う状況なのだ。

 ただ、普段の鷹狩りと違う点は、得物が人間サイズな上に、自分が襲われる可能性がある事であった。


(やっぱり大きめの弩を揃えていて正解だったってことか)


 なにしろ、ヒサコはエルフの里を襲撃させた際、飛竜ワイバーンの戦い方をつぶさに観察していたのだ。

 ああいう怪物が帝国にもいる、という予想があったので、空中から襲ってくる存在への対処として、弩を用意したのだ。連射性に難があるとは言え、威力も高く、射程も鉄砲よりも長い。

 空中の相手に攻撃するのであれば、槍では届かないし、鉄砲でも弾道が安定しないので空中への狙撃は難しいが、弩であれば前二つよりかは命中率と言う点では信頼できた。


「あわよくば、カシンを撃ち殺せれば万々歳なんだけどな~」


 さすがにそこまでは虫が良すぎるかと考え直し、視線を正面に向けた。


「空の相手は弩兵隊に任せるとして、残りは正面の敵に集中するわよ。隘路で数の差がそこまで出ないと言っても、余剰戦力に差がある。何度も波状攻撃を食らったら、持たないわよ」


「そのために色々と小細工をしたのでありましょう?」


「ええ、そうよ。事前の指示通りに動いて頂戴ね」


「心得ましてございます」


 サームは頷いて応じると、前面で指揮を執るべく、馬をそちらへと進ませた。

 すでに勝つための算段は済ませており、あとはそれに敵が引っかかってくれるかどうか。そこだけが問題であった。

 そして、ヒサコはもう一度、上空を眺めた。


「カシン、あなたは幻術の達人。人を引っ掻き回すのが得意なんでしょうけど、戦の差配はどうかしらね~。楽しみにさせてもらうわ」


 ちなみに、ヒサコはカシンの戦闘指揮はそこまで高くはないと踏んでいた。

 数に任せて押し込んでくるのは間違いではないが、それにしても陣形が雑過ぎる。と言うのが目の前の敵軍に対しての印象であった。

 結局は数だけ。それがヒサコの抱いた感想であった。

 ならば、恐れるものは何もない。今まで通り、嵌め殺してやるまでだと、ヒサコはニヤリと笑った。


「なにも、人をハメるのに、いちいち幻術を用いることなんてないのよ。要は、相手にそんなまさかと思わせ、意表を突いてしまえばいい事! さあ、始めましょうか。王国と帝国の戦、その第二幕を!」


 ヒサコも今一度周囲に声をかけ、気を更に高揚させた。

 正面戦力はまたしても四倍もの差があるが、それでもどうにかするとばかりに、ヒサコは腰に帯びていた剣を抜き、高らかに合戦の開始を宣言するのであった。



            ~ 第十七話に続く ~


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