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第十五話  空中観測!? 黒衣の司祭は全てを見通す!

 五匹の飛竜ワイバーンが編隊を組んで飛行しており、その内の中央を飛んでいる個体に人が乗っていた。黒い法衣に身を包んでおり、上空の風の抵抗をモロに受けていた。

 飛ぶのであれば、衣装を変えておくべきであったかと、思案のしどころであったが、認識力の低い亜人の中には単純な服装で判別している者もいるため、黒衣を脱ぐわけにもいかず、その点では難儀していた。


「やれやれ。知能の低い連中を指揮統率するのが、こうも面倒だとはな」


 飛竜ワイバーンに跨り、ぼやいているのは、邪神を崇め、魔王を奉じる異端宗派《六星派シクスス》の司祭であるカシンであった。

 現在、カシンは“撤退中”の王国軍を追撃中であった。

 ジルゴ帝国とカンバー王国の間に発生した戦争であるが、はっきり言えば大国側は大きく出鼻を挫かれる格好となった。

 帝国側は圧倒的大軍を以て王国側に攻め込み、これを蹂躙して標的であるヒーサ・ヒサコ兄妹、さらに言うとその中身である“松永久秀”を捕縛するつもりでいた。

 ところが、王国側は防備を固めると見せかけて、帝国領に逆侵攻をかけるという賭けに出た。

 そして、その賭けが大きく成功したのだ。

 皇帝は各所で兵を募り、前線近くでそれを集結させ、軍を編成していたのがカシンであったが、その管理や物資の調達に奔走している際に、まんまと王国軍の攻撃を許す結果になってしまった。

 カシンとしては見事に騙された格好となったが、これに対して単身で国境であるアーソ辺境伯領に侵入、その地の代官である第一王子のアイクを暗殺した。

 これで動揺して侵攻してきた部隊も引き上げるだろうと踏んだのだが、ヒサコはそこまで甘くはなかった。

 村々を焼き、住人を根絶やしにしたかと思えば、宿営地をも襲撃し、集結中であった帝国の戦士達を焼き払った。

 結果は戦士だけで一万強、周辺住民を含めると、五万に達しようかという人的損害を被った。

 これにはさすがのカシンも頭痛を覚えるほどの損害であり、相手を過小評価、特に勝つためなら何でもやる、という点を思い知らされることとなった。


「だが、それもここまでだ。ようやく捕捉したぞ」


 そう、カシンの眼下には撤退中の王国軍が存在し、対して追撃してきた帝国軍がそろそろ追いつくところまで距離が詰まって来ていた。

 カシンは敗戦によってチリヂリになった戦士達を再集結させ、さらに皇帝の所から追加でやって来た部隊も編成に加え、総勢でどうにか一万五千に届く軍団を形成した。

 そして、別動隊がアーソを襲撃と言う偽情報を流しておき、まんまとそれに引っかかって撤収を始めた王国軍に追いついたのだ。


「こちらは一万五千。歩兵のみであるが、数で押しきれる。なにしろ、相手は四千あるかないか。しかも、騎兵を失っている」


 カシンの見据える遥か先には、砂塵が上がっていた。騎兵が大慌てでアーソに引き返していると思しき姿が、その舞い上がる砂塵から見て取れた。

 自分が流した偽情報に誘き出され、足の速い騎兵だけでも先行して引き上げさせている。そういう姿であると認識した。


「だが、反転して迎撃態勢をとってきたな。まあ、このまま背を追われるよりかは、一当てしてから押し返し、それから逃走する方がマシと判断したか」


 カシンの眼には王国軍が隊列を行進から迎撃へと、切り替え始めているのが見えていた。その動きは計算された統率の見て取れる姿であり、寄り合い所帯の帝国軍には不可能な整然とした姿であった。

 個々の能力は高かろうとも、部隊間の連携は乏しい。結局は数のゴリ押しでしか戦えないのが、帝国軍の強みであり、弱みでもあった。


「しかも、迎撃しやすい地形を選んできたか。まあ、地理を把握していればそうなるか」


 上空から見ると一目瞭然なのだが、王国軍側は“隘路あいろ”に布陣していた。帝国側から見て、左手には大きな川が、右手には山が存在し、その間に挟まれた比較的狭い場所で迎撃を企図しているように見えた。

 予想戦闘領域の幅は狭く、兵の頭数に反して、比較的縦深のある隊列を形成していた。


「槍と銃による横陣か。正面から突っ込めば、被害はかなりになるが……」


 先頃の宿営地前での戦闘の報告は、カシンはしっかりと聞いており、そのあまりの友軍の無様に憤激したほどだ。

 誘い出す手口といい、誘い出した部隊への攻撃方法といい、極めて高い練度と連携のなせる業であると認識していた。

 もし、ちゃんと連携の取れた部隊であるならば、一隊を正面から牽制を入れつつ、右手の山を別動隊が迂回機動をとり、後方を扼するという方法も取り得たのだ。


「とにかく、あの銃と言う奴は厄介だな。鉛玉が肉を抉り、爆音が心を削ってくる。金属の鎧すら貫いてくるのだ。結局は正面からのゴリ押しが一番か」


 迂回機動は無理と判断し、カシンは正面攻撃を決定した。

 あくまで数任せに突っ込み、乱戦状態に持ち込めば、銃はもちろん、長柄の槍も役に立たなくなる。

 数で押す事こそ、兵法の常道であると考えた。

 唯一の懸念材料は、今自分が考えていた迂回機動を、王国側がやって来ることだが、そのための騎兵は距離が空いており、その懸念は薄れていた。

 よしんば、伝令を出して、引き返させたとしても、そのための時間的猶予はある。それまでに乱戦に持ち込んでしまえば、迂回機動も意味を成さなくなる。

 ゴリ押しと時間優先、正面攻撃こそ最適解であると、カシンは判断した。


「それに、銃への対策はある。私が指揮を執っている以上、今回は無策というわけではないぞ」


 カシンは眼下の部下達に合図を送り、正面攻撃を命じた。



            ~ 第十六話に続く ~

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