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第十六話 壁談! ワシと女神のピロートーク!

 一時の混乱と熱気は一応冷めてきたが、それでも怒りと悲しみの入り混じった雰囲気は、シガラ公爵邸に漂っていた。

 なにしろ、歓迎の宴が来客の不用意な行動により惨劇へと変わり、当主マイスとその跡継ぎである嫡男セインを同時に亡くすこととなってしまったからだ。

 客として招いたカウラ伯爵ボースンは捕らわれの身となり、屋敷内の一室にて監禁されることとなった。また、そのお供の者達も牢屋へと押し込められた。

 これで一応の平静は取り戻したものの、当主とその後継を失った悲しみ、そして、それを成した愚か者への怒りはくすぶり続け、公爵家に仕える面々は感情を抑え込むのに必死であった。

 次男坊のヒーサが自制するよう促していなければ、怒り任せにカウラ伯爵を殺していたかもしれない。それほどまでに、皆が激高していたのだ。

 だが、一番憤り、一番悲しまねばならないヒーサが苦しげな表情をにじませながらも自制しているのである。臣下がそれに倣わずどうするのかと、皆が皆耐えたのだ。

 特にショックが大きかったのは、執事のエグスと厨房頭のベントであった。

 エグスはマイスと君臣の間柄を越えた長年の友であり、それを目の前で失ったのだ。あまりの出来事に取り乱し、とても皆の差配はできないとして、ヒーサから早々に休むようにと言い渡され、今は自室に引きこもっていた。

 また、ベントにしても、いくら献上品とはいえ、よく知らぬキノコを調理して出してしまい、それが原因で今回の騒動になってしまったのだ。悔いても悔い切れない出来事であり、こちらも自室にて自主的に謹慎してしまった。

 そのため、執事見習いのポードと侍女頭のアサが皆のまとめ役となり、どうにか表面的にとはいえ落ち着くことができた。

 そんな中、屋敷に駐留していた武官サームよりヒーサに対して提案がなされた。サームはセインの副官であり、公爵領の軍隊を統括していたセインの軍における腹心であった。


「ヒーサ様、軍に召集をかけましょう。事ここに至っては、伯爵領へ軍事介入する可能性が高まっております。ここは先手を打って、動くのが肝要かと」


 サームの提案は軍人の観点からすれば、当然の提案であった。当主が毒殺されたのであり、大義名分はこちらにあるから、軍を動かしたとて周辺諸侯が騒ぐ理由が薄い。どころか、その大義名分に便乗して兵を繰り出し、“おこぼれ”を掠め取ろうとする輩が出てきてもおかしくない状況だ。

 実際に動かす動かさないは別にしても、招集をかけ臨戦態勢に入っておいた方が、どういう事態になろうとも動きやすくなる。

 サームの進言はまさに戦争になるという危機感を皆に植え付けることとなった。

 だが、これに反対するものは誰もいない。なにしろ、復讐に燃えるているのは、この屋敷に仕える者ならば全員抱いていたからだ。

 たった一人の例外を除いては。


「ならん。軍の招集は許可できない」


 ヒーサはサームの提案をきっぱりと拒否した。


「しかし、ぼっちゃ・・・、いえ、当主代行様、それでは初動に遅れが出てしまいます」


「とにかく、ダメだ。私はあくまで話し合いでの解決を望んでいる。軍を動かすなど、もっての外だ」


 あくまで平和的に解決を。それがヒーサが皆に示した意志であった。

 一番激情にかられて動いてもおかしくないヒーサのあまりの冷静沈着ぶりに、家臣一同はますますその芯の強さに敬服した。

 同時に、“慈悲深さ”ゆえの危うさを感じる者もいた。


「当主代行様、あえて更に進言させていただきます。初動の遅れもさることながら、これから交渉役とやらがカウラ伯爵家より派遣されてまいりましょう。整然と並ぶ軍を見せつけ、相手の肝を冷やしてやるべきです。こちらの怒りを示し、犯した愚行を知らしめるべきです。全軍招集はともかく、少なくとも部分動員だけでもかけておかれるべきかと」


 食いつくようにサームが更に進み出て、ヒーサに決断を迫った。


 だが、ヒーサは首を横に振った。


「ダメだ。そうした示威行動も認めん。軍への招集は一切なしだ。いいな?」


「……畏まりました」


 念を押しての進言も退けられた以上、サームは引き下がらざるを得なかった。

 無論、サームとしては不満、というより不安があった。目の前の新たなる主君は軍人としての気質が全く感じられなかったからだ。やはり医者などの学問にて生計を立てることを是とし、軍事に関する教育をやってこなかったため、その辺りが不安で仕方がないのだ。

 侮ってのことでない。才覚はあると思っている。現に、先頃は演習場に顔を出し、新型の銃器を難なく使いこなし、それどころか新技術の提案までやってのけたのだ。磨いていけば、間違いなく相応の軍人にはなっていくであろうと考えていた。

 だが、問題なのは“今”なのだ。将来の名将よりも、現在の凡将が必要なのだ。指揮官不在での軍などありえず、それを期待するのは無理かもしれない。

 学者肌があまりに強い。サームの不安はそこなのだ。

 だが、そんなサームの不安をよそに、ヒーサは力強く頷いて見せた。


「サームよ、お前の現状を憂う気持ちは分かる。だが、軍と言うものは一度動かしたら、そう簡単には止められないものだろう? だから、私は軍をなるべく使いたくないのだ」


「仰ることは分かります。不安なのも重々承知しております」


「……まあ、提案を全部捨てることもないか。サーム、斥候、歩哨の数を増やせ」


「は?」


 いきなりのヒーサの切り替えにサームは意味が分からず、少し呆けた声を上げてしまった。


「念のためだよ。一応、今回の騒動はまだ外に漏れていないとはいえ、いずれは外部に漏れることだろう。そうなると、シガラ公爵領、ないしカウラ伯爵領にちょっかいをかけてくる周辺領主も出てくるかもしれない。それの見張りだ」


「ああ、そういうことでございましたか」


「とにかく、軍への招集はなしだが、警戒だけはしておかねばなるまい。公爵領と他領の境界にばれない程度に歩哨、斥候を増やし、良からぬ事を企むバカがいないかを見張る。やってくれるか?」


「ご命令、謹んでお受けいたします」


 サームは深々と頭を下げて、ヒーサよりの命令を受けた。

 何事にも大胆かつ豪快なセインと違い、新たな自分の主人は万事に慎重な性格なのだと、サームは感じた。それに、随分と気の回る方だとも感じた。

 十七の若者だというのに、まるで“場慣れしている”かのような振る舞いに、サームのみならず、他の家臣達も感心した。普段は控えめだというのに、前に出るとこうも変わるのか、と。


「とはいえ、さすがに色々ありすぎて疲れた。すまないが休ませてもらうよ。皆も休めるときに休んでおきなさい。今回の問題は長引く。気張りすぎて倒れてもらっては、私が面倒見ることになるからな、医者として」


 軽く冗談を飛ばし、無理にでも場を和ませようとする姿勢に、却ってしんみりとした雰囲気に包まれたが、新しい主君の気遣いに、皆が頭を垂れて受け入れた。

 そんな姿を見ながら、ヒーサは人が集まっていた広間を後にして、自室へと戻っていった。

 ヒーサを見送った家臣達は一斉に顔を上げ、そして、思いの丈を一気に開放した。


「はぁ~。まずは安心か。ヒーサ様がああも冷静かつ思慮深い方であったとは」


「いつも通りではないか」


「だから! こういう場面でも、普段通りにやっていけているところが凄いのではないか! 普通、身内が目の前で毒殺されたら、ああも落ち着いてなどいられんぞ」


「いや、まったくだ。学者肌の若様で、こんな荒事には慣れていないかと思ったら、どういうことか。誰よりも冷静かつ豪胆ではないか」


 皆口々に述べるのは、ヒーサへの称賛であった。学者肌が強いため、少し臆病に見えていたが、今回の件で臆病ではなく慎重であることが分かった。万事に冷静かつ慎重に事を進めようという姿勢が見て取れたからだ。


「それにつけても、カウラ伯爵め、大それた真似をしてくれる」


「まったくだ。今すぐにでも殺してやりたいが、ヒーサ様に禁じられておるからな」


「せめて、随行者だけでもボコボコにしてやらねば気がすまぬ!」


「おお、まったくだ! 見せしめに、毒物をたっぷり入れた食事でも食わせてやるか!」


「おお、そうだそうだ! 報復だ、報復!」


「待て待て。気持ちは分かるが、ダメだぞ。少なくとも、交渉人との話し合いが終わるまではな」


 当然のように、カウラ伯爵への罵詈雑言も飛び交うが、ヒーサにきっちり釘を刺されているため、手出しができない状態であった。

 そのため、感情を抑え込むのに必死な者も多く、中には拳で壁を小突き、やり場のない怒りを吐き出していた。


「まあ、皆の意見もあるだろうが、この屋敷にて最も怒り最も悲しまねばならぬのは、他ならぬヒーサ様だ。そのヒーサ様がああも気丈に振る舞われておるのだ。我らが暴れまわっては、その顔を泥を塗り込む。だから堪えよ」


 サームの言葉は正論であり、そこまで言われては無理矢理にでも平静を保たねばならなかった。


 不満は残るが、だからと言って勝手に報復するなどできはしない。


 ヒーサが堪えている以上、臣下もまたそれに倣わねばならないのだ。


「では、見張りは私と部下達でやっておくから、順次休んでくれ。ヒーサ様の言う通り、この問題は長引く。体力は温存しておかねばな」


 結局、サームの提案に従い、皆が順々に体を休ませていくこととなった。

 怒りと悲しみを胸に抱き、同時に新たな希望も見出し、屋敷は不本意な静けさを取り戻していった。



           ***



 ヒーサは自室に戻ると、まずは服を脱ぎ捨てた。本来ならば宴で礼服と言う運びであったが、それもすべて台無しに“してやった”ので、今の服装は外行き用の医者の服装をしていた。それらをササッと脱いだのだ。

 そして、肌着だけの軽装になると、その姿を《性転換》のスキルで女に姿を変えた。ヒーサからヒサコへと変じ、もたれ掛かるように壁に背中を預けた。


「テア、聞こえてる?」


 ヒーサの寝室の隣はテアの寝室である。この二つの部屋は思っているより薄いようで、壁越しに会話することも可能であった。


「聞こえているわよ」


 テアから返事があった。あちらも壁に背中を預けており、壁一枚挟んで背中合わせとなった。


「てか、その声、ヒサコになっているのね」


「一応、防諜用だからね、この姿は。危ない話をしたり、あるいは危ない橋を渡るときにはこの姿でいるつもりだし」


 つまり、これから危ない話をするということだ。テアはやれやれとため息を吐き、どんな話が出てくるやらと身構えた。


「さて、父と兄が亡くなり、晴れて公爵家当主となったわね。一歩、任務完遂に近付いたわ」


「私は認めない……。あんなやり方、どうかしてるわ」


 なにしろ、父と兄に毒キノコを食べさせ殺し、その罪を義父となる男に押し付けた格好となったのだ。謀略の成果としては完璧であり、その点ではさすがの智謀と褒めるべきなのだろう。

 だが、やったことは褒められるべきことではない。むしろ、完全に犯罪行為だ。親殺し、兄殺し、とても正気の沙汰ではない。


「まあ、最終的には直接手を下したんだしね。兄と弟の熱ぅ~い接吻で」


「やっぱり、あの薬と称して飲ませたのは……」


「あれは『一夜茸ひとよたけ』の成分を抽出して、純度を上げていたものよ。一夜茸だけだと、あくまでひどい悪酔い状態にしかならないけど、あの濃縮液を追加で注いでやれば、悪酔いでは済まなくなるわ。ふふ、まさか口移しで飲ませた物が毒だなんて、誰も考えないでしょうね」


 そう、演技としては間違いなく完璧であった。裏の事情を知っているテアでなければ、誰も気づかないほどの迫真の演技だ。

 驚きも、怒りも、悲しみも、すべてが見せかけ、デタラメだ。必死で父と兄を救うべく行動しているように見せて、その実“とどめ”を刺しに行っていたのである。

 あれを見破れという方が無理だ。演技者が完璧に怒りに震える悲劇の主人公になり切っていたのだ。その悲劇が自作自演なのであるが。

 それに対する罪の意識は一切感じない。テアが聞き取るヒサコの声には、反省も後悔も感じ取れない。やりたいからそうした、程度のことでしかなかったのだ。


「必要だから、家督を貰い受けたまでのことよ。必要なものを欲してどこが悪いかしら?」


「だからって、あれはやり過ぎよ! 人倫にもとるやり方だわ!」


「神が倫理を語るとは、へそで茶が沸くわね」


 ヒサコは腕を組み、鼻息を大いに噴出した。淑女には似つかわしくない立ち振る舞いだが、今は誰も見てないので、特に気にしていない。


「大水を呼び寄せて人を流し、巨大な塔を雷で崩し、ちょっと破目を外した街を丸ごと焼き払ったり、神様の力ってすごいものね~。ああ、これ、前に聞いた南蛮人の宗教の神話らしいけど、これのどこに倫理があるのかしら?」


「倫理は言ってしまえば、規則、規範のこと。それを破ったのなら、罰せられて当然よ」


「なら、天罰とやらをやってみなさいよ、“女神様”」


 気まずい雰囲気が壁越しにせめぎ合っているが、天罰とやらは訪れない。なぜなら、テアは女神テアニンとしての力を制限されており、天罰を下せるほどの力も権限もないからだ。


「はい、天罰が来ないということは、神様とやらは今日の出来事を肯定したってこと。天上にいるであろう上位存在も『これは良くない」と言ってこないということは、問題ないということ」


「くそ……、なんでこいつなんかと私は組んだのよ……」


 ついイラっときたテアは、壁に拳を叩き付けた。ドンと言う音と振動が壁を突き抜けて、ヒサコの背中に当たった。


「ふふ、そう気にしなさんなって。私に惹かれたからでしょ? まあ、約束通り、仕事は完遂するから、あなたは見ているだけでいいのよ」


 そうは言うが、やはり身内殺しは見ていて気分のいいものではない。今の転生者プレイヤーを連れてきた世界においても、最初の殺人は弟殺しであったという。その原初の犯罪を、そっくりそのままやったわけだ。弟ではなく、父と兄ではあるが。


「でもね、女神様、あなた、一つ大きな勘違いしているわよ?」


「なんのことよ」


「あなたの目的は、この世界に潜む魔王を探すこと。そうよね?」


「ええ、その通りよ」


「なら、定められた倫理ルールとやらに、“人倫に悖る行動をしてはならない”なんてのはあるのかしら?」


 指摘されてみれば、まさにその通りなのだ。神である自分に対する制限はいくつも設けられているが、転生者プレイヤーへの制限は基本的に設けられていない。

 せいぜい、スキルブレイクを発動して手に入れたスキルが台無しにならないように気を付けなさい、程度のものだ。

 つまり、何をしても許されるということだ。制限がないとは、そういうことなのだ。


「ねえ、女神様、この世界って、神様の見習いであるあなたのための世界なんでしょ? 見習いが正式な神に列せられるかどうかの見極めのための」


「ええ、そうよ。ここでの評価点によって、それの可否が決まるって上位存在からは言われているわ」


「なら、割り切るというか、気にもかけずにどっしり構えて流す方がいいわ。今日のことは」


 テアにはまったく見えてこなかった。もし、自分が力を行使できる状態の神であるならば、今日の出来事は間違いなく天罰に値する所業である。


「おそらくは、そうした精神の揺れも、上位存在とやらに見られているってことよ。この程度で天罰だなんだとのたまっているようでは、世界を一つ任せても碌なことにはならない、という感じでね」


「じゃあ、見逃せっっての!?」


「ええ。はっきり言って、ウン億の人を抱える世界において、こういう犯罪なんてのは絶対に起きる。それを一々天が裁いていたらキリがないってこと。人の営みは人に任せ、世界の根幹に関わることだけ、神が関与する。些事に気をかけ過ぎて、本質を見誤ることなかれ、ってね」


 テアは愕然とした。転生させた人間の方が、余程、世の真理に近しい位置に立っているからだ。

 なんという未熟であったことか。今まで神として力を行使し、世界の修正を行ってきたが、単に難易度の低い任務をこなして、いきり倒していただけだと気付かされたからだ。

 ヒサコの言う通り、神の最たる仕事は世界の管理である。それこそ神に求められることであり、上位存在より与えられた使命と、それをこなせるだけの力なのだ。

 些事は無視して、大事にだけ備えよ。そう気付かされたのだ。


「まあ、気張っても仕方ないし、あたしはやりたいようにやるだけよ。だから、あなたも肩の力抜いて、じっくり世界と、転生者あたしを眺めていなさい。ねえ、共犯者あいぼう


 弟子に教わる、ではなく、神が人に諭されるとは、なんとも新鮮な気分であった。

 女神テアニンとして、あちこちの世界に赴き、こうして転生者と行動を共にすることもあった。その誰もが神である自分にそれ相応の敬意をもって接してくれた。

 同時にそれは人と神と言う見えざる壁が立ち塞がり、どこか余所余所しさもあったと、今では考えるようになっていた。

 だが、今回は違う。今回呼び出した“松永久秀”という男は、どこまで行っても自分本位。自分とそれ以外で完全に割り切っている。

 そこには上も下もない。やりたいようにやっているだけだ。


(そっか、気張りすぎか……。もうすぐで正式な神だからって、気負い過ぎてたってことね。もう少し、視野を広げて見なくては、とても評価点なんて貰えるわけないわ)


 テアは己の未熟さを指摘され、痛感した。まだまだ修行が足りないと。


「さて、それじゃあ、楽しい楽しい女神との“ぴろうとおく”はこれまでにして、さっさと寝る」


「おい、待てや、こら」


 せっかく気分出ていたというのに、いきなり男声に戻り、挙句に今の会話がピロートーク扱いである。やはり、この男は掴みにくいと再認識させられた。


「で、いつもの可愛い侍女メイドさんと一緒じゃなくていいの?」


「リリンはアサにこっぴどく叱られているぞ」


「え、そうなの? なんで?」


「空気読まずに、夜伽を申し出たのを、アサに見つかった」


 なるほどとテアは納得した。今日の事件で若様が気落ちしてるだろうし、ここは文字通り一肌脱いでお慰めいたしましょう、とでも考えたのであろう。そして、間の悪いことに侍女頭に現場を押さえられてしまった。


「アサが凄い剣幕でな。『伽は主人よりお声掛かりがあってこそのもの。それを侍女から誘うなどもっての外。はしたないうえに、礼を失した振舞いです!』てな感じだ」


「うん。情景が思い浮かぶわ」


 とはいえ、それなら今日は安眠確定である。あれほどの大事件があった夜に安眠できるとは、それはそれで問題かもしれないと思いつつ、嬌声を子守歌に聞かなくて済むのはいいことであった。


「そういえば、あの子、リリンをどうするつもりなの?」


「近いうちに、“久子”に会わせるつもりだ」


 意外な答えが即答で戻って来た。ヒサコに会わせるということは、裏の仕事も手伝わせるということでもあるからだ。


「まあ、もう少し、見極めは必要だがな。今の状態では、“抱き枕”以上の価値を見出してはおらん」


「うん、あなた、やっぱ最低だわ」


「誉め言葉として受けておこう。左手はリリンで埋まっているが、右手は空いている。いつでも埋めに来てもらって構わんぞ」


 テアはバァンと思い切り壁を叩き、今夜はこれまでと言わんばかりに話を打ち切った。

 そして、お互いそれぞれの寝台に身を投げた。

 家督簒奪計画は見事に達成された。だが、それでも計画の半分を達したに過ぎない。あとは罪を完全にカウラ伯爵に押し付け、さらにカウラ伯爵領への切り取りに入らねばならない。

 これからますます面白くなる。ヒーサは最高潮の気分のまま、眠りの世界へと落ちていった。



           ~ 第十七話に続く ~

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感想等も大歓迎でございます。


ヾ(*´∀`*)ノ

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[一言] ヒーサ、なんて恐ろしい男なんだ……! 面白いように彼の手の内で物事が進んで、ある意味爽快ですね\(^o^)/ やつの暴挙はどこまで進むのか、また読み進めていきますね♪
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