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5.妹の様子が何かおかしい様だ1

 この世界に転生して、俺は8歳の誕生日を迎え、これでもかとフリルのあしらわれたピンクのドレスを着せられていた。

 結局()()()以来、俺は女の身体にチ〇コの生えた状態で3年を過ごしてきた。

 確かに神の奴の言う通り、周囲の人々、それにこの世界での俺の両親からも『俺は初めから両性だった』と認識されてはいる様だが、何故か女物の服ばかりを着せられているし、社会的には“女”として扱われている事には変わりない。ちくしょうめ!

 もちろん神の奴に男に戻せと抗議したさ。でも、あいつはこんな事を言いやがった。


『何を言ってるのさ? ボクはキミの願いの通りにしただけだよ? 感謝こそされても、文句を言われるような筋合いなんてないんじゃないかな? それに、ボクはちゃんと2度も確認をしてあげた筈だけど、キミは『男の子にしろ』とは1度も言わなかったじゃないか』


 あんにゃろう、屁理屈言いやがって……。

 確かに妙に確認してきたなとは思ってたけどよ……。

 でも普通分かるだろ!?


『普通じゃないお願いをしてきたのはキミの方じゃないか。まぁ、別にもう一度君の願いを叶えてあげてもいいけどさ? でももう2度目だし、今度はアビリティ2つと引き換えだよ?』


 もともと3つしか無かった転生特典の特殊能力(アビリティ)を更に2つも失っては転生特典がゼロになっちまうだろうが!


『だったらその身体でしっかりとこの世界を生き抜く事だね。15歳になったら君も魔王を倒す為に旅立つことになってるんだ。魔王はキミが男の子か女の子か、なんて事は考えてくれないよ? それにまぁ、『半分は男の子』なんだし、その身体はその気になれば女の子と子供を作る事だって出来るようになってるんだ。女の子として生きるのか、男の子として生きるのかは君の心持ち次第じゃないのかな?』


 『男として生きるのは俺の心持ち次第』。そんなパワーワードに俺は何となく納得しちまった。

 だが、あれから3年を生きた今なら分かる。そんな言葉は所詮言葉遊びでしかなかったと。

 そう、俺がどんだけ『俺は男だ』と主張したところで、周囲がそう思ってくれるかは別問題なのだ。



「おめでとぉ~、タイラー。そのドレス、とぉっても似合ってるわぁ。うふふ、やっぱり私の予想通りねぇ」


 俺に目線を合わせ、間延びした話し方でそんな事を言ってくれるのは、前世の俺なら目線を合わせる事も出来なかったであろう程の美少女だった。

 いや、正確には『少女』ではない。彼女の実年齢は23歳。

 そして、何を隠そうこの少女こそが――


「母さん。俺、こういうヒラヒラしたのは……」


 ――この世界での俺の母ちゃんなのだ。


「うふふぅ~。恥ずかしがらなくても、ちゃ~んと可愛いわよ」


 そう言って母さんは15歳と言っても通じそうな、あどけなさの残る美貌を優しそうに緩ませると、俺の頭を撫でてきた。


「も、もう8歳だぞ。そういうのは……」


 いや、8歳どころか中身は30年以上の人生経験のある大人だ。

 さすがにこれは恥ずかしすぎる。と抵抗したのが間違いだった。


「んもぉ~! なんて可愛いのかしらぁ~!」

「え、ちょ、母さ、んぷゅ!?」


 次の瞬間、俺の視界の下の方で先ほどからずっとプルプルと強大な自己主張をし続けていた母さん最大の武器が俺の顔面を捉え、そして俺の視界が塞がれた。

 あふぁ……やわらけぇ……ありがてぇ……。しかもなんかいい匂いがする……。


「うふふふぅ~。いくつになってもタイラーは私の娘よぉ~。もっと素直に甘えていいんだからねぇ~」

「はぃぃ……」


 クソ! なんて攻撃力だ! 勇者である俺が手足も出ずに無力化されてしまうとは!

 ……はい。すみません。

 母さんの身長はたぶん150センチも無いだろう、日本に比べて男女ともに平均身長の高そうなこの国では母さんより背の低い成人女性は見た事が無いというレベルだが、そのお胸の大きさは俺の知るどんな女性よりもデカい。すごくデカい。

 いや、まぁ体が小さい分大きく見えるってのもあるとは思うが、如何せん、デカい。

 しかし、実際このトランジスタグラマーな絶世の美少女風なのが俺の母ちゃんな訳で……。

 うん。そうだよな。こんだけ美人に甘やかしてもらえるなら、女に転生しちまったぐらいどうでもよくなっちまうよな。


 ならねぇけどな!!!


 そんなこんなで俺が母さんとやり取りをしていた、そんな時だった。

 家族や使用人たちが俺の誕生日を祝っている中で、独りだけ窓辺にポツンと佇んでいる少女を見かけた。

 父さんとよく似た色の赤い前髪で目元を隠し、何もかもがつまらないといった顔でぼんやりと俺たちを見ているその少女こそ、この世界どころか前世も含めて生まれて初めての俺の妹、ミューリアだった。

 フルネームはミューリアだが、まだ前世の記憶に目覚める以前の(タイラー)は彼女を『ミウ』と呼んでよく一緒に遊んでいたし、仲のいい姉妹だった様だ。

 だが、ミウが5歳になった頃からだろうか、ミウはいつもどこかつまらなそうにしていて、話しかけてもあまり多くを返してくれる事は無くなった。

 その辺りから俺も勇者としての武術の稽古や、旅をする為に必要な技能を身に着ける為の習い事なんかが始まっちまったから、めっきり話す機会も減ってしまっていた。

 兄妹なのにこんな状態で居るのは良くないよな。

 そう思った俺はミウに声を掛けようともう一度視線を向けたが。


「あれ?」


 気がつけばミウは居なくなっていた。

 どこに行ったんだ?

 もしかしてもう自分の部屋に戻ったのだろうか?

 いつもだったらそのまま何となく流していたのかもしれない。

 しかしその日は何故だかミウの事が気になってしまった俺は、みんなが居るラウンジを出て、独りでミウの部屋に向かう事にした。

 ミウの部屋は何故かこの屋敷の地階、それも厨房や洗濯室からも離れた場所にある。

 これだけ大きなお屋敷に住んでいる貴族令嬢が、そんなところに部屋を持っているのは如何にも訳ありな感じもするが、俺の専属メイドのリゼが言うには6歳の頃にミウ自身が父さんに頼んでその部屋に移ったらしい。

 そんな不思議な所もある所為か、ミウはこの屋敷のメイド達からも少し距離を取られている様だ。

 いわゆるコミュ障って奴なのだろうか?

 でも、幼かった頃の明るいミウを知っている俺としては何となくそれは寂しい様な気がしていた。

 母さんの方針で今日は使用人達もラウンジで一緒に食事を摂っているせいか地階は暗く寂しい風が吹いていた。

 ミウの部屋にたどり着いた俺は変な緊張感の中、そのドアを叩いた。


「……」


 しかし返事はない。


「ミウ、居るのか?」


 俺が無言の扉に向かってそう訊ねると、部屋の中からガラスがカチンと当たったような音がして、中に人が居る気配を感じた。


「入るぞ?」


 女の子の部屋に許可なく入るのは悪い事だとは思うが、まぁ血の繋がった兄妹、いや、今ばかりは姉妹なので許してもらう事にしよう。


「……お姉様?」


 薄暗い部屋の中、その少女は確かにそこに居た。

 しかし、俺はその光景、いや、その部屋に驚き、ミウの疑問に言葉を返す事が出来なかった。

 そこに広がっていたのは、壁中に置かれた棚と、そこに無数に並んだ褐色の瓶、そして中央に置かれた机の上に並べられた様々な形のガラスの器と、その机で今まさに試験管の様な物を持って作業をしていたミウの姿だった。


「こりゃぁ……何かの実験室か?」

「…何か用……ですか?」

「いや、何してるのかなって思って」


 分厚いATフィールドの向こう側からギリギリ声を絞り出したような言葉に俺は反射的な言葉を返した。

 こちらの話を聞いているのかいないのか、ミウは「そうですか」とだけ言うと再び試験管に視線を戻し、ガラス製のスポイトの様な物で試験管の中の液体を吸って、机に置かれた三角のガラス容器にそれをポタポタと落した。

 俺は何を言う事も出来ずにただその光景を見ていたが、ミウはその三角のガラス容器を手に持って、何度かクルクルと回し中の液体を混ぜていた。


「何してるんだ?」

「前工程で抽出した前駆体を滴下して反応させている所です」


 答えてくれるとは思っていなかったが、ついつい口を突いて出た俺の疑問に、ミウは静かに答えながらも作業を続けた。

 ちゅうしゅつ? ぜんくたい? てきか? 宇宙語かな?

 何をやっているのか全く分からん。しかし、ミウの手慣れた作業はとても7歳の少女とは思えない。

 そんな事を俺が考えている間にもミウの作業は進み、今度は何やら真ん丸なガラス容器にその液体を移し替えると、内部がゴチャゴチャしたガラスの管の様な器具にその丸い容器を取り付け、丸い容器をアルコールランプの様な物であぶり始めていた。


「そのごちゃごちゃしたのは何だ?」

「薄層クロマトの結果が良好なので、蒸留カラムで成分を精留します」

「ほへぇ……。よく分からんけど、すごいな」


 くろまと? せいりゅう?

 うん。すごいな。


「……お姉様。気味が悪いとは思われないのですか?」

「ん? 何がだ?」


 作業が一段落付いたのか、ミウは俺の方に顔を向けるとそんな事を訊ねてきた。


「……そういえば、お姉様は『勇者様』なのでしたね」

「おう、そうだぞ。かっこいいだろ?」

「勇者様はこの世界とは違う世界の『前世の記憶』を持っているそうですね。だから驚かれないのですか?」


 俺がキメ顔をして見せたにもかかわらず、ミウは相変わらずこちらを見ているのにこちらを見ていない様な瞳で淡々と質問を続けた。

 ……さすがにちょっと傷付いたぞ。

 ん? っていうか、


「お前、どこでそれを!?」


妹は天才の様だ。

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