4.タイラーさんがログインしました
「お嬢様? いったい何を言っておられるのですか?」
いやリゼ、お前こそ何をそんなに冷静な顔してんだよ!?
無いんだぞ!? 俺のチ〇コが無くなってるんだぞ!?
「お嬢様は『女性』なのですから、無いのは当たり前ではありませんか」
ハァ!? 俺がレディ!?
何の準備が万端だって!?
全然準備出来てねぇぞ!? 聞いてねえぞ、これ!?
いや、待て。よく考えれば、リゼは『お嬢様』って俺を呼んでるし、俺自身の記憶でも『お父様とお母様の“娘”に生まれ――』ってなって……。
……… …… …ぇ?
え? 何? つまりどういう事?
……何? 俺は異世界で『女』に生まれ変わったって事?
「……ファッ!?」
俺はようやく事態を飲み込み鏡の中にある、受け入れたくない姿に目を向けた。
鏡の中ではピンク色の髪をした整った顔の幼女が『ホームア〇ーン』のパッケージの様な表情を浮かべている。
よく見ればその瞳が左右で緑色と紫色のオッドアイになっている様だ。
だが、問題はそんなところにはない。
『俺』の身体の中心、そう、本来ならご子息のお住まいがある筈の場所に何故かご子息の存在が跡形も無く、代わりに一本の溝が掘られているのだ。
これは問題だ、いや大問題だ!
誰か重機持ってきて! この溝埋めて小屋建てるから! ゾウさんの住める小屋を建てるから!
「うふふ。お嬢様は男の子みたいにお転婆ですからね。でも、ご安心ください。きっとお嬢様もお母様の様にお美しいレディに……、いいえ、きっと帝国中の殿方が全資産を投げ売ってでも求婚したいと思う程のレディになられます」
……それなんて地獄っ!?
俺、男に掘られるの!?
何で!? どうしてこうなった!?
ウソだろ!?
だって異世界転生したらチートで、俺TUEEE!!で、ハーレムでウッハウハだった筈じゃ!?
「ハッ!?」
そこで俺は更なる不幸に気づいてしまった。
俺のアビリティは『女の子にモテる能力』。つまり……。
前門のレズ、後門のホモ!?
【ウェルカム トゥ ザ アブノーマルワールド!!】☆彡
「…………ファッ!?」
いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!?
ううう、うそだろぉぉ!!?
どうして!? どうしてこうなった!?
俺はどこで間違えたんだ!?
いや、待て! 何かある筈だ! このどうしようもない状況を変えられる手段が!
そ、そうだ! こんな時こそ『ヘルプ』を開いて!
『このヘルプでページ「前門のレズ、後門のホモ」を新規作成しましょう』
ウィキペディ〇かよ!!?
え!? 何!? それはつまり項目がないって言う事!?
俺に救いは無いのか!? 俺への愛は無いのか!?
俺はこの時、あまりにも取り乱していたのだ。
どれぐらいって? そう、まさに藁にも縋るほどの思いだ。
そうでなければ俺はあんな事をしなかった筈だ。
そう、あの『神』に救いを求めるなんて……。
『ん、あれ? タイラー君、どうしたんだい? 転生してまだ6年も経っていないよ?』
のわっ!? なんだ!? 頭の中に直接声が!? 噂の骨伝導マイクか!?
って言うか、この声……。
「かみっ!?」
何でいきなりお前が出てくるんだよ?
『ああ、これは“緊急回線”だね。勇者が心から祈れば、こうしてボクに声が届くんだよ』
お問い合わせダイヤルかよ!?
『慣れない世界に転生した勇者諸君に対するボクのありがたい慈悲さ。一種のご神託って奴だよ。それよりどうしたのかな? 『この世界に何があっても、お前にだけは救われねぇよ』。なぁんて威勢のいい事を言っていたキミが、こんなにも早くボクに縋るなんてさ? もしかしてボクの事が恋しくなっちゃったかい? ケケケ』
ぐぬぬぬぬぬ…… ち、ちぎゃ、……ゴホン。違う!
おい、神! これは一体どういうことだよ!?
『「これ」って何さ?』
俺のチ〇コが行方不明事件だ!
『いやいや。そりゃそうでしょ? だって今のキミは女の子なんだよ? ある方がおかしいよね?』
だから何で女に生まれ変わってるんだって話だよ!
『キミもおかしな事を訊くねぇ。『転生』、つまりは『生まれ変わり』なんだよ? 卵子からやり直すんだから、どちらの性別に生まれてくるか、なんてのはそれこそ五分五分さ』
聞いてねぇよそんな事!
『そりゃあ訊かれてないからねぇ。だって、『転生』ってそういうものでしょ?』
俺の読んだラノベでは普通に男になってた!
『ターニャ・フォン・デグ〇チャフ大佐は? それともスライムとか蜘蛛子ちゃんとかの方が良かった?』
ぐぬぬぬ……。
だぁっ!! いいから返せ! 俺のチ〇コを返せ!!
『え~。どんなモンスタークレーマーなのさ?』
モンスターじゃねぇし! 勇者だし!
いいから返せよぉ! かーえーせーーー!
『もうクレーマーって言うより駄々っ子だね……。はぁ、分かったよ。今回だけだよ?』
何っ!? 出来るのか!?
『ボクを誰だと思ってるのさ?』
悪徳マスコット的な奴?
『……。じゃあボクは次の魔法少女と契約をしにいってくるね』
だぁ!!? ちょ、ちょっと待ってください!
俺が悪うございました!
神様、仏様、QB様!
どうかこの愚かな私めにお慈悲を!
『ふむふむ……。そういえば、キミの故郷には伝統的な謝罪の作法があったよね?』
ぐぬ……。にゃろう……。土下座か? この俺に土下座しろってのか!?
俺はこう見えてもプライドの高い男だ。誇り高い漢だ!
いくらチ〇コを取り戻す為とは言え、そんな――
「すっませーーんしたぁぁぁ!!!」
――やっぱりチ〇ポには勝てなかったよ。
『あひゃひゃひゃひゃ。大変に気分がいいね』
「ふぎっ!?」
え? 気のせいか? 土下座をしている俺の頭を見えない何かが踏んづけた様な気がしたが!?
『おいおい、ボクは高貴な女神様だよ? そんな事する筈がないじゃないか。それよりもタイラー君。いくら5歳とは言え、淑女が裸でそんな格好をするものじゃあないよ?』
誰がさせたんだ!?
『さぁね。ボクにはキミが自発的にした様に見えたけど?』
ぐぬぬぬぬ……。
くっそぅ。口ばっかり達者な奴め。
『あひゃひゃひゃ。キミは本当に愉快なおもちゃだね。ところで、お願いとやらはもういいのかい?』
あ! そうだよ! お前の所為で本来の目的を忘れる所だっただろ!
『ボクの所為かな?』
いいから俺のチ〇コを返せ!
『それは良いけど、タイラー君。流石にタダという訳にはいかないよ?』
金なら無い!
『なんで偉そうなのさ? いや、お金もいらないよ。そうじゃなくて、普通なら生まれた後に姿形を変えるなんて事は出来る筈も無いんだよ?』
そりゃあまぁ…そうだが。
『そんな“奇跡”をボクに願う以上、それに見合った対価が必要さ』
う……。その『対価』ってのはなんだ?
『そうだねぇ……。キミに与えた3つの才気の内の1つを返してもらおうかな』
うぎっ!?
うぐぐぐぐぐ……。
『まぁ、別に無理にとは言わないよ』
あ、待っ! ……待ってくれ。……よしっ!
俺のターン! ドロー!
『覚醒』のアビリティを生贄に捧げ、『チ〇コ』を蘇生させる!
『なるほどね。ハイリスクハイリターンな『覚醒』を切るという訳だね?』
ああ、それで頼む。
『ふむ。ところでタイラー君。一応確認だけど、キミの願いは何だい?』
もちろんチ〇コだ! チ〇コを返せ!
『分かったよ。後から「やっぱり」は無しだけど、それで本当に間違いないかい?』
なんだ? ずいぶん念入りに確認してくるな? 今更俺の願いが変わる訳ないだろ?
もちろんそれでいいに決まってる!
『はいはい。じゃあ、キミの能力と引き換えに、キミの願いを今一度だけ叶えてあげよう。……ベントラーベントラー、エロイムエッサイム、モウドォニデモナ~レ☆』
神が呪文なのか悪魔召喚なのか分からない何かを唱えると、その瞬間、俺の身体が謎の光に包まれた。
そして、俺の股間に何かもぞもぞとした違和感が……。
「お。お…ぉ!?」
光が薄れていくにつれ、鏡の中の『俺』の姿が見えてくる。
もっとも、男になった所で5歳じゃ先ほどと何も変わっていない様だが?
「にゅおっ!?」
しかし、確かに変わっていた。
光が完全に消え、何事も無かったかのような静寂を取り戻した鏡の中の俺には、先ほどまでは無かったご子息が、チ〇コがちゃんとぶら下がっていたのだ。
5歳なので前世に比べるとずいぶんと控えめな姿にはなってしまった様だが、しっかりと俺の身体に繋がり感覚もある、“俺の息子”だった。
『ふぅ。これで問題は解決かな?』
おお! なんだよ、お前もやれば出来るじゃねぇか!
見直したぜ! よっ! あんたが神だ!
『それは褒めてるの? ……まぁいいけどさ。ところで、キミも変わった奴だよね』
ん? 何がだ?
『女の子なのにチ〇コが欲しいだなんてさ?』
は? そりゃそうだろ。男なら誰だって……。
…………。
……ぇ?
ま、待てよ。お前何を言って……。
『まぁ、いきなり君の性別が女性から“両性”に変わっちゃったら、キミの両親たちは大騒ぎになっちゃうだろうから、今回は特別に『最初からそうだった』という事に世界を書き換えておいてあげたから安心してね。じゃあね~』
フェッ!?
神の奴は最後の最後に熱核兵器級の爆弾発言を残して消えていった。
俺は神の言葉に冷や汗を流しながら、自分の股間にぶら下がるものの姿をもう一度確認した。
え? うそ……だろ?
確かに息子は帰ってきていた。
しかし、よく見ると本来息子が背負っている筈の玉と袋が無く、そして、息子の背後には先程と変わらない割れ目がしっかりと残っていたのだ。
そう、帰って来たのはチ〇コだけだったのだ。
【タイラーさんがアブノーマルワールドにログインしました!!】☆彡
生えました。