27.『にゃん』て可愛らしいのかしらっ!
「あらあらあら! これはなんて事なのかしら!」
屋敷に戻った俺達を見た母さんが驚きの声を上げる。
娘がスライム的なサムシング、息子がケモモドキになって帰ってくれば、流石の母さんも驚きはするらしい。
「3日も会わないと子供って変わるものなのねぇ」
ん?
「これも成長期かしらぁ?」
成長期だからって息子が獣人、娘がスライムになってたら幾らなんでも事件だろ!
「そんにゃわけねぇニャ!」
俺は母さんの大ボケにたまらずツッコミを入れた。
しかし、その瞬間母さんがバッとこちらに顔を向けると、まるで面白い動物を見つけた少女の様に青い瞳をキラキラとさせた。
な、なん――。
「まあっ! 『にゃん』て可愛らしいのかしらっ!」
速!?
気が付いた瞬間には俺の顔面は母さんのたわわに包まれ、頭をスリスリと頬擦りされていた。
「うぷっ!?」
「あら! お耳までピクピクしてるわっ!」
え?
「はむっ」
「んにゃはぁ!」
俺が母さんの言葉に嫌な予感がした次の瞬間、体の力が抜けるような謎の刺激が脳を襲い、思わず変な声が出ちまった。
「……これでよしっ! ね」
しばらくすると母さんがなにやら楽しげに体を離した、が。
「んニャ!?」
気づいた時には俺の首に何故か革製の赤い首輪が付けられていた。
何でこんなもん持ってんだよ!? しかもよく見るとボルデンハイン家の家紋付きの迷子札まで付いているし!
「これで迷子になってもちゃぁんとうちの子だって分かるわねぇ!」
「んニャ!? 俺をネコ扱いすんじゃねぇニャ!」
15歳の息子に迷子札とか何を考えてんだよ!
「完璧です! お兄様!」
「可憐です! お嬢様!」
「何がだよ!?」
そして俺が母さんのイタズラに困惑していると、何故か完璧にシンクロしたタイミングでミウとリゼがそんな事を言ってきた。
俺が母さんたちに揶揄われ、ツッコミ疲れも出てきたところで、ふと横に目をやれば父さんの姿もあった、が、何故かこちらに背を向けて肩を震わせていた。
にゃろう、俺が遊ばれてるのを見て笑ってやがったな!?
俺がジトりと視線を向けていると、父さんもそれに気づいたのか、「コホン」と咳ばらいをした、が、再び俺と目が合った瞬間、またも口元を抑えて背中を向け、肩を震わせやがった。
「何か言いたいにゃら口で言えニャ!」
「……っ、……、すまん。その、似合い過ぎていて、な」
「それ褒めてるニャ? 貶してるニャ?」
「ブッ! ……コホン。とりあえずその姿の件も含めて後で話を聞こう。まずは疲れもあるだろう。部屋に戻って休め」
なんとか、という様子でいつもの仏頂面を取り繕った父さんはそれだけ言うと、また口元を抑えながら屋敷の中へ入っていった。
にゃろうめ……、だがまぁ、実の親から『気味が悪い』と避けられるよりは、笑われた方がずっと良かったかもな。
まだ1週間も経っていないというのに、ずいぶんと久しぶりな心地で部屋に戻った俺は、そのままベッドに顔面から突っ込んだ。
「はぁ……。ひどい目にあったにゃ」
あれが魔王か。
話には聞いていたし、甘く見ていたわけでもなかった。
しかし、現実はあまりにも違い過ぎた。速度もパワーも桁外れで、手も足も出なかった。
「ハハ。ゲームなら負けイベントと思って諦めてたとこだにゃ……」
一応今回はあの猫魔王のお情けで見逃して貰えたが、神の話じゃあ過去に魔王に挑んだ勇者の殆どは殺されているらしい。
もしかすると俺の『可愛い女の子にモテるアビリティ』が効いてたりしてな。
一応魔王も女だったし。
だが、冗談じゃ済まねぇ事に、もしも俺があの時魔王に気に入られてなければ、今頃俺とミウは殺されてたって事だよな……。
「……いや、弱気じゃいけねぇよにゃ」
そうだ、今はまだこんなでも、いずれはあいつにも勝たなきゃなんねぇ。
じゃなきゃ、良くてペット、悪くて殺される。そんな運命しかなくなっちまう。
「そう言えば戦闘中にアビリティのレベルとかも上がってたし、戦闘後には一応レベルも上がってたみたいだし、確認しとくにゃ」
不意にそんな事を思い出した俺は『メニュー画面』を立ち上げてステータスを確認してみる。
=ステータス=
名前: タイラー・ボルデンハイン
種族: 人族
人種: ヌコ■種
年齢: 15歳
職業: 勇者
技能: 共通語Lv.5、猫語Lv.1、礼儀作法Lv.3、剣術Lv.4、槍術Lv.2、拳術Lv.8、火属性魔法Lv.1、雷属性魔法Lv.3、空属性魔法Lv.3、野営Lv.4、探索Lv.9、馬術Lv.3、鍛錬Lv.9、火事場の馬鹿力Lv.6
耐性: 物理耐性Lv.7、魔法耐性Lv.4、精神耐性Lv.6
才気: 愚者Lv.2、英雄色に好まれるLv.5、勇者の証Lv.3、人間の加護Lv.1、小人の加護Lv.3、夢魔の加護Lv.2、ヌコ■の加護Lv.3、魔王の呪いLv.5
称号: 勇者、転生者、上級剣士、拳闘士、上級モンスター、初級冒険者、野生の勘、筋トレ大好き、名誉ド〇フ、絶望からの生還者、欲張りボディ
状態: 疲労
Level :32→51
生命力 :5421/4964→11834
魔素量 :3842/6734→67816
力 :287→421 魔力 :123→111
攻撃力 :122→295 魔攻力 :81→63
防御力 :196→254 魔防力 :98→72
器用さ :27→16 精神力 :196→314
体力 :262→324 知性 :46→39
敏捷 :228→499 魅力 :266→248
幸運 :287→254
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なんじゃこりゃ!?
形だけとはいえ魔王に勝ったからか? それとも魔獣化の影響か?
レベルが爆上げしてる上に、スピードと攻撃面のパラメータがダブルスコアのレベルで伸びてるじゃねぇか。
まぁ身長も伸びたし、悪いことばっかって訳じゃねぇみたいだな。
……なんか下がっちゃいけねぇ筈のパラメータが下がってる気もするが、うん。きっと気のせいだろう。
いや、それより……『人種:ヌコ』って何だ? しかも文字化け(?)みたいになってるし!
ネコですらねぇじゃねぇか!?
まぁ中途半端な所で魔獣化がストップしたのが原因なのは間違いなさそうだけど、『ヌコ』って……。
これじゃあ結局何の魔獣か分からねぇな。
まぁいい。次だ。
確かアビリティのレベルも上がってたはずだよな?
俺はステータス画面から『才気』の項目をピックアップしてみた。
==才気==
愚者Lv.2:[固有][超位]運命を変える可能性と機会を得る。
英雄色に好まれるLv.5:[固有][超越]可愛い女の子にモテる。効果対象者は英雄の加護によりアビリティ保持者への好感度に応じて能力値と成長率が増加し、他者からの精神攻撃の効果を無効化する。
勇者の証Lv.3:[特殊]全能力の成長率に特大補正を得る。
人間の加護Lv.1:[人種]DEX、INTに中補正を得る。
小人の加護Lv.3:[人種]LUKに特大補正を得る。MAGに小補正を得る。
夢魔の加護Lv.2:[人種]CHAに特大補正を得る。MAGに極小補正を得る。
ヌコ■の加護Lv.3:[人種]STR、VIT、AGIに絶大補正を得るが、MAG、DEX、INTに特大のマイナス補正を得る。
魔王の呪いL.v5:[特殊]潜在能力が覚醒するが、人種が魔獣へと変化する。
ん? んん!?
え!? ナニコレ!?
なんか魔王の呪いとかついてんだけど?
しかも元からあったアビリティもなんか変わってる?
もしかしてアビリティってレベルが上がると効果が変わるのか!?
しかもモテるパワーがアップするのかと思ったら、効果対象者の強化と精神攻撃無効だと!?
と、そこで俺は魔王との戦闘中のミウの言葉を思い出した――。
『どうやらお兄様に呼ばれて目を覚ましたあの時から、ミウには魔王様の支配は効かないみたいです』
――あれはつまり、俺のアビリティのレベルが上がって精神攻撃無効の効果がミウに掛かったから、魔王の支配のアビリティ・『獣の王』を無効化したって事か?
っていうか、ミウの奴、ずいぶんと俺に懐いてくれてると思っていたが、この能力って実の妹にも効いてたのか……。
いや、今はその点については考えない様にしよう。
それよりもこの効果の方が問題だ。
アビリティの効果が変化するなんて思ってもなかったから、ずっと確認してなかったが、いつからこんな効果が追加されてたんだ?
いつの間にか男の夢を叶えるスキルから、自分を好きになってくれた娘を強化するスキルになってるじゃねぇか。
いったい誰得だよ!?
……って、少なくとも俺はこの能力のおかげで助かった訳だし、俺は得したのか。複雑だな。
まぁいいや。
で? もう片方の『愚者』は……、まぁ相変わらずよく分からん効果だな。
でも神の話じゃ『良くも悪くも確率的に起きにくい事象を起こりやすくする能力』だったよな?
だったらこれは単純に確率の上昇量がアップしたとかって事か?
でも『可能性と機会』ってなんだ?
ん~。分からん。
とりあえず今度からはアビリティとかスキルの効果の内容もこまめに確認してみるか。
そんな事を考えていると、俺は旅の疲れと実家に帰れた安心感から来る眠気に負け、そのまま夢に落ちて行った。




