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23.なんでそんな1秒でバレる嘘を吐くんだ?

 嵐の様な、いや、突然やってきた世界の終りの様な存在が過ぎ去り、俺は限界を超えて踏ん張っていた足を休ませて地面にケツを下ろした。


「ふひぃ~……。ひどい目にあったニャ」


 魔王が最後に残していった『呪い』の所為で俺の語尾は未だに『にゃ』のままだが、今はそんな事よりもとりあえず疲れた。

 足を延ばして座っていると、嫌でも変わり果てた自分の体が目に入る。


「魔獣か……」


 足首の辺りから先が骨格から変化し、逆間接の獣の物に変わり果てている。

 なんかやたらと指が長くて鳥みたいだな。


「にゃんてこった……」

「ふむふむ。一見すると哺乳類の体毛の様に見えますが、よく見ると細長く変化した羽毛の様ですね……。足の指も一見すると体毛に覆われた哺乳類の様ですが、指が長く、骨格は鳥竜種のゆびあし……。お兄様? 親指はどこまで広がりますか?」


 ん? え? 何? 羽毛? 鳥竜種?

 俺がぼんやりと自分の足を眺めていると、ミウが興味津々と書いてある顔で近寄ってきて、そんな事を訊ねてきた。


「え? にゃんだ急に? 親指? ……えっと、こうかにゃ?」


 しっかりと神経の通ってしまっている俺の足は、感覚に多少の差異はあるが、動かす事に問題はない様だ。

 まるで手の指のように長くなった親指を、俺は人間だったら無理な方向へ動かしてみる。


「おぉ!?」


 そしてその結果は俺自身も驚く事に、なんと前を向いていた筈の親指がそのまま真後ろを向くまで広がってしまったのだ。

 中指や人差し指も試してみるが、そこまで開くのはどうやら親指だけの様だ。

 足の親指がまるで手の親指のように動かせるみたいだな。


「ほほぉ、これはこれは。五趾足で在りながら、第一趾がフクロウの第四趾の様な可動域を持つわけですね。……お兄様。これを足で掴んでみていただけますか?」

「うニャっ!?」


 ミウがそんな事を言いながら、不意に手の平からニュルっと自分の体と同じ色、同じ質感の球体を絞り出して渡してきた。


「おま、それ大丈夫にゃのか?」

「はい。ミウの身体は切り離しても、くっつければ問題なく動かせます。それよりも」

「ま、まあ大丈夫にゃらいいんだが……」


 ミウの押しの強さに圧倒されながらも、俺はミウの手から出てきたボール、ミウボールを足で掴んでみる。

 おお、わりかし簡単に掴めるな。

 しかも、


「ほいにゃ」


 膝から下が逆間接になっているので、ちょうど手で物を投げる様に足でミウボールをミウに投げ返す事が出来てしまった。

 この足、意外と器用に動かせるようだ。


「素晴らしいですお兄様! では次はお手々を拝借しますね」

「え!? ちょ、ミウ!?」


 ミウボールを手で受ける事無く胸部にポヨンと吸収したミウは、にこやかに笑うと、俺の右腕を持ち上げて来た。

 一度は戦闘で千切れ飛んだはずの右腕だったが、幸か不幸か魔王の能力、「全ての魔物の母(エキドナ)」によって新しく生えてきた。

 今では元通りに神経も繋がり、動かす事に支障も無ければ、触感などに異常もない。


「あふぅ……この肉球、素晴らしいお手前です」

「こらミウ。人の手をあんまりフニフニするにゃよにゃ」


 まさかこんな形で猫の気持ちを知る事になるとは……。

 もっとも、肉球は思ったより感覚が鈍いのか、ちょうど厚手の手袋を2枚ほど着けた上から触られている様な感触がする。


「ふむふむ。爪は猫とは違って、常に露出する程に大きく、湾曲具合も比較的浅めですね。ちょっと指を曲げてみて貰えますか?」

「こ、こうにゃ?」


 言われた通りに指を曲げてみると、人間の頃よりも指の関節が短いのか、思ったよりもコンパクトに曲がり、鉤爪が長い分帳尻が合うような感じだ。

 しかし、さっき聖剣を掴んだ時もそうだったが、人間の頃と比べ、指先が全部爪なので、けっこう滑り、以前の様に繊細に動かすにはもう少し慣れる必要がありそうだ。


「お兄様。とても可愛らしいお手々ですね!」


 散々調べた感想がそれかよ!?


「ではお兄様。次は身体を調べたいので、服を脱いでください」

「え? 嫌に決まってるにゃ」


 手足を調べた流れに乗って、とんでもない事を言ってきた妹に、俺は騙される事無く拒否を伝えた。


「これは魔獣化した身体を調べる為、いわば医療行為です。恥ずかしがる必要はありません。それに見ての通り、ミウも裸です!」


 そう言えば、スライムっぽくなっているのであまり気にしていなかったが、魔獣化して以降、ミウは服を着てないな。


「いや、お前がまず服を着るにゃ。そして俺は脱がないにゃ」

「しかしお兄様? お兄様のお洋服は先ほどの戦闘でボロボロですので、どの道着替える必要があります」


 ふむ。確かにミウの言う通り、魔王に吹っ飛ばされ、地面を転がり、挙句の果てには雷にまで貫かれて腕まで捥げていた。

 身体の方はミウの回復魔法と魔獣化した際にほとんどが治っているが、服の方はボロボロで、下半身なんか丸々魔獣化しちまったせいで破れて無くなり、ほとんど裸だ。

 毛皮が無ければ俺の息子と娘がこんにちわしてしまっていた事だろう。ミウの話す理由も一応筋は通っているのかもしれない。


「だが断るニャ!」

「どうしてですか!?」

「今脱いでも着替えがある訳じゃにゃいニャ」

「ぐぬぬぬ……」


 この妹、いったいどんだけ兄を脱がせたいんだ!?

 俺が妹の奇行に呆れていたその時だった。


「居たぞ! こっちだ!」


 遠くの方から何やら人の声が聞こえて来た。

 続いて数台の馬車と大勢の足音が近づいてくる。


「お、どうやらやっと助けが来たみたいニャ!」


 俺はホッと胸を撫で下ろした、その時だった。


「まだ魔族が2人残っているぞ! 捕まえろ!」


 ……え?

 大勢の鎧を着た人々に取り囲まれた俺とミウは、あっという間に手枷と足枷を着けられ、そのまま馬車に乗せられて連行されてしまった。




「だから俺は勇者のタイラーだって言ってるニャ!」

「なんでそんな1秒でバレる嘘を吐くんだ? 今代の勇者様は純粋な人間(ヒューム)種で『ニャー』なんて言わない」

「ほ~れ、猫ちゃん。ほいっ!ほいっ!」


 連行された俺達は留置所の様な場所に連れて行かれ、兵士らしき2人組に牢屋に連れて行かれた。

 1人はどう見ても俺の話を信じなさそうな男の兵士、腐った魚の様な目をしている。

 もう1人はさっきから何故か猫じゃらしを俺の顔面近くで振っている中年女性だ。ウザい。


「ダメね、全然釣れる気がしないわ」

「だから俺は猫じゃねぇニャ!」

「なんでそんな1秒でバレる嘘を吐くんだ? 猫じゃないならその『ニャー』はなんだ?」


 クソ! こいつらじゃ話にならん!

 っていうか、鏡がないから分からんけど、俺の顔今どうなってるんだ!?

 肉球を通して伝わる感触じゃいまいち分からんが、魔王みたいに猫の髭とかは生えていないと思うんだが?

 ただ……触れないようにはしていたが、隣の部屋の人の話し声とかまで分かる程耳が良くなっているし、何より自分の意志で動かせている。

 形までは分からんが、何かしら変わってしまっているのは間違いない……。


「まぁいい。明日になれば教会から巫女様が来る事になっている。そこでお前たちの嘘は1秒でバレるだろうぜ」

「猫ちゃ~ん。干し肉があるんだけど?」

「だから猫じゃねぇニャ!」

「先輩、行くっすよ」


 なんか最後までネコ扱いしてくる女性兵士を、死んだ魚の目をした男性兵士が連れて行って、牢屋は静かになった。


「クソっ! あいつら全然話を聞かねぇニャ!」

「『魔王様の能力で魔獣化した』、なんてなかなか信じられない話ですし仕方ありませんよ」


 ミウはそんな事を言いながら、さも当たり前の様に自分の腕を変形させて手枷を外していた。


「お兄様。腕をこちらに」

「にゃ? こうニャ?」


 ミウに言われ、俺が腕をミウに向けると、ミウは俺の腕に付けられた手枷の鍵穴に、細く変形させた指を突っ込み、いとも容易く外してしまった。


「もうその身体を使いこにゃしてるんだニャ……」


 ミウに目を向ければ、未だにスライムの様な赤い液体がミウの形をしたような姿をしていて、透明なその身体に向こう側の景色が透けて見える様子は何とも言えないものがある。


「ミウ。ごめんニャ。俺が弱かったせいでお前までそんな姿に……」

「うふふ。構いませんよ。むしろお兄様と魔王様には感謝したいぐらいです」


 ん? 感謝?


「どういう事ニャ?」

「ミウの身体の特徴から察するに、ミウは恐らく『ショゴス』に生まれ変わったのだと思われます」


 ミウはそんな事を言いながら屈託のない笑顔を見せた。


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