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16.アーティファクト!? 何それカッコイイ!

 家を出て2日が経っていた。

 俺達を乗せた馬車はボルデンハイン家の領地を出ていよいよ国境を越え、マンガリッツァ共和国を南東に向けて街道を進んでいた。

 ここはまだ人族の領土で特に危険はないが、運が悪いと野生の狼や、それよりもずっと恐ろしい魔獣なんかが出るから注意が必要との事だ。

 ちなみに魔獣ってのは、前世のゲームで言うモンスターとかと同じ様な存在で、野生の動物とは違い、人間と同じ様に魔力を使う事が出来る獣の事だ。

 何でも進化の過程でこの世界の人間の生まれ持つ『魔覚』と同じ様な器官を獲得したらしく、魔力で身体能力を大幅に上げていたり、賢い奴になると魔法まで使う様な奴もいるらしい。

 そもそもの身体能力が人間と獣では大きく違う上に、魔力でそれを強化されれば、どれだけ武装しても流石に人間では勝ち目がない。

 それこそ訓練を積んだ対魔獣のエキスパートである『ハンター』や、未開の地を探索する為に戦闘訓練を積んだ『冒険者』、あとは一部の兵士の中にも対魔獣用の部隊がいたりはするそうだが、そんな一部の例外を除いて、人間は魔獣に遭遇したらとにかく逃げるのがセオリーだ。

 だが勇者である俺の場合はそうはいかない。


「お兄様、馬車の避難は完了しました」

「よし、んじゃあミウ、お前も安全な所に下がってろ」

「いいえ、ミウもご一緒に」


 献身的なミウは健気にもそんな事を言ってくれる。

 実際にミウは普通の女の子とは違い、俺と一緒に戦闘の訓練も受けているし、天性の資質なのか、回復魔法や補助魔法の類いでは国の魔法使いだって太鼓判を押す程の才能があるらしいが、今回ばかりは相手が悪い。

 俺は俺の背後に駆け寄ろうとするミウに掌を向けて抑止しながら、目の前の巨大な獣に向き直る。


「大丈夫だ。ここは俺に任せとけ!」


 ブルゥブルゥと鼻を鳴らしながら魔力で目を赤く光らせているのは体長3メートルはありそうな巨大な熊の様なガタイをした魔獣だった。

 サイレントグロウラー。旅に出る為に勉強した魔獣の資料にはそんな名前で出てきたその巨大なウサギは、図鑑と実物では完全に別物に映る。

 資料ではその両腕にある長大な爪に魔力を宿し、どんな硬い物でも巨椀の一振りで切り裂いてしまうとあったが、実物が目の前に立ちはだかると、それは巨大な剣を両腕に何本も持った怪物にしか見えない。

 確かにあの爪なら鉄の鎧すらも易々と引き割いてしまいそうだ。

 だが、そんな事で勇者が引き下がるわけにはいかねぇ、と俺が一歩前へ出る。

 すると魔獣もその巨体をこちらに向け、じっと赤い視線をこちらに刺してきた。


「うぉ……」


 その巨体、そして恐ろしい眼光に、俺の膝が一瞬震えそうになる。

 あんな巨椀で殴られでもしたら俺はきっと一撃で死んじまうだろう。

 さすがに怖い。


「でも」


 勝てる。

 俺の中で確かな自信がそこにあった。

 このために10年もかけて鍛えてきたんだ。

 命を懸けて戦うのは初めてだが、師匠のクソジジイに半殺しにされた事は1度や2度ではないし、前世でも若い頃は殴り合いの喧嘩だってしょっちゅうしていた。

 大丈夫。腕も足も震えちゃいない。聖剣は握れている。

 相手の腕は長いが、俺の剣も負けない程に長い。

 懐に入りさいすれば、この剣は必ずあの巨体を貫いてくれるはずだ。


「よし……いくぞ!」


 俺は渾身の力で地面を蹴ると、一気に魔獣との距離を詰めた。

 魔獣はその巨体で立ち上がると、長い爪の生えた巨椀を大きく振りかぶる。


「デカ……」


 立ち上がったその巨体に圧倒される。


「でも、遅ぇ!」


 振り下ろされる巨椀は確かにボクサーのストレートの様に速い。

 あれだけ大きな腕がそれだけの速さで襲ってくれば、なるほど、どんな頑丈な鎧も意味をなさないだろう。

 だが、速さ自体は師匠の剣に比べれば何倍も遅い。

 俺は聖剣にめいっぱいの魔力を込めると、その巨大な剣を奴の胴体にぶち込んだ。


「だりゃぁ!」


 そのまま獣の背後に小さな体を屈ませて切り抜けると、巨獣の上半身が振りかぶった腕の勢いのまま、地面に湿った音を立てて崩れ落ちた。


「うおっ……想像以上の切れ味だな……」


 刃が入る瞬間、確かに硬い物にぶつかる感触はあった。

 しかし、その後はまるで寒天か何かに包丁を入れる様な手ごたえの無さで、聖剣はその巨体を真っ二つに切り裂いた。


「やりましたね! お兄様」


 ミウの賞賛が聞こえ、俺はホッと息を吐いた。

 今更になって、何故か足が震え、俺はその場に尻もちをついた。


「ふひぃ……。流石にビビったぜ」


 まさか、出発して2日目にこれほどの大物を相手にする事になっちまうとは。

 人の通る街道にこれほどのレベルの魔獣が出る事なんて滅多にないらしいんだけどな?

 俺がそんな事を暢気に考えながら、やたら青い空を見上げていた、そんな時だった。


「っ! お兄様!」


 突然ミウの悲鳴にも似た声が聞こえ、俺はびっくりして視界を前に向けると、巨大な毛むくじゃらの腕が俺の顔面へと迫っていた。


「しまっ!」


 にゃろう、真っ二つになっても動きやがった!?

 回避、ダメだ、間に合わねぇ!

 とっさに魔力で障壁を展開するが、これだけの巨椀を防ぎきれるわけもねぇ。

 俺は必死の思いで衝撃に備えた。

 そんな時、青白い光の様な物が俺の頭上を通り過ぎて行った。

 それが高濃度の魔力の塊だと気付いた頃には、その魔力弾ははるか遠くに消えており、俺は何が起こったのかを理解する事も出来なかった。

 次の瞬間、俺の頭を巨大な腕が掠め、


「どわぁ!」


 俺の身体の上にごわごわした巨体がのしかかってきた。


「んごぉぉぉ!!?」


 上半身だけでも下手したら300キロ近くはありそうな獣の巨体に潰されても、骨折の1つも無かったのは俺が人間としては規格外の防御力を持っていたおかげだろう。


「うわぁ……」


 魔獣の巨体を押しのけて這い出た俺が見たものは、頭蓋が見事に吹き飛んだ巨大な魔獣の姿だった。


<EXPを獲得しました。レベルが上昇しました。各種パラメータが上昇しました>


 俺が魔獣の惨状に呆気に取られていると、俺の頭の中に無機質な音声が響き、視界の隅にメッセージが表示された。

 お? 流石は実戦だな。鍛錬だけじゃ頭打ち状態だったレベルが、この2日で2も上がったぞ。


「大丈夫ですかお兄様!?」


 駆け寄ってきたミウの声に、俺は「助けられちまったな」と返すとミウはにっこりと笑った。


「お役に立てて良かったです。こんな事もあろうかと、入手しておいて正解でしたね」


 そう言うミウの手には前世で言う拳銃の様な武器が握られていた。

 銃としてはおかしな十字型の銃身に、そして銃口も見当たらない様だが。


「それでやったのか?」

「はいっ! お兄様の為に奮発しちゃいました」

「なんだ? 普通の銃とは違うのか?」


 一応この世界にも鉄砲は存在する。もっとも、何故かマイナーな扱いを受けている様だが。


「これは『魔導砲』という武器の一種です。形や攻撃手段は似ていますが、『銃』とは別物ですよ」


 魔導砲? 聞いたこと無いな。


「炸裂魔法で鉛球をはじき出す『銃』は手軽さや、予備動作の小ささに於いては優れた武器ですが、威力は魔法に劣り命中精度も低いので、暗器や、奇襲戦術などに用いられる以外に使用される機会も少ないです」


 そう言われれば、この世界の攻撃魔法は中級レベルで俺の背丈ほどもある岩が粉々になったり、鉄板を貫くような光線を撃ってたりしたもんな……。

 そもそもそんな攻撃魔法を防ぐために発達したこの世界の防御魔法は、銃程度じゃ傷一つつかないだろう。

 もっとも、この世界の銃の命中精度が前世みたいに高ければ、撃つ瞬間以外に魔力感知が出来ない銃による攻撃はそれだけで十分な脅威だと思わなくも無いが。


「一方でこの『魔導砲』は使用者の魔力を弾として撃ち出す装置の事で、魔力をほとんどロス無くエネルギーに変換できるので、非常に魔力効率が高い武器ですが……その原理は未だによく分かっていません」


 謎の技術!?


「なんでだよ!?」

「魔力は自然現象を引き起こしはしますが、普通は魔力の球をぶつけても物質に干渉する事は出来ませんよね? ですが、この魔導砲や小口径の魔導銃は何故かそれが出来てしまうんですよね」


 むむ。そう言われてみれば確かにそうだな。


「ですので魔導砲は一部地域に存在する【ダンジョン】で発掘される古代文明の【遺物(レリック)】か、聖教府で僅かに作られる【賜物(アーティファクト)】のどちらかしか入手方法はありませんし、その機構や原理はこれまで長年にわたって解析が行われましたがいずれの国でも解明できていません。ちなみにこちらは聖教府製の【賜物(アーティファクト)】ですよ」


 【遺物(レリック)】!? 【賜物(アーティファクト)】!?

 何それカッコイイ!!


「うふふ。お兄様も撃ってみますか?」

「いいのか!?」

「はい」


 実際に撃ってみた魔導砲の威力は上位の攻撃魔法並みで、消費魔力は中位並と、魔力的なコスパはめちゃくちゃ高かったが、ミウから聞かされた魔導砲本体の値段は想像をはるかに越えるえげつなさだった。


古代人(亜神)達の超科学の産物を遺跡(ダンジョン)から発掘したのが遺物(レリック)で、神が作り方を教え、聖教府内の専属の機関で作られるのが賜物(アーティファクト)です。

性能は☆1~☆10とかなり差はありますが、高位の物になると一般人でもドラゴンとか倒せるようになるレベルのチートアイテムです。

遺跡(ダンジョン)の大半は魔界かその周辺国内にあり、遺物(レリック)の所有数が魔族の方が明らかに多い為、バランスを取る為に神が同等の物の作り方を教え、生産量を調整しながら賜物(アーティファクト)は作られます。なので、年間の生産量は魔族側の所持する遺物(レリック)の量によって変動します。

その製造方法は門外不出で、賜物(アーティファクト)の製造を許された機関に入る者は、賜物(アーティファクト)に関する全ての記憶を消すか、死ぬまで外に出る事は出来ません。

その禁を破ると割と具体的な天罰が齎され、えらい事になります。


終活に失敗した未来人の方で14話でリュナちゃんが使っていた魔導銃はレリックです。ミウの魔導砲よりも小口径になります。しかし、ミウの魔導砲は☆7ですが、リュナちゃんのは☆9なので、リュナちゃんの魔導銃の方が威力は高めです。

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