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15.父さん、母さん。俺、行ってくるよ

 昨晩ちょっとしたごたごたもあったが、何とか旅支度を終えた俺はいつもより少し早い時間に目を覚ました。

 隣を見ればいつも通りにミウがゆるキャラの様な蕩け切った表情で寝息を立てていた。

 ミウは放っておくと毎日昼近くまで眠り、午後のおやつの後には夕方ぐらいまで昼寝をしている事もある。

 本人が言うには、ミウの生まれ持ったアビリティの影響だというが、俺が外に遊びに行く日などは朝早くでも普通に起きてくるし、一日中くっついて回っていたりもするので、本当の所はどうなんだろうか。


「にへへぇ~。おにいしゃま~。あまいみるくのにおいがしましゅ~」


 え!? 嘘!? さすがにもう胸からは何も出ない筈!?

 ミウの寝言に焦る俺だったが、ブラには染みなどは出来ていなかった。


「んだよ、焦ったぜ」


 あの()のトラウマは未だに俺の脳裏に張り付いているが、身体の方はもう完治している筈だ。

 ……まぁ未だに(※9話参照)夕方ごろには胸が張った様な感覚がある事もあるが、一晩眠って朝になる頃にはすっかり治っているので問題はないだろう。


「んん~……くぁ……」


 俺は欠伸をして体を起こすと、生理現象でかぼちゃパンツを押し上げている“前”を隠す様にしてベッドから出た。

 今朝も息子は元気な様だ。


「はぁ……、一応俺も男なんだし、ミウもそろそろ自分の部屋で寝てくれるといいんだが……」


 もう14歳にもなるというのにミウは相変わらず俺と一緒のベッドで寝ている。

 懐いてくれるのは嬉しいが、こういう時はやはり恥ずかしいと思う事もある。

 そんな事を思いながら俺はドレッサーの椅子に座ると、専用の化粧液を髪になじませてからブラシで髪を梳かし始める。

 前世では朝の身支度など寝ぐせを水でちょんちょんする程度だったが、この世界では女性は髪を長く伸ばすのが普通であるらしく、母さんの所為で『お嬢様』として扱われる俺も当然腰の辺りまで届きそうな長い髪を毎朝整えなくてはいけない。


「しっかし、面倒だな……」


 というのも、俺の髪は異常な猫っ毛な上に、母さんもそうだが、毛量が多く、起きた直後などは“良く取れるモップ”の様に広がっているほどだ。

 しかし、面倒だからと梳かさないで髪を後ろで束ねたりすると、頭の後ろに鳥の巣がくっついている様な酷い有り様になり、結局はリゼに怒られた上でリゼにそれはそれは丹念に髪を手入れされてしまう。

 一度リゼに火がついてしまうと、俺の髪はツヤッツヤのサラッサラになるまで放して貰えず、午前の鍛錬が出来なくなってしまった程だ。


「ふぅ、まぁ、こんなもんでいいか」


 試しに首を振ってみれば、少しウェーブのかかったピンクと金色の間の様な色合いの俺の髪がさらさらと揺れる。

 ……認めたくはないが、こうして見ると俺もなかなかの美少女だ。

 しかし、神秘的と言えば聞こえはいいが左右で色の違う気味の悪い瞳、15歳だとはとても信じて貰えない様な低身長と童顔、それに不釣り合いな巨大な胸、何よりも下半身には“棒”がぶら下がっている事もあり、恐らく“需要”はないだろう。

 まあ、俺としてはその方がありがたいけどな。


「うっし」


 髪の仕上がりに満足のいった俺が立ち上がると、薄い絹で出来たナイトブラからはみ出す程の胸がばるんと弾む。

 しかし、しばらく前に作って貰ったこのブラは母さんから教わった例の技術によって胸の重さを消す魔道具(マジックアイテム)になっているので、俺自身が重さを感じる事はない。

 いやあ、正直これのおかげで世界が変わった。

 剣は振りやすくなったし、どれだけ激しく動いても痛む事も無い。

 未熟だと言われていた体幹も劇的に改善して、師匠のジジイも『……おいてめぇ、何があった? 別人レベルに動きが良くなってやがるぞ』と不思議がる程強くなれた。

 もっとも、胸自体に神経は通っているので、調子に乗って肘や剣の柄で胸を殴ってしまったり、相手の攻撃を避け損ねてぶつけたりすると、しばらくは悶絶するレベルで痛いのは変わらない。

 勿論物理的に消えたわけでもなく、足元の視界は遮られるので、足元の悪い場所では不便する。

 そういう意味では相変わらず邪魔ではあるな。

 俺がそんな事を考えながら、なんとなく触り心地の良い胸をもにもにとしていると、ベッドの上で巨大な妹がそれはそれは大きく伸びをした。


「ふぁ~……。あれ? お兄様、今日は早起きさんですねえ」


 今現在のミウの身長は180センチ、丁度父さんの姉である伯母さんと同じぐらいだ。

 うちの父方の家系は男女揃ってとにかくデカい。

 ミウは顔やスタイルの良さは母さん似だが、身長だけはバッチリ父さんの血を引いているらしい。いいとこ取りかよ、羨ましい!!!

 内心で悔しがる俺を他所に、伸びをした拍子にミウの寝間着が肌けて、大きなお胸がプルンと弾けた。


「ぅぉ……」


 俺には『寝ている時もお胸のダメージはあるんですからね』なんて言ってブラを着けさせておきながら、ミウはいつも寝間着の下には何も着けていない。

 本人は俺や母さんと比べたら小さいと言っているが、街で見る普通の女の子よりは十分に大きく、俺や母さんと違って常識的なバランスで形も良いミウの胸は正直俺の好みのドストライクである。

 いや、この際だ、正直に言えばミウは妹でなければ今すぐにでも告白してしまいたい程に俺の好みのど真ん中だ。だから、仕方がないのだ。

 今しがた落ち着いたばかりのご子息がそんなミウの姿にピクリと反応してしまい、俺は慌ててミウに背を向けて前かがみになった。

 落ち着け、落ち着け俺! 相手は妹だぞ? お前は実の妹に欲情する変態野郎なのか?

 自分の胸を見てみろ。

 これはなんだ?

 俺の胸、いや。ただ重いだけの脂肪の塊だ。

 前世で同僚の鈴木が「俺の腹の柔らかさはGカップ」と触らせてくれた時とほぼ同じ触感だろ?

 どこがエロい?

 ……せやな。


「ふぅ……。おさまった」


 俺がホッと息を吐いたその時だった。


「何がおさまったのですか、お嬢様?」

「どわっ!?」


 突如俺の背後から見知った女性の声が聞こえ、俺は慌ててその場を飛びのいた。


「うふふ。おはようございます、お嬢様」


 振り返るとそこにはいつも通りの柔らかい笑顔を浮かべた見慣れたメイドの姿があった。

 俺専属のメイド、リゼだ。

 リゼは時折こんな風に気配も無く俺の背後に立っている時がある。

 これまでは単に俺の気が抜けているだけかと思っていたが、昨夜の話では隠密に特化したアビリティを持っているらしいので、もしかしたらわざとやっているのかもしれない。

 まさかリアルにニンジャメイドが存在したとは……。メイド怖ぇ……。


「ご安心ください、お嬢様。リゼは怖くないですよ。いつもお嬢様の味方です」


 ドクシンジツ!? アイエエエ!


「さて、お嬢様のお着替えも終わった事ですし、そろそろご朝食を」

「そうだな……え?」


 リゼの言葉に違和感を覚えた俺が振り返ると、リゼは先ほどまで俺が着ていた下着を持って、俺が脱ぎ散らかした寝間着を拾い上げていた。

 混乱した俺が鏡に目を向けると、そこには旅用にと先日俺がミウとリーゼと共に買いに行った冒険用の衣装をまとった俺の姿があった。

 リゼの手の中に先ほどまで俺が穿いていた下着があるという事は、俺は気がつかない内に下着まで着替えさせられていたというのか!? アイエェェェ!


「ではお兄様、朝食のご用意も出来たそうなので、参りましょうか」


 俺が驚愕に固まっていると、いつの間にか着替えたミウが俺の背後から胸の下に手を回して抱き上げてきた。


「ミウ?」

「今日もお兄様はふかふかです」

「俺はぬいぐるみじゃねぇよ! っていうか、普通に重いだろ?」


 特殊な下着で胸の重さは引かれていても、いつか神にも言われた通り俺の体重は鍛えた筋肉の重さもあり、同じぐらいの背丈の女子と比較するとかなり重い部類に入る筈だ。

 しかしミウはそんな俺を毎度毎度軽々と抱き上げている。


「うふふ。ご安心ください。お兄様は柔らかいですし、大きなお胸がしっかりと引っかかるので、それほど疲れません」

「俺の乳は腕クッションでもぶら下げフックでもねぇよ!」

「あらあら、お嬢様は今日もお元気ですねぇ」


 俺のツッコミも虚しく、妹とメイドによって自由意志を奪われ、そのまま食堂へと連行されていった。

 かくして、一世一代の大事な一歩となる筈の出発の朝は、結局のところいつも通りに始まってしまった。




 いつも通りの朝食を終え、荷物を背負った俺は玄関で旅立ちの別れを告げていた。


「……父さん、母さん。俺、行ってくるよ」


 そこには使用人のみんな、そして、父さんと母さんが集まっていた。

 父さんは俺の頭をガシガシと撫でながら言った。


「時々は帰ってこい。何があろうとここはお前の家だ。それから、これはお前を一人の男、息子だと思って言う。ミウをしっかりと守れ」


 チ〇コと中身以外女である俺を、それでも父さんは息子だと言ってくれる。

 前世の“親父”とは比較にならないほどいい父さんだ。顔はいかついけど。

 ……もっとも、この家での権力は母さんの方が強いので、俺は『お嬢様』扱いされている事には変わりないが。

 でも、あれだけの事を(*)されてもちゃんとミウの事を気遣っている辺り、やっぱり父さんは顔に似合わず優しいよな。

     (*14話参照)

「タイラ~。こっちへいらっしゃ~い」


 俺が父さんと別れの挨拶を済ませると、今度は母さんから声がかかった。


「ん、母さん。どうし……たぷぁ!?」


 俺が射程圏内に入ると見るや、突然大きな柔らかい何かが俺の顔面を覆った。


「うふふ~。どんなに離れていても、何処に居ても。お母さんがタイラーの事、ちゃ~んと見守っているからねぇ~。可愛い私の娘。愛してるわぁ」


 使用人たちが見ているのでとても気恥ずかしい。でも、いつもより強めの母さんのハグは、とても優しくて、心が温かくなった。


「はい、お任せくださいお母様。お兄様のご活躍はミウがしっかりとお収めいたしますので」


 せっかくいいシーンだったのに、背後で写真機を持った妹が台無しにしやがったよ。

 っていうか母さんの『何処に居ても見守ってる』って、もしかしてそういう意味なの!?


「お嬢様、ミウ様。お荷物の準備が出来ましたよ」


 俺がはしゃいでいる母さんとミウに呆れていた頃、遠くの方からリゼが歩いてきた、が。


「……え、リゼ? その後ろの、何?」


 リゼの後ろからパカパカゴロゴロと音を立てながら、ついてくる存在に俺は訊ねた。


「何って、馬車ですが?」

「おま、行商でも始めんの?」


 ホロ付きの荷馬車の中には大量の荷物が満載されている。

 どこからどう見てもただの移動用には見えないんだが?


「ご安心ください。ミウ達が乗るのはちゃんとした客車ですよ」

「キャラバンかよ!?」


 勇者一行が優雅に何台も馬車を引き連れて旅するとかおかしいだろ!

 俺たちは修行に行くんだぞ!?


「ですがお嬢様、流石に貴族のご令嬢が2人ともなりますとどれだけ厳選してもこれ以下には……」


 貴族て……。まぁ確かに俺は元がただの一般人だから鞄1つの旅ってのに抵抗は無いが、ミウは立派な令嬢だもんな……。

 そもそも俺の荷物はほとんどが保存食や野営の道具で、一番かさばる筈の聖剣も勇者特典の……。


「あっ! そうだ!」

「どうされました? お兄様」


 俺の閃いた声にミウが小首を傾げながら訪ねてくる。


「そう言えば忘れてたぜ! 俺にはこれがあるじゃねぇか!」


 思い立った俺は、荷物が満載された馬車によじ登ると、その大量の荷物に右手をかざした。

 そして『メニュー画面』を開くと。


「ほいっと」


 次の瞬間、あれ程大量にあった荷物が一瞬にして光の粒になって目の前から消失した。


「まぁっ!? お兄様!?」

「あれだけの荷物が…消えてしまいましたね」

「おう、勇者の力の1つ。『アイテム収納』だ」


 そう言えば今まではほとんど使う機会がないから忘れてたぜ。

 そもそも勇者のパーティーが馬鹿でかい鞄を背負って旅するのも変だもんな。


「大きさや重さ、個数の制限はあるみてぇだけど、これぐらいなら触れるだけで簡単収納だ。出す時も……」


 俺はメニュー画面から「アイテム(36/100)」と書かれたタブを選び、その中から『タイラーの着替え』を選択する。

 すると俺の掌に一瞬光が集まったかと思うと、次の瞬間には俺の前に先ほど仕舞った大きな鞄が現れていた。


「ほいっと。まぁこんな感じだ」

「素晴らしいですお兄様!」

「素晴らしいですお嬢様!」


 俺が勇者の力の1つを見せると、ミウとリゼは息の合ったリアクションを取って見せた。

 流石にこうも素直に驚いて貰えると照れるな。


「では、さっそくその力を解析して原理を調べましょう! この技術が実用化されれば物流に革命が起きます!」

「いよいよ世界はお嬢様の掌の上ですね!」


 ……ん?


「お兄様は魔王を倒して世界を統べられるお方。その為にはまず、インフラの掌握は欠かせませんからね」

「この力があれば世界中の市場はボルデンハイン家で独占出来ます! 魔族など恐れるに足らずですね!」


 ……あの、ミウさん? リゼさん?

 俺別に世界征服とかそんなのは企んでないんですけど?

 っていうか、なんか世界征服の手順が具体的過ぎて怖いんですが?



 こうして荷物の問題は片付いたものの、俺は旅立った馬車の中でミウからアイテム収納の力について根掘り葉掘りを尋問される羽目になった。


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