表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/30

12.馬車で移動するのは思ってたよりキツいな

 15歳になって半年もした頃、俺の家に唐突に聖教府の使者とやらがやって来た。どうやら俺の『出征式』の日取りが決まったらしい。

 この世界では15歳になった勇者は聖教府の総本山で女神からの『加護』を受けて正式な勇者として認められ、魔王と戦う力を得る為の修行の旅に出る事が決まっている。

 詰まる所俺の勇者としてのデビューが決まったという事だ。

 『いよいよ』って言やぁいよいよだが、『やっと』という気もしないでもない。

 如何せんこの世界に転生して15年、俺の体感時間としても10年以上の月日が経ってる訳だしな。

 しかし、結局の所、俺は本当に魔王と戦えるほどに強いのだろうか。

 俺は意識を『メニュー画面』に向けると『ステータス』の項目を開いた。



=ステータス=


名前: タイラー・ボルデンハイン

種族: 人族

人種: 人間(ヒューム)

年齢: 15歳

職業: なし

技能: 共通語Lv.5、礼儀作法Lv.3、剣術Lv.6、槍術Lv.2、拳術Lv.7、火属性魔法Lv.1、土属性魔法Lv.1、空属性魔法Lv.1、野営Lv.4、探索Lv.7、馬術Lv.3、鍛錬Lv.9

耐性: 物理耐性Lv.5、魔法耐性Lv.5

才気: 愚者(ザ・フール)Lv.1、英雄色に好まれる(トワノモテキ)Lv.4、勇者の証Lv.3、人間の加護Lv.3、小人の加護Lv.5、夢魔の加護Lv.3

称号: 勇者、転生者、上級剣士、拳闘士、冒険者見習い、野生の勘、筋トレ大好き、名誉ド〇フ

状態: 普通


Level(Lv)  :32

生命力(HP)  :4961/4964

魔素量(MP)  :6715/6734

(STR)   :287  魔力(MAG)  :123

攻撃力(ATK) :122  魔攻力(MAT) :81

防御力(DEF) :196  魔防力(MDF) :98

器用さ(DEX) :27   精神力(MEN) :196

体力(VIT)  :262  知性(INT)  :46

敏捷(AGI)  :228  魅力(CHA)  :266

幸運(LUK)  :287


=========



 ん~。どうも最近レベルが上がってないな。もしかして鍛錬じゃなくて実戦を積まないともう上がらないのか?

 まぁパラメータの方は神の話じゃあHPとMP以外は50ぐらいが人間(ヒューム)種の一般人の平均だって話だし、そう考えると俺は人間基準で言えば化け物クラスって事になるわけだが。

 え? 器用さ(DEX)? 知性(INT)? ……何の事かな?

 バカ野郎! 男ってのは不器用でいいんだよ!

 賢さは……よく分かんねぇんだよな。一応これでも前世じゃ三流だけど国立大は出てたんだぞ? まぁうちは裕福じゃなかったし、私立行けなかっただけだけど。


『キミのステータスって、勇者っていうより運送業とかに向いてそうだよね。無駄に体力はあるし、力は強いし、足も速い。でも、盾にしてはHPが低いし、回避盾にしてもDEXとスキルが無いし、火力も微妙だからAGIも活きないし。キミさぁ、初期値であんなに魔力が高かったんだから魔法火力系のビルドを組むべきだったんじゃないの? 君の遺伝子に交じってる小人(ホビット)種も夢魔種も人間種よりは魔力適正が高い人種なんだし』


 だぁ!? 神!? ……い、いいんだよ!

 そもそもお前ぇはネトゲしてた頃からスキルだのステ振りだのゴチャゴチャと考えすぎなんだよ!

 男は黙ってプレイヤースキルでだな!


『いやいや。キミのお師匠のイェフ君のステータスはキミと比べるとだいぶ控えめだよ? つまり君はプレイヤースキルで負け――』


 あ~あ~、もしも~し? あれ? なんか電波わりぃな。うん。聞こえね~し切るわ(棒)。



「――ぃさま。お兄様」

「んぁ?」


 神の『お告げ』から意識を覚醒させた俺を、ミウが至近距離で覗き込んでいた。


「どうした? ミウ」

「また少しお馬さんを休ませるそうです」

「ああ……()()か」


 夢うつつに神と話していたせいでいつの間にか結構走っていたらしい。

 俺は腕を上にあげて背筋を伸ばすと、窓の外の景色を眺めた。

 家を出てもう9日も経つせいか、見える風景もだいぶ変わってきた気がする。

 うちの近所じゃ麦畑ばかりだったが、今この馬車の周りには一面のブドウ畑が広がっている。

 なんで俺がこんな場所に居るのかを話そう。


 まぁ、いろいろあったが俺は勇者としてデビューするための準備が整い、ついに『出征式』とやらに出発する事になったのだ。

 出征式はどうやら神の本拠地である【聖教府】で行われるらしく、俺は10日もかけて馬車で移動する必要がある。

 【聖教府】があるアウソレア聖教国は俺の生まれたオストマルク大公国の西南にある半島国家だが、【聖教府】がある事でその発言力は人族最大の国家であるグリティア帝国にも劣らないほどらしく、国際会議なんかでは、その2国がどう動くかでほぼほぼ世界の情勢が決まっているらしい。

 尚、俺の第2の故国、オストマルク大公国はその帝国と聖教国両国の東に隣接した微妙な位置にあり、毎度毎度微妙なかじ取りで両国に気を使っているらしい。

 どこかの島国となんとなく境遇が似ている気がしないでもない。


「しかし、10日も馬車で移動するのは思ってたよりキツいな」


 アニメとかだと1カットで到着だが、実際に乗ると前世の自動車と違って揺れるし、エアコンはないしと、まぁ歩くよりマシ、というレベルの不便さだった。

 そもそも前世じゃ移動だけで10日もかける様な場所になんて行ったことが無いからな。


「そういう割には途中滞在した町や村では楽しそうにしていらっしゃいましたけど」


 ミウがそんな事を言いながらクスクスと笑ってきた。


「別に旅行なんだしいいだろ。それと馬車の足が遅いのは別の話だ」


 そう、馬車って思ったより遅ぇんだ。

 人の小走りぐらいの速度しか出ないうえに、馬の休憩時間も必要だし、道路も舗装されてないから、倒木や雨で道がぬかるんでたりすると、そのたびに停車する羽目になる。


「魔界には『魔動馬車』という物があるそうですよ」


 魔界って言えば魔族の住む地域の事だが。


「まどうばしゃ? 魔法で動く馬車? それとも馬の代わりに馬型のゴーレムが引くとか?」

「いえ、ミウも見た事はありませんが、どうやら馬が引くわけではなく、自走する魔道具の一種の様ですね。なんでも、馬車と変わらない居住性にもかかわらず、5倍近い速さで何百(*)イレンも走り続ける事が出来るそうです」

   |        《*1マイレン=約1610m》

 なにぃ!?


「ほぼほぼ自動車じゃねぇか! 魔族はそんなもんまで持ってんのかよ」

「“じどうしゃ”と言うものは存じ上げませんが。魔族と人族の技術力には数百年から千年分も開きがあるともいわれていますし、魔界では空を飛ぶ船まで実用化されているそうですよ」


 ……飛行機? 嘘だろ?

 俺の知る限り、大公国の工業レベルは中世から近世そこそこだぞ?

 もっとも、魔法なんてトンデモチートがあるおかげでトイレが水洗だったり、エーテル灯とかいう蛍光灯みたいなのがあったり、回復魔法なんていう現代医療も顔負けの医療技術はあったりするが、局所的だ。

 なのに魔族は飛行機まで持ってんのかよ? ずりぃぞ!


「よし、ミウ。魔王倒したら飛行機と自動車を手に入れるぞ」

「略奪ですか? 接収ですか?」

「うぇっ!? あ、いや、もう少し平和的な感じで……」


 この妹、マッド〇ックスの住人か?


「でしたら、飛行船は難しいですが、魔動馬車ぐらいでしたら、少し頑張れば手に入るかと」

「何っ!? どうやってだ!?」

「はい、帝国や一部の国家では、技術分析の為に中立国を経由して何台か魔動馬車を購入したことがあるそうです。残念ながら機関部分が複雑すぎて解析は失敗したそうですが、確かその時のお値段はマギウス神金貨100枚ぐらいだったかと」

「マギウス神金貨?」


 聞いた事ない金貨だな。


「魔王国、つまりは魔界での魔王様の直轄国で発行している神金(オリハルコン)を加工した貨幣ですね。その額面価値は神金貨1枚で帝国金貨100枚程です」

「ふ~ん。金貨100枚ねぇ……、ん?」


 あれ? 待てよ?

 帝国金貨って、いわゆる大金貨って奴だよな?

 人族の国のお金の価値って、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で小金貨1枚、小金貨が10枚で大金貨1枚だったよな?

 そんでもって銅貨1枚で食パンが1斤買えるぐらいで……。

 食パンっていくらぐらいだっけ?

 確か前世じゃ、ヤマ〇キとかので130円ぐらい、イ〇ンとかので80円とかだったよな?

 じゃあまぁ、大体銅貨1枚で100円ぐらいって考えると、金貨は……。

 えっと、100円×10×10×10で……10万円!?

 え!? 金貨1枚で10万円!?

 おいおい待てよ?

 金貨1枚が10万円で、それが100枚で、そのさらに100倍で……。


「ミウ。お前は何を言ってるんだ?」


 10億円だぞ? 買えるわけねぇじゃん。


「ご安心ください。こういう時の為にお金は貯めてありますから、お兄様の為ならその程度」

「ミウ長者番付!? いや、ミウ長者番長!? そもそも10億円のプレゼントとか重すぎて受け取れねぇよ!」

「“じゅーおくえん”、が何かは分かりませんが、お金なんて物は『価値』を取り扱える様にしただけの道具です。たくさんの人が『欲しい』と思うものを売る方法さえ思いつけば、簡単に集められますよ」

「そんな簡単に集まるなら誰も貧乏しねぇよ!」

「ではこう考えてみてはいかがですか? 皆さんの『欲しい』をミウが叶える代わりに『価値』を引き取ります。そうしてミウが集めた『価値』をお兄様が使って皆さんに平和を届けます。平和が保たれれば皆さんはまた欲しいものが買えます。永久機関の完成ですね」

「勝手に俺を怪しい永久機関の歯車にすんな!」


 こいつは6G対応の超高速『トンデモ』生産機か!?

 速過ぎてツッコミが追い付かねぇよ!


「そうですか? 素敵だと思いますけど」


 俺の妹って、もしかして結構ヤバい?

 俺は目的地へと近づく馬車の中で、出征式とは別の意味でドキドキとさせられてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ