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1.ようこそ神の世界へ

同時連載中の『終末を異世界で ―終活に失敗した未来人は異世界で自分探しの旅を始める事にしたようです―』の人間サイド、勇者からの視点での同一時間軸のお話です。

 これは……何だ?

 あまりにも現実味の無さすぎる光景。

 一面真白な光に包まれていて、壁も、天井も、それどころか床さえ無い謎の空間。


「ようこそ、神の世界へ。キミを歓迎するよ。タイラー君」


 目の前で宙に浮かびながら両手を広げ、見下す様な笑みを向けるのは、何千時間といっしょに戦ってきたネトゲフレ。

 いや、正確にはそのネトゲフレが操っていたキャラクター……の筈だ。


「あれ? どうしたんだい、タイラー君? ここはいつもみたいに『はいはい、テンプレ乙』ってキミが返す場面じゃないのかな?」


 ああ、確かにいつもの俺ならそうしてただろうな。

 だが、今はゲーム(いつも)とはあまりにも状況が違い過ぎる。

 なんせここは現実(リアル)で、そして、どうやら俺は『神隠し』に逢っている最中らしいからな。






――少し前から話そう。


 いつもの駅から会社とは逆向きの電車に乗り、新幹線を使って4時間。実家に帰るのは一昨年の正月以来だったかもしれない。

 実家の寝室に白装束を着せられて、生前よりも余程仲良さそうに横たわる両親を見て、俺は何を考えていいのか、どんな言葉を掛ければいいのか。それが分からずに立ち尽くしていた。


 交通量の少ない農道での出会い頭の事故。

 相手のドライバーは小さい頃から知ってる近所のおっちゃんで、何度も何度もグシャグシャに泣き腫らして謝ってくれたが……悪い、全然ピンと来ない。

 顔を合わせる度に喧嘩ばかりしていた、あの殺しても死にそうにない親父が?



「なんて運の悪い話だ……」


 ドライバーのおっちゃんの祈るような叫びの中、背後でぽつりと聞こえた叔父さんの呟きが、この状況を一番的確に表している気がした。




「くそっ!」


 俺は画面に浮かぶ《QUEST FAILED》の文字を見ながら、コントローラーを机に放り出した。

 先週までのまるで現実味のない故郷での出来事が、出来の悪い空想だったんじゃないかと疑う程にいつも通りの日々。

 会社とアパートを往復し、ネットゲームをして、寝る。

 それを繰り返すだけの単調な毎日。

 誰にも気を使わなくていい心地よい堕落。

 しかし、不意に親父の眠っている様な死に様を思い出す。

 呆気ない。あまりにも呆気ない。

 別に悲しいとかではないと思う。あんまり仲は良くなかったしな。

 もちろん轢いたおっちゃんを恨んでたりもしない。

 でも、なんつうか、……なんていうか。張り合いがない? つまらない?

 なんかそんな感情がここ1週間抜けないのだ。


「くそ……」


 俺は頭を振って机の上に転がったコントローラーを手に取った。


――ピローン


 まるで図ったかのようなタイミング。

 聞きなれた電子音と共に、画面の左上に浮かぶ《“神”があなたをパーティに招待しました》のメッセージ。

 『神』なんてふざけたプレイヤーネームには一人しか心当たりがいない。

 俺はメニューアイコンからパーティメニューを開き、今しがた誘いのあった、たった一人だけのパーティルームへ飛んだ。


神> ようこそ、神の世界へ。キミを歓迎するよ。タイラー君。

タイラー> はいはい、テンプレ乙。なんだ? 行きたいクエでもあるのか?

神> いや、フレンドリストの中で一番暇そうなのは誰かなって考えてたら君の名前が目に留まったのさ。なんだか久しぶりじゃないのかな?


 ただの挨拶だというのに、言葉のどこかに人をイラつかせる謎の成分を含んだメッセージ。


タイラー> 実家に帰ってたんだよ。


 俺は淡白にレスを返す。


神> あひゃひゃ。それはそれは。画面の中から出てきてくれないお嫁たんと喧嘩でもしたのかい?


「相変わらずだな……」


 独り言ちて、俺はその悪意30%、からかい30%、嘲笑30%と残り10%のコミュニケーションに返事を打ち込む。


タイラー> ちげぇよ。葬式だ。両親が……、死んだ。

神> へぇ。


 突然のヘビーな内容に、流石の神の奴も間を開けた短いレスを返すだけに留まった様だ。

 『神』。こいつは数年来の付き合いのあるフレンドで、余程の暇人なのか、ログインすればいつでも会えるという気軽さから、一番よくつるむ相手だ。

 口も性格も根性も悪いが、プレイヤースキルは高く、最低限の常識は持ち合わせていて、遠慮も配慮もいらない分、本音で話せる数少ない相手だ。


神> ところでタイラー君。今日は何を狩りに行こうかな?


 なっ……。

 空気を読めるとは初めから1ナノメートル程も期待してはいないが、ここまでとは……。


タイラー> そんだけかよ!?

神> え? 何か言ってほしかった?


 うぐ……。

 いや、別にそんな期待はしてないが。


神> それともあれかな? 神様に懺悔でも聞いてほしかったとか? でもごめんね、ボク今はオフだから、100年後ぐらいにまた来てよ。

タイラー> どんだけ長い夏休みだよ!? 百年戦争も終結するぞ!?

神> ケケケ。というわけで、気分を変えて別のゲームでも遊んでみるかい?


 何が『というわけ』だよ。で、別のゲームだと?


タイラー> なんだ? 最近出たタイトルか何かか?


 俺は突然の提案に質問を返す。


神>いやいや。とても古いタイトルだけど、やり応えも自由度も十分な、おすすめの一作だよ?


 おすすめ? こいつの? ……大丈夫だろうか。

 しかしまぁ、数年間遊んできたこのゲームにも飽きが入ってきていたのは事実だ。


タイラー> まぁ、よく分からんが、そこまで言うなら詳細を聞こうか。


 俺は世間話のつもりで、そんなレスを打ち込んだ。


 この時、俺はまだ知らなかったのだ。

 こんなありふれた日常会話が、俺の人生を一変させるなんて。


神> おk。ここじゃあなんだし、場所を移そうか。


 ん? 何を言ってるんだ?

 俺は神の意味不明な言葉に首を傾げた、その時だった。


「うっ!?」


 突然、酷く酒に酔った時の様に視界がゆっくりと傾き始め、強烈な二日酔いの様な気持ちの悪さと頭痛が俺を襲った。




 ――そうして、話は冒頭へと戻る。


もう少し進んだら『終末を異世界で』とクロスオーバーしていく予定です。

同じ世界の人族側からの視点で異文化を楽しんでいただけたらな、と思います。

もちろん、『終末を異世界で』を読まなくても楽しんでいただけるように書いていくつもりです。

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