皇帝への謁見2
「とにかく・・私はこれから世界を救う為に旅を続けないといけないんです。『邪神ナラトス』も滅ぼし損ねましたし・・・」
「ですから、私達は近日中にこの魔導帝国オルテアガから発とうと思っております」
「なんと!余はそなた達に、これからも帝都冒険者ギルド所属の冒険者として力を振るってほしかったのだが・・・」
「旅のことについてですが・・私の力も公となってしまったことですし・・陛下には一度私達の事情を詳しくお話ししなければなりませんね・・」
ハーティは三人を帝都に留めようと思っている皇帝を説得する為に、『邪神』復活の事や『黒の魔導結晶』を探す旅をしている事、そしてこの世界を創造するに至った経緯などを説明した。
「・・・余が目の当たりにしたそなた達の力を鑑みると、その話を信じざるを得ないな」
「まさか・・・ただの神話と思っていた『女神教』の物語が、実際に起こっていた出来事だったとは・・」
ハーティの話を聞いて、皇帝陛下を筆頭とした帝国の重鎮たちは神妙な面持ちをしていた。
「こうなれば、帝国としても『女神教』への考えを改めないといけないようであるな・・」
「そなたの決意も堅い・・・か、あいわかった。ひとまずはそなたの話・・真摯に受け止めよう」
「ひとまずは・・」
「・・余は欲しいと思ったものは意地でも手に入れる性分でな。そなた達の旅もいつまでも続くものではあるまい。余は決してそなたの事を諦めることはないのでな」
「故にすべての戦いが終わり世界に再び平和が訪れれば、余は必ずそなたを娶る故・・楽しみにしておれよ」
「・・・は・・はあ、それは世界が平和になった時にまたお話しましょう・・」
ハーティは、とりあえず皇帝の話を先延ばしにすることにした。
「しかし、困ったな・・そうなればそなたへの褒美はひとまず金品といったところ・・か」
皇帝は困った表情で顎に手をやった。
「・・・恐れながら陛下、一つ私の方から申し上げてもよろしいでしょうか」
そのとき、ユナが皇帝へと声をかけた。
「話すがよい」
「はい。・・此度の褒美についてですが・・・こちらにいるクラリスを陛下のお力で『二級冒険者』としては頂けませんでしょうか」
「・・これからクラリスも私たちの冒険者パーティの一員として、世界を旅する予定です。その際に動きやすい肩書が欲しいのです」
「ふむ。なるほど・・しかし、そんなもので良いのか?・・確かにそなた達が世界を渡り歩くなら、それなりの肩書が必要であろう・・・うーむ、ならばこうしよう!」
「余、魔導帝国オルテアガ皇帝オルクス十四世の名において、ハーティ、ユナ、クラリス博士の三人を『一級冒険者』に推薦することとする!」
ザワザワザワ・・・。
「「「『一級冒険者』ですと!?」」」
皇帝の突然の発案に場内は騒然となった。
『一級冒険者』は世界でも数えるほどの人間しか存在せず、その肩書きだけで世界中で『英雄』として扱われるほどである。
「皆、今更何を驚いておる。この三人はそれぞれが単騎で一軍と渡り合える程の戦力となる。それほどの人物をギルド本部があるこの帝国が『一級冒険者』に認めずどうするというのだ!」
「確かに・・そうですな」
それを聞いたクウォリアスは納得したという様子であった。
「では、そのように冒険者ギルドには余から口添えしよう」
「「「ありがたき幸せ」」」
皇帝の言葉に三人は一様に頭を下げた。
皇帝は次にクラリスへと視線をやった。
「クラリス博士よ。・・・そなたには研究支援の打ち切りについて心からお詫びしたい」
そう言うと、皇帝は静かに頭を下げた。
ザワザワ・・!!
皇帝が一帝国貴族、まして男爵令嬢に頭を下げたことで、再び場は騒然となった。
「いえ!あのとき、確かにあたしの研究は行き詰っておりました。あたしの研究もハーティ達の協力が無ければ実現しなかったのです!ですから頭をお上げください!」
「・・・心遣い感謝する」
「・・・して、そなたは何か望むものはないか?」
クラリスは皇帝の言葉に目を見開かせ、その後何かを考えるような素振りをしてからおずおずと口を開いた。
「では・・恐れながら申し上げます。あたしは此度の褒美として魔導銀鋼を望みます」
「ほう・・・金銭ではなく魔導銀鋼を直接・・か。して、いか程望むのだ?」
「・・できましたら最低でも六十トンばかり都合頂きたく・・・」
ザワザワ・・・。
「魔導銀を六十トンもだと!?貴様、それだけの魔導銀がどれ程の金額になるか知らないはずもあるまい!図々しいにも程があるぞ!」
「良い、マニアス財務卿」
皇帝はクラリスの言葉を聞いて激高した財務卿を宥めた。
「・・・ですが」
「貴殿の『魔導機甲』に使うものだな。それも世界を救う為というならば仕方あるまい。だが、魔導銀はそなたも知っている通り、ニアール博士の研究を支援する為に国内のものはほとんど使ってしまったのだ」
「よってそこまでの魔導銀は帝国には残っておらぬのだ」
「そうですか・・・あたしもあくまで聞き入れていただければと希望程度で思っておりましたので、この件はお聞き流しください」
「正直、今回の戦いで『プラタナ』のマナ劣化が著しいので、修繕に使えればよかったのですが・・」
実際に『プラタナ』は魔導銀部分のマナ劣化により、稼働できる時間が残り僅かとなっていた。
そうなれば、ハーティが『プラタナ』を完全神白銀化しない限りは発導機以外の全てをまるごと作り直す以外に術はなかった。
そして、『プラタナ』の完全神白銀化にも、機体を丸ごと作り直すにしても、大量の魔導銀が必要であった。
「そのことだが・・・現在、帝国には確かに魔導銀鋼の在庫は無いが、ニアールの研究に使う為に商業大国である『商業国家アーティナイ連邦』へ買い付けたものがそのくらいある」
「現在それは輸送前で、そのまま彼の国の首都『カームクラン』の商業ギルドに保管してあるであろう」
「余がそれをクラリス博士に直接引き渡すよう書簡を書く故、それを持っていくが良い」
「・・・『商業国家アーティナイ』といえは、ここよりさらに東・・極東の商業大国ですね」
「・・偶然にもナラトス達が飛び去った方角にも合致します」
「魔導銀の調達もそうだけど、あたしはもう一度ニアールにあってしっかりと話をしたいわ!」
「・・なら、次の目的地は決まりね!」
三人はそう言いながら頷き合った。
「陛下、お心遣い感謝します。私クラリス・フォン・レゾニアは陛下の書簡を受け取って『商業国家アーティナイ連邦』へ向かいます。そこで『プラタナ』の改修を行い次第、『黒の魔導結晶』の捜索及び『邪神』討伐へ向かいます!」
「・・あいわかった。帝国・・いや世界の為にそなた達には期待している」
皇帝の言葉に三人は頭を下げた。
「・・話は変わるが余からもクラリス博士へ一つ頼みがある」
「・・・皇帝陛下の願いとあらば、何なりと」
「うむ・・そなたの魔導機甲・・『プラタナ』に用いておる発導機・・それを一機都合できぬか?」
「それは・・・」
皇帝へ『何なりと』と言ったクラリスだが、望みが『発導機の提供』と聞いてつい尻込みをしてしまう。
「・・安心するが良い。そなたの発導機を都合してもらっても、それを帝国が侵略兵器として使うつもりは毛頭無い」
「ハーティの話を聞いて、我々帝国としても『邪神』への対抗策を本格的に考えなければならないと思っただけである」
「この件は我が国だけの問題ではない。今までは表だった国交は無かったが、『女神』や『邪神』の存在が確かとなった以上、『女神教』の聖地とされている隣国のイルティア王国とも友好を深めて『邪神』への対抗戦力を整備したいのだ」
「そのために、クラリス博士の発導機を有効に活用したい。構わぬか?」
「・・確かに『プラタナ』の発導機開発で発生した失敗作の中で、マナ劣化が比較的少ないものが一機だけ残っています」
「それを修復すれば使えないことはないですが、マナ出力は『プラタナ』のものよりも若干劣ります」
「ふむ。十分であるな」
「ただ、あたしの発導機は仕上げの行程でハーティの協力が必要です。また、おそらく修繕に四、五百キロの魔導銀が必要です」
「・・そのくらいの魔導銀は宮殿が所有している魔導銀製の武具などを処分して都合しよう。問題はハーティの考えであるが・・」
「・・・私は発導機が世界を救う為に使われるということを約束頂ければ、構いません」
「・・・あいわかった。必ず平和利用することを約束しよう」
「いずれにしても、『一級冒険者』のギルドカード発行手続きに数日かかる。その間に発導機を修復するわ。協力お願いね、ハーティ」
「ええ、わかったわ」
「では、魔導銀を都合する書簡も用意しよう。それと、これからは『一級冒険者』として大々的に世界を救う為の旅に出るのであろう?で、あれば『商業国家アーティナイ連邦』との連携や協力も依頼せねばならぬ」
「ついては、そなた達に『魔導帝国オルテアガ』からの親書を託す故、それを『商業国家アーティナイ連邦』元首である『ミウ・シノサキ』大統領に渡してはくれぬか?」
「かしこまりました」
「うむ、感謝する。『商業国家アーティナイ』は海で隔てられている極東の島国。向かうのならば帝国から『魔導外輪船』を手配しよう。それであれば二週間ほどの船旅で彼の国へ到着するであろう」
それに対してクラリスが返答する。
「皇帝のお心遣い感謝致します。ですが、『プラタナ』も彼の国まで飛行するだけの稼働時間は残っておりますし、ハーティは女神の力により自身で『飛翔』の魔導が使えます。ですので『魔導外輪船』の手配は不要です」
「で、あるか。それでは手筈が整い次第出発ということであるな。ではこちらとしても早速各手続きを始める故、此度はこれにて謁見をお開きとする」
「「「わかりました」」」
皇帝の言葉によって三人は一礼すると、謁見の間を後にしたのであった。




