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転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい  作者: RYUJIN
第二章 魔導帝国オルテアガ編
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事件の後

「す・・・すごいっ!!あなた、本当に女神なのね!!」

  

 帝都を埋め尽くす温かな白銀の光を見て、クラリスは驚きを隠せない様子であった。


 パアァァァァ・・・。


 そして、その光が治る頃にはシエラの表情も穏やかなものへと変化していた。


「・・う・・ん」


「シエラちゃんの中にあった『闇の力』は浄化したわ。今度こそ大丈夫なはずよ」


 ハーティの言葉を聞いて落ち着きを取り戻したシエラは、はっとした表情をすると素早くハーティの前で『最敬礼』のポーズを取る。 


「一度ならず二度までも!私を救っていただきありがとうございます!ハーティさん!・・いえ、『女神ハーティルティア』様!」


「う・・うぐっ!シエラちゃん・・私はその・・」


「私の信仰心は本物です!盗賊に襲われた時に助けていただいてから私は『女神教』に入信しました!・・よもやこの期に及んで『私は女神じゃ無い』なんて、無体なことはおっしゃいませんよね?」


 そう言われたハーティは帝都のあちこちで立ち上がる煙と消滅した彼方の山脈、そして朽ち果てた『メルティーナ』へと順番に目をやった。


「・・・なんとか誤魔化せないかな?」


「・・どう考えても無理かと」


 シエラと同じく『最敬礼』をしながら、ユナはハーティにとって絶望的な言葉を漏らした。


 シュュュン・・。


 ハーティはいそいそと再び髪飾りを装着する。


 すると、ハーティはいつもの桃色髪の少女へとその姿を変えた。


「「ああっ!」」


 その様子を見て、ユナとシエラは心底残念そうな声を出した。


 シュュュン!


 そのやり取りの間にクラリスは『メルティーナ』の残骸と『プラタナ』を順番に髪飾り(収納魔導)へ収納した。


「はぁ・・『プラタナ』もだいぶ大破したわ・・また修理に手間がかかりそうね」


「お爺様の形見の研究室や『魔導収束砲』も無くなってしまったわ・・」


 そう言うクラリスの表情からは少し悲しんだものが窺えた。


 しかし、すぐにその表情は笑顔に変わった。


「でも、おかげで帝都を守ることができたわ!・・ありがとう・・お爺様・・」


 クラリスはそう言いながら静かに空を仰ぎ見た。


「・・・さて、先程のハーティさんの浄化魔導で獣人達も『黒の魔導結晶』の影響から解放されたはずです」


「さあ、ゴーレムに囚われた獣人達を救いにいきましょう!」


「しばらくは帝都復興の支援依頼も冒険者ギルドに来るでしょうし、忙しくなるわね!」


「では、ひとまず市街地へ向かいましょう」


「「「おお!」」」


 そして、ハーティ達の活躍により、ゴーレムに捕われた獣人達は無事に保護されたのであった。



 そして、帝都を揺るがしたゴーレム襲撃事件から十日余りが経過した。




 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・・・。




 ゴーレム襲撃事件により、帝都では多数の家屋やライフラインが全壊し、その被害は甚大であった。


 しかし、事件から十日が経つ頃には、帝都は一旦落ち着きを取り戻し、着々と復興作業が始まっていた。


 ハーティ達も復興支援依頼を受けるべく、朝の支度を終えると『暁の奇跡亭』の食堂へと降りてきた。


「あっ!?おはようございます!ハーティさん!」


 ハーティとユナが降りてくると、シエラがすっかり元気な様子でパタパタとやってきた。


「ええ、おはようシエラちゃん・・うわっ・・」


 ハーティがシエラに朝の挨拶をしていると、ハーティの視界に、今まで食堂にはなかった『女神ハーティルティア像』が目に入った。


「あ、これですか?やっと頼んでいた物が完成したので飾ったんですよ」


 そう言うシエラはとても嬉しそうであった。


 ユナはその『女神ハーティルティア像』をまじまじと眺めていた。


「うん・・神聖イルティア王国でもなかなかこれほど精巧な『女神ハーティルティア像』は置いていないわ。帝都にこれほどの腕を持つ職人なんていたんでしょうか?」


「これはですね!()()()()さんという、帝都でも珍しいエルフの職人が作ったんですよ!本業は武器屋らしいんですが、今回の事件を目撃した帝都民がどんどん『女神教』に入信している影響で彫刻依頼が殺到しているらしいです」


「・・心当たりしかないわ!!」


 そう言いながらハーティは頭を抱えた。


「そう言えば、そのエルフさん・・『いっそ彫刻家に転身して女神ハーティルティア様の素晴らしさを世に知らしめるぞ!』と意気込んでいましたね」


「っく!あの『狂信エルフ』め!!」


「そのエルフの方とは気が合いそうですね」

 

「絶対会わせないからね!」


「・・・ほんと、()()って感じよね」


 ハーティ達の『ハーティルティア像』談義に突如聞き覚えのある声が割り込んできた。


 ハーティ達が声の主へ目をやると、そこにはパイロットスーツを着込んだクラリスがテーブル席で宿の朝食を摂っていた。


「クラリス、あなた何優雅にシエラちゃんの作った朝食を食べてるのよ」


「やっと『プラタナ』の修理が終わったのよ。この数日はまともな食事が取れなかったからね」


「んぐんぐ、それに貴方達遅いんだもの。待ってられなかったのよ。ここは食堂だからお金を払えば宿泊者じゃなくても朝食を食べられるしね」


「それは、ユナが『朝の支度は大事』とか言って、なかなか解放してくれないから・・」


「そういや、あなたイルティア王国の侯爵令嬢と専属侍女だったのね。ほんと、あなた達っていろんな引き出し持ってるわね」


 クラリスはフォークを持ちながら、やれやれといったポーズを取った。


 帝都での戦いによって『女神の力』を晒してしまったハーティは、開き直ってクラリスやシエラ達に自分の秘密を暴露したのであった。


 その中で、自分がかつて神聖イルティア王国の侯爵令嬢であったこと、ユナが自分の侍女であることを話したのであった。


 そして、クラリスは徐にその手にしていたフォークをことりと置くと、急に真剣な表情になった。


「・・・で、帝国からはいつ去るつもり?」


「「え!?」」


「・・・・」


 クラリスの言葉にハーティとシエラは驚き、ユナは黙って瞳を閉じた。


「・・ナラトスを追うんでしょ?それに帝都でもこれだけ()()()()て、さらにはイルティア王国で巻き起こしたことも徐々に噂が入ってきている。だからあなたは帝都から、もっと言えば帝国からも出ようとしている。そうでしょ?」


「・・・はあ、そうね。みんなはもう知っていることだけど、私たちは『黒の魔導結晶』と『邪神』を追っているの。私がかつて創造したこの世界を守る為にね」


「だから、事件が落ち着いてきた頃を見計らって、私達は帝国から出るつもりだったわ」


 クラリスはハーティの言葉を聞いて、ただ静かに頷いた。


「言っとくけど、私も一緒に行くからね。勝手に旅出したら世界の果てまで追いかけるんだから!」


「「え!?」」


 その言葉にハーティとユナは驚いた。


「でも、クラリスは魔導省に在籍しているんでしょ?それはどうするの?」


 ハーティの言葉を聞いたクラリスは腕を組んで得意げな表情をした。


「そんなの辞めてやるに決まってるわ!そもそも『プラタナ』の研究が中止になったときからあたしの気持ちは帝国から離れたの」


「それに、貴方しか『プラタナ』の材料になる神白銀(プラティウム)を錬金できないじゃない。言っとくけど、あたしは貴方達を逃すつもりはないからね!」


「えぇ・・・」


 クラリスの執念に、ハーティは若干引いていた。


「それに・・・」


「??」


「あなたが言ったのよ。『魔導機甲(マギ・マキナ)・・『プラタナ』は必ず平和的な方法で使うこと』ってね」


「それが『世界を救う為』というなら、文句ない平和的な利用方法でしょ?」


「そ、それに貴方達はわたしが見張ってないと直ぐにとんでもないことを()()()()わ!だ、だから見張りの意味もあるんだからね!」


 クラリスは最後には顔を真っ赤にしながら捲し立てるように自分が『白銀の剣』に入る理由を連ねた。


「どう思う?ユナは?」


「私は賛成ですね。ハーティさんの崇高な目的達成には戦力があるに越したことはありません」


「その点『プラタナ』は十分戦力になり得ます」


「・・そう、なら私からは言うことはないわ。じゃあクラリス。これからもよろしくね!」


 ハーティはそう言いながら、クラリスへと手を差し伸べた。


「え、ええ!よろしく!」


 クラリスはハーティ達に認めてもらった事に嬉しそうな表情をしながらその手を取った。


 そんな和やかな空気が食堂に流れていたその時・・・。


 カランカラン・・・。


「いらっしゃいま・・・え!?」


 ザッザッザッ!!


 突然食堂の玄関が開いて、数人の衛兵が中へと雪崩れ込んできた。


「ちょっと、帝国の衛兵が何の用よ!!また『プラタナ』を寄越せって言うつもり!?」


 衛兵を見た瞬間、クラリスは警戒した様子になった。


「いえ、その件は()()()()のです。今日こちらに伺った件ですが・・」


「帝都冒険者ギルドに所属している『白銀の剣』のハーティ様、ユナ様、そしてクラリス博士・・」


「三人に()()()()()について、オルクス皇帝陛下が直接御礼をしたいということです」


「突然で申し訳ありませんが、表に『魔導車』を停めております。急ぎ宮殿へお越し下さい」


「・・・へ?」


 それを聞いたハーティは間抜けな声を上げた。


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