祖父の遺産 ~クラリス視点~
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クラリスがまだ幼かったある日、いつものように彼女は祖父の研究室へ遊びに来ていた。
「ねえねえ!お爺ちゃん!またあれを見せてほしいな!!」
「あっはっは!またかい?本当にクラリスは魔導具が好きだねえ」
「わかった、見せてあげよう」
「やったー!」
そう言うと、プラタナは研究室で一部落とされていた魔導ランプのスイッチを入れる。
ブゥン!!
スイッチを入れたことにより、そこに置いてあった巨大な魔導具が魔導ランプに照らされて明らかとなった。
それは全長十メートル程にもなる、まるでライフル銃を大型化したようなものであった。
「わぁ!大きいねえ!!ねえ!今お爺ちゃんはこれを作っているの!?」
「ああ、そうだよ。私の勤めているところから頼まれているんだよ」
「ねえねえ!これはなんなの!?」
「これかい?これはまだちゃんとした名前はないんだけどね、『魔導収束砲』と言って、魔導士が使う『魔弾』を人工的に再現する魔導具なんだよ」
「クラリスにもわかりやすく説明したら、マナを集めて束ねてから打ち出す物だと思ってくれたらいいよ」
「わあ!まるで水鉄砲みたいだね!」
「あっはっは!違いないね!」
そう言いながらプラタナは破顔した。
「もうほとんど出来上がっているんだけどね・・でも、肝心のマナを集める部分がどうやっても上手くいかないんだよ」
「そうなの?」
「ああ・・まあ、クラリスには分からないだろうけど・・」
そう言うと、プラタナは研究室の壁に石灰で描かれた魔導式を指差した。
「あれは『エーテル・マナ変換術式』と言ってね、この世界を満たすエーテルからマナを生み出すものなんだよ」
「それって、わたしたち皆がマナを作っているのと同じってこと?」
「そうだよ。クラリスは本当に賢いね」
そう言いながら、プラタナはクラリスの頭を撫でた。
「ただ・・その術式がどうしてもうまくいかなくってね」
「・・・でもね、私はそれでもいいと最近思っているんだよ」
「え?どうして??」
「もし私が考えたこの術式が完成したとすれば、それはもう人々の暮らしに大きな革命を生み出すだろうさ」
「だけど、それと同時にこれも完成するだろう・・」
「私が今作っているこれは、紛れもなく人殺しの為の『武器』だ」
「私はね、魔導具の開発については、人々の役に立つ為に行うものだと考えているんだよ」
「だけど、今作っているこれが完成すれば、きっと私の作った魔導具によって沢山の命が奪われることになる」
「だから、魔導省にはこれは完成することができなかったと報告するつもりなんだよ」
「・・でも、そうしたらお爺ちゃんは怒られないの?」
心配そうにプラタナを見上げるクラリスの顔を見て、プラタナは優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ。私は他にもいっぱい良い物を作っているからね。一つぐらい『失敗作』があってもいいさ」
「それよりも、私は魔導具開発者としての信念を大事にするからね」
そう言うプラタナの表情は、どこか思い詰めているような様子であった。
「・・・私には、きっとこの術式は完成させることができない」
「・・・けどクラリス、お前はきっと私よりも優れた魔導具開発者になることが出来るはずさ」
「なれるかなあ?」
「ああ、なれるさ・・・だからいつかきっと、私が完成させることが出来なかったこの術式を完成させたときは・・必ず『正しい使い方』をするんだよ?」
「うんわかった!!」
「約束だぞ・・クラリス・・」
そして、プラタナはその言葉通り『エーテル・マナ変換術式』を完成させることのないまま、この世を去った。
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ヴヴヴヴヴヴヴ・・・。
「お爺様、私はようやく『エーテル・マナ変換術式』を完成させることができたわ」
「お爺様は『魔導収束砲』を『兵器』として使われてしまうことを恐れた・・」
「けど・・・帝都を救う為と言うならば!今なら!お爺様の『宝物』・・使ってもいいよね!!」
「お爺様が大事にしていた研究室・・そのまま綺麗に残していたけど、今は時間がないの!!だから!ごめんなさい!!」
そう言うとそのまま『プラタナ』は、昔プラタナが使用していた研究室がある建物に突っ込んで行った。
ドォォォン!ガララララララ!
『プラタナ』が突っ込んだことによって、研究室のある建物は屋根や壁が大破して無くなってしまった。
そして、その後土埃が風で流されると、そこに白い布をかぶせられた大きな物が現れた。
クラリスが『プラタナ』を操縦してその白い布を取り払うと、かつてプラタナが作りかけたまま置いていた『魔導収束砲』が露わとなった。
ギュイイイイン!ガシィン!!
そして、『プラタナ』はその『魔導収束砲』を手に取ると、右腕でそれを構えた。
ヴヴヴヴヴヴヴ・・・。
「お爺様は結局これを一度もテストすることが出来なかった・・」
「それは『動力』を作ることができなかったから・・」
「逆を言えば、お爺様が作ったものなら、『動力』さえ何とかなれば、必ずちゃんと動作するはず!!」
そう言うとクラリスは『プラタナ』の操縦レバーを操作する。
ギュイイン。
そして、『プラタナ』は『動力』装置が無い為に床に束ねられて置かれていた、『魔導収束砲』から伸びた太い魔導銀ケーブルの先についている端子を、『プラタナ』の左腕で胸部にある発導機へと押し付けた。
シュイイイイイイイイイイン!!
その瞬間、押し付けているケーブルが白銀色に発光し、『魔導収束砲』へとマナが供給され始める。
そして、『魔導収束砲』の砲身上部にターゲットポインターを表示する光魔導の画面が表示された。
『・・・いけるわ!!!』
ウィーーン・・ウィーン・・ウィン・ウィン・・ウィィウィイウィィ・・・。
ヴヴヴヴヴヴ・・・。
「『魔導収束砲』、発導機からのマナ供給ライン正常動作、一次魔導結晶マナ充填率百パーセント!砲身マナ収束術式正常発動、供給マナの収束開始!収束率三十パーセント・・四十パーセント・・五十」
『クラリスゥゥゥゥ!』
その時、ニアールの駆るメルティーナが猛スピードで『プラタナ』の元へと飛来するのがターゲットポインター越しに確認できた。
ヴヴヴヴヴヴ・・・。
「落ち着くのよ・・クラリス。あれにはシエラちゃんが居るわ・・絶対に胴体には当てないようにしないと・・」
コクピットでクラリスは深呼吸をすると、慎重に『魔導収束砲』の照準を合わせた。
ウィウィウィウィウィウィィィィ!
「収束率九十パーセント・・百パーセント!発射準備完了!照準今!!」
そして、『プラタナ』は『魔導収束砲』のトリガーに指をかける。
『『魔導収束砲』!!発射!!』
カチャ!
ビシュウウウウウウウウウウウウ!
そして、『プラタナ』がトリガーを引いた瞬間、コクピットの光魔導のスクリーンが白銀色の光で埋め尽くされた。




