指名依頼
ハーティとユナが魔導機甲を目撃した後、二人は何度か『ロック・キャニオン』を訪れたが、それ以来『黒の魔導結晶』について有力な手がかりを掴むことはできなかった。
そして、それからしばらくしたある日、いつものように二人は『白銀の剣』として受注するクエストを探そうと冒険者ギルドの受付カウンターへ向かおうとしていたところ、担当受付嬢であるリーシャに呼び止められた。
「あ、『白銀の剣』のお二人さん!探しましたよ!」
「あ、リーシャさん。私たちもちょうどそっちに行こうとしていたところなんです。どうしました?」
「とにかく、カウンターに来てください!詳しくはそれからお話します!」
「わかりました」
ハーティとユナはリーシャのカウンターまで向かうと、リーシャが一枚の書類を取り出して二人の前に差し出した。
「なんとですね!お二人に『指名依頼』が来ているんですよ!」
「すごいですね!『白銀の剣』が有名になった証拠ですね!」
そう言うリーシャは、まるで自分の事のように得意げな表情をしていた。
「はあ・・・ちなみにどういった内容の依頼ですか?」
「えーっとですね・・・詳しい内容は会って説明するとのことですが、大まかな依頼内容は『ある素材を集めてほしい』ということですね。なによりも報酬が凄いです。ひとまず着手金として金貨百枚、素材が手に入った場合にはその質と量により望むだけの報酬を出すとあります」
「着手するだけで金貨百枚ということはかなり入手困難な素材なんでしょうね。『二級冒険者』であるお二方に依頼をするということも、その何よりの証拠ですね!」
「うーん・・・『素材の収集』ねえ・・」
そう言いながらハーティは頭を悩ませた。
「・・・今はそれほどお金に不便しているわけじゃないし、今『白銀の剣』としては素材の収集よりも魔獣討伐を優先して受注したいんですよね・・・それ、断れるのですか?」
そういうとリーシャは言いにくそうな表情をした。
「詳しい依頼内容の説明を聞いた上で条件などが折り合いつかない場合はもちろん依頼を断ることも可能です」
「ただ、『指名依頼』を受けた冒険者は、ギルドの決まりでひとまずは依頼者と顔合わせして依頼内容について詳細を確認する義務があります」
「冒険者ギルドに『指名依頼』を出している以上、ギルドとしてもそれを無下にはできないということですね」
「・・はあ、わかりました。ひとまずは説明を聞いてみましょう。別に構わないよね、ユナ?」
「私は、ハーティさんが決めたことに従うのみです」
「・・・なんだかユナさんってハーティさんの部下みたいですね」
「何をあたりま・・・」
「ユナ」
「・・・・・」
二人のやり取りを見てリーシャは苦笑いをした。
「・・では早速ですが、今日の午後からとかはいかがでしょうか」
「・・私たちは問題ありませんが、先方さんはいきなりで大丈夫なんでしょうか」
「はい、依頼主は『白銀の剣』の予定にいつでも合わせるとおっしゃっていました。
相当急な依頼なんでしょうかね・・」
「・・なんだか凄く嫌な予感がするわ・・」
そう言っても打ち合わせを断るわけにはいかないので、ハーティはひとまず午後の顔合わせを待つこととなった。
・・・・・。
・・・・・・・。
『白銀の剣』の二人は午前中を帝都の屋台散策で時間を潰してから、再び冒険者ギルドへ戻ってきた。
因みに屋台飯をパクパク食べるハーティに、ユナはオルデハイト侯爵家にいた時の癖で終始「はしたのうございます」とか「まずは毒見を・・」などと言いながら慌てていた。
そして、早速受付ロビーでリーシャと会った二人は、彼女の案内で応接室へと連れられてきたのであった。
「『指名依頼』については依頼の公平を期す為に、依頼者から依頼内容の説明を受ける時にはギルド職員の同席はできません。説明を受けた上で依頼を受注するかは後程カウンターで教えてくださいね」
「ちなみに一度『指名依頼』を受けると、依頼者の重大な過失や内容との相違などが無い限り、基本的に途中で放棄することはできません。注意してくださいね」
「わかりました」
「・・では依頼主は扉の先です。私は席を外しますのでよろしくお願いします」
そう言い残すと、リーシャは受付ロビーへと戻って行った。
(・・・どんな人なのか緊張するわね・・)
そして、ハーティは静かに応接室の扉を開いた。
ガチャ・・・・。
ハーティが扉を開けると、まるでその扉のすぐ向こうでこちらが扉を開けるのを今か今かと待ち構えていたような近さで立っていた人物の栗色をしたツインテールが視界に入ってきた。
ハーティはその栗色のツインテールにとても見覚えがあった。
「・・・・・」
ギィィ・・・・・。
ハーティはそれを見ると、無言で扉を閉めようとしたが・・・。
ガッ!!
それは応接室で待っていた人物に阻止された。
「あんた何勝手に立ち去ろうとしているのよ!!」
「いや・・・もう顔を見た瞬間に依頼内容が思い浮かんだのでお断りしようかと・・・」
「なんでよ!!!」
扉の向こうで待ち構えていた人物・・『クラリス』はプリプリと怒りを露わにしていた。
「とにかく入んなさいよ!」
「・・・貴様、ハーティさんに対してなんという無礼な・・・・」
「あーーわかった!わかりました!話だけは聞きましょう!ささ、ユナ!入るわよ!!」
「・・・はぁ」
クラリスの言葉にユナが剣呑な空気を醸し出してきたので、ハーティは慌てて応接室に入ることにした。
応接室で対面する形で腰かけた二人を見て、クラリスはギルド職員が淹れた紅茶を一口飲んでから話を始めた。
「前に街で会った時に見かけなかった顔だけど・・『ユナ』というのね?あなたの持っているその剣も『神白銀』よね?」
「・・・・いかにも」
クラリスの言葉にユナは躊躇いなく答えた!
(いや!ユナ!なんで隠しもせずに言っちゃうのよ!)
(・・・私の剣は王国では正式に女神様から賜った神剣という扱いですし、どのみち見る人が見れば気づきます。それを隠し立てしても仕方ないと思ったのです)
(そうだけど・・・)
「・・その剣もそうだけど、それをどこで手に入れたのか教えなさいよ」
「あなたも知っているでしょうけど、あたしからの依頼は『神白銀の収集』よ」
「前にも言ったけど、あたしにはその素材がどうしても必要なの。だからあきらめないわよ」
その言葉にハーティはため息をついた。
「・・・もうユナが言っちゃったから仕方ないけど、確かに私たちの剣は『神白銀』でできています」
「やっぱり!」
その言葉を聞いて興奮したクラリスは思わず立ち上がった。
「・・・ですが、まずは何処で手に入れたかというお話をする前に、なぜそうまでして『神白銀』が必要なのか、それを教えてもらえますか?」
「・・・そうね」
再びソファに座り直したクラリスは静かに口を開いた。
「・・あたしは魔導省で『魔導機甲』という大型で人間のような形をした魔導具を開発していたのよ」
ガタッ!
今度はその言葉でユナが立ち上がった。
「・・じゃあこの前に『ロック・キャニオン』でゴーレムを倒した黒いやつは・・」
「・・ああ、それも確かに魔導機甲だけど、それはあたしのじゃないわ」
「帝国魔導省で魔導機甲を開発していたのはあたしともう一人、幼馴染の研究者である『ニアール』という人物なの。たぶんそれは『ニアール』が開発した魔導機甲ね」
「・・・ということはクラリスさんもあの黒い魔導機甲と同じようなものを作っていると?」
次はハーティがクラリスへ質問を投げかけた。
「・・ええ、本体は完成しているわ。だけど、肝心な動力がどうしても完成しないのよ」
「それはニアールも同じはずだったんだけど、どうやらニアールは何らかの方法でそれを実現したみたいね」
「・・・ちなみにその時の情報を詳しく教えてもらえる?」
ハーティとユナは、クラリスに黒の魔導機甲が現れた時の話をかいつまんで説明した。
それを聞いてクラリスは顎に手をやりながら怪訝な表情をしていた。
「・・・その黒い機体が飛行した、というのは本当なのね?」
「・・ええ、二人で目撃したので間違いありません。帝都に向かってかなりの速度で飛び去ったのを目撃しました」
「・・・ありえないわ」
「ありえない・・・とは?」
「・・・あたしたちが魔導機甲を動かすために目指していたマナ出力は大体『百サイクラ』くらいよ?でもそれは魔導機甲が自由に飛び回る程のものは想定していないわ」
「ただでさえ動かすことすらままならないのに、飛翔魔導を搭載するなんて到底不可能なのだからね」
「あなた達の話を聞いた感じで推測して計算しただけでも、その黒い機体を動かすのに必要なマナ出力は大体千五百から下手すれば二千サイクラ程にもなるわ」
クラリスはユナの質問の答えを不思議そうな表情をしながら説明した。
「さいくら?」
ハーティは聞きなれない言葉にきょとんとしながら首を傾げた。
「『サイクラ』とはマナ出力の単位です。大体『一サイクラ』が魔導士一人分のマナ出力と同じくらいと思えばわかりやすいでしょう」
ハーティの疑問にユナはわかりやすく説明をした。
「ということは・・ええ!!?それって凄いですね!そんなこと、やっぱり普通では考えられないんですか?」
「当たり前よ!だからこそ、何故突然ニアールがそんなものを作ることができたのか、私にはさっぱりわからないのよ」
(ハーティさん・・・やはりあの黒い魔導機甲という機体と『黒の魔導結晶』が何らかの関わりを持っていると考えるのが自然かと・・)
ユナの耳打ちを聞いたハーティは静かに頷いた。
「で、本題だけど・・あたしは魔導機甲の動力をあたし達が自然にやっている『エーテル・マナ変換』を人工的に再現して実現しようとしていたのよ」
「だけど、ある一定以上のマナ出力を出そうとすると、どうしても『マナ抵抗の壁』にぶち当たるってわけ」
「そこで『マナ抵抗がゼロ』と語り継がれている『神白銀』が動力部の躯体にどうしても必要になるのよ」
「私の理論が正しければ、魔導機甲の動力部に『神白銀』を用いることができれば、まともに動かせるくらいのマナが十分供給できるはずなのよ!」
「・・まあ、話に聞く『黒いやつ』までのことができるかは正直未知数なんだけど・・」
「でも動かすことはきっとできるはずよ!」
「これはあたしの全てを賭けた夢なのよ!だからお願い!お礼はいくらでもする!だからなんとか『神白銀』を手に入れてほしいのよ!」
「「・・・・・」」
クラリスの熱意に二人は押し黙った。
(・・どうしよう)
(・・・彼女の話が本当なら、『魔導機甲』とやらは『黒の魔導結晶』を探すための需要な鍵になりそうです。そして、もしその機体の動力に『黒の魔導結晶』が用いられているのであれば、間違いなく私たちにとっての脅威となりうるでしょう)
(・・・ということであれば同じ魔導機甲の研究者という立場であるクラリスをこちらの仲間に引き込むというのも悪くない考えかもしれません)
(もしクラリスの魔導機甲というものが完成すれば、邪神との帝都決戦に陥った場合に何らかの役に立つかもしれませんし・・)
(・・まあそれには『私たちの事』も秘密にしてもらうことが前提となるんでしょうけどね・・)
二人が突然始めた内緒話が終わるのを、クラリスは腕を組んで片眉を吊り上げながら待っていた。
「・・・わかりました。あなたの依頼・・受けましょう!」
「本当!!!?」
クラリスはハーティの言葉を聞いて息を荒げながら立ち上がった。
「・・はい!そのかわり条件が三つあります」
「いいわよ!条件くらい!なんでも言ってちょうだい!お金なのね!!なんとかするわ!」
「いえ・・報酬は頂けません。それは『神白銀』を調達するのにある特殊なことをしないといけないからです」
「特殊なこと??」
「はい、で条件の一つ目は『神白銀の入手方法、それに関わる一切の情報を秘匿すること』です」
「技術の秘匿はどんな研究にもつきものよ!もちろん!命に代えても守るわ!」
「・・二つ目は私たちが『神白銀』を提供することによって完成した魔導機甲は必ず平和的な方法で使うこと」
「・・・帝国は魔導機甲を軍事利用しようとしているみたいだけど、そんなもの現実的じゃないわ。あたしの意思にも反するしね。それに、あたしのチームは正式に解体されて、資材も全て買い取ったからあたしの魔導機甲は帝国の管理から離れてしまって軍事利用されることはまず無いわ・・・何より『魔導具』は人の生活を豊かにするもの。人殺しの道具じゃないと思っているわ」
「・・とにかくそれは絶対に守ってください。そして、最後の条件ですが・・・」
「『神白銀』を調達するのにどうしても魔導銀が必要なのです。純度が高ければ高いほどいいですね。なので、ありったけの魔導銀を集めてほしいのです」
「そうなの?・・・ちなみにどのくらい必要なの?」
「・・・そうですね、大体市販されている魔導銀剣くらいの純度であれば、クラリスさんが欲しい『神白銀』と同じ量くらいあれば・・・」
「それくらいの魔導銀ならあたしの屋敷に魔導省から買い取った分があるわ!」
「どのみちあたしが作っている魔導機甲も屋敷に置いてあるのよ!じゃあ依頼は受けてもらえるってことでいいのね!」
「・・・はい」
ハーティが肯定の意思を示すと、クラリスは涙目になりながら力強くハーティの手を握った。
「ありがとう!本当に感謝するわ!!」
「じゃあ早速屋敷に来て魔導機甲と素材を見てもらえる?ギルドの前にあたしの家の馬車を停めているのよ!案内するわ!早く!」
「わかりましたから引っ張らないでくださいよ!」
そして、三人は魔導機甲を完成させるために、クラリスの住んでいるレゾニア男爵家の屋敷へと向かった。




