ゴーレム討伐クエスト
パーティ登録を終えたハーティとユナは、それから高難易度のクエストを次々とこなし、既に帝都において冒険者パーティ『白銀の剣』は知らぬものが存在しないと言うほどに有名になっていた。
そして、今日も高難易度クエストであるゴーレム討伐クエストをこなす為に帝都から離れたゴーレム出現地帯である『ロック・キャニオン』に来ていた。
複雑な高低差によってもたらされたこの峡谷は、以前から大量のゴーレムが発生する地帯である。
ゴーレムは硬質な岩状で出来た体躯を持ち、大小様々な個体がいるが、概ね二十メートル程度もある巨体なものが多い。
ゴーレムは一応魔獣に分類されるが、何故生物なのに体が硬い岩盤で構成されているのかは詳しくわかっておらず、その発生原理も不明という未だ研究が進んでいない生物である。
そして、以前この峡谷から大量発生したゴーレムが帝都に到達して甚大な被害をもたらしたという歴史がある。
その為、冒険者ギルドは定期的に討伐依頼を出してゴーレムを間引きしている。
だが、体が岩でできており、更には巨体であることからあらゆる属性の攻撃魔導が通りにくく、剣で攻撃するのも困難であることから単体パーティでの討伐は困難であり、通常は上級の複数パーティが協力し合って討伐にあたる。
しかし、ゴーレム自体は特に魔導を放つこともなく、動きも素早くないので、その動きにさえ注意すれば危険度は他の上級クエストと比べれば少なく、報酬も悪くはないので上級冒険者にとってはある意味美味しいクエストでもあった。
そして、ハーティ達は峡谷一帯が見渡せる高台の上でゴーレムを探していた。
「どう?ユナ?そっちは見える?」
「私の見える限りでは二体います」
「うーん、こっちは一体かな」
「とりあえずユナが見つけた二体を先に始末しましょうか」
「わかりました。ではいきましょう!」
ガシャン!シュィィィン!
その言葉を皮切りに二人は神白銀剣を展開する。
ドォォン!
そして二人同時に『ブースト』による踏み込みで飛び出した。
ドォォン・・ドォォン!
二人はジャンプを繰り返して一体目のゴーレムと距離を詰める。
近づくとそのゴーレムは二十メートルクラスの大型個体であった。
今まで目的なく歩いていたゴーレムは、二人の接近に気付いて腕を振り抜く。
バァァァン!
二人は問題なくそれを回避したが、ゴーレムが振り抜いた腕が近くの岩壁に命中すると激しくめくれて崩れ落ちた。
「ただの腕振りですごい威力ね」
「モロに当たれば防御魔導も危ういかもしれません!注意してください」
「わかったわ!」
「・・・行きますよ!っせい!」
ビシュン!
ユナがゴーレムと距離を詰めて脚部を横薙ぎに斬る。
ブレード部の『還元』の術式によりゴーレムの脚部が全く抵抗なく切断された。
ドガァァァン!
直後、片足を失ったゴーレムはバランスを崩して転倒する。
数十トンを超える重さを持つゴーレムが転倒した衝撃により、その周囲は地震のように激しく揺れた。
「てぇぇぇい!」
それにすかさずハーティが斬りかかる。
ハーティにより頭部を斬り落とされたゴーレムはすぐに動かなくなった。
「ゴーレムの額に握り拳大の魔導結晶が嵌っていて、それを本体から切り離すことでゴーレムは動かなくなります」
「その魔導結晶は討伐証明になるので取り外しに注意してください」
「わかったわ!」
それを聞いたハーティは剣先で器用に魔導結晶の周りを切り取る。
そしてくり抜いた魔導結晶を収納魔導に放り込んだ。
「じゃあ二体目に行きましょう!」
「はい!」
二人は再び『ブースト』により駆け出して二体目へと向かった。
そして、似たような手順で二体目を討伐した後、最後の三体目へと向かっていた。
「ゴーレムって言っても大したことないわね」
「・・そんなこと言えるのは私たちくらいですよ」
「普通は体の硬度が高すぎるので攻撃魔導も斬撃も通じないですからね」
「なのでゴーレム討伐といえば複数パーティで挑んで誰かが注意を引いている隙に弱点の頭部を攻撃して魔導結晶を取り外すか破壊しますからね」
「特に破壊してしまうと報酬額が落ちるので、綺麗に取り外すとなると更に困難になります」
「まあ私たちの剣に硬さなんて関係ないものね・・」
「そういうことです」
そんな話をしながら駆けていて、いよいよ三体目にたどり着こうかという頃・・・。
ザザッ!!
二人は同時に今までとは違う違和感を肌で感じて物陰に隠れた。
「ユナも感じたの?」
「はい。・・どうやら二体いるようですね」
「「・・・・」」
違和感を感じた二人は警戒しながら物陰からゴーレムの方を覗き込んだ。
「「!!」」
そして二人は目の当たりにした光景に息を飲んだ。
ゴゥゥゥゥン・・・。
確かにそこには二体の巨人がいた。
そのうちの一体は先ほど視認したゴーレムであったが、もう一体は見慣れない姿をしていた。
それはゴーレムより一回り小さい大きさで、岩でできており、寸胴なイメージであるゴーレムに比べて金属でできているような質感ですらっとしたフォルムをしている。
その太陽の光を反射している漆黒の体躯は非常に人工的で美しかった。
そして何よりの違和感は二体の巨人が相対しているということであった。
漆黒の巨体がファイティングポーズを取ると、通常のゴーレムが先行して漆黒の巨体に向かってパンチのような攻撃を繰り出した。
ゴゥゥゥゥン、ドガァァァン!
漆黒の巨体はまるで格闘術のように自身の腕でそれを受け流すと、普通のゴーレムより遥かに速い動きでゴーレムに向かって回し蹴りを放った。
ダァァァァン!!
そして、回し蹴りを食らったゴーレムはかなりの速度で吹き飛ばされて後方の岩壁に激しく衝突した。
「・・仲間割れ?」
ハーティが首を傾げてそうこぼすと、ユナがすぐさま否定した。
「いえ、あれはゴーレムじゃありません。魔導具音痴なハーティさんにはわからないかもしれませんが、あれもおそらく魔導路面列車のように何らかの発導機で動く人工物だと思われます」
「・・魔導具音痴は余計よ」
バシュウ!
その漆黒の機体は背中から光の粒子を飛ばしながら倒れているゴーレムに向かって飛行した。
バギィ!
そしてその機体は腕部でゴーレムの頭部を掴むと、それをもぎ取った。
それによりゴーレムは動かなくなり、その機体はもぎ取った頭部を抱えると再び光の粒子を背部から放出し始めた。
シュウウウ。
バシュウゥゥゥ!!
そしてゆっくりと高度をあげたその機体は帝都の方へ向かって飛び去っていった。
ハーティとユナはそれをただ見送る形となった。
「まさか飛行までできるとは・・・」
「あんな『魔導具』が存在するなんて・・」
二人は漆黒の機体の動きを一部始終見て唖然としていた。
「少なくとも私はあんな物を見たことがありません。というより生身の魔導師すら飛行魔導なんて使えないのにどういうことなんでしょうか・・」
「あんなものがあれほどの動きをするには相当な出力の発導機とマナ供給が必要なはず・・」
そういいながらユナは顎に手をやった。
「・・もしかして『黒の魔導結晶』の手がかりになるかもしれないわね」
「・・私もそれは思いました。あんなものが普通に生み出せるとは思いません」
「それに、もしあれが帝国の新型魔導兵器だとすれば由々しき事態です」
「何せ単騎であれほど鮮やかにゴーレムを倒すくらいです」
「あんな物がもし量産されてイルティア王国に迫れば大変なことになります」
「ひとまずあの機体についてギルドに報告しないといけませんね」
「一応王都の王宮にも文を出して指示を仰ぎます」
「・・・詳しい情報と調査が必要のようね」
ユナの言葉にハーティも同意した。
そして、二人は動かなくなったゴーレムの亡骸を一瞥すると帝都への帰路についた。




