ホーンウルフ討伐依頼
ハーティーはギルドカードを衛兵に提示して帝都から出ると、周囲に誰もいないのを確認してから『飛翔』の魔導を発動した。
東の草原地帯に向かう為である。
高速で飛行するハーティーはすぐに草原地帯上空に到着した。
(えーっと・・・ホーンウルフはどこかな・・・)
ハーティーは見渡しの良い上空からホーンウルフの群れを探していた。
(・・・いた!)
すると、ハーティーの視線の先およそ三キロぐらいの場所で十頭ばかりのホーンウルフを発見した。
(私の冒険者生活最初の一撃の始まりね!)
ハーティーは『ブースト』の魔導を強めに発動すると、群の中心に向かって上空から蹴りを放った。
「必殺!流星蹴り!」
ドゥン!
ハーティーは衝撃波を放ちながら猛スピードで群の中心に激突した。
ドガアアアアアアアン!!!!
ハーティーの蹴りが地面に衝突した瞬間に、着弾地点の土は全てがめくり上がって凄まじい土埃が立ち上った。
周囲はまるで地震のように激しく揺れていた。
シュウウウウ・・・。
土煙が流れた後、深さ十メートル程まで達したクレーターの中心にハーティーは佇んでいた。
(・・やりすぎたわ)
先ほどまでいたホーンウルフたちは爆散して、それらしき肉片が見るも無残な状態で飛び散っていた。
「・・・・」
ハーティーは無言でクレーター周囲を歩き回り、幾つか辛うじて残った討伐証明の『角』を回収した。
(やっぱり手加減するには『ガンブレード』を使わないといけないわね・・・)
ハーティーがやれやれと両手で服についた土埃を払っていると、遠くからかすかな地響きのような音が聞こえてきた。
「ん?なんだろう?」
ゴゴゴ・・・。
ゴゴゴゴゴ・・・・。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・。
そしてその音はどんどん近づいて来ていた。
「!あれは!?」
ハーティーが目を凝らして見てみると、それはホーンウルフの群れであった。
どう見繕っても数百頭になる群の中には、普通のホーンウルフの数倍にもなる大きさの個体も数頭いた。
いずれも鋭い牙を剥きながら涎を飛ばしてハーティーへ向かって来ていた。
(これって・・私の蹴りで起きた地鳴りでおびき寄せられた感じ?)
ハーティーは腰に携えたガンブレードを構えた。
ガシャン!シュイイイイン!
自動的に展開されたブレードが白銀色に輝いていた。
「腕が鳴るわ!」
ドゥン!
ハーティーは地面を蹴って群れに距離を詰めると、ガンブレードのトリガーを引いた。
バババババッ!
すると、ガンブレードのリボルバーが回転し、心地よい炸裂音を鳴らしながら、装填された8発の魔導莢が真っ赤に熱を持ち次々と排出される。
チュドドドドーーン!!
直後、群れの中へ八発の『爆裂魔導』が放たれた。
それにより数十頭のホーンウルフが吹き飛んだ。
ドシュウウウウ!!
続いてハーティーはガンブレードを構えて、大型のホーンウルフに向かって飛翔する。
「はあぁぁ!」
そして、まもなく攻撃対象に到達するほど接近した時・・・。
キィィィィン。
大型ホーンウルフの口が開口し、喉奥から猛烈な炎の弾が発射された。
「嘘でしょ!?」
ゴウウ!
ハーティーの身体を容易く飲み込むほど大型の火の玉が彼女に迫る。
「くっ!それなら!!」
ハーティーは自身の防御魔導を信じて、火球をガンブレードで縦一文字に切り裂いた。
スガァァァァ!!
ガンブレードで切り裂かれた火球はそれぞれがY字に分裂してハーティー後方の地面に命中した。
命中した火球は地面を何百メートルも抉って爆発しながら消滅した。
「ホーンウルフが火球を吐くなんて聞いてないわよ!」
キィィィィン!
「やめなさいってば!」
尚も飛翔するハーティーは次弾を放とうとするホーンウルフの首を横薙ぎに切り裂いた。
グオオオン!
先ほど火球を放ったホーンウルフは断末魔の声を上げながら首を落として絶命した。
ズザア!
ハーティーはガンブレードを奮った後に華麗に着地しながら、収納魔導から新たな魔導莢を取り出してリボルバーに装填した。
そして、残りの群れに向かってトリガーを引いた。
ドゥルルルルル!
するとガンブレードの先からマシンガンのように小さなファイアーボールが放たれた。
これは魔導莢にすぐさま劣化しない程度に威力を落としたファイアーボール五十回分の魔導式を高速発動する様に刻んだものである。
ちなみにこの魔導式はシグルドに余りの魔導莢を譲ってもらった時、その本体に刻まれていたのを複製したものである。
リボルバーにある魔導莢を使い切ると、合計四百発分のミニファイヤーボールがホーンウルフを蹂躙した。
赤く熱せられた魔導莢が全て排出されると、ハーティーは残りの大型ホーンウルフ二頭に斬りかかる。
二頭が放つ火球を飛翔と体の回転で回避したハーティーは、華麗に二頭の大型ホーンウルフを切り殺した。
「・・・・」
そして、草原に再び静けさが戻った。
ヒュンッ!
ガンブレードに付与された『還元』の魔導による自浄作用で血潮一滴もついていないブレードを一振りすると、ハーティーはほっと息を吐いた。
ハーティーの目の前は正に死屍累々といった様子であった。
・・・・・。
・・・・・・・・。
(・・・これは・・思わぬ大収穫ね)
ハーティーの目の前には数百頭分の『角』が山積みとなっていた。
その中には、普通のホーンウルフよりも何倍も大きくて黒ずんだものも三本あった。
「これはシエラちゃんに今日の夕ご飯に振舞ってもらう材料をたくさん買ってあげれるわね!」
ハーティーは鼻歌を奏でながら山積みになった『角』をポイポイと収納魔導に放り込んでいった。
「さあ、まだお昼前だし一度ギルド前に戻りましょう!」
そういうとハーティーは一塊に山積みにしたホーンウルフの死体に優しく魔弾を放った。
ドォォォン!
だいぶ威力を落としたが、それでも強力なハーティーの魔弾は、ホーンウルフの死体の山を木っ端微塵に吹き飛ばした。
こうしないと後で腐敗した死体が他の魔獣を呼び寄せたりするので、討伐後の死体は焼却処分するのが冒険者のマナーである。
尤も、ハーティーのように魔弾でまとめて消し飛ばす冒険者は存在しないが。
「さてと!帰りましょうか!」
魔獣の死骸の消滅を確認したハーティーは再び『飛翔』の魔導を発動して草原を飛び去った。
・・・・。
ハーティーが飛び去った後、魔弾で完全に消し飛ばされなかった肉片が、先ほどまで激しい戦いをしていた草原の彼方此方でわずかに残っていた。
ズズズズ・・・。
そして、その肉片からわずかに黒い霧が立ち上っていた。
やがて、その黒い霧は少しずつ収まっていき、草原は数々のクレーターを刻みながら再び静けさを取り戻した。




