エルフの武器屋
ハーティがブティックから出て市街を数ブロックほど進むと、武器防具屋が建ち並ぶ通りに出てきた。
ここは昨日ハーティが登録を済ませた冒険者ギルドからも近い場所で、数多くの冒険者達が装備を整えるべく訪れていて賑わっていた。
ハーティは数店舗ある武器屋の中でなんとなく惹かれた一店を見つけると、そのお店に入店した。
「あのーすいま・・・・」
「貴様のような武器を見る目も心の清らかさもない人間に売る武器などない!」
「なんだと!てめえに何がわかるってんだ!」
「ああ、わかるね!われら『エルフ』は『魂の色』を視ることができるってことは噂でも聞いたことがあるだろう!」
「あなたの『魂の色』は暗い!清らかな心を持ってない証だ。そんな人にうちの武器は売れない!」
「はん、『はぐれエルフ』のくせに魂がなんだってんだ!」
「わたしは魔導具の研究の為に帝国に来ているだけだ!私には崇高な目的があって『はぐれエルフ』などではない!そもそも魔導具の研究という目的がなければ、このような野蛮な国など来ぬわ!」
ハーティが店内に入ると、どうやら店主と思われる人とお客が揉めているようであった。
そして、その口論をしている店主らしき人物は『エルフ』と言われる種族であった。
『エルフ』とは、この魔導帝国オルテアガよりも遥か数千キロも南に位置する樹海の中にある『エルフの国リーフィア』という場所にのみ存在するとされる希少な種族である。
『エルフ』は千年を超えると言われる長い寿命を持ち、成人した後は死ぬまで見た目の老化は起こらない種族である。
その為、外観からは当人の年齢は全くわからず、総じて非常に魔導に長けており、男女共に明るい金髪と瞳を持った美しい容姿を持っている。
そして『エルフ』は独自の教義で『女神教』を深く崇拝しており、自分たちが最もかつての神族に近い種族であると主張しているという。
しかし、基本的に『エルフ』はリーフィアのある樹海から外界に出ることがないとされ、その文化は詳しくわかっていないのが特徴である。
その為、普通の人が『エルフ』を見るのはごく稀で、見かけるとすればいろんな理由があってリーフィアから外界に出た僅かな『はぐれエルフ』と言われる存在くらいであった。
「けっ!なんだってんだ。武器屋なら他にもあるんだ。この店で買うなんてこっちから願い下げた!」
「はん!さっさと出ていきな!」
そのエルフは『しっしっ!』と言わんばかりに男を追い出す手振りをした。
「ったく、なんだってんだよ!」
エルフに追い出された男は悪態をつきながらお店を去っていった。
(なんだかややこしそうな人ね・・・)
そう言いながらハーティーは店内を見渡した。
「うっ!」
ハーティーが店内を見て思わず呻き声をあげたのには理由があった。
なぜなら、店内には多数の女神ハーティルティア像が祀られていたからだ。
それを見るに、店主のエルフが狂信的な『女神教』信者であることは想像に容易かった。
(や、やばい・・ここは静かに立ち去ろう・・)
まだ昨日の今日で王都イルティアの噂は流れ着いていないだろうが、『女神教』信者に関わらないに越したことはないと判断したハーティーはお店から出ようとした。
「ん?・・・別のお客さ・・んんん!?」
しかし、そのエルフはハーティーの呻き声に気付いたようであった。
シュバッ!
そしてハーティーを見たエルフは瞳をかっと見開かせて驚きの表情をした後、素早い身のこなしでお店のカウンターからハーティーの目の前に飛び寄ってきた。
「ひぃっ!」
ハーティーがエルフの男の奇想天外な行動に怯んでいると、男はハーティーの前で『最敬礼』のポーズをとって天を仰いでいた。
「なんということだ・・・わたしは今・・大いなる奇跡を目撃している!」
そう言いながら、エルフの男が見開いた瞳からは一筋の涙が溢れていた。
「あー・・お取り込み中みたいですし失礼しますね」
そう言いながら、ハーティーは店から出ようと踵を返した。
「お待ちください!『女神ハーティルティア』様!」
「・・・・・」
エルフの言葉を聞いて、ハーティーは仕方なく振り返った。
「・・私『ハーティルティア』って名前ではないのですが・・人違いじゃないですか?」
ハーティーは半ば諦めながらも、自分の正体を誤魔化す事にした。
「それは新手の冗談ですか?はっ!?もしや神界流のジョークですか!?」
「・・・冗談ではありません」
「ああ、何が事情がお有りなのですね。それで御身の正体を隠されていると。ですが、我らエルフは種族的に『魂の色』を認識することができるのです」
「あなた様の『魂の色』は眩いばかりに輝く『白銀色』です。私はそんな魂の色を見たことがありません。ですから我らエルフ達はあなた様が人の身ではないことを一眼で見破ることでしょう」
「ですがご安心ください!われらエルフやリーフィアにいる全ての同士は魂まで全て女神ハーティルティア様に信仰を捧げています」
「ハーティルティア様がひとたびリーフィアに訪れれば、全てのエルフは女神様の前に平伏すこととなり、あなた様の崇高な目的の手助けとなることでしょう!」
エルフの男は両拳を握りしめて興奮しながら語っていた。
「・・・・・」
この瞬間、ハーティーは『エルフの国リーフィア』にだけは絶対に行かないと心に誓った。




