冒険者ギルドにて 〜クラン視点〜
ハーティが冒険者ギルドを立ち去ってからしばらく時間が経った頃。
クランは、その端正な顔を曇らせていた。
クランは帝都リスラムの冒険者ギルドにおける責任者である。
全世界に影響力を持っている冒険者ギルドは、ある意味『女神教会』に匹敵するほど大きな組織である。
そして、その冒険者ギルドの総本部となっているのが、この魔導帝国オルテアガの帝都リスラムの冒険者ギルドであった。
因みに、都市規模が世界で最も大きい神聖イルティア王国の王都イルティアにある冒険者ギルドに本部を設けなかったのは、『女神教会』の総本部が王都イルティアに存在するからであった。
世界的な大組織である『女神教会』と『冒険者ギルド』が同じ都市にあると、権力集中が起こるということが懸念され、設立時に世界各国からの反発があったのだ。
そんな事情がある中、帝都リスラムの冒険者ギルドにおいて責任者という立場であるということは、実質クランという人物は世界中に発言力がある、高い地位を持った男であるということであった。
そんなクランの執務室は小国の国王が使う執務室をも勝るような豪華なものであった。
執務室には世界中探してもなかなか見つからないような高級素材や魔獣の剥製、そして国宝にもなりうるような骨董品などが置かれていた。
それらはかなりの数になっていたが、部屋の主人のセンスが良い為にそれぞれに調和が取れていて上品な空間を演出していた。
その部屋の中央に位置する、これまた豪華な執務机にクランは腰掛けて報告書に目を通していた。
絶世の美男子であるクランは、書類に追われてため息をついている姿ですら様になっていた。
「ここに書かれていることは事実なのか?」
クランは報告書の一文を人差し指で突きながら、報告書を持ってきた受付嬢に向かって尋ねた。
「かの有名な『煉獄盗賊団』の一団をあんなに美しい女の子が一網打尽にしたといわれても信じ難かったのに、隣国のイルティア王国からたった一人で旅をしてきたというのか」
「・・お気持ちは分かります。ですが事実です」
「しかも、本人は冒険者ですらなく、ただの通りすがりの魔導師だったというじゃないか」
「はい、登録受付用紙の記載も『魔導師』となっていましたし、これと言った武器も携帯していませんでしたので間違いないかと・・」
神聖イルティア王国の王都イルティアと魔導帝国オルテアガの帝都リスラムは隣国同士とはいえ千二百キロ以上離れている。
パーティで活動している冒険者であったり、優秀な護衛を雇っていた商隊ならばわからないでもないが、丸腰の魔導師でしかも絶世の美少女であるハーティが、盗賊や魔獣が跳梁跋扈している陸路をたった一人で旅していたという事実をクランは信じられないでいた。
尤も、ハーティが音速よりも速い速度で隣国から飛行してきたなど、だれも想像できるはずはなかったが。
「・・・まあ、下手な演技で隠していたが彼女は『収納魔導』の使い手であるみたいだから、相当な素質を持つ魔導師であるとは思うんだが・・・」
いくら金貨袋とはいっても、それを収納しうるだけの収納魔導の使い手は世界中を捜してもなかなか存在するものではなかった。
そもそも収納魔導の使い手になれるくらいの高度な魔導士であれば、わざわざ冒険者などという明日もわからない命の危険と隣り合わせな仕事を選ばなくても、世界中どこでも十分に裕福な暮らしができるはずだった。
それほど、この世界において『優秀な魔導師』というものは貴重な存在であったのだ。
「それと・・・」
「なんだ?」
突然言いにくそうな態度を示した受付嬢に、クランは怪訝な表情を向けた。
「彼女に魔導師の適正検査してもらったのですが・・・石板の魔導式が全て激しく発光したのです」
ガタッ!
「なんだと!!!!」
クランはあまりに驚愕な事実を聞いた為に、思わず立ち上がったのであった。
「あの『賢者の石板』を光らせたのか!」
「そうです・・」
「なんということだ・・・あれは魔導結晶の鉱床付近にある特別な鉱石板にマナ流入阻害の術式と流入したマナを光に変換させて放出する術式を隙間なく刻んだものだぞ!」
「魔導師としての素質が無ければ石板にマナを込めて発光させることすら困難だし、発光させたとしても石板にマナが行き渡るまでに光に変換されてしまう為に変換量を超えたマナを込めないと石板全体を光らせるなんてことは不可能なはずだ!」
「そもそも手を宛がった所からどれくらい光が広がったかでマナの放出能力を調べるものなのに、全部が光ったということは『測定不能』ということじゃないか!」
「・・いままで石板全体を発光させた魔導師はいらっしゃるんですか?」
「いるわけないだろう!今までいた魔導師で最も優れた人材でも石板の半分を光らせるのがやっとだったんだぞ!しかもその魔導師は今や一級冒険者として世界中で活躍している・・」
そう言うと、クランは眉間を指でつまみながら考え込みだした。
「・・・・リーシャ」
「はい?」
クランは目の前にいる先程ハーティに対応をした『リーシャ』という名の受付嬢の両肩に手を添えた。
「ひゃ!?」
突然の状況に、リーシャは顔を真っ赤にして驚いた。
「君が『ハーティ』の専属受付嬢として彼女の動きをよく見ておいてほしい!」
「彼女はおそらく、そう遠くない未来に必ず世界中に名を轟かせる冒険者になるだろう」
「なんとしても彼女をこの帝都リスラムの冒険者ギルドで囲い込まないといけない」
「お願いできるか?」
「は・・・・はひ・・」
リーシャは相変わらず顔を真っ赤にしながら、まるで壊れた人形のようにカクカクと首を縦に振っていた。
(それに・・・この僕が口説いても全く気にも留めない女性は初めてだ・・・)
クランはその容姿と立場で、今までどこに行っても出会った女性は皆クランに対して好意を抱いていた。
だから、今までどれだけ美しい女性に言い寄られたとしても、クランは『面倒だな』というくらいの感覚しか生まれなかったのだ。
そんなことから、クランはハーティのクランに対する反応で、生まれて初めての新鮮さと驚きを感じたのであった。
(美しくも謎を秘めた魅力的な女性・・・)
(僕はもっと彼女のことを知りたい・・・!)
(そして必ず僕に興味を持ってもらうぞ!)
クランは人生で初めて、女性に対して積極的にアプローチしようと思ったのであった。




