帝都宮殿にて 〜オルクス皇帝視点〜
帝都リスラムの中心に聳え立つ宮殿。
その最上部に位置する謁見の間にある豪華な玉座に、一人の男が頬杖をつきながら座していた。
燃えるような真紅の髪と鋭い瞳が特徴的なその男は、豪華な宝飾を身に纏い純白のクラバットが似合う美男であった。
彼こそが魔導帝国オルテアガ皇帝、オルクス十四世であった。
前皇帝は五年前のオルクスが二十歳の時に病により崩御した為、嫡男であった彼が若くして即位したのであった。
そして、彼は弱冠二十代でありながらも新しい魔導工学の市場導入や経済対策に積極的に力を入れており、臣民からの支持は非常に厚かった。
今、そんな彼の御前には一人の軍務卿が緊張した面持ちで跪いていた。
その跪いた男は名をクウォリアスと言い、初老の男であったが屈強な体格をしていて白髪をオールバックにしており、短く切りそろえた顎髭が似合うダンディな男であった。
「クウォリアス軍務卿、面を上げよ」
「はっ!」
「こんな早朝に呼び立ててすまぬな」
「いえ!何を仰います。尊き御身に呼び奉られば、速やかに馳せ参じるのが臣下というものです」
そう言いながらクウォリアスは一礼した。
「うむ、大いに結構。して、例の『西の谷』の調査報告についてだが・・・」
「ええ、昨日の調査隊からの報告によれば、西の谷を作っている岸壁が数百メートルに渡って抉り取られたように消滅していたようです」
ガタッ!
「それは真実か!?」
オルクス帝はクウォリアスの発言を聞いて思わず立ち上がった。
「はい。そしてその規模を見るに、やはり人の身ではいかなる魔導をもってしても、それだけのことを成し遂げる威力を持つものは無いかと・・・」
「先にあったドラゴン出現の線はどうだ?」
「仮にそうであったとすれば、被害があまりにも局所的で不自然かと」
「そのような自然生物の類であれば、他にも必ず何らかの軌跡が残るものですし、意図もわかりかねます」
「やはり、人為的なものによるという線が濃厚かと思われます」
「・・・帝国魔導省からの演習報告は無いのだな」
「はい・・・そのような事実はございません」
そう言いながら、クウォリアスは目を伏せた。
「となれば、やはりイルティア王国の新兵器か・・」
「新兵器の演習をするには目立ってしまい不適切ですが、もしかすれば何らかの事故があったかもしれません」
「しかし、西の谷は帝国の地だ。もしそれが事実であれば、大変な国際問題になるな」
「はい、イルティア王国とは積極的な国交はありません、このようなことがこれからも起こってこのまま緊張が続くようなことがあれば、再び戦争も起こり得るかと」
それを聞いたオルクス帝は顎に手をやりながら思案した。
「イルティア王国がそれほどの新兵器を開発したとなれば事態は深刻だ」
「クウォリアス軍務卿、魔導省に通達を。『例の新兵器の開発を急げ』とな」
「!!」
オルクス帝の言葉を聞いたクウォリアスは目を見開いた。
魔導省とは帝国政府内の専門部署であり、帝国を支える国立の先進魔導工学を研究する為の機関である。
「まさか、魔導省のクラリス博士と二アール博士がそれぞれ開発を進めている『魔導機甲』ですか?」
魔導帝国オルテアガはその名の通り魔導工学に力を入れており、魔導工学を専門に学ぶ国立の魔導アカデミー等も開校されている。
そして、アカデミー時代から研究者として優れた能力を見込まれた者は、年齢に関係なく魔導省の研究者として引き抜かれる。
話題のクラリス博士と二アール博士は、アカデミー時代からその才能を遺憾無く発揮することにより魔導省の筆頭研究者として抜擢された人物であった。
二人はまだ十九歳の少女であり、お互いに幼なじみでありながら魔導省の研究者としてライバル関係にあり、お互いに別々の方向性で魔導具の開発などに携わっていた。
「ああそうだ。もしイルティア王国の新兵器と対抗することになれば『魔導機甲』の実用化と量産化の実現が不可欠であろう」
「ですが『魔導機甲』の実用化には動力となる発導機のマナ供給に対する問題を解消するのが難しいと聞きましたが・・」
「だが、事実西の谷で起こった事象には兵器であれ、魔導であれ、何らかの方法で膨大なマナが消費されたのは間違い無いであろう」
「もし、イルティア王国が大規模なマナの行使を実現できるのであれば、きっと帝国でも実現できるはずだ」
「後日余も魔導省に視察へ向かうとしよう。くれぐれも頼むぞ。クウォリアス軍務卿」
「御意に」
クウォリアスはオルクス帝の命を受けて、再び頭を垂れた。
「女神の盲信者達め・・・」
「余は認めぬぞ・・空想の女神なぞ何も救わぬのだ」
「魔導工学こそがこれからの人類を発展させるということを知るがいい・・」
オルクス帝はその鋭い瞳を西の王国に向けていた。




