王都決戦2
「やぁ!」
ドゴォ!
「はぁぁ!」
ベキョ!
「せい!」
ドガァァン!
「「ギギギギギ!!」」
(・・ち、きりがない!・・やはり元凶をなんとかしないとダメね・・)
ハーティは廊下蔓延る無数のアンデッドを殴り倒しながら、物思いに耽っていた。
(イラが言う通り、邪神の力が復活しているとすれば・・今の世界の人間が使うような浄化魔導ではきっと太刀打ちできない・・)
あの聖女であるリリスの行使する浄化魔導ですら、儀式を伴って何とか上級浄化魔導を発動するのが精々である。
しかし、邪神そのものを消滅させるには、基本的に強力な光属性の浄化魔導しかないのだ。
(それにイラは、『黒の魔導結晶』が他にも存在すると言っていた・・・)
(・・・となれば、それらを何とかしない限り、『邪神デスティウルス』の復活を阻止することはできない・・)
(それに・・、私やリリスのように『邪神』もイラ以外の何柱かが存在している可能性もありうる・・となると・・今後のことも考えないといけないわね・・)
「一の剣、『火炎』!!!」
ゴゥゥゥ!!
「「グギャァァァ!」」
「喰らえ!『エクスプロージョン』!!」
「『ホーリーライト』!」
「「ァァァァァ!」」
「「ォォォォォォ!」」
「・・お嬢様、もう間もなく本礼拝堂です!」
「・・ここまでアンデッドが迫っているなんて!!」
ハーティ達がアンデッドを倒しながら突き進んで行くと、本礼拝堂へ続く大扉が見えてきた。
しかし、その大扉の前では何人もの神官がこと切れて倒れており、デビッドの体を乗っ取ったイラが、まさにその扉を開け放とうとしていた。
「くっ!イラ!!待ちなさい!!」
しかし、ハーティの言葉は届かずに、イラは勢いよく本礼拝堂の扉を開け放った。
扉の向こうでは、何人かがアンデッドが侵入してこないようにバリケードをして扉を押さえていたようだが、それら諸共吹き飛ばされてしまった。
そして、本礼拝堂を守る神官たちが展開したと思われる防御魔導は、シャボン玉のようにあっけなく破られてしまった。
本礼拝堂には予想通り、ミサの為に数千人の参拝者が集まっており、祭壇の付近には王国の重臣や王族が集まっていた。
参拝者たちは、見た目がデビッドであっても、いつもと違う雰囲気をもっている彼から距離を取って怯えているようであった。
そして、イラが本礼拝堂に入った後、ハーティ達がその後を追うように押しかけた。
「これ以上民衆を巻き込むのは見過ごせないわ!!!」
「ははは、どうやら闘技場のアンデッドからは生き延びたようだな!しぶといやつらだ!」
その二人の会話を聞いて、ミリフュージアが一歩前へ出てきた。
「!!王妃陛下!危のうございます!」
護衛がそれを止めようとするが、ミリフュージアはその制止を無視して語りだした。
「デビッド!一体どうしたというの!こんなことをしでかして・・・あなたはこんなことをする人じゃないはずよ・・」
「王妃陛下・・デビッド殿下は今・・邪神に心を乗っ取られて正気を失っています」
「ハーティ様だ!」
「どうして、ここへ・・それにあの恰好・・」
「邪神だって!?どういうことなんだ!」
「邪神は太古の昔に滅んだのではなかったのか・・」
ザワザワ・・・。
「そんな・・デビッド・・」
それを聞いたミリフュージが崩れ落ちそうになるのを、国王陛下が受け止めて支えていた。
「・・・ミリフュージアよ・・・」
その国王陛下の顔も、絶望と悲しさが織り交ざった様子であった。
そして、『邪神』というハーティの言葉を聞いて、周囲の人々が騒ぎ始めていた。
「ふふふふはははははは!」
「愚かな人間共よ。いかにも、彼奴の肉体は我が『イラ』のものとなった」
「そして、この世界は我々『邪神』が滅ぼしてくれよう!」
「なんということだ・・・・我々はいったいどうすれば・・・」
イラの言葉を聞いて、国王陛下が更に絶望の声を上げていた。
「邪神が復活しただと!?」
「あああ・・・・もうおしまいだ」
「ハーティルティア様がいらっしゃらない世界で、我々が『邪神』に対抗する術などない・・」
そして国王陛下の声を皮切りにして、参拝者たちへも大きな絶望が広がって行った。
「そんなことはさせないわ!!!」
「そうです。この世界は私たちのもの・・邪神などに滅ぼさせるわけにはいかない!!」
「ハーティルティア様の造られたこの世界での狼藉は、この聖女リリスが許しません!」
「我々が信仰するハーティルティア様の名において、貴様を成敗する!」
それぞれが言葉を発してイラに対峙する。
「マクスウェル・・ハーティちゃん・・みんな・・」
そして、それを不安そうにユーリアシスが見ていた。
「だめだ、ハーティ!危険だ!はやくこちらに来なさい!!」
「・・・お父様・・」
そして、レイノスはハーティを見て顔を青ざめさせていた。
「・・・それにしてもこの世界は本当に不便だ・・・」
「わが身は邪神であるのに、人間どもの肉体を得ないといけない・・そして、肉体を得ても無尽蔵にマナを使えない・・」
「もし本来の力がすべて使えれば、こんな国など一瞬で消し飛ばせるものを・・・」
「やはり、さっさと貴様らを皆殺しにして『黒の魔導結晶』を探しにいかねばな・・」
「・・・というわけで・・早速貴様らには死んでもらおうか!!」
その直後、ハーティ達が入ってきた入口からアンデッドが雪崩れ込んできた。
「うわぁぁぁぁ!!」
「なんだ!あれは!!」
「おしまいだ・・おしまいだ・・」
そして、それを見た人々が更にパニック状態となっていった。
「マクスウェルとユナは入口のアンデッドをお願い!リリスはみんなを守るためにできる限り強固な防御魔導をお願い!」
「・・イラは私が食い止める!」
「だが・・・・・」
ハーティの言葉を聞いて、マクスウェルは納得できないという様子であった。
「このままでは全滅よ!早く!」
「わかりました、お嬢様!さあ殿下!アンデッドを食い止めましょう!」
「・・くそ!わかった!!」
そう言うと、二人はアンデッドの集団へと駆けて行った。
「・・・・・・『マジックシールド!!』」
そして、リリスはありったけの魔導結晶を両手に握りしめて、中級防御魔導を発動した。
「邪神相手には気休めにもなりません、長くは持ちませんよ!」
「わかったわ!!」
それを聞いて、ハーティはイラの方へと駆けて行った。
「!!!ハーティちゃん!!」
「なっ!ハーティ!やめなさい!!」
「「「ハーティ様!!」」」
それを無謀な行動と思ったのか、防御魔導壁の向こうへ追いやられた人々が、ハーティを止めようと声をかけた。
「ふん、ちょうどいい・・・悠久の恨み!貴様から滅ぼしてくれる!!」
そういうと、イラは手から黒い球状の魔弾を放った。
この魔弾は邪神だけが使える闇属性の魔導であり、もし生身の人間に当たればひとたまりもない。
ハーティは次々と放たれるそれを巧みにかわしてデビッドへと迫っていった。
「は・・・ハーティちゃん??」
「・・・いったいどういうことだ!?」
ユナやハーティの事情を知らない人たちは、二人の今まで見たことのないような俊敏な動きを見て、驚きを隠せない様子であった。
しかし、イラと対峙しているハーティ達にはそのことを気にする暇はなかった。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、ハーティはイラが乗っ取っているデビッドに拳を撃ちつけた。
「ふん!小癪な!」
バシィィィン!!
しかし、イラはそれを軽々と掌で受け止めた。
シュウウウウウウウ!!!
「あぁぁぁぁぁ!!」
そして、イラに受け止められた拳からどす黒い煙が立ち上がって、ハーティは苦痛に声を上げた。
「お嬢様!!」
「ハーティ様!!」
「ハーティ!」
「ハーティちゃん!」
「「「ハーティ様・・・!」」」
そして、それを見た全員が息を飲んだ。
「・・・ふん、『邪神の力』を受け止めるとは・・・貴様・・もしかしてその身で『女神の力』を持っているのか・・」
「・・・はぁ・・はぁ・・く・・デビッドの肉体が・・『邪神の力』に染まっている!!」
かつての『神界大戦』において、神族の持つ『光の力』と邪神が持つ『闇の力』は相反するものであった。
そして、それぞれの力はお互いを滅ぼすための唯一の力であった。
女神の能力を持つハーティにとって『闇の力』は脅威となるが、イラの『闇の力』は肉体を得ることで弱体化を余儀なくされたことにより、少し触れた程度ではハーティの体に軽微なダメージを与える程度に留まった。
それでも、久しぶりに体感した『闇のダメージ』はハーティにとってかなりの苦痛を伴った。
もしこの『闇の力』の影響を普通の人間が受けた場合は、瞬時に闇に落ちて生命を奪われてしまい、邪神の眷族として『アンデッド』に変貌してしまう。
シュウウウウウ・・・。
ハーティは焼けただれた自分の拳を一瞥したあと、イラに視線を向けた。
(ここまでデビッドが『闇の力』に浸食されていれば・・・もうイラ単体を切り離すことができないかもしれない・・)
(・・そうなれば・・私は本当に覚悟を決めないといけない・・だけど!!!)
ぎゅ・・・・。
(私はデビッドを・・みんなを救いたい!!)
ハーティは両手を強く握りしめて、デビッドに向けて声をかけた!!!
「お願い!デビッド!!私の声を聞いて!!!」




