イラの神託 〜アレクス侯爵過去視点〜2
イラによって下された神託による、魔導結晶の採掘場所はグラファイト侯爵領内にあった。
指定された採掘場所がグラファイト侯爵内にあったとしったアレクスはここ幸いにと早速王国に対して魔導結晶の採掘に対して報告を行った。
今まで全く新規事業に興味を示さなかったアレクスの突然の行動に王室は疑問を呈したが、自領での新規事業であり、それによって生まれた収益に見合う税金を納めるのであれば王国としては何も問題ない為、これを承認した。
アレクスは承認を受けると早速手持ちの財を惜しみなく投じて大人数の冒険者や魔導士をやとって採掘事業を始めた。
そして、自らの中に同化したイラに発掘された魔導結晶を見せてきたが、それらはどれもイラが求めるものではなかった・・・。
そして、イラの神託に従ってアレクスがグラファイト侯爵領外縁の山脈にて魔導結晶の採掘を始めてから、9年近くが経過した頃・・・。
アレクスは魔導結晶の採掘現場を視察していた。
あれからアレクスは冒険者ギルドに更に高額の報奨金を提示して多数の魔導結晶採掘依頼を出した。
それは他人についてお金を出し渋ることで有名であったアレクス侯爵が出す依頼としては破格の値段であった。
そして、高額の報酬を惜しまず中級以上の土属性や火属性魔導を発動できる魔導士を雇い、鉱床を掘り進む為の掘削や発破、地ならし、掘削した洞窟の壁面補強というようなに業務に従事させた。
そのようなことを9年も続けていたので、魔導結晶の採掘場所では巨大なクレーター上の採掘現場が出来上がっていた。
アレクスは9年の採掘期間の間、魔導結晶の採掘作業を積極的に確認する為に採掘現場へ度々通っていた。
それは、採掘現場はグラファイト領内の屋敷や王都の屋敷からも距離が離れていた為、わざわざ採掘現場滞在用の屋敷を新築したほどの熱心さであった。
それほど大規模な発掘作業を行っていたのだが、アレクスは自分のグラファイト侯爵領内で採掘作業を行っていたこと、あらかじめ王国に承認を取った上で、生まれた収益についての納税はきちんと行われており、これといった不正のようなものも一切無かったことで、王国側としては『グラファイト侯爵家が魔導結晶産業に手を出し始めた』という程度の認識であり、さほど気に留められることもなかった。
そして実際に、未だにイラが求める魔導結晶は発見できなかったが、イラが指定した場所では通常の魔導結晶が沢山採掘され、結果グラファイト侯爵家の大幅な増収につながった。
それにより、アレクスはますますイラの神託に妄信的となっていったのであった。
そして、いよいよその時はやってきだ。
アレクスはいつも通り、採掘現場を見下ろせる高台の場所で設営されたテントの下で、お気に入りのメイドを侍らせながら年代物の高級ワインを口移しするなどして愉しんでいた。
その時、魔導結晶の採掘現場責任者の人間が、アレクスの下に息を荒げながら駆け寄ってきたのであった。
「アレクス様!!アレクス様!」
「どうした、騒々しい!」
「ようやく・・ようやく!アレクス侯爵様の探してらっしゃるものと見られる魔導結晶を発見しました!!」
「なんだと!?本当か!?」
その言葉を聞いてアレクスはその男に駆け寄った。
「はい、例の魔導結晶は採掘現場の最深部にあります。少しご足労をかけますがご確認お願いできますか」
「当たり前だ、さあ早く連れてくのだ!!」
そして、アレクスは責任者に連れられて魔導結晶採掘現場の最深部へ向かった。
9年かけて掘り進んだ採掘現場は徒歩で行くにはかなり遠い距離があったが、ようやく神託を達成できると喜んだアレクスは不思議と全く苦痛を感じなかった。
そして最深部へ向けて二時間ほど歩みを進めると・・・。
そこには採掘を進めていった洞窟の行き止まりがあった。
そこは松明で柔らかな光で灯されていたが、非常に薄暗い場所であった。
そして、その薄暗い空間の中で聳え立った岩の壁の中心付近で、ひと際目立つ光があった。
そこにはアレクスが今まで見たことがない、美しく黒色に輝く魔導結晶が埋まっており、青白い光を放っていた。
「おお・・・・」
アレクスはそれを見て思わずため息をついた。
それはアレクスが見た魔導結晶の中で、最も美しく妖しく惹きつけられるものであった。
(イラ様、こちらがお探しのものでお間違えありませんでしょうか?)
((おお、素晴らしい!まさにこれこそ我が探し求めた『黒の魔導結晶』だ))
(く、黒の魔導結晶ですか?)
((左様、これこそが我々神族が復活するために必要となる魔導結晶だ))
(これで我々の悲願を達成できるというものだ!)
((そうでございますか!!それは素晴らしい))
「よくやった!貴様には褒美をやろう!」
イラから絶賛を受けて気を良くしたアレクスは採掘現場責任者の人間に報酬を与えることにしたのだ。
「ありがたき幸せ」
そして、その後掘り出された魔導結晶をアレクスは手に取った。
それは魔導にあまり明るくないアレクスにとっても、とてつもなく膨大な見知らぬ力が内包されているように感じられた。
(イラ様。こうしてようやくお探しの魔導結晶は手に入れました。私めはこれをどのように使えば良いのでしょうか)
アレクスはただひたすら神託に従って魔導結晶の採掘に携わっただけなので、具体的に採掘した魔導結晶をどういうように使うのか見当がつかなかった。
その問いに対してイラは答えた。
((この魔導結晶はそなたたちが言う『魔導の才能』に恵まれない人間に対して大いなる力を授けるものである))
((この魔導結晶をそなたが知っている『魔導の才能による壁で苦しんでいる』人物に渡すと良い))
((さすれば、その人物の魔導は飛躍的に開花し、そなたの望みを叶える一助となるであろう))
その言葉を聞いてアレクスは真っ先にある人物が頭によぎった。
『デビッド殿下』である。
彼はかねてより自身の魔導の才能について悩んでいる節があった。
そして、アレクスがイラの神託により『黒の魔導結晶』を手渡すことにより、彼の魔導の才能が開花すれば・・。
アレクスが望む『第二王子による立太子』が実現し、そしてその後ろ盾になることによりオルデハイト侯爵家を出し抜くことができる・・・。
更にはそのことによって何らかの策略でマクスウェルとハーティの婚約を破綻に持ち込めば、婚約を破棄されたことによる傷物となって、嫁ぎ先に困ったハーティを『自らが』娶ることができる可能性も生まれてくる・・。
そのような妄想が膨らんでくるアレクスはイラの神託に感謝して、ニタァと陰湿な笑みを浮かべた。




