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転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい  作者: RYUJIN
第一章 神聖イルティア王国編
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ユナ、覚醒

 ハーティは『ブースト』を常時発動した時にユナがどんな感じになるのかを想像してみた。




 ・・・・・・・・。





『ハーティ・・・君は今日も素敵だね』


『もう、マクスウェル!いつもそんなことばっかり言って!』


『どうやったらこの気持ちが君に伝わるのかな??』


『そうだ、いっそ君のことを美味しく頂いちゃおうかな?』


『もう、私は食べ物じゃないわ!』


 シュバ!


 そんな会話をしているときに突如嵐のような風が吹き荒れる。


『??』


『ぬぅぅん!!』


 プチッ!!


 ユナの声と共にマクスウェルが・・・・。




 ・・・・・・・・・・。





「今の話は聞かなかったことにしましょう」


 ハーティは想像の結果、皆の安全を優先することにした。


「嫌です!!!お嬢様!私はもっと強くなりたいのです!お願いします!」


「デスヨネ・・・」


 このような話を聞いて、ユナが諦めるはずもないのであった。


 と、いうわけでハーティはユナのマナの流れを変える方法を、リリスから伝授してもらうことになった。


 リリスに促されたハーティとユナは、お互いが向かい合わせになるように立った。


「ハーティ様はユナさんの両肩に手を添えてください」


「こうかしら?」


「ようございます。そして、ユナさんは目を瞑って流れ込んでくるマナを意識してみてください」


「わ、わかりました」


「それでは、ハーティ様は『ブースト』の魔導を使う時のような感覚で体内のマナを操作して手のひらから放出し始めてください」


「このとき、初めは少ないマナから徐々に放出する量を増やしていってください」


「でないとハーティ様の凄まじいマナ放出にユナさんの体が持たなくなりますので、くれぐれも注意してください」


「わ・・わかったわ」


 ユナの身を案じたハーティは緊張しながらマナを流し込み始めた。


「・・・・ユナさん。どうですか?マナの流れを感じますか?」


「・・・はい、多分・・ですけど肩からなにやら暖かいものが流れ込んでくるような感じがします」


「それがマナです。引き続きそれに意識を集中してください」


「魔導を使ったことがない人はマナの流れを感じにくいですが、後程『ブースト』の魔導を使う時に()()()()()を掴む感覚は必要なので、今のうちに覚えてくださいね」


「・・わかりました」


「ではハーティ様。マナ放出を徐々に強めていってください」


「ええ・・・・こう・・かしら?」


 ハーティはマナ放出の加減がわからないので恐る恐るという感じであったが、思った以上にユナのマナ出力が高いのか、まだユナに変わった様子は感じられなかった。


「もう少しあげても大丈夫ですよ。もう少し放出量を増やす速度を上げてみましょう」


「わかったわ」


 そして、ハーティは結構な量の放出を意識してユナにマナを流し込む。


 イメージ的にはマクスウェルが『ブースト』を発動する時に消費すると思われるマナの3倍くらいの量といったところか。


 そのくらいになると、ユナの表情に変化が生まれ始めた。


「はぁん!?」


 ユナが顔を赤らめながら、嬌声のような声を上げ始めたのだ。


「だ、大丈夫!?」


 ハーティは心配になって思わずユナに声をかけた。


「だ、大丈夫です!お嬢様の・・熱いものが!!たくさん流れ込んできて・・はうぅ!」


「ぐ・・ぐぬぬ・・」


 ひとまずは問題なさそうなので、ハーティはユナにマナを流し続けることにする。


 そして、何故かリリスはいつも通りの悔しそうな表情をしていた。


「はぁはぁ・・でも・・なんだかマナの流れがわかってきまし・・た」


「その感覚を忘れずに、そのまま自分のマナをハーティ様のマナに混ぜ合わせるようなイメージをしてください」


「はい・・こ・・こうでしょうか・・・んくっ!」


 ユナは頬を上気させながらもリリスの言葉に従う。


「いい感じに二人のマナが混ざり合ってきましたね。では、ハーティ様はそのままご自身のマナを一気にユナさんの体に巡らせてください」


「わかったわ、ユナ・・準備はいい??」


「は・・はい!お願いします!」


「いくわよ・・・・はぁぁぁ!」


 ハーティがマナの放出をさらに高めた瞬間・・・。


「はぁぁぁぁぁぁん!」


 ユナが一際大きな嬌声を上げた後にへたり込んだ。


(く・・ハーティ様直々にマナを込めてもらうなんて、なんて羨ましい・・)


「・・コホン、どうやらうまくいったようですね」


 何やら邪な小声を発した後、リリスはハーティに術の成功を伝えた。


「・・・ユナ、大丈夫?」


「ええ、大丈夫です・・それよりも・・これが()()の感覚なのですね!!」


 通常、マナを体内に蓄えられる人間は自分のマナを感じることができる。


 自分のマナの感じ方にはそれぞれさまざまなタイプがあり個人差があるが、魔導士が魔導を発動する時には自分の体内にあるマナを意識して操作している。


 いままで出力したマナがそのまま霧散放出されていたユナにとっては、『体内のマナを感じる』というのは生まれて初めての感覚であった。


「それで、『ブースト』の魔導はどのように発動するのですか!!」


 ユナは初めての魔導行使に興奮しているようであった。


「うーん、私が『ブースト』を発動する時はきっと詠唱(キャスト)無しに感覚で発動するからなあ・・」


「そんなことができるのはこの世界では女神の力をもったハーティ様だけですね」


「それでしたら、今回は『ブースト』の魔導式を描きますのでそれを使ってください」


「ですが、それがない場合はやはり詠唱(キャスト)が必要になるので詠唱術式(キャスト・スペル)も覚えてくださいね」


そういいながらリリスは手短な羊皮紙にサラサラと魔導式を描いていた。


「へえ、そんなことできるのね」


「はい、これでも『聖女』ですから、いろいろな魔導の魔導式や詠唱術式(キャスト・スペル)は覚えました」


「『聖女』の奉仕活動の一環として初級治癒魔導の魔導式を羊皮紙に描いたものを、王都の医療ギルドに寄付したりしていますから」


 羊皮紙に魔導式を記したものはスクロールと呼ばれ、それに描かれた魔導式の発動に必要なマナが使用できる人間であれば、だれでもそれを媒介して該当魔導を発動できる。


 それらは、女神教会が定期的に寄付する初級治癒魔導のものは診療所の治癒魔導等に活用され、初級攻撃魔導のスクロールは魔導士の小遣い稼ぎとして冒険者ギルドなどに売却された後、それを必要とする冒険者が購入する。


 ちなみに上級魔導のスクロールなどは手間がかかる上に行使できる術者も少ないので、商売目的としてはあまり好んで作成されず、半ば道楽の領域でしか出回らないので数が非常に少ない。


 そして魔導式は羊皮紙でなくてもどのような素材にも描くことができるが、マナを込めることによって基本的に媒介となった素材は劣化してしまい再利用ができない。


 また、金属などに掘り込むとすれば手間がかかるし費用もかかるということで、スクロールの作成は専ら羊皮紙にインクで魔導式を描く方法が用いられている。


 そしてユナはリリスが即興で書いた『ブースト』のスクロールに描かれた魔導式に掌を押しつけてなぞる。


 こうすることで、ユナのように意識してマナを込めることが出来なくても、掌から霧散しているマナを無理やり込めて魔導を発動できると考えたからだ。


 すると、使用した羊皮紙が黒く染まり、代わりにユナの体へ『ブースト』の魔導が発動した。


「すごい・・・!全身から力が漲ってくるみたいです!!!」


 基本的に『ブースト』の魔導を発動していても外見的な差異は見られない。


 だが、ユナには『ブースト』の発動が実感できたようであった。


「どのくらいの『ブースト』がかかっているか試してみたいわね・・・あ!そうだ!」


 ハーティはふと視界に入った角砂糖を一つ手に取ってユナに手渡した。


「ユナ、ためしにこの角砂糖を誰もいない壁にむかって弾いてみて?」


 ハーティはいくら『ブースト』がかかっていても、角砂糖ごときであればそれほど大変なことにならないと思った。


「わかりました、それでは・・・えい!」


 そして、ユナがその角砂糖をデコピンの要領で弾いた瞬間!!!


 ビシュゥゥゥゥン!!!!


 ユナの指先から激しい閃光が迸った後、先ほどまでの角砂糖は無くなって応接室には甘い香りが広がった。


「・・・・おそらく弾いた角砂糖の初速があまりに速すぎて、指先から数メートルのところで摩擦によって燃え尽きてしまったようですね・・・」


(・・・・マクスウェル超逃げて!!!)


 ハーティはユナのあまりにも強力な()()()()の威力に戦慄した。


「と、とにかく『ブースト』を急いで解除して?」


「そ、そうですね。このままですとユナさんが動くだけでここの床や壁が壊れてしまいます」


 リリスの話を聞いたユナは、すぐに『ブースト』の魔導を解除したのであった。


「ひとまずは『ブースト』の強度を調整できるようになることと、発動に必要な詠唱術式(キャスト・スペル)を覚えるようにしましょう」


「そ・・そのほうがいいですね」


 ハーティ達はユナの『ブースト』についてこれからの課題を話し合ったあとに応接室から本礼拝堂に戻った。


 ちなみに本礼拝堂に戻り、ハーティと聖女であるリリスの間で交わされる会話を聞いて、その上下関係に疑問を呈したヴァン枢機卿が、その件についてリリスに尋ねたところ・・・。

 

リリスは『滅多なことを聞くものではありませんよ』と、微笑みながらも氷のように冷たく鋭い眼差しでヴァン司祭を言いくるめていた。


 そして、その後行われた体裁を保つだけの『本洗礼』では・・。


 どうしても形式上、ハーティがリリスに恭しい対応をしないといけなかったので、リリスはそのことに身悶えしながら儀式を執り行っていたのは言うまでもなかった。


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