最終話 『転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい』
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
そして、ハーティ達が『リーフィア』に戻ってから三ヶ月が過ぎた頃・・。
「どうしてこうなったの・・」
朝日が差し込む荘厳な玉座に似つかわしくない黒髪の幼女が、ちょこんと座りながら嘆息した。
嘆息する彼女の前には、世界中の代表や重鎮達が『最敬礼』をしたり、跪いたりしていた。
その中には、『イルティア王国』のジル国王や『アーティナイ連邦』のミウ大統領、その他『女神教』を国教とするすべての国の代表と『女神教会』の総司祭や枢機卿がいるのはもちろんであったが、『魔導帝国オルテアガ』のオルクス皇帝まで含まれていた。
「それだけ君が偉大で、人類に愛されているってことだよハーティ。私は鼻が高いが、ちょっと妬けてしまうね」
「マクスウェル、爽やかにウィンクなんてしてるけど、結局あなたも私を『リーフィア』に送り届けたまま、ずっとこの国に居座っていたわね?」
「居座っていたとは失礼な。私はちゃんと君に許可をとったよ?それに、私は父上にハーティが『イルティア』に戻るまでは帰ってくるなと言われた身でね。あとは・・目を離した隙に君に横恋慕する輩が多いだろうからね」
「ほう?」
マクスウェルはそう言いながら、跪くオルクスを一瞥した。
「こんなちんちくりんな私に恋する人なんているわけないじゃない」
「はぁ・・まったく、君はもっと自分の魅力を知るべきだね。まあ、君が鈍いほうが私には好都合だが」
「・・ちっ」
「こら、ユナ。舌打ちが聞こえているわよ。で、話を戻しますけど、皆さんの国が無条件で『リーフィア』の傘下に入るという話は本当ですか!?」
ハーティが尋ねると、ジル国王が胸に手を当てながら口を開いた。
「もちろんですとも、もともとこの件はハーティルティア様が『リーフィア』の女王に即位なされたという話を耳にしてから余の国で検討されていた事でして」
「それにしても、ハーティルティア様も謙虚でらっしゃいますな。余を含めた『神聖イルティア王国』の民は、デスティウルス討伐をなされたハーティルティア様が戻られることを今か今かと待っておりましたのに、まさかそのまま『リーフィア』に引き篭もられるとは。ですから、余の方から御身の元へお伺いしたのですぞ」
「そ・・それは」
「みずくさいのう・・ハーティーさんが恥ずかしいと言ってくれたら、『アーティナイ連邦』の民は静かにそち達を迎えたと言うのに・・」
「と、いうわけでハーティ嬢。その点、『魔導帝国オルテアガ』はいいぞ。なにせ、最近まで『女神教』を崇拝していなかったのだからな。そなたの望み通り、落ち着いて暮らしていけるぞ?」
オルクス皇帝の言葉を聞いたジル国王が慌てて立ち上がる。
「何が『落ち着いて暮らしていけるぞ?』であるか!!しれっと抜け駆けしようとしてもそうはいかぬ!!それに!ハーティルティア様は息子の婚約者であるぞ!」
「ふん、それを決めるのは『女神様』本人なのでは?」
「ぐっ・・!!」
オルクス皇帝の言葉を聞いたジル国王は、悔しそうに顔を顰めた。
「お兄様、ご安心を。これまでは『邪神』騒ぎでアプローチできませんでしたが、このフィオナ、全力でマクスウェル様を誘惑してみせますわ!なんせ、『女神様』には、もう女の武器が使えませんもの!!」
フィオナは勝ち誇った表情をハーティに向けながら腕を組んで、その豊満な胸を強調した。
「ぐ・・」
ハーティはフィオナの寄せられた胸を見て、悔しげに声を漏らした。
そして、一連の様子を見ていた総司祭が頭を抱える。
「皆・・ハーティルティア様が慈悲深いからと、不敬が過ぎますぞ・・」
「と・・まぁ、このままでは君を巡って世界戦争が起こりかねないから、皆で仲良く『女神様』の下につきましょうとなったわけだ。君もせっかく救った世界が破滅するのは見たくないだろう?」
「ぐぬぬ・・」
マクスウェルの言葉に唸るハーティの傍にリリスが歩み寄る。
結局、リリスはそのまま『リーフィア』に居着いてハーティの補佐的な役割を担うようになっていた。
「ハーティルティア様。これが各国で纏めた新国家の草案と、全ての国家元首が署名済みの調印書類です」
ハーティはリリスから書類を受け取ると、眉を寄せながら目を通した。
「それにしても、『『女神ハーティルティア』による人類帝国』とか、『神聖リーフィア神帝国』って仰々しくない?なんだか『女神帝』という肩書きも恥ずかしいし・・」
「何を仰いますか。ハーティルティア様は人類世界の頂点に君臨するのですよ?至極当然の事です」
「まあ・・私が世界を統治しないと世界が平和にならないのよね・・仕方ないわ」
ハーティはボヤきながら調印書に署名する。
リリスはその書類を恭しく受け取ると、天へ掲げた。
「この場にいる全ての者に伝えます!!今、この署名をもって『女神ハーティルティア』様を『女神帝』とする、『神聖リーフィア神帝国』の設立を宣言します!!」
パパアァァァァ!
リリスの宣言の直後、高らかにラッパの音が響き渡る。
ウィィィィン!ザザッ!!
そして、屋根のない謁見の間で玉座を挟むように立ち並んだ二機の人工女神と複数の魔導機甲が、式典用に用意された巨大な装飾槍を一糸乱れぬ動きで天高く掲げる。
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!!」」」
同時に、空を割るほどの大歓声が謁見の間に響き渡った。
「「「女神様万歳!!」」」
「「「女神様万歳!!」」」
「はぁ・・こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」
チャッ・・・。
玉座に肘をついて溜息をするハーティに、正装として『神聖魔導甲冑』を纏ったユナとシエラが歩み寄る。
「これは陛下が『女神様』であると世界に知られた時から、避けられない運命だったと思いますよ?」
「ユナ、その呼び方何とかならないの?」
「いいえ、陛下にはお立場がありますから」
「でも・・」
「でも?」
「私は、『お嬢様』、『ハーティさん』、『ハーティルティア様』、『陛下』と、例えどれだけ呼び方が変わっても、ずっと陛下のことをお慕いしながらお傍におります」
「ユナ・・」
「私も、これから『聖騎士』として、ハーティさんを支えていきますよ!」
「シエラちゃん、家業は大丈夫なの?」
「大丈夫です!私にはこれがありますから!いざとなったら帝都まで一っ飛びです!」
そう言いながら、シエラは『神聖魔導甲冑』の胸当てを叩いた。
「そう・・なら、これからもよろしくね」
「はい、ハーティルティア女神帝陛下!!」
「はぁ・・どうやら『平穏に暮らしたい』という願いは叶わなさそうね」
「でも・・私が創造した世界に『平穏』が続くなら、こんな生活も悪くないわね」
そう言うと、ハーティはいつまでも終わらない歓声に向かって大きく手を振って応えた。
かくして、デスティウルスから世界を救った『女神』は、全人類を率いる『女神帝』となった。
そして、有史以来初となる統一国家を為した人類は、『女神』と勇者達の子孫らによって、これより永きに渡って繁栄を極める事となる。
転生女神の『自分が創造した世界で平穏に暮らしたい』という望みはついぞ叶うことはなかったが、それでも『女神ハーティルティア』は、世界中に愛されながらいつまでも幸せに暮らすこととなった。
『転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい』 〜完〜
今までお読みいただいた方皆様に感謝申し上げます。
本作はこれにて完結ですが、書ききれなかった設定や挿絵を随時追加していく予定です。また、続編の構想も出来上がっております。今後ともよろしくお願い申し上げます。




