『ラピス』出撃 〜『帝都リスラム』視点〜
ハーティ達がデスティウルスと会敵し、戦闘を開始した頃。
『魔導帝国オルテアガ』の首都である『帝都リスラム』では、都市全体が朝の賑わいに包まれていた。
そんな世界有数の大都市を上空から見下ろす一柱の『存在』がいた。
「ふん、『人間』という生き物は群れて細々したものを作るのが好きなようだな」
空中に漂うヅヴァイは『リスラム』の街並みを見下ろしながら、侮蔑の言葉を漏らす。
「いままで『天敵』が存在しなかったが故に無駄に増殖した下等生物も、いよいよ『邪神』によって根絶やしにされるという訳か」
「さーて・・じゃあ、早速『お遊び』を始めるとするか!」
ヅヴァイは不敵に笑うと、『リスラム』市街地に向かって高度を落としていく。
ぞわ・・・。
「あん?」
その時、ヅヴァイは何か薄い膜のようなものを潜る、何とも言えない感覚を味わった。
しかし、それ以上は何もなかった為、そのまま気にすることなく地上へと向かっていった。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
カンカンカンカン!!!
ヅヴァイが謎の感覚を味わった直後、宮殿内では警報の鐘が鳴り響いていた。
そして、大まかな修復が完了した宮殿最上部の謁見の間にある玉座に腰かけていたオルクスの元へ、慌てた様子のクウォリアスが駆け込んできた。
「どうした、クウォリアス軍務卿?酷く慌てているようだが・・・」
「へ・・陛下!大変です!魔導省が試験運用を開始した『探知結界』に反応がありました!」
「・・・なんだと!?」
クウォリアスの報告を聞いたオルクスは、玉座に頬杖をついていた頭を起こした。
「それはつまり・・・『邪神』だというのか・・・!?」
「はい、探知した『マナ』のパターンから見て、間違いないかと・・・」
『邪神』襲来を知ったオルクスは一瞬瞳を閉じて深く息をすると、静かに玉座から立ち上がった。
「クウォリアス軍務卿、帝国軍に出撃の用意を。それと、『ラピス』は全機出せ。あと、冒険者ギルドに緊急依頼を行い、魔導省にも通達をしろ」
「はっ!陛下は安全な場所へ避難を!」
「否、余は『通信室』へ向かう。避難はそれからだ・・まあ、『邪神』相手にどこへ避難するのだという話だがな」
「御意!私も出撃します故、急ぎ御前を下がらせて頂きます!陛下、くれぐれも無茶をなさらない様お頼み申し上げます!」
「わかった」
クウォリアスは一礼して踵を返すと、急ぎ謁見の間を去って行った。
「ハーティ嬢・・・そなたも今、『邪神』と戦っているのか・・?」
再び静けさを取り戻した謁見の間で、オルクスは独り言ちた。
・・・・・。
・・・・・・・・。
オルクスが謁見の間で指示を行った直後、帝国軍の詰所では急ピッチで『邪神』迎撃の準備を行っていた。
カンカンカンカン・・・。
「『邪神』が出現したとの事だ!」
「『ラピス』全機、対『邪神』兵装で出撃準備!!!」
そして、詰所の駐機場では五機の『ラピス』が出撃準備を行っていた。
『ラピス』に搭乗予定の五人の『騎士』達は魔導機甲搭乗専用の装備を大急ぎで身に着けていた。
そこに、屈強な体格をした初老の男がやってきた。
「「「「!!」」」
その男を見た『騎士』達は飛び跳ねるような勢いで敬礼を行った。
そして、『騎士』の内一人がその初老の男に緊張した様子で声をかけた。
「ク・・クウォリアス閣下!!!何故、御身がこのような場所に・・・!?」
クウォリアスは五人の『騎士』を順番に見渡すと、その中で一番緊張して頼り無さそうな一人を指差した。
「貴様、変わるのだ」
「へあ!?」
クウォリアスに指された男は素っ頓狂な声を上げた。
「何度も言わせるな。私が『ラピス』で出撃る」
「恐れながら、軍務卿!!危険でございます!!それに魔導機甲の操縦は通常の戦闘とは異なりますので・・・」
「戯けが!『邪神』が迫る帝都で安全な場所など存在せんわ!それに、魔導機甲の操縦訓練は私も受けている。少なくとも貴様らよりは上手く駆るわ!」
恐る恐る進言する『騎士』の言葉をクウォリアスは遮った。
「は・・はひ!し、失礼いたしました!!」
クウォリアスはすっかり恐縮した『騎士』達を一瞥すると、さっさと装備を整えて『ラピス』の搭乗席に乗り込んだ。
バシュウゥゥゥ・・・。
コクピットのハッチを閉めたクウォリアスは魔導機甲に殆ど搭乗したことが無いにもかかわらず、慣れた手つきで魔導コンソールを操作した。
チチチチチ・・・ウィーーーン!ズゴォォォ!!
クウォリアスが魔導コンソールを操作したことにより、『ラピス』に搭載された『クラマ式発導機』が唸りを上げる。
そして、機体にマナが供給されることにより、コクピットにある光魔導スクリーンが外部の景色を投影し始めた。
その直後、魔導コンソールから整備員の声が聞こえ始めた。
『閣下、対『邪神』兵装装備完了しました!』
「承知した。ほかの『騎士』!準備はいいか」
『『ラピス・ツー』から『ラピス・ファイブ』まで準備完了しました。いつでも出撃れます、閣下!!』
「うむ、『邪神』は待ってはくれぬ、急ぎ出るぞ!この帝都は我らが守る!!『ラピス』隊、出撃!!」
「「「御意!!」」」
ウィーン、ズシーン!
ウィーン、ズシーン!
クウォリアスの号令と共に、駐機場のハンガーからパージされた『ラピス』が歩みを進める。
キィィィン、ズゴォォォォォ!!!
そして『飛翔魔導推進器』を発動した『ラピス』各機はゆっくりと離陸し始めた。
ゴゥゥゥゥゥン・・・。
「皇帝陛下・・・そして『女神ハーティルティア』よ・・『帝都リスラム』は、このクウォリアスが守りますぞ!!」
コクピットで独り言つクウォリアスの目前にある光魔導スクリーンは、ゆっくりと地上に向けて降下するヅヴァイを捉えていた。
「帝都を脅かす不届きな『邪神』よ!いざ、尋常に勝負だ!!!」
クウォリアスは操縦レバーを一気に押し込んで、『邪神』に向け『ラピス』を駆った。




