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転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい  作者: RYUJIN
第一章 神聖イルティア王国編
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騎士団訓練での模擬試合1

 ハーティの15歳の誕生日パーティーが終わってから数週間後、彼女は宣言通り騎士団の訓練を見学しにユナを連れて王宮内の騎士団詰所にやってきた。


 ここは主に王宮警護と王族の護衛の任につく騎士団達が日々訓練をしながら待機する場所であり、大規模な魔導にも耐えうる模擬試合用の闘技場などが併設されていた。


 ハーティがその闘技場に到着すると、既に二人の殿下達が揃っていて、騎士団長と数人の団員と話をしていた。


「これはこれはハーティ様、ようこそ御出で頂きました。某は神聖イルティア王国騎士団長のラナウェイと申します」


 ラナウェイは挨拶をすると、すかさず跪いて騎士の礼を取った。


 それに倣って、他の団員達も一糸乱れぬ所作で騎士の礼を取る。



「まあ、ご丁寧に。私、ハーティ・フォン・オルデハイトです。本日はお邪魔かと思いますがよろしくお願いします」


「何をおっしゃいまする。『女神様の愛し子』であらせられるハーティ様にお越しいただければ騎士団の皆も訓練に気合が入るというものです」


「まあ、お上手ですね。ありがとうございます」


 一通りの挨拶が終わると、ラナウェイはハーティの後ろに控えるユナに視線を送った。


「ユナ殿も本日の訓練に参加されますかな」


「はい、ラナウェイ様。その予定でございます」


 その言葉を聞いて、騎士団員達が益々色めき立った。


「今日はハーティ様にユナさんと華やかだな!今日が非番でなくてよかったぜ!」


「今日こそはユナさんにいい所を見せてやるぜ!」


「やめとけって。またボコボにされるのがオチだぜ」


「なんだと!」


「はあはあ、ユナ様にいつもの冷たい眼差しでビシバシ扱かれたい・・・」


(若干一名変な人がいるけどユナは騎士団にも人気なのね・・)


 ハーティは、自分が将来王妃になってもユナに専属侍女を続けてほしいと思っているので、これから益々身近になる騎士団員と馴染んでいる様子を見て嬉しく思った。


「ではお嬢様、私も準備をして参ります」


「わかったわ。頑張ってね」


「では、ハーティ様。安全な観覧席へご案内します」


 ユナが準備に向かったのを見送ると、ハーティはラナウェイから観覧席へと案内された。


・・・・・・。


・・・・・・・・。


 観覧席はかなりの人数が収容できるようで、訓練の合間を見つけてやって来た団員や非番の団員が既に集まっていた。


 彼らの反応をみていると、マクスウェルとユナの試合の人気具合が窺えた。


 しばらくして、ハーティが闘技場を眺めていると両サイドからそれぞれマクスウェルとユナが入場してきた。


 二人は軽装防具を装着して演習用の木剣を携えていた。


 いつも侍女服であるユナは動きやすい服に着替えており、ハーティはそれがとても新鮮に感じた。


 入場してきた二人が向かい合わせで対峙すると、ラナウェイが拡声魔導具を使って模擬試合の注意事項を説明し始めた。


「これより、マクスウェル殿下とユナ殿の模擬試合を行います!」


「試合のルールはいつも通り、あくまで模擬であるから、相手に対する直接魔導の行使は禁止、片方が戦闘不能になるか降参の意を示した段階で試合終了とし、負傷者は速やかに待機している治癒魔道士により治癒を行います」


「お二方共、以上問題ありませんか?」


 ラナウェイの言葉を聞いて、二人は頷いた。


「では。これより第一模擬試合を始めます。・・・始め!!」


「・・・・はっ!」


 開始の合図と共に先ずはユナが飛び出した。


 そのスピードはとても女性のものとは思えない程であった。


「やはり、速い!!」


 しかし、マクスウェルは華麗な身捌きでユナの斬撃を回避して、カウンターを叩き込む。


 それを木剣で受け止めたユナは、その衝撃で後方に飛ばされたが、上手に着地して接地した両足を地面に滑らしながら衝撃を受け止めていた。


 ハーティは今まで見たことのないユナの動きに驚きを隠せないでいた。


「あのカウンターを受け止めるとは、さすがはユナと言ったところか・・・今度は私からいくぞ!」


 そう言うとマクスウェルはしゃがんだ姿勢から脚をバネにして飛びかかる。


 マクスウェルのそれは、生身とは思えないスピードで常人であれば対処できないようなものであったが、ユナは危なげなくそれを回避した。


「はぁぁぁぁ!」


 マクスウェルが攻撃を回避されたことによって出来た隙を狙って、ユナが体を捻って回転させながら斬りかかった。


「くそっ!」


 それを見て回避が間に合わないと悟ったマクスウェルは剣戟を受け止める。


 ユナの体重と回転力が乗った剣戟は客観的に見てもかなりの衝撃であると感じられた。


 それを受け止めたマクスウェルもまた、飛ばされはしなかったものの両足を接地したまま後方に押しやられていた。


 そして、二人は飛び退いて一旦距離を取る。


 距離を置いた後、一瞬の間を置いて次は二人同時に斬りかかっていった。


 二人はおよそ木剣同士が打ちあうものとは思えない音を奏でながら十合、また十合と斬り結んでいく。


 その激しい戦いを、観覧席の人々は固唾を飲んで見守っていた。


 ユナは身体能力のハンデをもろともせずに斬り結んでいく。


 筋力で劣るが速度と正確さを持ったユナの剣戟が、徐々にマクスウェルを防戦一方に追い立てていった。


 しかし、誰もがユナの勝利を予想したそのとき、試合が動いた。


 攻勢であったユナが突然、後方に吹き飛ばされたのだった。


 後方に吹き飛んだユナは辛うじて着地に成功したが、それに追い討ちをかけるようにマクスウェルは暴風を巻き起こしながらユナに斬りかかった。


 そのスピードは先程とは桁違いで、女神の力を思い出す前のハーティであれば視認できないほどであった。


 おそらく、この観覧席にいたほとんどの観客は()()()()したように見えたはずである。


「『ブースト』の身体強化魔導・・・」


 ハーティはそれを見てつい、言葉を零した。


「ほう、ハーティ様にも判りますか」


 ハーティの言葉を聞いたラナウェイは感心していた。


 身体強化魔導である『ブースト』はマナを自身の体に巡らせて一時的に身体能力を強化する魔導である。


 使用するマナが多いほど身体能力は上昇するのだが、時間当たりのマナ消費があまりにも高い為使い手は少なく、たとえ使えたとしても長時間の発動は難しい。


 もちろん、詠唱時間(キャストタイム)も数秒程度必要で、マクスウェルは切り結びながら魔導式を#詠唱__キャスト__#したと思われる。


 しかし、使用後はマナ切れを起こしてしまい、再詠唱(リキャスト)が難しいことから、タイミングを見計らって使用しなければならず、使い所が難しいのも事実であった。


 また、通常『ブースト』を行使できるほどの魔道士が前線に出て物理攻撃を行うことは少なく、まさにマクスウェルのような『魔導剣士』などが多用するような魔導であった。


 『ブースト』発動中のマクスウェルの剣戟は周りに嵐を巻き起こすほど凄まじく、いよいよ捌き切れなくなったユナは剣を手放してしまった。


 剣戟を受けてユナが手放した木剣は、勢いよく回転しながら飛んでいった。


 ピタッ・・。


 そしてその直後、マクスウェルの木剣がユナの首元にあてがわれた。


「・・・参りました」


「両者そこまで!勝者、マクスウェル殿下!」


「「「おおおお!」」」


 その言葉を聞いて観覧席からは多数の声が上がった。


「はあはあ・・やはり・・魔導を使えるアドバンテージは詰められませんか・・」


ユナは息を上げて額の汗を拭いながらマクスウェルに語りかけた。


「はあはあ・・いや・・私も危うくマナ切れを起こすところだった。『ブースト』を使って斬り込んでもユナがだいぶ耐えるようになったからね・・次回は本当にわからないよ」


「・・お嬢様の貞操を守るために、必ず次回は勝ちます」


「はは、お手柔らかに頼むよ」


そう言いながら二人は闘技場を後にした。


(結果負けたけど、本当にユナは凄いわ・・。私の知らないところでかなり努力したのね)


 試合を見たハーティはユナのことを尊敬していた。


 そして、魔導が行使できないユナに戦闘能力を飛躍的に上げる何かいい方法があればいいのにと思ったのであった。


そして、これから休憩を挟んだ後、次はユナとデビッドの試合が始まろうとしていた。



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