聖樹
「『ヴァルハラの聖樹』・・・」
「つまり、この樹はあたし達の世界が誕生して間もない時代から、ずっとこの場所で育ったってわけですね」
クラリスの問いかけに、リフィアスはニッコリと笑みを浮かべながら頷いた。
「それにしても、この『ヴァルハラの聖樹』が樹齢五千年を超えてるとはいえ、あまりにも巨大に成長している気がするのですが・・それにこの放出されているマナ・・確かに植物も微量ながら『エーテル・マナ変換』をおこないますが・・この量は普通ではありえません」
「それについては秘密がありますのよ。さあ皆さん、こちらへいらしてください」
リフィアスはユナの疑問に答える為にハーティ達を玉座の裏まで案内した。
「まさか、一国の女王が座る玉座の後ろに回る日が来るとは思わなかったわ・・」
クラリスの言うように、一般的に玉座は数段上がった壇上にあるものであり、そこに座る王族以外が上がることはない。
まして、玉座の裏側に回ることなど、通常ならありえないことであった。
「あちらをご覧になってください」
リフィアスは玉座の後ろに聳え立つ巨大な幹と一体化したように見える魔杖らしきものを指さした。
「これはっ!?」
その魔杖を見た瞬間、真っ先に反応したのはハーティだった。
その反応を見たリフィアスはサプライズが成功して満足したように微笑んだ。
「あんたはこの杖に見覚えがあるわけ?」
二アールの問いかけに応えるように、ハーティは口を開いた。
「聖杖・・エーテリア!」
「『聖杖エーテリア』とは一体何なのですか?」
ユナは思わずハーティに問いかけた。
「『聖杖エーテリア』はかつて『神界』で私の側近だった『女神リリス』が使っていた『神器』よ」
「「「!!!」」」
ハーティの言葉に皆が目を見開いた。
「かつて『神界』には『浮島』と呼ばれる、空中に浮遊する島があったの。その『浮島』には必ず特別な大樹が生えていて、その樹は『神気』を膨大な量のマナに変換していたのよ」
「そして、長い年月の中で色んなきっかけによってその幹に『神技』の術式が刻まれると、自然にその『神技』を発動するようになるのよ」
「そんな力を持つ特別な樹を私達はかつて『聖樹』と呼んでいたわ」
「『浮島』に根付いた『聖樹』は『浮遊』の『神技』が自然に発動して『浮島』を浮かせていたのよ」
「そんな『聖樹』も根付いた場所から動かしたり、その一部を切り取ったりすると力を失っていたわ」
「けど、私が高位の『治癒の神技』を発動しながら触れることで『聖樹』から素材を切り出して加工することができたわ」
「ということは・・・」
ユナの確信を持った問いかけに対してハーティは頷いた。
「この『聖杖エーテリア』は、私がかつてリリスの為に『神界』の中でも特に高度な『神技』が多数刻まれた『聖樹』を加工して作った『魔杖』よ」
「因みに、私が当時聖樹を加工して作った『神器』は『バハムス』の『聖斧レガリア』、『リフィアス』の『聖剣ニーヴァルテ』、そして『リリス』の『聖杖エーテリア』の三つだけだったわ」
「・・と言うことは・・まさにこの聖杖は究極の『神器』というわけですね!」
ユナはゴクリと息を呑みながら『聖杖エーテリア』を眺めていた。
「側近三柱がそれぞれ『神器』を持っていたのはわかるけど、ハーティの『神器』は無かったの!?」
魔導具研究の第一人者として、クラリスは『神器』に興味を持っているようであった。
「うふふ、敬愛する主様が手ずから生み出した『神器』はそれぞれが戦略級兵器としての力がありましたわ」
「ですが、敬愛する主様は神々の頂点に立つお方。その力は絶大なものであり、主様自身が歩く戦略兵器でしたわ。ですから、元より主様に『神器』など必要なかったのですわ!」
リフィアスはまるで自分の事を語るように、その放漫な胸を張って答えた。
「歩く・・戦略兵器ですか・・」
「成程、ハーティの素手喧嘩スタイルは『神界』の時からだったのね」
「ちょっと!クラリス!私だって好きで武器を使わないわけじゃないんだから!」
クラリスとハーティのやりとりを聞き流しつつ、ユナは素朴な疑問をリフィアスへと投げかけた。
「・・と言うことは、『神器』はあと二つあるんですよね?それは一体どちらにあるんですか?」
ユナの言葉にリフィアスは表情を曇らせた。
「こちらにある『聖杖エーテリア』は、わたくし達が敬愛する主様を探していた時、たまたま『リーフィアの樹海』で見つけたのです」
「これほどの『神器』であれば、多少離れていてもすぐその存在感を掴める筈なのですが・・結局二百年の旅、そして現在に至るまで見つけることができませんでした」
「おそらく『神界』の全てが無になる時に、たまたま『聖杖エーテリア』は能力を引き継いだまま新しい世界に再構築されたのでしょう。ですから、きっと残りの『神器』は失われた筈です」
「あの『聖杖エーテリア』の主な能力は様々な『神技』を『神気』、いわばエーテルから直接発動できることです」
「もともとこの聖杖は、敬愛する主様のみが可能だった『神技』の並列発動を、他の神でも再現できるようにする為に生み出されたものですから」
「「「!!!」」」
『聖杖エーテリア』の能力を聞いたユナ達は一様に驚いた表情になった。
中でもクラリスと二アールはかなり興奮しているようであった。
「ということは、この杖を使えば本人のマナはお構いなしに幾らでも極大魔導を発動できるってこと!?」
「うふふ、勿論ですよ。そもそもマナを介さず『神技』、この世界で言うところの魔導を発動するのですからね」
「そんな物騒な『神器』がもし人の手に渡っていたらと思ったらゾッとするわね」
「そして、『聖樹』から作られたこの聖杖は、それそのものが常時膨大なマナを放出しています。ですから、私は五千年前に『ヴァルハラの聖樹』の苗を植えた時、一緒に『聖杖エーテリア』を置いてその苗にマナを供給し続けたのです」
「いつか植えた苗が『聖樹』となって、遥か未来に敬愛する主様がこの『聖樹』と『聖杖』を見た時に、私達の事を思い出してもらえるように・・」
「そして、今こうして敬愛する主様に再び会うことができたのです」
リフィアスは頬を染めながら、一筋の涙を流した。




