『女神同盟軍』 1 ~イルティア王国視点~
時は遡り、フィオナ皇女が『神聖イルティア王国』に滞在し始めてから数日が経った頃。
『対邪神用決戦兵器』を開発・運用する為に『神聖イルティア王国』・『魔導帝国オルテアガ』・『女神教会』の三勢力がそれぞれ兵力の一部を持ち寄って、それらを同等に指揮・運用することが可能な独立軍である『女神同盟軍』が設立された。
そして、イルティア王国海軍の海軍工廠を改修して急ごしらえされた『女神同盟軍』の『新兵器開発研究所』敷地内では、イルティア王国国王以下主たる重鎮たちが勢ぞろいしていた。
「この度は、このようなすばらしい施設を提供してくださってありがとうございます」
『魔導帝国オルテアガ』側の人間として王国に滞在することになったオルクス皇帝の実妹であるフィオナ皇女は、ジル国王の御前で恭しく一礼した。
「しかし、こちらは貴国の海軍工廠・・・軍事機密も多数存在すると思われますが、本当によろしかったのですか?」
フィオナの問いかけを聞いたジル国王は俄かに微笑んだ。
「ああ、構わぬとも。なにせ『邪神』は人類全ての敵であるからな。今頃人間同士で小競り合いをしても仕方なかろう?」
「それに、フィオナ嬢の耳にも入っておると思うが、女神ハーティルティア様は世界を救う為に腐心しておられる。それを蔑にして、我らが仮に戦争なんぞを始めたとすれば、間違いなく『女神様』の神罰が下るであろう」
「そして、『女神様』の神罰が下るときこそ、人類に為す術など無いのであるからな」
「はあ・・・」
ハーティの力を目の当たりにした訳でもなく、『女神教』を信仰もしていないフィオナにとって、『女神』の力の脅威をいくら語られても理解することはできなかった。
「それよりも・・・本当にこれを使うのであるか?」
ジル国王は、不安な様子を隠せないまま、海軍工廠のドックに停泊している一隻の『魔導外輪船』に視線を向けた。
それは、この時代の軍艦としては異質なシルエットを持つ、全長二百メートルあまりの巨大な船舶であった。
フィオナはその巨大な船舶に目を向けると、研究や学問の場でのみかける眼鏡をクイッと持ち上げながら語りだした。
「帝国海軍ナゴーブ級魔導外輪軍艦『ナゴーブ』・・全長二百十メートル、全幅二十五メートル、総排水量約一万八千トン・・・三基の発導機を合わせた公称出力百五十サイクラという高出力魔導機関と両側面の外輪・・・そして、帝国で最重要国家機密となっている一軸の『スクリュー推進』がもたらす最高速力はおよそ十四ノット・・・」
「なぜでしょうか・・わたくしには目の前の船がどうしても『ナゴーブ』・・私の祖国が誇る総旗艦と瓜二つに見えるのですが・・気のせいでしょうか?」
「うぐ・・・それは・・・!?・・その・・じゃな・・」
フィオナにジト目を向けられたジル国王は額から汗を拭きだしながら狼狽えた。
「ふぅ・・・まあ、貴国も熱心にわたくし達の国を知ろうとしてくれていたということですね。同盟国でなければ大問題ですが・・『女神様』に入れ込んで王国と同盟を結んだお兄様でしたら、まあ目を瞑ってくださることでしょう。まあ、『ナゴーブ』の設計図書を売った人間は・・全てが終わった時に帝国内でじっくりとあぶり出すとしましょうか・・」
フィオナがニヤリと笑いながら物騒なことを言うので、ジル国王は思わずごくりと息を飲んだ。
「あと・・わたくし個人としては、これほどの『魔導外輪船』を運用する為に必要なマナを蓄えておく魔導結晶を、一体どのようにして入手したのか・・は気になりますが・・そこはお互い様ですしね」
「は・・・はは・・・」
やれやれと溜息をつくフィオナの姿を見て、その場にいる全員が力のない返事をした。
「し・・・しかし!フィオナ嬢!ここにある設計図の内容だが・・・本当に実現するつもりなのか!?」
気を持ち直したマクスウェルは、フィオナから配布された設計図書を握りしめながらフィオナへと詰め寄った。
「うふふ・・マクスウェル様、そんなに興奮されずともちゃんと説明し・ま・す・か・ら」
フィオナは可愛らしく言いながら、いじらしくマクスウェルの胸元をその白く細い指でなぞった。
「もちろん、実現するつもりですわ!この帝国の技術の粋を集めた『魔導外輪船』・・まあ思いっきり技術が漏えいしていますが・・とにかく、これを利用して新たな『新兵器』を生み出すのです!!」
「まずは先ほど申しました通り、従来帝国最大級の発導機を用いたこの船の機関出力は百五十サイクラ程度、それを今回私達が王国へ持ち込んだ『プラティウム・マギフォーミュラ・マナ・ジェネレータ』に換装します」
「そうなるとどうなるのだ?この船がものすごく速く進めるのか?」
ジルの発言を聞いたマクスウェルが、呆れたように額にへと手をやった。
「父上・・・そういえば父上の魔導具音痴はハーティ並みでしたね・・」
「うぐ・・・」
「うふふ・・まあ、仕方ありませんわ。・・わたくし達は発導機を換装することによってもたらされる潤沢なマナを使うことで、この艦船に様々な魔導式を組み込んでそれを発動できるように大改修するのです!」
フィオナの説明を受けている間も、マクスウェルは無言で資料に目を通していた。
そして、至急手配すべき資材のリストに目が移ると、その内容を見た驚きで目を大きく見開かせた。
「まさか!?本当にこれだけの貴金属が必要なのか!?フィオナ嬢はまさか黄金の船でも作ろうって思っているのかい?」
「うふふ・・それも素敵ですが違いますわ、マクスウェル様。それはまた別の物を作るのに必要な材料ですわ」
「それにしても、純金、魔導銀に銅から鉄まで・・・これだけの量はなかなか揃いませんよ!」
マクスウェルは、そう言いながら目頭を摘まんだ。
そして、その様子を見た『女神教会』の総司祭が声を上げた。
「これだけの量が本当に『女神様』をお助けする魔導具に必要なのですな?」
「・・はい」
フィオナは総司祭の問いかけにしっかりと頷いた。
「では、『女神教会』からも出来る限り都合しましょう。行けますかな?聖女リリス様」
シャン・・シャン・・。
総司祭に問いかけられたリリスは、衣装にあしらわれている装具を打ち鳴らしながら静かに一歩前へ出た。
そして、鈴の転がるような美声によって語り始めた。
「はい。既に魔導銀については手を打ってあります」
そして、大きく縁どられた美しいプラチナブロンドの双眸は、意味深な様子でフィオナを見つめていた。




