『カームクラン』防衛戦2
ハーティ達がエメラダと『黒竜』に対して奮闘している頃、『カームクラン』に集結した軍勢は迫りくる『ワイバーン』の群れを眺めながら迎撃の準備を行っていた。
連邦軍は対空迎撃の為、弩隊を市街地外縁に展開し、その背後には魔導士による魔導攻撃部隊を配置していた。
また、一部の弓などによる対空攻撃が可能な冒険者達は特設櫓や比較的高さのある建物に配置されて『ワイバーン』迎撃の準備を行っていた。
「いよいよでござるな」
「ハーティさん達が必死に戦っている以上、ほむら達が『カームクラン』を守らなければいけません!」
「であるな」
『白銀の剣』を除けば『カームクラン』一の実力を誇り、ワイバーンの群れを討伐した実績がある『旋風』もまた、最前線で『ワイバーン』迎撃の準備を行っていた。
軍勢に緊張が走る中、特設された詰所に控えるミウはシゲノブと作戦会議を行っていた。
「見張り櫓からの報告によると、『ワイバーン』の群れはおよそ四百にもなるのじゃ」
「ああ、であるからして本戦いの要となるのは市街地上空に到達されるまでにどれだけの『ワイバーン』を討伐できるかというところであるな」
「弩が真面な命中精度で狙えるのは精々二、三百メートルくらいじゃろ?魔導士の放出系魔導はそれを更に下回るの。こちらの射程に到達する頃にはかなり『ワイバーン』の接近を許してしまうのう」
ミウとシゲノブが頭を悩ましていた時、一人の壮年の美丈夫が、馬車程にもなる台車を三台も引き連れてやってきた。
「そちは・・・!?」
その男を見たミウが目を見開く。
「私めも、ささやかながら『カームクラン』防衛の一助をさせて戴きます。大統領閣下」
そう言いながら、壮年の美丈夫『マルコ』が恭しく礼をした。
「貴殿は何者であるか!?」
マルコと面識のないシゲノブは突如現れた一団に怪訝な眼差しを向けた。
「私めは女神ハーティルティア様が率いる勇者パーティであらせられる『白銀の剣』が拠点としている屋敷の専属執事をしております『マルコ』と申します。以後お見知り置きを」
「本日は『白銀の剣』のクラリス様より言付かりまして、『ワイバーン』討伐用の新兵器を持って参りました」
「「『新兵器』?」」
マルコの言葉にミウとシゲノブは首を傾げた。
その様子を見たマルコは連れていた技術者らしき人物達へ目配せをすると、台車に被せられた布を一気に取り払った。
「「これは!?」」
直後、露わとなった物を見て再び二人は目を見開いた。
それは、無骨な金属で出来た巨大な砲台のようであった。
「これは『カツ・クラマ』様が帝国へ向かう前に錬金された『魔導緋色金』を用いた発導機をテストする為にクラリス様が製作された『三十五ミリ自走式魔導高射機関砲』です」
「クラリス様から頂いた諸元によりますと、カツ様とクラリス様が共同開発した『クラマ式マギフォーミュラ・マナ・ジェネレーター』から供給されたマナにより、小型の魔弾を毎分五百発連射する能力を持ち、その有効射程距離は三キロメートルになるそうです」
「化け物みたいな性能じゃな。それなら『ワイバーン』にも有効な武器になるのじゃ!しかし、そんなものが世界中で量産されれば戦争の火種にはならぬのかえ?」
マルコが持ってきた兵器は今までの常識を覆す性能を持っており、『魔導緋色金』は技術と資材さえ有れば神白銀と異なってハーティの力を借りなくても量産が可能である為、ミウの指摘は尤もであった。
しかし、それに対してシゲノブが口を開いた。
「至高なる女神ハーティルティア様が顕現された以上、少なくとも『女神教』を崇拝する国で戦争など起こらぬだろう。まして、帝国まで女神様に大恩があるのだからな。戦争を起こそうなどという神をも恐れぬ所業を目論む国など存在せぬよ」
「まあ、確かにのう・・」
「では、私共は配置につきます故・・」
「うむ。『マルコ』殿・・助太刀感謝する」
マルコ達はシゲノブとミウに一礼すると、台車を牽引して市街地外縁に展開する弩隊の後方で三台の魔導高射機関砲を設置し始めた。
ビシュウウウ!
そして、いよいよ魔導高射機関砲による迎撃を開始しようとしている頃、迫り来る黒い塊となった『ワイバーン』の群れの向こうで、いくつもの光条や魔弾が山脈を貫いているのが『カームクラン』からも確認された。
「あれは、間違いなく『邪神』とハーティ殿の戦いによるものでごさるな」
「め・・女神様もああやって戦っていますからっ!ほむら達も負けてはいられません!」
「数は皆が減らしてくれるだろう。某達は前回と同じように立ち回ればいい。『ワイバーン』を取りこぼさぬようにするぞ!」
「「「おうっ!」」」
『旋風』のメンバーが頷き合う中、魔導高射機関砲の設置が完全に完了した。
それを確認したシゲノブは全軍に合図を出した。
「これより、『カームクラン』防衛戦を開始する!全軍、女神ハーティルティア様の為に死力を尽くすのだ!」
「「「「オオオオオ!!」」」」
シゲノブの言葉に呼応した数千にもなる声は大気を揺らす程であった。
ギギギギ・・・。
そして、辺りから弩の弦を引く音が重なった。
「初弾試射準備!!」
ガラガラガラガラ!!
魔導高射機関砲の砲身も、技術者達がハンドルを操作する事により『ワイバーン』へと向けられた。
「発導機!始動!」
チチチチチ・・・ウィーーーン!ズゴォォォ!!
技術者の号令と共に、魔導高射機関砲に搭載された『魔導緋色金』製の発導機が本体と冷却装置から甲高い轟音を発しながらマナを出力しはじめる。
「発導機始動を確認!初弾試射よーい!」
「初弾試射よーい!撃てーっ!」
「パァーン!」
まるで、その音が合図の号砲であるかのように、『カームクラン』でも戦いが始まった。




