作戦会議
「だ、大丈夫ですか!?」
ハーティはすぐさま倒れた受付嬢に駆け寄ろうとする。
「お待ちくださいハーティルティア様。もし、貴方様が抱き起して彼女が目覚めた時、目の前にご尊顔があったとすれば再び彼女は気を失いましょう。ここは私が」
「ありがとう、ユナ。でも『ハーティルティア様』って他人行儀じゃない?」
「そのお姿の時はご容赦ください。私はこれでも王国より『聖騎士』の身分を賜った身です。『女神化』された貴方様を親しく呼ぶのは私の矜持が許せないのです」
「そう・・わかったわ」
ハーティはユナの言葉にシュンと意気消沈した。
「ううん・・」
そして、ユナが受付嬢を抱き抱えて声をかけると、すぐに彼女は目を覚ました。
「目が覚めましたか?」
「あ・・ユナさん、ありがとうございます。よくわかりませんが『女神様』の幻を見た気がするのです」
「大丈夫です。幻ではありませんよ」
ユナは優しく微笑みながら指先をハーティの方へ向けた」
受付嬢はそれに誘導されるように視線をハーティへ向ける。
「や・・やっほー!は、ハーティだよっ!」
「見た目と言葉の軽さのギャップがハンパないわ」
クラリスがいつものように突っ込みをいれた。
「なんだか理解が全く追いつきません・・・どうして唯一無二で至高の『女神様』が一般の冒険者ギルドの受付にノコノコとやってくるんですか・・嫌がらせですか!?いや、この場合は『神罰』と言うべきですか・・何故ですか!私だって毎朝と毎食前と就寝前の祈りに週末の神社参拝は欠かしていないと言うのに!!」
「あなた、意外と信仰心がある人だったのね」
帝国出身で信仰心の薄いクラリスは受付嬢に感心していた。
ちょうどその時、受付広間に慌てた様子のミウとギルドマスターのアキトがやってきた。
「一体なんの騒ぎなのじゃ・・・おうふ」
広間に入ってきたミウは、ハーティを見た瞬間に大体の事情を把握した。
その後、ミウは騒ぎを収める為、ひとまずハーティ達を応接室に案内したのであった。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
ハーティ達は応接室で出された緑茶でひと心地つくと、エメラダや『黒竜』との戦いをかいつまんで報告した。
「なるほどのぅ。そのような事があったのじゃな。それであの爆発のような騒ぎがあったと言うことかえ?てっきり、わらわはクラリスさんがまた何ぞ珍妙な魔導具でも作って実験していたのかとおもったんじゃがの」
「「「「「・・・・・・・」」」」」
ユナの言葉に『白銀の剣』のメンバー全員が顔を背けた。
「うむ、大体察した故、皆まで言わなくてもいいぞえ・・」
そう言いながら、ミウはため息をついた。
「・・・じゃが、そうなると事態は深刻じゃの・・」
「ええ。ハーティさんの話を聞きますと、我々冒険者ギルドが冒険者を集結させたところでお役には立てなさそうですね・・」
アキトは自分の不甲斐なさに表情を歪めた。
「その事ですが、『カームクラン』の冒険者の皆様には然るべき時に市民が速やかに避難できるような体制を用意して欲しいのです」
「ハーティさんがその格好で敬語を使うと背筋がザワザワするのぅ・・・」
「まぁ、その前にハーティが今手にしている緑茶が既に似合わないけどね」
そう言いながら、クラリスはズズズと緑茶を啜った。
「・・とにかく!エメラダや『黒竜』と直接戦うのは私達になりますけど、私達が心置きなく戦えるようにミウさんやアキトさんには『カームクラン』防衛にあたってほしいのです」
「うむ。それに先日の『ワイバーン』の群れは恐らく『黒竜』が呼び寄せたものであろう。であれば、次の襲撃時には、それらが共にやってくる可能性も十分にある」
「ナラトス様の言う通り、そのような事になれば私達は『ワイバーン』を相手にする余裕は無いわ。だけど、『ワイバーン』ぐらいであれば最悪、連邦軍と冒険者が束でかかれば何とかなるはずよ」
「エメラダはハーティに強い憎しみを持っていたわ。だから、恐らくは『黒竜』の問題が解決でき次第、再び襲撃に来るはずだわ」
「うん。だから、私達がエメラダを滅ぼすまではいつでも戦える準備を整えて欲しいんです」
クラリスの言葉をハーティも肯定した。
「なるほどの。わかったのじゃ。では、わらわは急ぎ連邦軍を招集して迎撃に備えるのじゃ。あと、『神社庁』にも声をかけておくぞぇ。神官が集まればそれなりの防御魔導の展開や負傷者の治癒もできるじゃろうしの」
「冒険者ギルドにも緊急依頼を出しましょう」
「ありがとうございます!ミウさん!アキトさん!」
「なに、『女神ハーティルティア』が旗印となるのじゃ。皆喜んで力を貸すじゃろうて」
「じゃが、そちらは今回エメラダという『邪神』達に手痛くやられたのじゃろ?勝算はあるのかえ?」
ミウの言葉に『白銀の剣』の一同は顔を見合わせた。
「『黒竜』には『還元』の魔導が通用しなかったが、防御魔導自体はエメラダ程強固なものではないであろう。それに首元についていた『黒の魔導結晶』さえ何とかすれば正気を取り戻すかもやしれぬ」
「じゃが、エメラダはどうするのじゃ?」
「大丈夫よ」
ミウの言葉にハーティが間伐入れずに答えた。
「確かに私はエメラダに太刀打ちできなかった。それは自分に『女神』として生きていく勇気が今まで無かったからなの。そして、今私は『人間』として生きていく事を捨てたわ」
「だから、今度こそエメラダとは『女神ハーティルティア』として全力で戦うわ」
「それに、私にはこれだけ沢山の『仲間』がいるわ」
そう言いながら、ハーティはその場にいる全員を見渡した。
「大切な仲間と一緒に戦う限り、『女神ハーティルティア』は決してエメラダには負けないわ!」
言葉を紡ぐハーティの瞳は、確かな未来を見据えていた。
大切な『仲間』と共に世界を救うという未来を。
「「ハーティ・・」」
「ハーティルティア・・」
「ハーティルティア様・・」
「「ハーティさん・・」」
ハーティの言葉は、その場にいる全員の心に深く響いたようであった。
そして、ハーティは立ち上がった。
「そうと決まれば準備を整えましょう!この世界をエメラダの好きにはさせないわ!」
「「「おう!」」」
ハーティの掛け声に一同は力強く返事をした。
「じゃあ一度拠点に戻るわよ。あなたもいつまでもユナの装備を借りているわけにはいかないでしょ?」
「それはそうだけど、屋敷には戦いに使えるような衣装はないわよ?街で買った方が早くない?」
ハーティの言葉を聞いたクラリスは、指を立てながら『チッチッ』と舌を鳴らした。
「こんな事になるとは思わなかったけど、ちょうど屋敷にいいものがあるわ」
「いいもの?」
「ええ。まさに、ハーティにおあつらえ向きな装備がね」
そう言いながら、クラリスは得意げな笑みを浮かべた。




