ハーティの覚悟
「貴様ぁぁぁーー!」
エメラダがハーティに口付けしたのを目の当たりにしたユナは、怒りのまま『女神の絆』で斬りかかった。
バキィ!
「ぐはっ!」
キィィィン・・ドガァァン!
しかし、その斬撃は口付けを中断したエメラダに容易く回避され、カウンターの回し蹴りを食らったユナは吹き飛ばされてクレーターの壁に衝突した。
「ぐふっ!」
エメラダの蹴りによるダメージは『神聖魔導甲冑一型』の防御魔導によって緩和されたが、その激しい衝突によってユナの肺から一気に息が漏れた。
「全く下等生物の癖に無粋な奴ねぇ・・興をそがれたわ・・まあいいわ。女神ハーティルティア!次会う時はわたくしを愉しませてねぇ。じゃあ、ばいばーい!」
ポイ・・ドシャッ!
ドゥン!
そう言うと、エメラダは今まで掴んでいたハーティを放り投げ、先程『黒竜』が去っていった方角へ飛んでいった。
『待て!エメラダ!』
それを『プラタナ』が追おうとするが、その肩部に『メルティーナ』が手を置いて制止した。
『待て!まずは女神ハーティルティアの治癒が先だ!』
バシュウ・・・ウィィン。
直後、『プラタナ』を制止した体勢のまま『メルティーナ』の背部ハッチが解放されて操縦座席がせり出した。
シュバッ!シュタッ!
そしてナラトスは二アールを横抱きにすると、座席から跳躍してハーティの側で着地した。
バシュウ・・・。
続いて、クラリスも『プラタナ』から降りてハーティに歩み寄った。
ボゴォ!
キィィィン!
「ハーティさん!」
ユナはクレーターの壁からめり込んだ身体を引き剥がすと、焦燥した様子でハーティの元へと飛翔した。
「・・・・まさか私が女神ハーティルティアの治癒をする時が来るとはな・・」
ナラトスは一人で呟きながら、既に気を失っていたハーティに手をかざして『上級治癒魔導』を発動した。
パアァァァ・・・。
ハーティがしばらく柔らかな白銀の光に当てられていると、先程と同じくまるで時間を逆巻きするように身体の損傷が回復していった。
ナラトスがそれから更にしばらくの間治癒魔導を発動し続けたことによりハーティの傷はすっかり癒えたのだが、ハーティは未だ気を失っている状態であった。
「ハーティさん!ハーティさんっ!」
ユナはそんな状態のハーティを泣きながら抱き寄せた。
「う・・ん・・」
「ハーティさん!」
「「ハーティ!」」
「ハーテルティア・・・」
ユナの叫び声でようやく意識を取り戻したハーティはゆっくりと目を開けた。
「ユナ?」
がばっ!
「うわああん!お嬢様ぁぁ!」
ハーティが目を覚したのを確認したユナは、歓喜のあまりハーティの事を昔の呼び名で叫びながら抱きしめた。
ギリギリッ!!
「ちょ・・ま・・ユナ・・ぐるじぃ・・」
「ちょっと!ユナ!『身体強化魔導』!!そんなに強く抱きしめたらハーティをもう一回半殺しにしちゃうわよ!」
「はっ!?すいません!つい・・」
「ふう・・みんな、心配かけてゴメンなさい・・はっ!?そういえばエメラダと『黒竜』は!?」
「・・『黒竜』は突如制御を失って飛び去って行きました。そして、エメラダはそれを追う形でここから去りました」
「そうよ!ハーティ!あんた、エメラダに口付けされてたのよ!?『邪神』にその・・口付けされて・・大丈夫なの!?」
「なんであなたは顔を赤くしながらナラトスの方をチラチラ見てるのよ」
そんな視線を感じたナラトスは気まずそうに視線を逸らしながら咳払いをした。
「ごほんっ・・そうだぞ女神ハーティルティア。そなたはエメラダに口付けされていたのだが、身体に何らかの違和感はないのか?」
「それは今のところ何ともないけど・・・うううっ!」
ハーティは言葉の最後で涙目になりながら呻き声を上げた。
「ハーティさん!大丈夫ですか!?」
「ハーティ!?」
「うううっ・・私のファーストキスがあんな痴女みたいな『邪神』とだなんて悲しすぎる・・・」
「なによ、しょうもないわね!心配して損したわ!」
クラリスはやれやれといった様子で首を振った。
「ハーティさん、大丈夫です。あれはノーカンです。そういうことにしましょう!ええ・・」
「ですが・・あのアバズレは私がこの手でぶっ殺します。ハーティさんの唇を奪った罪は重い・・」
そう言いながら、ユナは黒い笑みを浮かべていた。
ユナの笑みを見たハーティは早々に話題を変えることにした。
「まあ・・冗談はさておき、ナラトスはあのエメラダと言う名の『邪神』に覚えは?」
「うむ・・その事なのだが、存在していた『邪神族』の柱が多い為、単に把握していないという可能性もあるが・・私には彼奴に覚えがないのだ」
「でも・・あのエメラダは今まで戦った『邪神』達とは桁違いの強さだったわ」
「ハーティさんの防御魔導をあんなに容易く突破するくらいですからね」
「おかしいわね・・あれだけの力を持つ『邪神』であれば『神界大戦』の時に私やリリスが相対してもおかしくないのだけれど・・・」
「あの『黒竜』って魔獣も桁外れの強さだったわ。今回は運良く生き残れたけど、次に襲撃があった時には入念に準備をして全力で戦いを挑んでも勝てる見込みがなさそうだわ」
先程、実際に『黒竜』と戦ったクラリスの言葉には確かな説得力があった。
「そのことでみんなに話したいことがあるわ」
そして、クラリスの言葉を聞いたハーティは何かを決意したような様子を見せながら語り出した。
「今回私が死にかけてしまったのは、『自分が強い』と言う慢心があったからなのよ」
「今まで私は『女神ハーティルティア』として扱われるのが嫌だったから、自分の見た目を偽って力を制限しながら過ごしてきた。今まではそれでも問題は無かった・・だけどこうして不意をつかれてしまったわ」
「さっきだって私が『女神化』して全力を出していれば、エメラダに対抗出来た可能性があるもの」
「そして、必ずあのエメラダと『黒竜』は再び襲撃してくるはずだわ」
「私はもう、自分の我儘や慢心で大切な仲間やこの世界の人々が傷つくのを見過ごすわけにはいかないわ!」
「だから・・・『私は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい』とずっと思っていたけれど・・」
そして、ハーティは『擬態』の為にずっと装着していた自身の髪飾りに手をかける。
「ハーティさん・・」
「「ハーティ・・」」
「女神ハーティルティア・・」
「・・・私は、『人間』として生きることを諦めるわ」
そう言いながら、ハーティは一気に髪飾りを取り去った。




