ミウとの会談2
ミウがそのまましばらく考え事をしながら唸っていると、クラリスが手持ちの書簡を差し出した。
「早速お願いがあるんだけど、あたし達がこれから『邪神』討伐を行うにあたって、大量の魔導銀が必要なのよ」
「ほう、魔導銀とな?」
「ええ、そこで皇帝陛下からの依頼で貴国の商業ギルドより『魔導帝国オルテアガ』へ輸出する予定だった魔導銀をあたし達に譲ってほしいの。これがその書簡よ」
「どれ・・・」
ミウはその書簡を受け取って内容を一読すると片眉を上げた。
「魔導銀鋼を六十トン・・・これはまた凄い量じゃな・・これだけの魔導銀、一体何に使うのかえ?」
「それは、先ほど大統領邸にお伺いする時にお騒がせした人工女神という人型の大型魔導具を改修するのに使うのよ」
「ほう・・そういえばそちらは空からやってきたのであったの。しかし、あれほどの魔導具・・動かすのに相当なマナが必要ではないのかえ?」
「ええ。あの人工女神・・『プラタナ』というのだけど、その動力部分はハーティが錬金した『神白銀』という、マナ抵抗が全くない素材で作られた『プラティウム・マギフォーミュラ・マナ・ジェネレーター』という発導機で動作に必要なマナを生成するのだけど・・」
「機体に用いられている魔導銀の方がそろそろマナによる劣化に耐えられなくなってきているのよ」
「あれだけのものを動かすマナを生み出すものとな・・・そんなものが量産されたら大変なことになるな」
「現在『神白銀』を錬金できるのは『女神』の力を使うことが出来るハーティだけだから、それについての心配は無いわ」
「『神白銀』・・『神道』の『カームクラン神話』に出てくる架空の素材と思っていたが・・しかしマナ抵抗が全く無いと・・また夢のような話じゃな。マナ抵抗が少ないものと言えば『魔導緋色金』が一番だと思っていたのじゃがな・・さすがにゼロというわけにはいかぬからの」
ピク・・・。
ミウから発せられた聞きなれない言葉に、クラリスの眉が反応した。
「『魔導緋色金』・・・とは?」
「ああ、そちらは知らぬか。『魔導緋色金』とはわらわ達『カームクラン民族』の錬金術師が生み出した素材での。マナ抵抗が純粋魔導銀の四百分の一程度しかないものなのじ・・・」
バン!
ミウが話終えるのを待たずに、クラリスがものすごい勢いで机に乗り出してミウにその顔を寄せた。
「その話詳しく」
「・・・・ちち、近いぞえ」
ミウはクラリスの凄まじい気迫にたじろいでいた。
「・・こほん。『魔導緋色金』とは先にも言った通り、『カームクラン民族』が生み出した素材でマナ抵抗が非常に少ないものじゃ」
「じゃが、錬金するには大量の金を含む数種類の貴金属や高度な錬金魔導の行使、そしてそれに見合う高位の魔導士が必要なのじゃ」
「その為、生成するには莫大な費用が掛かるのじゃが、素材の特性としてはあまりに硬度が高すぎる為に加工が困難でスクロールにするにも魔導式が刻みにくく、軽量だが脆すぎるので武器として使うには適さない」
「合わせて見た目で言えばやや赤みがかっている銅みたいな感じなので、宝飾品として使うのであれば、純粋魔導銀の方が圧倒的に見た目が美しい」
「そもそも錬金に大量の金を使うからの。それなら金を宝飾品に使ったほうがマシじゃ」
「そういう特性があるから、素材としての使い道が殆どなくて廃れていったものでの。今では錬金できる魔導士もごく僅かしかおらぬ」
「・・マナ抵抗が純粋魔導銀の四百分の一・・・であれば低出力の『発導機』であればかなりの長時間動作するはず・・素材の脆さは『プラタナ』みたいにコアを露出させずにインナーコアにして冷却問題を解決すれば・・・」
クラリスはミウの話を一通り聞くと、一人ぶつぶつと語りながら思考に没頭し始めた。
「こやつは突然どうしたのかえ?」
「ああ・・いつもの事なので気にしないでください」
「う・・うむ」
そして、クラリスは一通り考えを巡らせると再びミウに視線を合わせた。
「ミウさん!可能でしたらその『魔導緋色金』の錬金方法を教えてもらえない!?」
「う・・うむ。別にもともと使い道のなかったもの故、秘匿するものでもないのでそれは構わないのじゃが・・」
「よし、これでもしかしたら魔導機甲の量産が実現するかも・・それにうまくいけば『魔導車』とかにも使えるし、魔導具界に革命を起こせるわ!」
「・・とにかく突然の事ゆえ此方も準備が必要での。引き渡しは後日になるが構わぬかえ?」
「ええ、勿論よ。突然来訪して驚かせたのは私達だしね」
「・・ところで話は変わるがの。そちらの滞在先についてじゃが、これも親書に記載があったのじゃ」
「滞在先?」
「うむ。どうやらオルクス皇帝陛下はそちらに帝国所有の屋敷を滞在先として提供するそうじゃ」
「なんでも外交用に所有している物らしいのじゃが、帝国が直接此方に来ることはあまりないからの。ほぼ空き家みたいになっておる」
「ちょうどわらわも一段落ついたしの、今からそちらを案内しよう」
「感謝するわ」
そして、ハーティ達は再び大統領邸の車寄せまで戻ったのであった。
「・・・近くでみると、まこと大きいのぉ」
ミウは車寄せ前に跪いた状態で置かれていた『プラタナ』の姿を見上げながら素直な感想を漏らしていた。
「しかし、こんなデカブツどうするのじゃ?」
「よもや、わらわの馬車の後ろをこれで歩いてついていく訳ではあるまいな?」
そう言いながらミウは青ざめていた。
それもそのはずで、重さ六十トン近い『プラタナ』がもし街道を歩いたら、たかが石畳で舗装された程度の道などグチャグチャになるのが目に見えていた。
「それなら問題ないわよ、戻れ!『プラタナ』!」
クラリスが掌を『プラタナ』に向けて掛け声を上げると、機体が上から下に向かって白銀の光の粒子になっていく。
その粒子は連なりながらクラリスの髪飾りの一方へと吸い込まれていった。
それを見てミウは目を見開いた。
「『収納魔導』とな!?全くまことにそちらは規格外よの」
「いつも思ってたけど、そのポーズとか掛け声いる?ただの『収納魔導』よね?」
ハーティがそう言うと、クラリスは顔を一気に赤らめさせた。
「う、うっさいわね!『様式美』ってやつよ!!」
「・・さいですか」
そんなやりとりをしているうちに一台の馬車が車寄せに到着した。
「さ、これに乗るが良い。そちらの邸に案内するぞえ?」
ミウに促されたハーティ達は、早速馬車に乗り込んで市街地へと向かった。




