老人の街
とても短いです
ゴブリンの住む森を抜けしばらく行くと街があった。
男が街の入り口で看板に描かれた街の地図を眺めていると声をかけられた。
「お兄さん見ない顔だね」
男が振り向くと一人の老婆が立っていた。
「旅の途中で、この街には今さっき来たばっかりでね」
「旅の人でしたか、この街は面白い物なんて何も無くて申し訳ないねぇ」
「街の北の方に大きな建物があるみたいだけどさ、これはいったい何の建物だい?」
男は地図を指差し尋ねた。
「それは病院と老人養護施設だよ」
「ずいぶん立派な建物みたいだなぁ」
「この街の住人は半分以上が年寄りだからね、入りたい人はいつでも入れるのさ、他の街だと施設の空きを待ってる人が沢山いるらしいけど、ここじゃそんな心配もないんだよ、私の旦那も入っていてね、少し前に死んじゃったんだけどね」
「そっかぁ、そりゃ寂しいよな」
「昔まだ若い時に二人で買ったお揃いの耳飾りがあるからね、これを付けてるとね、寂しくないのよ」
そう言うと老婆は髪の毛を耳にかけた。耳には青い宝石の付いた小さな耳飾りがしてある。
「へ〜、シャレてるね」
「ありがとう、疲れてるでしょうに話に付き合わせてすまないねぇ」
「大丈夫だよ、それよりさ、美味い飯食わせてくれてる店があったら教えてくれよ」
「あんた旅の人かい?」
男が昼食をとっていると隣の席の青年に話しかけられた。
「わかるのか?」
「この街には若い人が少ないからね、あんたの顔は見たことがないし、その服装と荷物は旅人かなってね」
「あんたは魔物の討伐隊ってとこかな」
腰に剣を携えた青年は、正解、と男を指差した。
「しかし、なんでこんな街に寄ったんだい、何もないだろう」
「たまたま通りかかっただけさ、それに何も無くはなかったぜ、馬鹿でかい病院と施設があった」
「そんなの面白くも何ともないだろう、でもよ、あの施設には噂なら面白いのがあるんだ」
「噂?」
「あの施設はいっつも人でいっぱいなのに空きを待たずに入れるんだ、入居者が死んだから家族が施設に行ったら遺体に会う前に処分されてたなんて話もよく聞く、もしかして人体実験でもしてんじゃないかってね」
「本当だったら笑えない噂だな」
「ま、都市伝説ってやつだよ」
「そりゃそうだろ」
そう言って二人は笑った。
「いつまでこの街にいるんだい?」
「明日には出ていくさ」
「この街を出るなら気をつけた方がいいぜ、この辺の森は魔物が多いからな」
「そうなのか、それじゃぁあんたも大変だな」
「そんな事ないさ、最近はここら辺の森に魔物が増えてきたって年寄りは文句を言ったりしてるけどさ、俺みたいに雇われて魔物を狩ってる連中が増えたんだ、前まではなかなか仕事が無くって困ってたんだけど、魔物のおかげで今は安定した生活を送れてるよ、悪いことばっかりじゃないね、今日も1匹狩ってきたしね」
「そいつは景気が良いね」
「そいつがよ、その魔物少し変わっててさ」
「何が変わってたんだ?」
「こんな物付けてやがったんだ」
若者はポケットから何かを取り出した。手には青い宝石の付いた小さなアクセサリがあった。
「最近の魔物はお洒落でもするのかね」
若者はそう言って笑った。
おしまい