喜怒と咲反、仕事辞めるってよ
「大臣、21の反乱行為について何かひとこと!」
「大臣、大臣!」
退場しようとする喜怒に記者たちが押し寄せる。
総理大臣の声明が発表されたのち、喜怒が内務省としての会見を開いた。
国内外からのメディアが詰めかけ会見場は建物まで取り囲まれる大盛況であった。
平和のためのネットワーク21のトップ連は軒並みやり玉にあげられ、その中にはもちろん咲反即希求の姿もあった。
国を挙げての犯人探しは熱を帯び、上弦会を始めとする関連思想団体に公安の捜査が入る。
しかし世の常、だんだんとその犯人探しは軌道がずれはじめる。
2週間もするとスケープゴートにされた人々とうまく逃げおおせた人々に二分されていく。
喜怒「咲反即希求、私は今月いっぱいで辞任するよ。」
連日の激務でさしもの咲反即希求もげっそり痩せ、もごもごと返事をした。
「大臣、ここいらが潮時ですな。」
喜怒は微笑をたやさない。
「21への追及は最小限に押さえました。少なくとも国防に直接影響の出る部分への改造は避けたはずです。」
「感謝に堪えません。大臣でなければ全面的解体であってもおかしくはありませんでした。」
喜怒はソファに深く座り、ひといきつくと口を開いた。
「咲反即希求、私の最後の仕事があります。」
「大臣、私にも最後のお願いがあります。」
咲反と言葉がかぶる。
「即希求、先にそのお願いを聞きましょう。」
咲反は静かに立ち上がり言った。
「私も微力ながら21の立て直しの道筋を立てました。あとは平和希求官のトップとして全責任をとり、退職をしたいと思います。」
喜怒がわずかに顔を曇らせる。
「私の最後の仕事は、即希求、あなたを解任することでした。」
咲反「ならば。」
喜怒がソファから立ち上がりブラインドから外を覗く。
外にはどこかの部隊が広場で整列をしている。
「本当は咲反即希求、あなたには新生「平和を願うネットワーク21」の舵取りをしてほしかったのですが、世論の手前それもかないません。」
咲反「くわえて」
喜怒「くわえて?」
咲反「北麗の高官の軍職解任に我が方も形の上で応じなければなりません。」
喜怒はためいきをつき「そうでしたね。」とつぶやく。
喜怒「私の最後の仕事と即希求、あなたのお願いは合致しました。つきましては。」
咲反「つきましては、なんでしょうか。」
喜怒「私のお願いを聞いてくれないでしょうか。」
咲反「大臣がお願いとは。私にできることであれば・・・」
喜怒「如月全体の恩と私の個人的な恩、それをある人物に返したいのです。」
咲反にはその人物に心当たりがあった。
その恩返しとやらにもだいたい想像がついた。
偶然に偶然が重なった結果ではあるが、確かにその人物には如月の混乱を最小限に抑える功績があった。みとめるにやぶさかでない。
また、咲反もその人物には知らずとはいえ辛くあたってしまった。相互に立場があったとはいえもう少しやわらかな対応のしようもあったと反省している。
咲反「ひょっとすると大臣のお願いは私が退職後にやる最初の仕事に合致しますかな。」
喜怒「即希求、話が早いですね。」
咲反「大臣、私の部下にひとり重処分で免職を待つものがおります。」
喜怒「ほう。」
咲反はゴホンと咳ばらいをし、言葉を続けた。
咲反「報告をつぶさに見ますと、まあなんとも恥ずかしいことに若気の至りでやらかしておるのです。」
喜怒「ほうほう」
咲反「私はその不心得者を最後に引き取ってですね、更生させねばと思っているのです。」
喜怒「即希求殿は若者の未来をよく考えておられる。」
喜怒の微笑はいつしかニヤニヤにかわっていた。
咲反も思わずふきだした。
喜怒「北麗には喜捨院に職員を派遣するよう依頼しております。」
咲反「存じております。軍事ではなく福祉の専門家が来ればよいですな。」
喜怒「来れば・・・」
咲反「その者も専門家とはいえきっと私からすれば年端もいかぬ未熟者でしょう。先ほどの不心得な私の部下ともども善導せねばなりますまい。」
喜怒が珍しくワッハッハと大笑いした。
咲反もつられて大笑
どうやら二人は心置きなく退職できるようである。