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如月いい国コンニチワ 番外編  作者: 路傍工芸
2/10

内務大臣参内の決意

 さて、なんとか逃げ出すことは出来ましたが、これからどうしたものでしょうか。


 喜怒大臣は22の隊員メンバーが指揮する避難者の群れに身を寄せ、夜の街を歩いていた。

 指揮するのは若い女性隊員ウーメンバーで、部下らしき中年の男子隊員メンバー2名が中核として動いている。

 

 ときおり街灯の光が女性隊員ウーメンバーの顔を照らす。凛とした紅顔が印象的だったが、夜なので細部は分からない。

 若いからか、指揮の要領にいささか不慣れなところがあるが、それを部下の隊員がよく補っている。

 今ここで自分が大臣であると名乗り出るのは彼女の指揮を大きく乱すことだろう。

 汗だくになって、群の先頭から後尾を忙しく歩き回り、時に走り、部下に指示を出し、具申を受け、彼女は必死に我々を安全地帯に導いている。 


 ひといきつくまではおとなしくしておきましょう。


 喜怒は告げられた避難所である防災公園までの道をおとなしく歩くことにした。途中、隣を歩いていた若い男性に肩を貸す。男性が足の怪我がいよいよ痛みをましたようで、おぼつかない歩みを見せ始めたためだ。

 喜怒には見覚えがある。彼は共栄党員の幹部でメディアで持論を述べていた男だ。言っていることは表面上とてもきれいだったが、その言論の根本には民主主義を破壊する思想があった。

 しかしそれは今の喜怒には関係のないことだった。


「さあ、一緒に行きましょう。」男は痛みにうめく。

「生きてこそです。生きて一緒によい如月を作りましょう。」


 喜怒は丸眼鏡の底から優しい目で男を見据える。

 男は喜怒の顔をみてハッとしたが、はにかんで頷いた。


 

 ふと空を見上げると両月もろづきが中天に浮かんでいた。

 大月と小月は月輪を放ち、夜の都を照らしている。

 

 月主・・・猊下


 そうだ。猊下はいかにおわすか。

 喜怒はようやく自分の真の仕事を思い出した。

 

 めずらしく早く仕事を終えた帰路に緊急アクションの隊員メンバーに捕まって病院に連行されたときから喜怒は動転しっぱなしであった。

 

 自分の生命をながらえることに精一杯で、不覚にもこの喜怒、自分の仕事をわすれておりました。


 両月をみあげた喜怒の眼から一筋の涙がこぼれる。

 恥ずかしさと情けなさで胸がいっぱいである。

 そもそも、この動乱を招いている平和のためのネットワーク21は内務省内の平和希求庁に属する武力組織である。これは自分の監督不行き届きだ。

 過ぎたことは仕方がないが、こうなったからには速やかに本来の自分の職務に復帰せねばなるまい。

 きっと猊下、そして月内庁の方々は私の助言を欲しているはず。

 

 今できることは・・・自分ができる最善はなにか・・・

 喜怒は不覚にも嗚咽した。


「大丈夫ですか。」

 不安げな表情で喜怒に話しかける女性がいた。指揮官の女性隊員ウーメンバーだ。


「この男性ならなんとか大丈夫そうですよ。」

 喜怒に肩を借りる男性も苦しそうではあったが笑顔で頷いた。

「ああ、もちろん私も大丈夫ですよ。」

 喜怒はにっこり笑顔で返答した。


 指揮官の女性隊員ウーメンバーは今にも泣きそうな顔で「よかった、よかった。」と小声で繰り返したのち、洗うように顔を両手でなぞり、パンパンと頬を叩いた。

 キリっとした表情を取り戻した彼女は「あと少しです!一人も落伍させませんよ!」

 そう声を張り上げて再び先頭に戻っていった。


 まことに頼もしいお嬢さんだ。この喜怒、いつかこの恩を返さねばなりませんな。


 さて、と。

 返すためにはとりあえずは生きて防災公園にたどりつかねば、と喜怒は再び歩き始めた。

 歩きつつ、あたりを見回す。

 歩いているのは民間人と負傷した隊員メンバー

 もっとも頼りになるのは・・・


 あのお嬢さん

 あのお嬢さんに助けてもらうしかなさそうですね。

 もしかしたら如月を救うのはあのお嬢さんかもしれない。


 少なからぬ危険を伴う。彼女がいかなる命令系統で動いているのかもわからない。

 私が権職に任せて命令をすることは可能かもしれないが、いかなる作用があるか予想もつかない。

 しかしやらねばならぬ。

 もしかしたら私が頼み、受け容れてくれたことで、彼女とその部下の誰かが死ぬかもしれない。

 

 しばらくして一行は防災公園に到着した。責任を果たしたことで力が抜けたのか、女性隊員ウーメンバーの指揮官は公園のベンチにへたりこむ。

 そのとき、若い隊員メンバーと民間人がいさかいを起こし、騒ぎ始めた。

 

 指揮官の女性隊員ウーメンバーがへろへろの体で諫めにかかるが、なんとも心もとない。


「やめたまえ、君たち。」

 喜怒が仲裁に出た。

 さきほどまで肩を貸していた男性も一緒に立ち上がり、いさかいを起こしている面々ににらみを利かせてくれた。



 さあ、ここからが正念場です。

 彼女らが私を下弦宮に連れて行ってくれるかどうか。

 確かに一人で向かうことはできますが、それは勇敢に見えて無責任な行為でしょう。

 私の身はこの状況下においては下弦宮にあらねばなりません。


 ここまで連れてきてくれた恩は私個人が、もしあわせて下弦宮まで連れて行ってくれたならばその恩は如月が返さねば。

 どうなるにせよ、きっと両月は我々を善き道にいざなってくれるでしょう。


 誰かが指さして言った。「内務大臣だ!」


 喜怒は乱れた着衣をただし、告げた

「いかにも内務大臣の喜怒です。」

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