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第一話 仰ぎ見た青空、崩れる廃墟、はがれるパンツ? あらへんあらへん、いやあった!

 この物語は、三十数歳でくだらない人生とおさらばし、十八歳に生まれ変わりながら、異世界であらゆる困難と戦い、ふりむくことなく廃墟生活のリーダーとしての自己を確立したおっさん……もとい青年と、挫折しながらもやがて自活の道を開いた若者たちの記録である。


いや、多分……そうなんじゃないかと。







 どこーん。


いやいやぼこーんか? どんがらごーんか。そんな細かいことはどうでもいい。

だがその時俺を襲った衝撃は、そんな感じでとにかくひたすらやかましくうるさく強烈だった。

そして前後を失った自分が、へなへなと床に崩れ落ちる。

飛ぶ意識、消える感覚。

底のない暗闇に引きずりこまれるような感覚を覚えて、もがいてなんとか這い上がろうとする努力を全て無に帰す強力な力に引っ張られ、無理矢理アリジゴクの巣に引き込まれて、俺の人生は終わったらしい。


いやいや、待て待て。


何回お空の上にエンジェルと一緒に飛んでいこうとする自分を押し止めようとしただろう。

必死で抵抗を続け、なんとか意識を回復してはっきりさせた俺は、顔を上げて思い切り自分の目前を邪魔する、なんかふわっとした感じのものに鼻先を埋めていた。


「いやぁぁぁぁ!」


ぼこーん。

いや擬音はどうでもいいって。

そこで俺の意識は、股間に強烈な一撃を食らうことによってまた途切れていた。

その時思い切り口を閉じたことで、俺は目の前のパンツに思い切りかぶりついて、そして地面に頭部を落としたことによってその紐つきショーツを本体から奪い取ったのだが、まあそんなことはどうでもよかろう。

代わりたいって? いやいや状況を詳しく語ればそんな気も絶対に失せるぞ。やめておけ、今ならまだ間に合う。

人間真面目に生きるのが一番だ。

まあ真面目に生きてても、こんなチャンス全く来なかったんだけどな今まで。



 さてでは悲鳴を上げる暇も与えられずに文字通り男として殺され、完全に意識を喪失してしまっている間に、ちょっと俺のことを語っておこう。

俺の名前は孝行公。たかゆき こうと読む。年齢は三十五歳。どこにでもいる夢見がちなおっさんであった。

おっさんと言っても、生まれた時からおっさんだったわけではない。

そう、生まれた時は誰もと同じように幼少期があり、小学校に通い中学にも行った。

高校も出て大学にも通った……はずだ。

まあその辺は細かく語ってもしょうがないので、とりあえずはしょるとしよう。

平凡に学校を出た俺は、すげー努力してなにかの全国大会に出たとか、人にはない特殊な能力で学生時代から仕事をして稼いでいたとか、宇宙人と出会ってその人と夫婦になったとかそんなろくでもないことはなにもなく、ただただ普通に日々を過ごしていた。

だが、今思えば大学時代に入ったオタクサークル、あれがいけなかったね。

そこでどっぷりアニメやゲームにはまった俺は、ちょっと勘違いして、大学卒業後コンピュータ系の専門学校に入学し直した。

そこでゲームデザイナーなんかになってしまおうと夢を見たのがまずかった……そうだなあ、今思えばあれが転落への第一歩だった。

よせばいいのに夢ばかり追いかけて就職浪人を続けていた俺は、しかしいい加減目が覚めて、さっさと就職していた友人に誘われて、極々普通の新米プログラマーとして就職することにした。

毎日毎日髪の薄い係長に「お前のプログラムにはセンスがない」と叱られながら、日々コードを書き続けた俺は、いつの間にか三十になろうとしていたが、その頃には上司にも髪のボリュームで負け、ストレスのやけ食いからぶくぶくと体重を増やし、すっかり窓際の加湿器と呼ばれる存在になっていた。

俺が窓のそばにいると、結露が酷いらしい。理由は適当に察してくれ。


そんな俺の唯一の救いは、職場の先輩、鈴木さんの存在だった。

いや彼女も相当きつい女性ではあった。鈴木美鈴すずき みすず、年齢は俺より下だが、仕事を始めたのは俺よりずっと早い、バリバリのキャリアウーマンだ。

だがスーツに包まれてなお自己主張をやめようとしない、ばちばち火花が飛びそうな彼女の豊満なバストライン、俺を叱る度にぷるんぷるん揺れるそれは、叱られても見る価値は絶対あると断言できるたゆゆん悩殺ボディだった。

係長に延々ねちねちと叱られる俺を叱咤し、最後まで面倒を見てくれた彼女は、しかしその若い命を、突然交通事故で散らしてしまった。

なんてことだ、世界が全て終わったと思った。

恋人としてつきあえないまでも、あのエロボディを散々愛してやまず、心の中でだけ愛で慈しみ続けた俺の気持ちは、こうして切れることになった。


 彼女の突然の死から数ヶ月後、俺は最後に一房残っていた髪と……いや数年間我慢を重ねた会社とおさらばし、そして傷心のまま実家に帰ってきた。

家はいいなあ。誰も俺の頭を見ない。体型と食いっぷりを見て納得顔もしない。

可愛い女の子が画面の中で踊っているのを見るだけで暮らせる、ユートピアだよここは。

そんな暮らしも五年を越えて、すっかりなにも望まなくなっていた俺は、いつの間にか魔法使いになれる、いや大魔導だという年齢になっても、なにひとつ魔法も使えず、ティンカーベルを見られるという迂闊に発動すると迷惑極まりない権利もいまだに放棄できていないというのに、そのことに対して不満を覚えることさえ忘れていた。

右手とパソコンとゲーム機だけが俺の友だちなのさ。

こいつらは決して裏切らない。

俺を罵って気持ち悪がって逃げ出すことも、死という裏切りでぶっちぎることも決してない。

ネットの向こうの見知らぬ誰かと適当におはなし(ののしりあい)していれば、何ヶ月誰とも口を聞いていなくたって、ちっとも寂しいことなんかない。

こんな暮らしだって、多くを望まなければ決して悪くはないさ。

俺は諦観の末に達観して、世捨て人の自分を完全に肯定するようになっていた。


 まあそんな感じで生きていたはずなんだ。つい昨日までは。

ただどうも状況が変わってしまったようだ。

そのことに気づいたのは、ふと青い空に白い雲が浮かんでいるのを見上げている自分を発見した時だ。

「何故俺は、ここにいるんだ!」

とか電子音丸出しで語り出すどっかのゲームの主人公のごとく、俺は叫んでいた。

だがそんないかにもおっさんくさいパロディで満足した俺は、なんで外にいるんだろう? という基本的な疑問さえまともに考えようとせず、ぽかんと口を空けて、ただ久しぶりの広い空を眺めていた。

何年ぶりだろう、こうやって空を見上げるのは、なーんて思っていたら、空の色が急に赤く染まった。

そのことで俺はいよいよこりゃあゲームの世界だなと、その環境を夢だと思いこもうとしていた。


 だがその後見た光景は、凄惨なものだった。

空から振ってくる爆弾によって、大音響を発しながら破壊される高層建造物。弾け飛ぶ大地、倒れる木々。

そして上空を飛ぶ巨大な飛行船から、ばらばらと豆粒のようなものがいくつも振ってくる。

それは地表に近づくとバリュートを開いて減速し、そして地面に降り立つと、どこの戦争アニメだと言いたくなる制動をかけて、着地の衝撃を殺して直立していた。

そしてぎらりと光る一つ目で、獲物、つまり人間を襲い始めたのだ。

俺はその騒然とする状況を呆然と見ていた。

やがて機械の魔物から逃げ散る人並みに押されて、俺もどこをどう逃げたのかわからないまま、その場を逃げ回った。




「つう……ぐへ」

俺はやっとなんとか意識を回復した。

まだ下腹部には麻痺させられたような鈍痛が残っているし、全身を針で突かれたような痛みもある。

ずっと床に転がっていた俺は、冷たいコンクリートに背中を冷やされながら、めんたまが飛び出しそうな痛みと戦っていた。

さすがに股間を思い切り拳で殴打されては、どうすることもできない。

その俺を覗き込む黒髪が、鼻先をくすぐった。

「あの……大丈夫ですか」

その少女は俺の額に絞った冷たいタオルを乗せながら、心配そうに顔を覗き込んでくる。

生の女の子を、こんな間近で見たのは何年ぶりだろうなあ。

あれは不摂生が祟って入院した時に、看護師さんに優しくしてもらって以来だな。てことはそんな前でもないじゃん。

その後なにがあったわけでもないけど。ただ仕事として体拭いてもらったり、起きあがるのを支えてもらうために抱きしめてもらっただけで、ほんとになんにもありゃしない。

連絡先くらいは交換したかった……どの頭、もとい顔が言うのかという話だが。

そんな虚しい記憶がすぐ頭をかすめるから、リアル女との接触は避けるべきなのだが。

「酷い目にあった……いてて。まだ痛い」

そう言って起きあがりながら下腹部を押さえる俺に、彼女は警戒心を見せて少しあとずさった。

どこにでもありそうな高校の制服っぽい、淡いブルーの服をまとう彼女のスカートのすそが、ひらりと舞った。

それは何故か短くぎざぎざに裂かれていて、その中から見慣れたイチゴ模様が一瞬だけ垣間見えた。

「あ! そのパンツは……」

「あ、あなたがいきなり脱がせようとするから!」

顔を真っ赤にした女の子は、スカートを押さえながら恨めしげに俺を見た。

それだけでは済まずに、地面に置いてあった荷物から、木刀を拾い上げて片手で構えつつ、俺のほうに切っ先をちらちら見せつける。

「おいおい……待ってくれよ、俺にもなにがなんだか」

「あなたがあそこから飛び降りてきて、私を押し倒したんです!」

彼女が上を見上げると、俺もそちらを見た。

ああ、段差から足を踏み外したんだな。

ようやく俺は理解した。そして両手を挙げて無抵抗を示す。

「わざとじゃない、爆撃と襲撃から逃げ回っていて疲れたから、ほとんど意識なんてなかったんだよ……だからそこから落ちて」

そして彼女にぶつかると、二人は算用数字の六と九の形になってからころころと地面を転がって、上下の位置を入れ替えたわけだ。

そして顔を上げた俺は……冒頭に続くと。

そしてそれに驚いた彼女は、目の前の俺のあれに思い切り鉄拳をくれたわけだ。

これがパンツ噛み事件の真相である。

意識が入れ替わらなくてよかったとしか言いようがない。

どうだ、まだ代わってほしいか。だとしたらそりゃ間違いなくマゾだよ。

ひい、思い出したらまた痛みがぶり返してきたし。


「ほんとですか……」

じとーっと見つめながら、得物の木刀が俺をじっと狙っている。

「ほんとだって、すまなかったな。俺はたかゆきこうだよ。見ての通りのおっさん。キミは?」

「おじさん……? 全然見えませんけど」

彼女はぷっと吹き出した。そうまさに、俺の下手な冗談を笑ったような顔だ。

なにがおかしいのか、いまいち理解できない俺は

「またまた、若い子はすぐおじさんからかって若く見えますねーとか言うんだから。全然そんな本心ないくせに。大体この髪がさあ……」

と苦笑いしながら、頭部に手をやったのだが、

「!? ……ある。髪の毛がある!!」

この叫びに彼女は、俺をいよいよ狂人のような目つきで見ていたのだが、今はそれよりも自分の外見の変化に驚いていた。

俺は慌てて周囲を見渡すと、少し先にあった割れていないガラスに、自分の顔を映し込んでみた。


「誰だよ!? お前は!!」


そういえばなんだか頭がもさもさすると思ったんだ。こんな感覚は何年ぶりだろう。

それに今思えば腰をいわしていて歩くのも辛いはずの俺が、爆撃とロボの襲撃から普通に逃げ回っていたのもおかしいな。

忙しなくて全く気づかなかった。こりゃ一体どうなっているんだ??


 混乱しきった俺を遠巻きに見つめながら、黒髪少女は遠慮がちに声をかけてきた。

どちらかというと、関わりになりたくなくて小声になったというほうが正しかったかも知れない。

「あのー、IDカードありますよね?」

彼女はさっと自分の名前が書かれたカードを見せてくれた。

そこには弓友実という漢字が見えた。

俺は素早く自分の服をまさぐって、同じようなカードを持っていないか確かめる。

そこで俺は、自分がいつもの寝巻代わりのジャージではなく、わりと普通のラフな外出着を着ていることを視認したが、もうそれはどうでもよかった。

 やっとズボンのポケットから出てきたラミネート加工されたカードを取り出すと、弓友実(読み方わからず)がちょこちょこと近づいてきた。

揺れる黒髪が収まる姿を間近で見つめながら、二人でそのカードを覗き込む。

そこには間違いなく、孝行公の名前が書かれていた。

名前の上には、ご丁寧に漢字に匹敵するほどのサイズでルビが振ってある。

左上隅には、まあわりと普通の顔の、特徴があまりないエロゲー主人公みたいな顔写真。

そして誕生日の数字らしき八桁が書かれているが

「なんだこれ、二千七百十七年だって?」

どういう数字だこれは。

「私の一個上ですね」

ゆみゆみ(仮称)が言うのだが、俺はその八桁の最後に書かれたかっこ書きの数字を見て、さらに衝撃を受けた。

「十八歳……? んなあほな」

思わず俺は関西の漫才師みたいに、水平チョップをしかけたが、その手を振り抜いてしまえば、ゆみゆみのぽよよんとした胸に当たることにすんでのところで気づいて、すぐにそれを止めた。

ただでさえ変人扱いされているのに、さらにセクハラで嫌われている場合じゃない。いやもう強姦魔扱いされていて手遅れなような気もするが。

彼女は相変わらず要領を得ない様子で、心配というか、不気味なものを見るが如く俺を観察しているようだ。

自分でもどうなっているのか、状況がさっぱり読めない。


ぽくぽくぽく……ち、いやそれはやめておこう。


 俺はたった一つの可能性に思い当たった。

そう、これはあれだ。夢じゃなければ異世界転生ってやつだ!

異世界転生ものといえば昔少女漫画コーナーに分け入って、○○の○○を○っ○を買いにいったことを思い出す。

店員に毛虫を見るような目で見られた恨みはまだ忘れてないぜ。あの頃はまだ少女漫画を買う男の地位が、極めて低かったのだ。

てよく考えたらあれはただの転生もので、異世界じゃないな。

それに顔が変わっているのは何故だろう。

もちろんこの顔は俺の若い頃のそれと言うわけではない。全然別人だ。

まあ悪い顔じゃないが……。

これはもしかして、神様からの粋なプレゼントということだろうか。

ちょっと違和感がないでもないが。


 いやいや、問題はそんなことじゃない。

完全にかつての前世俺を周囲が見ていた、あの蔑むような同情するような表情を見せるゆみゆみ(しつこいようだが仮称)をどうにかするのが先だな。

さっそく人間関係で躓いて、異世界だか未来世界でも周囲と壁を作って鏡とお話をするようになってもしょうがない。


「あー……うん。なんだろ、その、いわゆる記憶喪失状態らしい俺。いろいろ思い出せないんだ。ここはどこだっけ。それで今は西暦何年だっけ?」

舌だけはやけに流暢に、しかし脳内の思考が追いつかずに辿々しく言葉を紡ぐ俺に、ゆみゆみは怪訝な顔をしてみせたものの、しばらくすると納得したのか、俺を心配する方向に視線が変わった。

と思う、多分。

思えばこんなに長く、知らない女の子と会話するのも久しぶりだ。

しかも若くて可愛い子だ。

さっきはつくづく惜しいことをした。もう少し意識を維持できれば、見えるものも初めて見られたというのに。

「そうなんですか……せいれきっていうのはよくわかりませんけど、今は界暦かいれき二千七百三十五年です」

なんだ界暦って、と口まで出かかっていた言葉を制して、俺はなんとか笑顔を作ってみせた。

我ながらぎこちない笑みだったと思う。

これからどうすればいいのやら。

夢ならさっさと覚めて……くれなくてもいいのかもなあ。

どうせならこのままこの世界で彼女とアダムとイヴにでもなるか、なんて甘い想像をしてしまうのは、自分の中にまだそういう欲望が残っていたせいだろう。

そんな自分に逆に動揺してしまう俺、どんだけチキンなんだろ。


 だがそんな都合のいい妄想は、いい具合に忍び寄る敵に邪魔された。

遠くで聞こえるウィーンという機械音に、彼女はすぐ俺の唇をその小さな手で塞いで、背を屈ませるように指示した。

大人しく従う俺、

口元に触れる細い指の感触、耳に近づいてくる吐息がくすぐったい。

「声を出さないでください、ロボットが来てます。音を立てないで、そっと逃げましょう!」

真剣な表情で言う彼女に、俺は首だけを縦に振って頷く。

が、その静寂を、からんからんと地面に転がった木刀が破る。

「なにやってんの!?」

「あ、しまった!」

まるでコントのように調子を合わせて、彼女の凡ミスに突っ込む俺。

彼女は慌てて木刀を拾うと、「走って!」と短く俺に言いながら、素早く走り出した。

ひらひら揺れるスカートから、イチゴの紐パンツが見えそうで見えないので、俺は思わずVRのゲームでよくやっていたように、視線を下げてそれを覗き込もうとしてしまった。

後方から聞こえる機械音はその間にいやでも大きくなり、目標発見のアラートをけたたましく鳴らしていた。

「早く!」

一瞬だけ振り返るゆみゆの背中を追って、俺もさすがに走り出す。


 けどなー、俺の体型だと走るの苦手だし、体力も続かないんだよなー。

なんというか、太ってしまうと、とにかく走るという行為そのものに嫌悪を覚えるものなんだ。

例えば後ろから巨大な岩が転がってくるとするじゃん?

普通は走って全力で逃げるわけだけど、体重が重いと、もう最初からこれ間に合わないよなと諦めモードが発動してしまう。

このままぺっちゃんこにされてしまうなら、もういっそまかせんしゃーいと岩を押し返してみようかと、決して自棄的にではなく、一方的に都合のいい奇跡を信じてしまうんだよな。

さもなければどこかにくぼみがあって、そこで助かるパターンな。

どっちかがなければ、どのみち醜く脂肪を揺らしながら走ったところで、結果は死亡ルート一直線。脂肪と死亡がかかっていて逃げ場ないよ、と笑うしかない。

なら苦しむより、さっさと楽になったほうがいいわけですよ、わかってもらえるかな? この切ない感情。わかってもらえねーだろうなあ。


 なーんて考えながら最初から諦めモードで走り出した俺は、いつの間にかチラチラ見えるパンツを追い越して、ゆみゆみの遙か先を行っていた。

あれー? なんだ体が軽いぞ。

そういえばこれ俺の体じゃなかったっけか。

「すご……脚には自信あったのに」

後ろから苦しそうな彼女の声が聞こえてきた。


 そうか。今の俺は体重軽いから身も軽いんだ。

なんだこの綿毛のような足を踏み込む感触。

風と一体になるってこういうことなんだな……ああ、感動だ。

なんて浸っているわけじゃない。

俺はゆみゆみと全力で破壊された町並を抜けて、後ろからやってくるロボットの群れに大差をつけて、それをぶっちぎっていた。



こうして俺の、なんなんだかよくわからん異世界の旅は始まった。

んだと思うよ、多分。

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