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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
99/101

ドッジ・サバイバル決勝戦

 アキュレイト・シューティング会場では大歓声が巻き起こる中、少し賑わいの無いドッジ・サバイバルの会場である。


「なんだか寂しいね。蒼真も直夜もいないし、お客さんもほとんど光阪会長を見に行っちゃってるみたいだし」


 3年生男子の競技にも、注目の選手は出場している。ただし、その学生は「副元素」だ。「七元素」である光阪恵が同日に別の競技に出場するとなれば、その視線はみるみるうちに奪い去られてしまった。


「ソーマはサポーターの人と一緒にいるからいいとして、ナオヤの方はレイがついていなくてよかったの? きっと今頃部屋で1人でいるわよ!」


「別に、私がずっと一緒にいてやらないといけないこともないのよ。それに、今日は同室の人や競技で一緒だった人達が来てくれるらしいから、直夜のことは気にしなくても大丈夫。ほら、よそ見してるといい場面も見逃しちゃうわよ」


 この場にいるのはいつものメンバーから蒼真と直夜を除いた5人。ウィッチ・クラフトの準備がある白雪と志乃も、競技に参加する先輩から快く送り出されてきている。その配慮は2人とも十分わかっていたし、来年以降はその先輩の役割を彼女達が担うことになるだろう。


「ねぇ、澪さん。この決勝戦、東京校は勝てそうなのかな?」


 蒼真がいない今、最も知識がある解説役に適した人物は澪である。彼女の魔法に関する知識は、蒼真と同じだけの勉強を幼い頃から積んでいるため、かなり豊富だ。

 同じく共に育った直夜はと言うと、要領が悪く2人に比べれば覚えられる量は少なかった。だが、魔法高校を卒業した並の魔法使いよりも、戦闘特化ではあるが、基礎知識は高い。ただ、それは学校で評価される内容では無いため、成績は1-Aの中では低い部類に入ってしまっている。それでも学年全体から見れば、上澄みなのだが。


「そうね……実力はどこの学校も拮抗しているわ。でも、東京校へのマークがきつすぎる……。明らかに裏で他校が手を組んでいるようね」


 現在、東京校はポールダウン・ソーサリー、スピード・ボート、アキュレイト・シューティングで優勝、シェパードボールは準優勝と多項の追随を許さない成績を叩き出している。

 そんな東京校の独走を、他校は良くは思わない。これ以上彼らの好きにさせないためにも、せめて自身の参加するドッジ・サバイバルだけは東京校の上位入賞を阻もうと、横浜校の常光透が主導となって決勝戦進出メンバーが同盟を結んだのである。


「さぁ、どうする東京校! 1人ずつじわじわと削り、最後の1人が脱落するまで我々の手は緩まないぞ!」


 この決勝戦が始まるまで、透には焦りがあった。交流戦前の各校の生徒会が集まった会議で、恵に説き伏せられ、光阪家を陥れるつもりが逆に「七元素」と「副元素」の差をありありと見せつける結果になってしまった。

 必ず「七元素」になってやるという強い野心とは裏腹に、光阪恵という1人の魔法使いに対する劣等感。それを拭い去りたい一心で彼は無我夢中にこの競技を勝ち抜いてきた。


「俺は負けるわけにいかない……。俺は爪痕を残さなければいけない……。俺は常光透だ。『七元素』に成り上がるのはこの俺だ!」


 自分に言い聞かせるように言葉を振り絞る透だったが、その野心が彼の視界を狭めてしまっていた。彼の背後から放たれた魔法が、彼の背中についたポインターを撃ち抜くまで、その気配に気付きもしなかったのだから。


「——っ! なっ、何だ——」


 意識の外からの攻撃により、完全な混乱状態に陥ってしまった透は、防御姿勢をとることも、迎撃の魔法を発動することもままならず、ただ全方位から自分に向けられた魔法陣を驚愕と焦燥の入り混じった瞳で眺めることしか出来なかった。

 別のことに気を取られ、自身を危険に晒してしまうという、不覚にもまた透は「七元素」と「副元素」の差を周囲に示してしまう結果となったのである。

 胸と背中の両方のポインターを撃たれて競技から敗退することとなった透は、ただ茫然と生気の抜けた顔で膝から崩れ落ちた。


「……何故だ……俺の作戦は完璧だったはず……なのに、何故こいつらがここにいる……


「そうだな、いい作戦だった。ここに来るまでに味方を何人か削ることになってしまった。もう優勝は狙えないだろうな」


 倒した透の位置を中心に、東京校チームは再度陣形を組み直す。その中心にいるのは、もちろん指揮官である原田誠志郎だ。


「俺は……勝たなきゃいけなかったんだ。このまま光阪の……あいつが主人公の3年間の物語のモブのまま終わりたくはなかった……」


「そういう意味なら、俺も1度も自分を主役だと思ったことはないよ。うちのチームは全員そうだ。この競技だって、誰か1人が生き残ればいい。俺じゃなくてもな。それに、その主人公様が言っていたことがある。『私よりも凄い後輩が入ってきた。彼を目にすると、自分が今までやってきたことが霞んでしまう気がする』ってさ」


「そうか……どれだけ化け物揃いなんだ、東京校はよ」


 その後も他校の東京校包囲網に誠志郎達は苦しめられ、迎撃と潜伏をしているうちに1人、また1人と敗退していった。

 それでも何とか逃げ仰せた誠志郎は、総合順位のポイントが入るギリギリのラインである5位につけ、ドッジ・サバイバルは終幕を迎えた。

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